2025年の見通し

金融サービス業における世界のM&A動向

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  • 2025-03-10

メガディールの復活とディール金額の増大に伴い、2025年の金融サービス業のM&Aが活発化するとの慎重ながらも楽観的な見通しが広まっています。

メガディールの復活とディール金額の増大に伴い、2025年の金融サービス業のM&Aが活発化するとの慎重ながらも楽観的な見通しが広まっています。

ディールメーカーは2025年の金融サービス業のM&Aに対して楽観的です。ディール件数は引き続き低水準であったものの、メガディールが増加し、ディール金額も増大した2024年の勢いを引き継ぐと見られます。2024年にディールメーキングを阻害した要因のいくつかは軽減されましたが、金融サービス業はマクロ経済情勢や地政学的緊張による不確実性に引き続き直面しており、また競争が激しく規制の厳しいビジネス環境において利益率に対する圧力にもさらされています。

M&Aは、金融サービス業界のプレーヤーがその将来を形成し、ビジネスモデルを調整し、影響力を維持しながら成長を生み出す上で、不可欠な戦略的要素であり続けています。金融サービス業におけるディールメーキングには、収益と利益率の両方に焦点を当て、新たな市場やテクノロジーにアクセスすることを目的とした買収が含まれると予想されます 。例えば、銀行は、拡大するテクノロジーニーズ、変化する顧客嗜好、組込型金融などのトレンドによって起こるビジネスモデルのディスラプションに対応するために、フィンテック企業の買収や提携をするかもしれません。事業売却は、不採算ポートフォリオのバランスを調整し、より成長性や収益性の高い分野への再投資に使用できる資本を生み出します。

ディールメーカーはすでに大規模ディールへの意欲を強く示しており、2025年もこの傾向が続くと予想されます。2024年の金融サービス市場におけるメガディール(50億米ドルを超えるディール)には、Capital Oneが提案した米国のディスカバー・ファイナンシャル・サービスの353億米ドルの買収、中国でのGuotai Junan SecuritiesによるHaitong Securitiesとの145億米ドルの合併、BBVAが提案したスペインのBanco Sabadellとの134億米ドルの合併などがあります。

「成長とトランスフォーメーションを推進しなければならないというプレッシャーが、2025年の金融サービス業のM&Aをより活発化させる原動力となるでしょう。2024年の勢いに乗って、より多くのメガディールが発表されるでしょう。このような大型ディールは、ディールメーカーの自信の高まりを示すものであり、すべての市場参加者が動き出さなければならないという圧力を高めるものです」

Christopher Sur、 PwCドイツ、パートナー、グローバル金融サービスディールズリーダー

米国は新政権の下で金融規制緩和の時代を迎えると予想され、他国の規制対象金融サービス会社に対する圧力が強まる可能性があります。例えば、欧州の銀行の競争が激化すれば、欧州の規制当局はより厳しい資本規制の緩和や実施の延期を求める圧力に直面する可能性があります。このような理由と、世界各国の成長率の違いによって、地域間の格差が拡大し、M&Aが行われる地域に影響を与える可能性があると予想されます。

76%

の過去3年間に大規模な買収を行った金融サービス業のCEOが、今後3年間で1件以上の買収を計画している。

出典:PwC「第28回世界CEO意識調査」(2025年1月)

