若者の新しい価値観と富裕層のESGへの関心の高まり

生命保険に関する消費者意識調査2021

生命保険をめぐる環境は大きく変化しています。非対面営業手法の模索は以前より少しずつ進められてはいましたが、コロナ禍により対面営業が難しくなったことを契機として、より喫緊の課題となりました。また消費者のデジタル化の進展とともに、こと若年層においてはモバイルファーストの傾向も見られます。旧来の対面による丁寧なやりとりを好む顧客層も依然として存在するなど、消費者ニーズの多様化がより一層進んでいます。

生命保険会社にはこうした消費者が生命保険サービスに求める多様なニーズとその変化をタイムリーに捕捉し、的確かつ敏捷に対応していくことが求められます。そこでPwCは、現代の多様な消費者動向を捉えることを目的として、国内約5,000人の消費者を対象とした大規模調査、「生命保険に関する消費者調査2021」を実施しました。

調査から導き出された主要テーマ

消費者調査を設計するにあたって、生命保険会社の抱える顧客をめぐる課題として、以下の3つを定義しました。

  • 課題1:細分化した顧客層に応じてカスタマイズした商品やサービスの提供
  • 課題2:これまで十分にリーチできていなかった顧客層へのアプローチ
  • 課題3:継続的な顧客接点の創出

手法としては、①単身・家族世帯、②年代、③世帯収入の3つの属性をもとに世帯ペルソナを設定し、セグメントごとにどのような保険に対するニーズを持っているのかを分析しました。A「若者単身世帯」、B「余裕単身世帯」、C「昭和型家族世帯」、D「正社員共働き世帯」、E「高収入世帯」、F「年金暮らし世代」の6つのセグメントです。

ペルソナごとの保険や 金融サービスに対する考え方

調査結果よりこれらのセグメントは、保険そのものに対するニーズ、デジタルリテラシー、投資への態度などが大きく異なることが分かりました。さらに、そこから既に掲げた生命保険会社の抱える課題解決に向けた5つのヒントを得ることができました。

E「高収入世帯」は、今回の調査では多くの設問において他の世帯ペルソナとは異なる回答パターンを示しており、この層へ特化した提供商品やサービスデザインが効果的であることを示唆しています。世帯収入が多いことから投資への興味も高く、また既に金融サービスの利用にモバイルやPCを活用しているという割合も他のセグメントより高い結果となりました。

一例として、「あなたはESG/SDGsの取り組みをしている保険会社の商品に加入したいと思いますか?」という設問に対して、「はい」と答えた割合は他のセグメントよりも有意に高くなっています。すなわち、これらの要素を何らかの形で組み込んだ投資商品を高収入世帯向けに開発することにより、彼らに対して効果的にアプローチできる可能性があります。

本調査においては、ポイントサービスへの選好にもセグメントによる差が認められました。D「正社員共働き世帯」の回答を見ると、ポイントサービスの訴求力が強く、またより良いサービス提供のためには個人情報の提供にも比較的寛容であることが分かります。魅力あるポイントサービス提供は顧客接点を保つ観点からも有効な施策であるといえ、彼らと親和性の高い商品やサービスを持つ他事業者との連携を通じたエコシステムの構築を検討すべきです。同時に、この回答結果は顧客の個別の情報を上手に活用した提案をすることによる、アップセルの可能性も示唆しています。

一方、逆説的にはなりますが、こうした社会経済的な志向は必ずしも年齢や収入帯といった属性に相関していないケースも散見されました。これはつまり、個人情報(顧客の希望を含む)を収集および集積することにより、サービスを個別カスタマイズ化することが重要になることを示唆しています。

例えば、個人情報の活用と新しい金融事業者への許容度についての設問に対し、A「若者単身世帯」の回答は非常に興味深い傾向を見せています。この層は現状の主力顧客層ではないものの、自らの個人情報を利用したサービス提案やインターネット事業者などによる金融サービス提供に対し、他の層よりも明らかに前向きです。これは年齢によるというよりも、いわゆるデジタルリテラシーや情報リテラシーの高さに相関しているものだと思われます。このような層は、自分が自分の情報をコントロールできるのであれば企業による情報活用に比較的寛容です。こうした層に、売らんかなではない顧客へのサービス価値向上につながるデータを活用することによって個別化アプローチすることは、顧客満足度の向上や、保険会社の利益拡大につながる可能性があります。

「若者単身世帯」は他のセグメントと比較して対面でのコミュニケーションを好んでいるというデータが得られました。対面営業は一般にコスト高ではありますが、既に顧客である彼らへのアップセルを狙うには有効な策になり得ます。また、場合によってはオンラインによる対面などによってコスト削減を図りつつ、対面営業の良さを取り入れることを考えてもいいのかもしれません。

また、回答結果からはライフイベントの際に加入を考えるのは保障性商品であることも多く、ドアノック商品を経て保障性商品を契約するにあたっては、より詳しい説明を求めているという若者のニーズも垣間見えます。

一方で、例えば契約などの手続きについてはモバイル上で行いたいというようなニーズもあわせもっているという観点や、加えてコロナ禍での接触リスクを低減させたいという観点からも、リアルに対面する機会は限定的とすることや、オンラインによる対面とモバイルの活用を併用したハイブリッドな形態を導入することも模索していくべきでしょう。

有事の際のコンタクト先について尋ねたところ、全体で7人に1人は「咄嗟には分からないかもしれない」と回答しています。この割合は20代になると4人に1人にまで上昇しています。また、災害時などは「モバイルアプリなどで簡単に連絡できるようにしてほしい」と回答した人は、全体でも4人に1人に上りました。

したがって、デジタルを活用して継続的に顧客接点を創出することは、こうした顧客のニーズに応えることでもあり、また既に見たようにアップセルの可能性も高めることから、LTV(顧客からの一生を通じた売上)の向上も期待できます。継続的な顧客接点を持つための健康系のアプリを開発することなども、これに沿った戦略です。

また、顧客との手軽な連絡手段を持つことは、有事の際の請求勧奨の精度を高め、保険会社側のそれにかかる労力を削減させる可能性があります。

保険会社のとるべき方策

顧客にアプローチするにあたって、今後ますますパートナー企業との提携や協業が進むことを踏まえると、生命保険会社は顧客を適切にセグメント化し、そのニーズを捉えることがより一層求められるようになってきます。一方で、顧客の個人情報を上手に活用して、個別化した商品やサービスを届けるという命題にも応えていく必要があります。

また、少額短期保険に代表される新たな顧客アプローチによって、これまでリーチできていなかった顧客層へのコンタクトが可能になりました。そこからうまくアップセルしていくためには、モバイルアプリに代表される顧客との継続的な接点を持てる仕組みを作っていく必要があります。そのうえで、モバイルと対面(リアルかオンラインか問わず)を適切に組み合わせた効率的かつ効果的な顧客接点をデザインすることが肝要です。

PwCは今後もこうした日本の消費者の保険に関する意識をタイムリーに捉えて、保険会社のとるべき方策への示唆を定期的に発信していきます。

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主要メンバー

宇塚 公一

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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田村 公一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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齋木 信幸

パートナー, PwC税理士法人

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鈴田 雅也

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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馬越 美香

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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古里 豪志

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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