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自社のビジネスモデルが次の10年間持続できるかどうかについて、多くのCEOが疑問を持っています。今こそがゲームチェンジの時であり、今日の経営者の選択が明日の製薬業界における成功ポジションの獲得につながるのです。
本稿では、経営者が将来における製薬企業の価値創出を実現するために考慮すべき、4つの戦略的アプローチと求められる能力(スキルやケイパビリティ)について論じます。
エネルギー、農業、モビリティ、建設といった経済の各分野では、大きな変化が起きています。革新的なテクノロジー、米国の政策や規制アジェンダの変移、そして急速に移り変わる社会の期待が、形成される価値観に影響しているのです。製薬業界もこの破壊的な力から逃れることはできません。2024年、製薬業界の株主へのリターンはまたしても他業界に劣後したままでした。もはや現下の要求に対して「ただ実行あるのみ」というお決まりのフレーズでは通用しないでしょう。
直近のパフォーマンスを分析すると、製薬業界における改革の必要性が改めて浮き彫りになります。PwCでは、製薬業界における総株主リターンのパフォーマンス分析のため、50の製薬会社を対象とする均等ウエイト指数(Equal-weight index)をS&P 500全体の均等ウエイト指数と比較しました(図表1)。その結果、S&P 500全体が2018年から2024年11月までの間に株主にもたらしたリターンが15%以上だったのに対して、製薬インデックスが株主にもたらしたリターンはわずか7.6%にとどまっています。2024年、この傾向はさらに顕著となり、同年11月までのS&Pのリターンが28.7%あったのに対して、製薬インデックスはその半分以下の13.9%でした。
製薬業界では、2018年以降にプラスのリターンに影響を与えた企業の数が他産業に比べて限定的です。いわゆる「Magnificent 7」の企業群がS&P 500の2018年以降の価値増加の40%を占めていますが、製薬業界での偏りはさらに顕著であり、PwCが分析した50の製薬会社の中のわずか2社のみで業界全体の価値成長の約60%を占めていました(図表2a、2b)。成長を牽引するこれらごく少数の際立った企業を除く大半の製薬会社は、2025年を「これまでのダイナミクスをいかに変革するかを考える年」にする必要があります。
マクロやミクロのさまざまな要素が科学的なブレークスルーを急増させ、イノベーションとビジネスを加速させています。これらの破壊的な力と業界が引き続き直面している価値創造の課題の中で、経営者が自社のビジネスモデルの持続性に疑念を持つのは当然とも言えます。
図表2a、2b:製薬・ライフサイエンス業界とS&P 500企業の時価総額
出所: PwC分析
出所: PwC分析
疾病を治療・治癒させることの価値と重要性は不変です。バイオロジーに対する理解の深まりと新たなテクノロジーの発展に伴い、健康リスクの特定、治療のパーソナライズ化、ケアの提供といったさまざまな場面において、大きな期待を抱かせる新しい可能性が次々に生まれています。例えば、肥満のようなかつては治療困難だった分野においても画期的な薬剤が開発され進展を遂げており、またアルツハイマーのような疾患領域に関しても、新薬が登場し患者に希望をもたらしています。ただしこれら画期的な薬剤の誕生は、一方で引き続く医療費負担に関する課題や不平等な治療結果の要因ともなっており、現行の医療システムのアプローチそのものの転換を迫る可能性もあるでしょう。
健康エコシステム全体を俯瞰すると、次のような方向で新たな価値が創造されています。すなわち、健康を低下させる要因への対処に注力する「予防」、遺伝情報や行動様式などのデータに基づきカスタマイズされた治療を行う「パーソナライズ(個別化)」、よりよい治療結果や健康維持のために健康状態を積極的に分析し早期介入を図る「予測」、そして、アクセスと利便性を向上させる「ポイント・オブ・ケア(ケアの現場)」です。
製薬業界の未来を形作る重要なトレンドについて識者の見解はおおむね一致しており、健康エコシステムが広範に変化し続ける中では、現在進行形の次の5つの動向が際立っています。
これらのトレンドは、米国に誕生した新しい政権によって作られる、2025年の政策変化の中で生じていきます。米国市場の規模と収益性の大きさを鑑み、製薬企業の戦略プランナーはトランプ新政権の政策を分析し、健康・医療政策、関税、税制、M&A動向を注視しつつ、自社の変革を加速させることが有益となります。
上記の5つのトレンドは、世界中で発生するであろう政策および規制の変化とともに、製薬市場に根本的な変化をもたらすでしょう。革新的な製薬会社のリーダーは、今後のマーケットに次のような要素が含まれることを想定しています。