サブセクターの動向は以下の各セクションをご覧ください。

金融サービス業における2025年の主要なM&Aテーマ

  • 規模とレバレッジ:アセット・ウェルスマネジメントセクターでは、企業は買収を通じた成長により、規模を活用してプライベート・クレジットやオルタナティブの機能を深化させることができます。買収企業は顧客体験を向上させることで、自社の競争力を高められます。また、銀行は買収によって規模を拡大することで、新規および既存の資本要件に対応するために予想されるコスト増を吸収したり、テクノロジー投資のコストをより幅広い資産基盤に分散したりすることもできるでしょう。欧州市場だけでなく、米国市場においても、特に中小金融機関の再編が予想されますが、米国の新政権は規制に対してより緩やかなアプローチを取ると予想されており、中小金融機関の合併・買収がより容易になる可能性があります。
  • ビジネスモデルの再発明:テクノロジーによってビジネスモデルのディスラプションが起こり、新規参入企業が競争の激化に直面する中、金融サービスプレーヤーのエコシステムは急速に進化しています。金融サービスプレーヤーは、バリューチェーン、流通チャネル、顧客とのコミュニケーション、テクノロジープラットフォームなど、事業のあらゆる側面を体系的に見直し、影響力を維持するための新たなビジネス方法を特定する必要があります。これは金融サービス企業にとって、バリューチェーンにおける組込型金融とオープンバンキングの重要性が増していることを考慮すると特に重要です。トランスフォーメーションの必要性は、M&Aの主要な推進要因の1つであり、従来の金融サービスセクターにとどまらず、テクノロジー、消費者、健康、自動車など、他のセクターとのクロスセクターディールメーキングの機会を生み出しています。
  • プライベート・クレジット:プライベート・クレジット市場は急成長しており、Preqinは世界のプライベート・クレジット運用資産残高が2024年の1.7兆米ドル近くから2028年には2.4兆米ドルに拡大すると予測しています。プライベート・クレジットの台頭は、以下のような形で金融サービス業界のディールメーキングに影響を与えています。
    • アセットマネジメント会社やその他のノンバンク系金融機関は、プライベート・クレジット会社を買収することで、商品の多様化を図り、定期的な手数料収入を増やしています。
    • プライベート・クレジット・ファンドは、市場シェアを拡大するために他のプライベート・クレジット・ファンドを買収しており、また、ニッチ市場やサービスが行き届いていない市場への進出に役立つ専門的な融資機能を持つ企業を買収しています。
    • 銀行は、プライベート・クレジット・プロバイダーとプライベート・デット・レンディングの市場シェアを争うため、自行の業務をリストラクチャリングし、提携や買収を模索しています。
    • アセットマネージャーは、保険会社が保有する大規模な恒久的資本プールの運用にアクセスするために保険資産を取得しており、その結果、プライベート・クレジットの需要が高まっています。
  • プライベート・エクイティ(PE):PEファンドは2025年に積極的な買い手と売り手になると予想されています。投資先としては、保険ブローカー、決済ソリューションプロバイダー、独立系ファイナンシャル・アドバイザー・ブティック、プライベート・ウェルスマネジメント、アセット・サービシング会社など、手数料主導でスケーラブルなビジネスにPE投資家が特に注目しています。PEファンドは「ドライパウダー」のために魅力的な投資機会を探しているため、資金調達力は阻害要因にはならないと思われます。売り手側の視点からは、リミテッドパートナーへの資本還元を迫られるPEによるエグジットの増加が予想されます。実際に売り手側の準備が増加している様子が見られ、2025年にエグジット活動が増加する可能性があります
  • 戦略的パートナーシップ:金融サービス企業は、収益向上のためだけでなく、コスト構造を最適化し、SaaS(Software as a Service)契約や提携を通じて構築したテクノロジーを活用する手段として、戦略的パートナーシップを模索する傾向が強まっています。このような提携により、企業は収益機会を共有しながら、バックエンド業務を戦略的に効率化し、コスト削減を図ることができます。

スポットライト:中南米におけるフィンテックM&A

過去10年間、フィンテックセクターは世界的に金融業界を再構築し、セクターの境界を曖昧にし、伝統的なプレーヤーにビジネスモデルの改革を迫り、M&Aの機会を生み出してきました。過去3年間のベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達の急減により、その勢いは鈍化していますが、多くの国でフィンテックセクターは力強さと顧客への影響力の両面で成長を続けており、現在進行中の銀行業界のトランスフォーメーションから恩恵を受ける立場にあります。

