提言5:デジタル時代に備えて、業務部門とIT部門のあり方を再定義せよ
従来、ITシステム構築は専門的な知識と技術を必要としましたが、アプリケーション開発技法やツールの進化、パブリッククラウドの普及により、一定の訓練を受ければ誰でも手掛けられるようになりつつあります。
こうした中で、IT部門のあり方も新しい時代に即したものに再定義する必要があります。
具体的には、業務部門が必要とするアプリケーションは、企画から開発・運用まで業務部門に移管します。IT部門は業務部門の指導・相談役となるほか、デジタル/システムに関する高度な専門家部隊として、部門横断的なアプリケーションの開発や運用、サイバーセキュリティや各種規制への対応を担うのが望ましい形です。こうした体制を最終目標として、速やかに移行することを推奨します。
業務部門の現場でシステム構築が完結できるようになれば、変化への対応スピードは高まります。
また、IT部門が高度な専門家部隊となることで、市場変化に即応しながらリスクを最小化し、最新技術を活用したビジネスも展開できます。デジタル系のスタートアップでユニコーンに成長した企業の多くがこうした体制となっており、デジタル時代で勝ち抜くための重要な要素だと考えます。
業務部門でシステム構築を完結できる体制を整えるためにも、人材を育成して部門内のITリテラシーを高めつつ、IT部門の一部人材を各業務部門に移管させることが望ましいといえます。しかし、歴史のある大企業が一朝一夕に同様の体制に移行することは難しく、段階を踏む必要があるでしょう。
まずは、業務系とIT系の人材を混在させて、業務部門でシステムを完結できるパイロット的な位置づけの組織を設立しノウハウを蓄積します。
現在、多くの企業でDX推進のためのデジタル専門組織が設立されていますが、それに近いイメージです。これらの人員を、全て自社人材でまかなうのはスキル面的にも工数面的にも現実的ではないため、システム開発や保守を委託しているITベンダーや外部の専門家との協業を推奨します。
また、多くの企業でITベンダーに開発運用を委託しているので、立ち上げ時期にはこうした関係を維持しながら外部委託業者との関係を再定義することも必要になるでしょう。
次のステップは、この組織に残りビジネスを遂行していくメンバーと、組織を離れ全社展開に備えるメンバーとに振り分けることです。
後者は、高度なスキルを有するセキュリティスペシャリストやデータサイエンティストなどが該当し、これらのメンバーを独立させ、専門家集団としての新たな組織を設立させます。
この組織は、蓄積したノウハウを部門横断的に広める役割を担います。並行してパイロット的に立ち上げた当初の組織を横展開し、他の事業部門でも同様の取り組みを開始する。これを地道に繰り返し、最終ゴールを目指します。
この変革は10年スパンで考慮すべき、時間のかかる取り組みです。だからこそトップ自らが方向性を示し、覚悟を持って速やかに着手すべきだといえます。