製薬会社の戦略がこれらの困難なトレンドを乗り越えられるかどうか、すでにマーケット(資本市場)からは疑問を投げかけられています。これは、PwCによる分析結果で製薬業界の指標において企業価値対EBITDA(EV/EBITDA倍率)の中央値が2018年以降に低下している(13.6倍から11.5倍へ)ことからも分かります。このような製薬業界の将来に対する見通しの低下は、S&P 500全体の指数がマルチプルエクスパンションである状況で発生しており、投資家は多くの製薬ビジネスモデルが限界に達していると見なしていることが示唆されます。
薬価の引き下げ圧力、継続的なコスト増、企業間競争の激化に直面する中、変化が求められていることに疑いはありません。例外はあるにせよ、2025年は多くの製薬会社にとって、価値創造モデルを真剣に見直す年になるはずです。PwCは、製薬会社が経済的利益を獲得するために、いずれの企業にどのように投資すべきかについて再構築するうえで有用と思われる4つの選択肢を示しています。製薬各社は、将来に向け自社のビジネスモデルを強化・再構築するのに、これらのうちのどれが有効か、また各モデルから何を得られるのかを検討することが望まれます。
ほぼ全ての製薬会社が取り組むであろうR&Dの生産性向上に対し、このモデルの企業は、ディスカバリーから臨床開発に至る創薬の方法を根本的に変える可能性があります。このモデルでは、製薬会社は新しい才能と人材を取り込み、AIやその他の新しい技術を活用して、バイオロジーに基づく新規の分子や化合物を予後改善につながる治療法として確立させるプラットフォーム作成のために、必要な投資を行います。また、デジタルエージェントを活用して作業を大幅に削減し、精度を高め、薬の開発プロセス全体のタイムラインを短縮することも目標とします。さらにベンチャーキャピタルのような厳格なポートフォリオ管理を取り入れ、R&Dの資金が患者と投資家の双方にとって価値を生み出す製品に集中していることを確認します。その結果、新薬を市場に投入するコストとタイムラインが大きく変革し、充足されていない医療ニーズ(Unmet medical need)を満たす可能性を広げることができます。このようにR&D変革の投資を行う企業は、自社とその投資家のために、根本的に新しい展望を形作ることができるでしょう。
市場経済が縮小する世界においては、競争優位性の確保はますます重要となります。大きなリターンを生み出すには、単に適切な市場に参入するのみでなく、その市場において競合他社よりも真に優れている必要があります。この文脈で「潮が引くと岩が露出する(As the tide goes out, the rocks are exposed)」という諺が意味するのは、厳しい経済状況においてこそ、これまで会社のリターンを低減させてきた要因が明らかになるということです。このモデルの企業は、自社が経済的な優位性を有する差別化要素を持たない市場や事業カテゴリーから果敢に撤退する決断を下し、代わりに競争優位性に直結する領域に資本を投下して勝利し、そこでの拡大に集中します。それら以外の分野については優先順位を下げ、撤退または外部委託を行います。継続的なプロセス改善、調達とパートナーシップ管理の徹底、差別化要因の中核となる社内機能の強化を通して、このモデルからは利益率やROIの向上、そして真の優位性を活用したパートナーシップの機会が生まれる可能性があります。
このモデルの企業は、患者との関係を変革することによって成功を収めます。患者体験に重点を置き、チャネルを介さずより直接的にペイシェントジャーニー(Patient journey)に関与するとともに、パーソナライズされたコンテンツ、直接的なオムニチャネルのエンゲージメントプラットフォーム、行動経済学、最先端の体験デザインなど、消費者志向の資産と能力に大規模な投資を行います。これらの投資により、患者の獲得と維持を通じて自らセールスを増やす能力を高め、外部の中間業者への依存(およびそれらのチャネルに関連するコスト)を低減させることができます。その結果、患者を獲得して市場シェアを高めるという有利な立場を確立するとともに、旧来モデルに関連する複雑性やコストの排除が可能になるのです。
このモデルにあてはまる企業は、すでにリーダーである可能性が高いでしょう。そのため疾患領域における科学的知見の強みと市場への深い理解を活用し、その領域の患者に有用な製品やサービスを一層拡充することによって、リーダーシップの地位をさらに拡大していくことが可能です。これらの企業は、病気の特定を助けるための科学に基づいた接続型ヘルスソリューションや、治療の成否をモニタリングするためのコンパニオン診断なども提供する可能性があります。潜在的な収益源は多くある(予防、診断、治療、モニタリングなど)一方、最も重要となるのは、自社の真の強み(例えば、科学的知識やペイシェントジャーニーについての専門性)を活かし、その領域における疾患予後や治療予後にポジティブな影響を与えることです。このモデルでの成功は、新たな収益源の開拓のみならず、価値提供に基づいた正しい評価がなされる市場において、新たな価格設定方法の道が開かれる可能性も期待できます。