中南米で追い風となっているもう1つの広範なトレンドとして、インド、東南アジア、アフリカなど、他の新興経済国において、スマートフォンとデジタル技術によって、農村部を含めこれまで十分なサービスを受けられなかったユーザーがデジタルクレジットや銀行サービスを利用できるようになっていることが挙げられます。

中南米のフィンテックエコシステムとM&A

中南米のフィンテックは、特にブラジル、メキシコ、コロンビアなどの国々において、M&Aが活発なエリアとして際立っています。FinnovistaとBanco Interamericano de Desarrollo(BID)が2024年6月に発表したレポートによると、2023年末までに中南米とカリブ海地域のフィンテックエコシステムを構成する企業は3,000社を超え、2017年以降340%増加しました。

これらの企業の多くは新興企業であり、成長にはVCからの資金が必要です。中南米のVC投資は、他の地域と同様、2021年のピークを下回っていますが、この地域のフィンテック新興企業は、全セクターの中で最も多くの資金を集め続けています。ラテンアメリカ・プライベート・キャピタル投資協会(LAVCA)によると、2024年1-9月のVCディールのうちフィンテック新興企業が占める割合は30%ですが、金額は投資されたVC総額の57%を占めています。中南米における2024年1-9月のフィンテックへのVC投資総額は16億米ドルで、2023年1-9月に比べ26%増加しました。同地域で2024年1-9月期にVCによるフィンテック資金調達を受けた上位3カ国はメキシコ(6億9,200万ドル)、ブラジル(4億8,700万米ドル)、コロンビア(2億5,400万米ドル)でした。

CB Insightsのデータによると、2024年12月時点で、中南米には32社のユニコーン(バリュエーションが10億米ドル以上の未上場企業)が存在し、その半数以上が金融サービスセクターに属しています。ブラジルに9社、メキシコに5社、アルゼンチン、エクアドル、コロンビアにそれぞれ1社ずつ存在しています。

最近の金利引き下げが株式需要を押し上げ、資本市場が再活性化する可能性があります。中南米フィンテックのIPOは、ブラジルのネオバンクであるNubankが2021年12月に26億米ドルで上場して以来行われていません。長期の休止の後、私たちは現在、いくつかの中南米フィンテックがIPO準備に向けたステップを実施しているのを把握しており、資本市場の状況次第では、いくつかの企業が2025年に市場に登場する可能性が高いと予想しています。

フィンテックの進化がディールメーキングの機会を創出

ここ数年のIPO市場の厳しさとVCの減少により、多くのフィンテックは経営効率の改善とビジネスモデルの高度化を余儀なくされてきました。その結果、地域内での事業拡大を目指して買収を検討したり、事業拡大を目指すバイヤーのターゲットとなったりしています。伝統的な金融機関は近年、独自のフィンテック機能を開発するために多額の投資を行っており、ペイメント(決済)、自動化された顧客情報確認(KYC)、コンプライアンス、AIなど、さまざまな分野でSaaS契約を通じたディール活動や収益化の機会が生まれています。この傾向は今後も続き、特に以下の3大フィンテック分野でM&Aの機会が生まれると見ています。

