新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を機に考える製薬会社に求められる対応力

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大は、人々の日常生活を抑制し、各企業にこれまでにない大きな変革を迫ることになりました。製薬企業においては、このような非常事態であるからこそ、変わらない企業活動を維持し、必要となる医薬品を安定的に供給するのはもちろんのこと、感染拡大を防止する治療薬としての既存薬の再開発(ドラッグリポジショニング)や、発症を抑制するためのワクチンの開発を促進することが求められています。

刻々と変化する状況下において、適切な情報収集と選別、柔軟な発想と臨機応変な決断など、製薬企業は多くを求められ、その課題は山積していると言えます。

PwCでは、現在、製薬会社が直面していると思われる課題、求められるであろう対応、そしてその検討のポイントを整理しました。また、事態が収束した後にいち早く考察が必要な事項についても整理を行っています。

1.事業継続計画(BCP)の迅速な見直し

一般的なBCPは、地震などの局所的な災害のみが想定されており、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のように被害が全世界に及ぶ事態においては、不十分であることが想定されます。自社の事業への影響を正しく分析し、既存のBCPに必要な修正を施し、適応していくことが急務であると言えます。

求められる対応

検討の主なポイント

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の現状(全世界的に流行し、影響が長期間に及ぶことが想定される)を鑑みたBCPの修正と適用

 

  • 代替薬がない医薬品の生産などの優先すべき業務が整理されているか。該当業務において、従業員の感染リスクを考慮した必要最少人員でのオペレーションが検討されているか
  • 安定供給の維持のための代替プラン(原材料供給元・生産拠点・物流網などの確保)が策定されているか。そのプランはパンデミック下でも実効性があるか
  • 事態が長期化した場合を考慮し、流行段階(早期、拡大期、小康期など)に応じたBCPと管理体制になっているか

3.リモートでの業務遂行が可能な環境・制度の整備

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止のためリモートでの業務が強いられたことにより、これまで働き方改革で進められてきたリモートワークは、今後、加速していくことが想定されます。こうした環境下において、スムーズな業務遂行が可能な制度・環境を構築していくことが、より一層強く求められます。

求められる対応

検討の主なポイント

リモートワークに耐えうる業務・制度の設計

  • リモートで実施できる業務、実施できない業務が明確になっているか
  • 迅速に情報共有・意思決定を行うためのプロセス・制度が構築されているか
  • 紙面を用いた業務(申請・承認など)の電子化、または簡素化が可能か
  • リモートワーク推進にあたり、従業員の評価や給与、各種KPIなど、再検討が必要な事項は洗い出せているか

IT環境・ツールの整備

  • 各種情報を管理するためのセキュアなクラウド環境は整備されているか
  • 自宅で業務を遂行するのに十分なIT環境(PCやWifiなど)を提供できているか
  • 社内外のデジタルコミュニケーションを可能とするツール(Web会議システムなど)が提供できているか
  • リモート環境下におけるIT関連のトラブルに迅速に対応できるITヘルプデスクを提供できているか

従業員のリモートワークに対するスキル・知識の向上

 

  • 従業員は、リモートワークに対応できるITスキルを保有しているか、または十分にトレーニングされているか
  • セキュリティポリシーについての理解を正しく得られているか

4.社内外ステークホルダーへの適切な情報共有のための仕組みの整備

パンデミックのような混乱した状態下では、医療従事者などの社外ステークホルダーに対する情報共有は、特に正確かつ的確なものとなるような配慮が求められます。同時に、従業員に対しても、日々変化する状況に合わせた自社の方針を、正確かつ迅速に伝えることが求められます。

求められる対応

検討の主なポイント

社外ステークホルダーとのコミュニケーションルート・プロセスの整備

  • 自社のアクションによって影響を受けるステークホルダーとその影響度を把握しているか
  • ステークホルダーごとに、情報が正確かつ迅速に伝わるルート・プロセスが整備されているか
  • 問い合わせ対応などの社外対応マニュアルが整備されており、従業員はそれにのっとるようにトレーニングされているか

従業員とのコミュニケーションルート・プロセスの整備

  • 正しい状況認識のもと、従業員自身が対応を適切に判断できる環境や仕組みが担保されているか
  • 従業員の置かれている状況(健康状況など)を正確に把握できる仕組みが整備できているか
  • 従業員に感染者が発生した際の対応は明確になっているか

5.サプライチェーンの確保と再構築

医薬品のサプライチェーンは、グローバル化が進んでおり、世界的なパンデミックの発生に際しては、直接・間接的に、また長期的に影響を受けることが懸念されます。サプライチェーン全体の状況を把握し、必要な打ち手を検討する必要があります。見直しや構築には時間を要するため、あらかじめ綿密な予測と計画のもと、最適化を推進しておくことが求められます。

