2030年におけるマイナンバーの役割

未来の暮らしからマイナンバーの活用を考える

2021年5月にデジタル改革関連法が成立し、同年9月にデジタル庁が発足しました。デジタル庁はマイナンバー制度をデジタル社会に必要な共通機能の整備・普及に関する政策のひとつとして位置付け、マイナンバーを基礎IDとしたデジタル社会の形成を進めています。本稿では、日本におけるデジタル戦略の経緯を振り返り、議論の枠組みを整理するとともに、IDシステム活用が浸透した未来像と行政機関の役割を描くことで、今後のデジタル社会の実現に向けた取り組みのひとつの方向性を提示します。

第1章 デジタルガバメントとeID

日本のデジタル戦略は、2001年の「e-Japan戦略」に始まると言われています。主な目的は「IT基盤の整備」でしたが、「電子政府化」も当時より射程に入っています。その後、IT基盤は急速に普及し、問題関心は「IT利用・活用重視」へと変化していきました。しかし、利用者ニーズの把握や組織を超えた業務改革は進まず、また各省においてITへの重複投資が起こるなど、ITの利便性や効率性は発揮しづらい状況が続きました。2013年の「世界最先端 IT 国家創造宣言」では、公共サービスのワンストップ化実現が改めて目指され、政府CIOの創設により、省庁別投資の非効率さの改善が試みられることとなりました。その後、デジタル関連技術の開発が進み、データ流通が拡大したことを背景として、2016年に官民データ活用推進基本法が成立。政府デジタル戦略のフレームは「IT利活用の進化」から「データの利活用」へと変化しています。デジタルガバメントの実現に向けた取り組みは、この中に位置付けられることとなりました。2021年12月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、「誰一人取り残されない、人にやさしいデジタル化」が目指されています。

一方、マイナンバー制度は住民基本台帳ネットワークシステムを土台に、社会保障の適正負担・適正受給といった問題関心を軸として2016年から導入されました。国民全員に割り当てられたマイナンバーを用い、行政システムの業務効率化を図るほか、ICチップ内に公的個人認証サービスに係る電子証明書を格納したマイナンバーカードにより、市民サービスの利便性向上が目指されています。現在は、マイナンバー制度は政府デジタル戦略の中に取り込まれ、主にマイナンバーカードの普及・活用が活発に議論されており、創設当初の「社会保障の適正負担・適正受給」といった問題関心からは軸足が移りつつあります。

デジタル庁による「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、国民一人ひとりのニーズやライフスタイルに合ったサービスが提供される豊かな社会を実現する手段として、マイナンバー制度の利活用推進、マイナンバーカードの普及・利用推進が目標とされています。今後は、マイナンバーカードのみならず、マイナンバーについても利活用の範囲が拡大していくと考えられます。

第2章 IDシステム活用が浸透した未来像と行政機関の役割

次に、IDシステム活用が浸透した未来像と、行政機関のあるべき将来像を提示するとともに、そのために必要な要件を整理します。

将来的に私たちの暮らしはデジタル技術の活用が前提となり、民間企業からのサービスも含めて、デジタルを強く意識することなく、心地よい利用感や多彩な選択肢があふれるヒューマンセントリックな社会になっていると考えられます。その実現のためには、本人からの申請に基づいて提供される行政サービスだけではなく、社会環境や社会危機、個人のライフタイムや生活様式に応じた保障を確実かつ迅速に実現する行政サービスが提供され、それらを支える共通基盤としてマイナンバー制度が整備されていることが望まれます。

税と社会保障の業務の標準化・共通化が進む中で、地方公共団体を含む地域のステークホルダーは今後、より地域固有の課題に目を向け、地域社会における課題解決と発展を目指すことが求められます。経営資源が減少する地方公共団体においては、地域の多様なステークホルダーと合意形成を図り、コレクティブな社会価値を生み出すような取り組みが重要です。将来的に、マイナンバーカードが地域におけるeIDとして機能すれば、全ての国民の移動の自由を支え、交流人口や関係人口を創出する基盤としても利用できると考えられます。

現在、地方行政は相互参照により政策能力を向上させながら、地方事務の検討・実行・評価を行うようになりました。しかし今後はその基盤となるデジタルを生かし、データによる客観的な事実検証により、課題解決手法の共有化・共同化を加速させることが重要だと考えられます。また、特定の地域課題に対する地域事務を効率的に進めるためには、隣接自治体との広域連携だけではなく、1,700を超える全ての地方公共団体間との連携を可能とし、その結びつきを深めることで相互に課題を解決していく「コレクティブな広域連携」が必要です。

図表1 「コレクティブな広域連携」イメージ図

2020年12月25日に総務省が発表した「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を端緒として、法定受託事務・自治事務の一部共通化・標準化が進んでいます。前述したような社会を2030年に実現するためには、中央省庁が提供するそれぞれのシステムをクラウドサービスとしてデジタル庁が包括的に整備し、基礎自治体・広域自治体に提供することが重要です。

eIDが最も有効に活用され、自律的な地域社会の実現に寄与するためには、官民連携によるサービス提供が実現する中で、住民自らが地域サービスを生み出すなど、当事者意識をもって地域に向き合うことが重要です。そのためには、eIDが、行政のみならず民間企業やNPOなどが提供する地域サービスにも対応することが求められます。国民と地域を支えるファシリテーターである行政機構は、プラットフォームとしての機能を拡大させつつ、国民生活を支える土台としてレジリエンスを兼ね備えた組織へと変革することを目指し、活動していく必要があると考えられます。

図表2 eIDを活用したオープンイノベーション

分析や提言の詳細は、PDFをご参照ください。


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主要メンバー

林 泰弘

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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上瀬 剛

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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草野 秀樹

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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鈴木 亜希子

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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