  • デジタルペイメントと送金はフィンテックにおける最大のセグメントであり、中南米のフィンテック企業の5分の1強を占めています。このセグメントの企業は、安全で効率的かつアクセスしやすいクロスボーダーおよびローカル決済を必要としており、機能の獲得や新たな地域市場へのアクセスを得るためにM&Aを推進しています。ディールメーキングの例としては、2024年4月にイスラエルのペイメントプラットフォームNayaxがVMtecnologia(ブラジルを拠点とする自動セルフサービス業界向けテクノロジープロバイダー)を買収したことや、2024年12月に決済業者PayRetailersがブラジルでのプレゼンス向上を目的にTransfeera(ビジネス向け決済のフィンテック)を買収したことが挙げられます。
  • このセグメントは、中南米のフィンテック企業の5分の1弱を占めています。与信審査や融資プロセスにAIが取り入れられるようになったことで、デジタル機能の必要性が高まっています。成長を加速させようとする企業は、このセグメントを市場再編の絶好の機会にしています。M&A活動の一例として、メキシコのネオバンクKlarによる2024年12月のTribal(B2B決済および融資プラットフォーム)の買収が挙げられます。
  • 企業が電子請求書発行、詳細な会計処理、買掛金・売掛金処理、データ分析、ビジネスインテリジェンスに注力するにつれ、この分野は魅力的な成長分野となっています。これらの要素は、トレーサビリティや迅速な意思決定に対する企業のニーズとともに、ビジネスプロセス製品に対する安定した需要を牽引しています。投資家の関心の高まりにより、2025年にはM&A活動がさらに活発化すると予想されます。最近のディールの例としては、2024年6月にID認証企業のIncodeが中南米およびカリブ海地域のデジタル認証市場における地位を強化するためにMetamapを買収したケースが挙げられます。

ここ数年、資金調達の縮小やバリュエーションの修正など、大きな課題があったとはいえ、フィンテックセクターは中南米地域で最もレジリエンスが高く、ダイナミックなセクターの1つであることが証明されました。この傾向は2025年以降も続くと予想されます。金利が低下し、ポートフォリオのリバランスに熱心な潜在的な海外投資家からの関心が高まることで、資金調達源が多様化し、資金調達ラウンドへの依存度が低下します。テクノロジーも相まって、この地域ではM&A活動が活発化し、伝統的な金融機関やテクノロジー企業との提携だけでなく、セクター再編にも貢献すると思われます。

2024年の世界のM&A件数と金額

金融サービスのディール件数と金額(2019~2024年)
タブをクリックすると、各地域のチャートが表示されます。

Bar chart showing M&A volumes and values for the consumer markets sectors. Deal volumes declined in H1'24 but deal values increased compared to both H1'23 and H2'23 largely due to some notable megadeals.

出典:LSEGとPwCの分析(データはターゲット企業の所在地に基づく)

金融サービスの世界のディール件数は2023年から2024年の間に13%減少しましたが、ディール金額は大きく異なり、71%増加しました。ディール金額の増加は主にメガディールの増加によるものです。2024年には16件の金融サービスメガディールが発表されましたが、前年は3件でした。各セクターのメガディール件数は、保険が6件、アセット・ウェルスマネジメントが5件、銀行・資本市場が5件と、いずれも増加しています。

地域別では、欧州・中東・アフリカ(EMEA)、アジア太平洋、米州はいずれも2024年中にディール件数が減少したものの、世界全体の約3分の1のシェアを維持しました。2023年から2024年にかけて、米州ではディール金額が85%増加し、世界全体のディール金額に占めるシェアは48%から52%に上昇しました。同期間中、EMEAとアジア太平洋のディール金額はそれぞれ80%、40%増加しました。地域別のディール金額のトレンドは主にメガディールの分布に起因しており、米州では10件、EMEAでは4件、アジア太平洋では2件のメガディールがありました。

2022年から2024年にかけてM&Aを阻害していたいくつかの要因が緩和されつつあることから、銀行・資本市場におけるディールメーキング活動は、特に米国と欧州で増加すると予想されます。北米と欧州の中央銀行は2024年中に金利引き下げを開始し、2025年にはペースは鈍化する可能性があるものの、さらなる金利引き下げを行うことを示唆しています。借入コストの低下により経済活動が下支えされると予想されるため、新規貸出需要が増加し、銀行の収益が押し上げられると思われます。このような利益は、ディールメーキングに活用することができます。

米国の新政権は規制の撤廃を支持すると予想されています。これにより、多くの金融サービス企業にとって大きな負担となっているコンプライアンスコストが削減され、ディールメーカー全体の信頼感が高まる可能性があります。選挙の結果を受けて米国経済が楽観的になっているにもかかわらず、一部の経済は景気後退に入ると予想され、特に商業用不動産や消費者金融などの分野で、銀行の貸出債権の債務不履行リスクが高まるシナリオが予想されます。