上記の戦略モデルに対しては、いずれか1つに長期的な投資を行うことを決定する、または複数のモデルを同時に追求する、あるいはいずれも採用しないなど、さまざまなケースが想定されます。その決定は、各企業それぞれの現状、将来への独自の見解、そして差別化された強みがどこにあるのかなどによって左右されるものです。ただしどのような選択をするにせよ、PwCは、いずれのシナリオやモデルにおいても考慮されるべき4つの重要な能力があると考えています。
今日、各社のパイプラインは同じことについてあまりに多くを追い求めすぎており、将来のマーケットの現実が見えていない可能性があります。競争の激化が予想されることを踏まえると、ポートフォリオ管理は、ホワイトスペース(未開拓領域)に方向転換することへの価値を再評価するべきです。そのために業界をリードするようなデータとデータ分析の手法を取り入れ、投資家の視点でのステージゲートの決定やポートフォリオ価値のシミュレーションを行う必要があります。
AIと、AIがビジネスのコストをどのように再構築・最適化できるかについての理解を深める必要があります。未来のリーディングカンパニーは、デジタルファーストのアプローチを採用し、購買から支払いまで、採用から退職まで、注文から入金までといった企業内のあらゆるオペレーションに役立つプロセスの再構築において、世界トップクラスであるはずです。そのような企業は、このデジタルファーストのアプローチの活用をさらに拡大し、よりスリムで効率的な運営モデルを形成すること(例えば、AIエージェントの活用や、デジタル化されたプロセスに関与する人員の削減)においても優れた成果を上げるでしょう。
科学の進歩と価値の変化の中で、必要な外部アセットを見つけだし、迅速にパートナーを確保する能力の重要性が増すことになります。こうしたエコシステム戦略は、科学的なコラボレーションや製品におけるパートナーシップを超え、テクノロジーのハイパースケーラー(有力なプラットフォームを持つ巨大なテック企業)、AIの革新者、バリューチェーンのソリューション提供者、患者中心主義を実践するイノベーターらとのより密接な連携を含む形に拡大する可能性があります。関連するエコシステム戦略を特定し、新しいタイプのパートナーシップを構築する能力は、戦略的選択肢のいずれにおいても重要なものとなるでしょう。
新たな戦略モデルを追求し新しい能力に投資しながらも、世界的な変動と増大する脅威環境に対応するため、各企業にはリスクを総合的に俯瞰する必要が生じます。サイバーや財務管理、医療業界のコンプライアンスや品質といった伝統的なリスク領域で優れた成果を上げることの重要性は不変であるものの、業界のリーディングカンパニーはこれら全てを横断し、企業全体のリスクを総合的に把握するでしょう。これは、新たな方法によってデータを接続して分析を強化し、グローバルリスクに対しテクノロジーを活用することの重要性を意味しています。
製薬企業の経営陣や戦略プランナーには2025年、考慮すべきいくつかのワイルドカード(予測不能な要素)があります。これらは大規模な混乱を引き起こす可能性があるものの、発生する確率や影響の大きさについては現在のところ不確定です。ですが、いずれも戦略的計画プロセスを進める中で真剣に理解し、追跡し、分析する必要があるものです。
今こそ、2025年とそれ以降の成功に向けて組織を再定義する時です。次に挙げる4つのアクションは、製薬業界のリーダーとそのチームが変革を加速するのに役立つでしょう。
漸進的な変化の時代は過去のものとなりました。製薬業界は、患者には革新的な医薬品を提供し続けているものの、投資家に対するパフォーマンスは低いままだと言えます。製薬会社には新しいアプローチが求められています。すでに2020年代の終わりが見え始めています。2030年のリーダーたちは成功に向けて大胆な行動をとるはずです。
ケイパビリティを構築するための取り組みを加速し、新たな戦略的投資を行い、業界の不確実要素に備えることができれば、製薬会社は2025年以降も生き残り、繁栄することができるはずです。未来には大胆なリーダーシップ、戦略的な先見性、そして変革へのコミットメントが不可欠です。次時代の医療イノベーションは、これらの課題に立ち向かうことによって初めてもたらされるでしょう。
※本コンテンツは、PwC米国が2025年に公開した「Next in pharma 2025: The future is now」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
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