マネー・ローンダリング等に関するリスクの特定・評価方法について―リスク評価書策定の留意点―

金融庁は、2025年3月31日に「マネロン等対策の有効性検証に関する対話のための論点・プラクティスの整理」(以下、有効性検証の論点)を公表しました。FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)によるマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与防止(Anti-money laundering and counter-terrorist financing: AML/CFT)対応を評価する第5次相互審査においては、各国ともに対応の実効性向上が求められており、「有効性検証」の取り組みを促進することが重要となっているためです。「有効性検証の論点」では、特定事業者作成書面等(以下、リスク評価書)を作成するためのリスクの特定・評価の考え方も示されており、本稿では、各金融機関の対策の基本となる「リスク評価書」の策定に当たっての留意点を整理・確認します。

1.「有効性検証の論点」で示されたリスクの特定・評価の留意点

「有効性検証の論点」では、「直面するマネロン等リスクが、十分な情報を基に特定・評価されており、リスクの変化に応じて適時に更新されている場合、妥当性があると言えると考えている」とあり、以下の観点から検証することが考えられるとしています。

  • リスク特定に当たっての包括的かつ具体的な検証において、対象としている内外の情報は十分か
  • 特定したリスクを全て評価しているか
  • リスク評価に当たって活用している情報は十分か(疑わしい取引の届出状況等の分析も踏まえてリスク評価を実施しているか)
  • 定期的にリスク評価を見直す頻度や随時の更新時期は適切か

これらの観点をみると、リスクの特定・評価に当たっては、「個社固有の情報を含めた網羅的なリスク情報活用」が求められていることが理解できます。固有リスクの特定・反映、網羅的な情報の活用は、FATFが第5次審査手法として公表している「メソドロジー」のなかで、有効性評価項目「3.金融機関・VASP(暗号資産交換業者)の監督・予防措置」のコアイシュー(審査ポイント)には「金融機関とVASPは、自らのマネロン・テロ資金供与リスクのレベルと性質をどの程度理解しているか」が織り込まれています。

2.固有リスクの特定・反映

「リスク評価書」の策定において重要となるのは、各金融機関の固有のリスクの特定・評価と、その反映です。リスク評価書は、各金融機関のAML/CFT対策の理解度を測るものです。自社固有のリスクを理解して特定していることを証明することが必要であり、リスク評価書策定の最重要ポイントともいえます。

有効性検証の論点では、固有リスク評価の手法として、「疑わしい取引の届出状況等の分析結果の反映」を挙げています。「有効性検証の論点」と同時に公表された「マネロン等対策の有効性検証に関する事例集」においては、以下の事例を挙げて、固有リスクの把握を促しています。

  • 「リスク評価書」作成のための実施要領と直近作成した「リスク評価書」の内容を確認し、自らが提供している商品・サービスや、取引形態、取引に係る国・地域、顧客の属性等を踏まえて、リスクの特定に当たって検証すべき内外の情報を選定・分析し、評価が実施されていることを確認
  • 「リスク評価書」作成のための実施要領と直近作成した「リスク評価書」の内容を確認し、自社において定期的に実施している疑わしい取引の届出状況等の分析結果を踏まえてリスク評価書が作成されていることを確認

また、固有リスクの重要性に関しては、金融庁のガイドラインや他の公表物でも取り上げられており、「リスク評価書」には必ず反映させることが必要です。

マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン

Ⅱ-2(1)②

  • リスクの特定/自らの営業地域の地理的特性、事業環境・経営戦略のあり方等、個別具体的な特性考慮

Ⅱ-2(2)②

  • リスクの評価/疑わしい取引の届出状況等の分析等の考慮
 

マネー・ローンダリング等対策の取組と課題
(2024年6月)

第3章(2)②リスクの特定・評価・低減に係る有効性検証に関する取組事例

  • 疑わしい取引の届出実績の分析により、特にリスクが高い取引種別、顧客属性・グループ、取引チャネル等を特定

 

4.まとめ

リスクの特定・評価結果を纏めたリスク評価書は、FATF相互審査において、各金融機関のリスク理解のレベルを測る答案の位置づけです。FATF第4次相互審査において、日本は「金融機関のリスク理解が不十分」であると酷評され、これが厳しい評価の一端となったと考えられます。金融機関には、次回の第5次相互審査において、同じ轍を踏まぬよう、見落としがちな固有リスクの把握などにも注意を傾け、万全の準備で臨むことが求められています。

執筆者

井口 弘一

チーフ・コンプライアンス・アナリスト, PwC Japan有限責任監査法人

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