2025年における銀行業界のM&A活動は以下の通りです。

  • 規模と範囲の経済性:過去数年間、銀行はデジタル化、データ、AI、サイバーセキュリティを含むテクノロジーへの投資を増やさなければなりませんでした。同時に、銀行業務などへの規制を遵守するためのコストも増加しています。つまり、銀行セクターでは規模の重要性が増しているのです。買収を行い、これらの事業を既存の事業と統合することで、銀行はより多くの顧客基盤に高い固定費を分散させ、規模の経済を実現することができます。効率性の向上だけでなく、銀行間の再編は、地理的な拡大戦略や既存市場での地位の強化にもつながります。例えば、スペインのBBVA は2024年 4月に発表されたBanco Sabadellとの134 億米ドル規模の合併案について、欧州や世界での競争に打ち勝つ、より強力で効率的な金融機関の創設が目的であると主張しています。また、Nationwide は2024年9月に発表されたVirgin Moneyの36億米ドルの買収によって英国の金融サービスにおけるより大きなプレーヤーにしとなり、資金調達コストを削減できると期待されています。2025年2月に完了する予定のカナダ国立銀行によるCanadian Western Bankの35億米ドル(50億カナダドル)の買収は、全国規模でより包括的な商品・サービスのプラットフォームへのアクセスを顧客に提供することを目的としています。イタリアのUniCreditが同国のBancoBPMを105億米ドルで買収することを提案するとともに、ドイツのCommerzbankの直接株式9.5%とデリバティブ商品を通じて約18.5%を取得したように、国内取引とクロスボーダー取引の両方を検討している銀行もあります。
  • 機能主導のディール:銀行は、現在の商品・サービス提供の幅を広げたり、独自の機能・戦略的優位性を実現したりできるような、革新的テクノロジー資産などの新たな機能を常に求めています。このような新機能は、新たな収益源を開拓し、競争が激化する市場環境で顧客にサービスを提供するために不可欠です。
  • ポートフォリオの最適化:銀行は、売却可能なノンコア・アセットを特定するために、ポートフォリオを見直す動きを加速させています。こうしたアセットには、資本集約的で利益率の低い事業やリスクの高い事業、非戦略的な地域での事業が含まれる可能性があります。このようなアセットを売却することで、銀行はコアコンピタンスに集中し、構造を合理化し、資本をより魅力的な分野に再配分し、規制資本要件の引き上げに対応するために資本を増加させることができます。例えば、HSBC Continental Europe(HBCE)は2024年 1月にフランスのリテールバンキング事業をMy Money Groupの子会社であるCCFに売却したほか、2024年9月にはドイツのプライベート・バンキング事業をBNP Paribasに売却することで合意に達したと発表しました。これらの事業売却により、HBCE はビジネスモデルを簡素化し、国際ホールセールバンキング事業に集中することが可能となります。さらに、NatWest Groupは2024年7月、リテールモーゲージの成長を加速させる戦略に沿って、英国の優良住宅ローンのポートフォリオを取得する契約をMetro Bankと締結したと発表しました。
  • 不良債権(NPL)の売却:一部の貸出債権、特に商業用不動産と消費者金融の信用力が悪化していることから、銀行は不良債権の売却を通じてバランスシートを強化し、自己資本比率を改善させる措置を取る可能性があります。しかし、2008年から2009年にかけて不良債権の売却が活発に行われた時期に比べれば、銀行の資本力は向上しており、現在、売り手は消極的な姿勢を示しています。そのため、2025年の不良債権売却は確実というよりは、注視すべき分野と見ています。さらに、ここ数年のプライベート・クレジット活動の活発化により、一部の市場では伝統的な銀行貸出と競合していることから、不良債権ポートフォリオを購入する機会が増える可能性があります。