求められる対応

検討の主なポイント

サプライヤーや自社の生産・物流を維持するための複数シナリオの想定と、代替手段の検討・確保

  • 社会への影響の大きい医薬品について、グローバルを含むEnd to Endプロセスや依存関係が明確になっているか
  • 安定供給を維持するための複数のシナリオを策定しているか
  • サプライヤーや自社の生産拠点・物流拠点を複数選定し、必要に応じて協力を仰ぐことができる契約関係になっているか
  • 有事の際のシナリオやプランについて、社内外のステークホルダーと共有できているか

需要の変化への柔軟な対応

  • 想定されるパンデミックにおいて、需要が増加・減少する可能性がある医薬品を特定できているか
  • 生産量が限定される場合において、限られた原材料や製品を供給するにあたってのルールやオペレーション(優先順位のつけ方など)が整備されているか
  • 需要が増加した場合・減少した場合の人員・オペレーションモデルは検討されているか

6.事業計画の見直しと財政基盤の強化

世界的なパンデミックの封じ込めに時間を要するケースを想定し、臨床試験の延期などによる影響を踏まえた事業計画の見直しが必要となります。

求められる対応

検討の主なポイント

パンデミックの自社事業に対する影響評価と、中期経営計画、事業計画書への反映

  • 臨床試験の中断や延期による売り上げ見込みの変動
  • ワクチン開発やドラッグリポジショニング検討による研究開発費の増加
  • 消費者行動の変化による売り上げの変動
  • ドラッグリポジショニングによる需要増の影響

新製品の上市遅延や、研究開発費増加による財務状況悪化を避けるためのコスト削減余地の検討

  • 業務改善施策の検討・推進、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)などを用いたデジタル化の推進により、効率化が想定される業務は何か
  • ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)や非正規社員化などによる固定費の変動費化が可能な業務は何か
  • 集中購買などによるサプライヤーマネジメントにより、単価軽減の可能性のある外部調達費目は何か

7.事態の収束後を見据えた業務や制度の再構築

事態の収束後を見据え、いつどのように従来の業務体制へ復元するのか、また戻る先は従来と同様の姿なのかについて検討することが重要です。この機会を前向きな変化としていくために、柔軟な発想で回復のプランニングを行うことが求められます。

求められる対応

検討の主なポイント

通常業務体制への復元の判断基準と、復元手順の設定

  • 判断基準と判断に必要な情報は明らかにされているか
  • 通常業務体制に復元する事項の優先順位や、復元のプロセスが明文化され、関係者(協力会社、臨床試験実施医療機関、労働組合など)に周知されているか

新たな業務標準の設計やその導入に伴い必要となる制度の検討

  • 非常事態下の運用とされていたものの中で、新たな業務標準とすべきもの・なりうるものはどれか
  • 新たな業務標準を設けることで、事業や従業員に対してどれくらいの影響があるか
  • 必要となる制度やプロセスは何か、その構築のためにどれくらいの時間を要するか

まとめ

製薬会社は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のようなパンデミック状況下において、医薬品の継続的な提供や治療・予防への貢献という社会的使命を有しており、 多岐にわたる対応において正確性・確実性が求められます。そしてその実現にあっては迅速性・柔軟性が重要な鍵を握ります。 それらを着実に実行するためにも平時から対応力を鍛えていくことが求められ、多くの課題に取り組み、早急に成果を出していく必要が生じています。  

このような状況下では、時には、自社の利益より、治療薬の開発やそのための人材確保を優先する必要が生じることもあるでしょう。そしてそれは、場合によっては、業界の商習慣や大原則を覆すものであるかもしれません。これまでの常識がもはや最善の策ではなくなっているかもしれないとの認識のもと、常に複数のシナリオを準備し、的確な状況判断のもとにそれらの取捨選択を行い、そして迅速かつ強力にそれらを推進していくことが必要となると言えるでしょう。また、この危機のさらに先を想像し、有事における混乱で本来先だってやるべきことやそのタイミングを見逃さないようにすることも重要です。

この新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行によって明らかに言えることは、製薬会社の在り方や既存概念が大きく変わるということです。社会的使命を全うするために、目の前の困難な状況に真に向き合い、的確に対処していくこと、そして将来においても変わらずその使命を果たし続けることができるよう、常に変革していくことで、社会に向け、自社が有する真の価値を示していくことができるでしょう。

常に発生しうる最悪の事態を想定した事業運営となっているか、またそれを支えるための人材や環境が十分に準備されているかについて、いま一度、振り返ることが求められています。

主要メンバー

堀井 俊介

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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谷川 真理

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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