世界のGX関連技術分析からみた日本の現在と未来

はじめに:企業の技術開発とGXとの一体化

世界的に気候変動、自然災害、環境汚染などの環境問題が深刻化する中、持続可能な社会実現に向けた取り組みの1つとして、グリーントランスフォーメーション(GX)に高い関心が集まっています。上場企業は、気候変動に係るリスクおよび収益機会が自社の事業活動や収益などに与える影響および知的財産への投資について開示を求められています。このような状況から、特許庁は2022年6月、GXに関する特許技術を俯瞰する新たな技術区分を作成し、それらに紐づけられた特許検索式と併せてGreen Transformation Technologies Inventory (GXTI)として公表しました※1。GXの主要分野としては、グローバル特許出願件数※2に基づく区分別比率で多くを占める「建築物の省エネ」「二次電池」「電動モビリティ」「太陽光発電」「燃料電池」「熱の電化」「風力発電」「スマートグリッド」「化学品製造」「水素技術」が挙げられます。

水素技術への注目が世界的に高まる

GXの主要分野を特許出願成長率、特許保有企業への投資成長率※3および投資額※4から見た場合、2015~2020年で、「電動モビリティ」「二次電池」が30%以上、「風力発電」が23%、「水素技術」が15%、「太陽光発電」が14%という、高い特許出願成長率を維持しています。いずれの主要分野も一定程度の投資額がありますが、その中でも「水素技術」と「電動モビリティ」の投資成長率が年50%弱と非常に高く、今後ますます成長することが期待されます。また、「水素技術」は、特許出願増減率で唯一増加傾向が続いています。

図表1 世界の2015~2020年の特許出願成長率、投資成長率、投資額
図表2 世界の2015~2020年の特許出願増減率

特許出願件数で後退する日本

GXの主要分野の各国・地域のグローバル特許出願件数比率から、日本は、「太陽光発電」「燃料電池」「建築物の省エネ」「電動モビリティ」「二次電池」のグローバル特許出願件数が割合として多く、これらの技術開発を牽引してきたことがうかがえます。他方、GXの主要分野における日本の特許出願増減率は2016年以降減少しており、特に2018年以降急激に減少しています。これに伴い、GXの主要分野における日本の特許出願シェアも年々落ちています。

図表3 各国・地域グローバル特許出願件数比較
図表4 日本の特許出願増減率、特許出願シェア

モビリティが先行する日本、水素の社会実装を促進する欧州

今回の調査では、世界的に投資成長率が高い一方で、日本のグローバル特許出願件数比率が低く、日本としてキャッチアップが必要な「水素技術」に着目し、IBA※5を用いてより詳細な分析を行いました。その結果、「水素技術」のバリューチェーンにおける製造、貯蔵・運輸・供給、利用のそれぞれのフェーズの各技術要素における各国・地域企業の技術スコア※6の平均から、各国・地域の技術力の差異およびその特徴が明らかとなりました。

日本は、全ての技術要素で一定程度の技術力を維持しており、特に、水素の供給と利用に関わり、自動車メーカーが牽引する「水素エンジン」「水素ステーション」「水素充填装置」および水素の製造に関わり、化学、製鉄、エネルギープラントメーカーが牽引する「製造プロセス」で高い存在感を示しています。総じて、日本では、モビリティ分野が先行しており水素の供給、利用に焦点を当てた技術開発がされている様子が見て取れます。他方、欧州では、本格的な社会実装を進めるために必要な貯蔵・輸送を中心に、技術開発が進んでいると分析されます。また、米国、中国では水素の製造に力を入れていることが分かります。

図表5 「水素技術」のバリューチェーンの各技術要素における各国・地域企業の技術スコア

今後の展望

日本は、2019年9月に「水素・燃料電池技術開発戦略」を策定し※7、重点的に取り組むべき技術開発3分野10項目を挙げています。このうち、「燃料電池」分野に含まれる3項目「車載用燃料電池」「定置用燃料電池」「補機・タンク等関連システム」と、「水素サプライチェーン」分野に含まれる2項目「輸送・貯蔵技術」「水素発電」、さらに「水電解・その他」分野に含まれる3項目「水電解技術」「産業利用などアプリケーション」「非連続な革新技術」では、現在、他の国や地域と比較して優位になっているとは言い難い状況です。

環境問題への対策が待ったなしの状況で、今後は、再生可能エネルギー資源が潤沢な国・地域と再生可能エネルギー由来のグリーン水素の需要が膨む国・地域との間で輸出入が増えることにより、水素の国際取引が盛んになることが予想されます※8, 9。また、水素のバリューチェーンには、化学、自動車、機械、電機などの製造業、石油、ガス、電力などのエネルギー産業、大学を含む研究開発機関など多種多様な業種の企業や組織が関連しています。

このような状況に鑑み、日本政府や日本企業には、水素産業のサプライチェーンにおいて国境や業界を越えて企業同士が協業・連携し共存していくエコシステムを構築し、国際取引で必須となる貯蔵や輸送においても技術力を強化していくことが強く求められます。日本の技術力における強みを生かし、社会全体として水素エネルギーを利用する水素社会実現のための条件を整え、水素産業のグローバルサプライチェーンをリードしていくことが期待されています。

Intelligent Business Analytics(IBA)による分析

世界中で環境問題や社会問題が深刻化する中、重点を置くべき分野において、環境負荷の低減と社会的ニーズに配慮し、長期的な視点で投資を行い、効果的な事業展開を行うことが必要不可欠となっています。IBAにより、技術や市場のトレンドに焦点を当てたマクロ分析および個々の企業や特許に焦点を当てたミクロ分析が可能となり、新規事業開発の構想具体化、アライアンス・M&A候補先探索、R&DロードマップおよびR&D戦略策定、技術評価のようなユースケースに活用できます。

※1「GX技術を特許情報に基づいて分析するための技術区分表を作成」 経済産業省 2022年6月23日
https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220623001/20220623001.html

※2 グローバル特許出願件数:複数の国・地域へ出願された発明の数。PCT出願については、2カ国以上に国内移行されたものをカウント。特許庁資料では国際展開発明件数とされる

※3 投資成長率:特許保有企業へのマイノリティ出資額の推移に基づき計算

※4 投資額:特許保有企業へのマイノリティ出資額の累計で累計バブルの大きさで示される

※5 PwCコンサルティング合同会社が独自開発したIPランドスケープ分析ツール「Intelligent Business Analytics

※6 技術スコア:IBAにより技術の中心性を定量化しスコア化したもので、技術開発の進展度を示す

※7 「水素・燃料電池技術開発戦略の策定について」 経済産業省 2019年9月11日
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/suiso_nenryo/pdf/017_03_01.pdf

※8 「水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について」 資源エネルギー庁 2022年6月23日
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/energy_structure/pdf/009_04_00.pdf

※9 「水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について」 資源エネルギー庁 2023年2月13日
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/energy_structure/pdf/014_04_00.pdf

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主要メンバー

三治 信一朗

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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金崎 寛

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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竹尾 もえ

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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