アセットマネジメントのディールは、主に新市場や新商品、特にオルタナティブアセットクラスへの進出を通じて収益を拡大しようとする企業によって推進されています。資金調達は最近、より幅広い商品群を顧客に提供し、運用資産残高(AUM)を拡大し、爆発的に拡張するデジタルインフラとそれを持続的に動かすために必要なエネルギーを活用できる、より大規模な企業に有利になっています。

2025年にディールを検討するアセットマネージャーは、以下のような分野に注目すると予想されます。

  • 再編:再編はここ数年すでに行われていますが、今後、大規模なアセットマネジメント会社が、規模の経済の実現、商品の多様化、他地域への進出を目的に他社を買収するディールが増えると予想されます。例えば、2024年9月のBrookfieldによるプライベート・クレジット会社Castlelakeへの15億米ドルの戦略的投資、2024年10月のBlackRockによるインフラファンドGlobal Infrastructure Partnersの125億米ドルでの買収、2024年12月のBlackRockによるプライベート・クレジット会社HPS Investment Partnersの120億米ドルでの買収提案、2025年1月の保険会社GeneraliとBPCE銀行による両社のアセットマネジメント事業を通じたジョイントベンチャー提案などがあります。
  • 機能主導のディール:アセットマネージャーは、暗号資産、ブロックチェーン、トークン化、サステナブル投資などの分野で特定の機能を提供できる専門企業などの買収ターゲットに非常に注目しています。テクノロジー、データ、AIが競争力のあるバリュープロポジションを構築するための柱と見なされるようになっているため、アセットマネージャーは大規模なカスタマイズと最適化を可能にするテクノロジーに投資する必要があります。

ウェルスマネジメント分野におけるM&Aは、2025年には以下の戦略目標を達成するために、買収による再編に焦点が当てられるでしょう。

  • 地理的拡大:ウェルスマネジメント事業は、インド、中東、中国など富裕層が増加している経済圏での国際的な事業拡大に特に重点を置き、新たな市場にアクセスするためにターゲットを買収するでしょう。例としては、HSBC Chinaによる2024年6月の中国本土におけるCitiのリテール資産管理ポートフォリオの買収や、Prestige Wealthによる2024年12月の日本の資産管理会社であるTokyo Bayの買収が挙げられます。
  • 事業規模の拡大:コスト競争力によりウェルスマネジメント事業の再編が推進されており、業務効率の継続的改善とコスト最適化に的を絞った行動やプログラムも出てきています。
  • 商品・サービスの拡充:ウェルスマネージャーはテクノロジーに投資し、顧客体験の向上に重点を置いた、現代の投資家の期待やニーズに合った商品やサービスを開発しています。また、ウェルスマネージャーはサービス提供の幅を広げるため、非流動商品やオルタナティブ商品にますます注目しています。このような投資は直接投資となることもあれば、提携や戦略的アライアンスによって新興アセットクラスに焦点を当てた先進的なプラットフォームを立ち上げることもあります。

世界全体では、2024年の保険ディール件数は2023年と比較して13%減少しましたが、ディール金額は主にいくつかの大型ディールにより39%増加しました。2025年に最も活発になると予想される保険サブセクターは以下の通りです。

  • 保険ブローカーとMGA(Managing General Agent):保険ブローカーとMGA市場は依然として非常に細分化されており、再編が続くと予想されます。保険ブローカー分野における2024年の注目すべきディールの例としては、2024年4月のAonによる130億米ドルでのNFPの買収、2024年11月のMarsh McLennanによる78億米ドルでのMcGriff Insurance Servicesの買収、2024年12月に発表されたGallagherによる135億米ドルでのAssuredPartnersの買収案などが挙げられます。ディールの多くは、PEの支援を受けたプラットフォームが規模の経済から利益を得るために再編を進めることで引き続き推進されるでしょう。
  • 生命保険と年金保険のランオフ資産:保険会社は、縮小するポートフォリオの管理コストがますます重荷になり、再投資のために資本を確保しようとするため、クローズドファンドの売却が2025年にテーマとして大きくなると予想されます。買い手となるのは、複数の保険会社のポートフォリオを統合してスケールメリットを生み出すことで、こうしたランオフポートフォリオをより効率的に管理できる専門家であることが多いでしょう。このようなディールは、各国特有の規制があるため、通常は国内ディールとなります。最近の生命保険のランオフ取引に関するM&Aの事例としては、2024年12月に発表された日本生命によるResolution Lifeの106億米ドルでの買収案があります。
  • アセットマネジメント資産:アセットマネジメント業界の再編が進む中、リスクキャリアとアセットマネジメント会社の分離が進む傾向にあります。この傾向の一例として、AXAが資産運用事業から戦略的に撤退し、AXA Investment Managers事業をBNP Paribasに売却して保険事業に集中することを決定したことが挙げられます。また、韓国、香港、東南アジアのアセットマネージャーと再保険会社がバックブックの追求を続けており、いくつかの取引が確認されています。2025年には、資本規制の強化や金利低下の可能性を背景に、こうした取引が増加すると予想されます。
  • インシュアテック:保険会社は、機械学習やAI機能などの分野におけるデジタル化の取り組みを活用するため、M&A、提携、戦略的アライアンス、SaaS提携などを通じてインシュアテック企業と協力することが予想されます。

規制は引き続きディールに影響を与えるでしょう。米国では規制が緩和されることが予想されますが、他国ではそうでない可能性があり、保険会社は国内市場や他国に集中して成長を追求するために特定の事業から撤退することが予想されます。

金融サービス業における2025年のM&Aの見通し

金融サービス業のディールが比較的停滞していた期間を経て、2025年には金融サービス企業もPEもより積極的にM&Aに参加するようになり、メガディールへの意欲が高まると予想されます。企業はトップラインとボトムラインの両方を成長させる戦略的な必要性に駆られており、多くの企業が事業やオペレーティングモデルの変革や再発明を必要としています。PEファンドは引き続き金融サービスを魅力的な投資対象として捉えており、多くのファンドが金融サービス専門チームを設立しています。イグジットを迫られる一方で、資本を投下しなければならないというプレッシャーから、2025年もPEは金融サービスに積極的であり続けるでしょう。

M&A動向の解説は、業界で認知された情報源からのデータと当社独自の調査に基づいています。具体的には、本文で言及している金額と件数は、2024年12月31日時点でロンドン証券取引所グループ(LSEG)が提供し、2025年1月6日から9日の間にアクセスした、正式に発表されたディールに基づいています(噂や撤回された取引を除く)。本データは、S&P Capital IQおよび当社独自の調査による追加情報によって補完されています。PwCの業界マッピングと整合させるため、ソース情報に一定の調整が加えられています。メガディールは50億米ドル以上のディールと定義しています。ユニコーンとは、バリュエーションが10億米ドルを超える未上場企業を指します。

スポットライトで取り上げたフィンテックに関するデータは以下に基づいています。

中南米のフィンテックエコシステムを構成する企業数は、FinnovistaとBanco Interamericano de Desarollo(BID)が2024年6月に発表したレポートFintech in Latin America and the Caribbean(英語)(2025年1月6日アクセス)から引用しています。

中南米のフィンテックセクターにおけるベンチャーキャピタルの国別資金調達額は、ラテンアメリカ・プライベート・キャピタル投資協会による2024年第3四半期LAVCA産業データ分析(英語)レポート(2024年9月30日時点のデータを含む、2025年1月22日アクセス)に基づいています。

中南米におけるフィンテックユニコーンの数は、2024年12月6日付のCB InsightsによるThe Complete List of Unicorn Companies(英語)(2025年1月6日アクセス)に基づいています。

Christopher Sur
PwCドイツ、パートナー、グローバル金融サービス関連ディールズリーダー

Thorsten Egenolf
PwCドイツ、シニアマネージャー

※本コンテンツは、PwC米国が2025年1月に公開した「Global M&A trends in financial services: 2025 outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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