COVID-19からの経済回復が炭素市場の追い風となる見込み――2021年の最新動向と進展

PwC英国法人のサステナビリティ・気候変動チームが国際排出量取引協会(IETA)の依頼を受けて作成した2021年炭素市場参加者調査報告書から、次の点が明らかになりました。

2021年の主要調査結果

  1. 気候野心の高まりを受けて、炭素価格予想に関して楽観的な見方が広がっています。2025年および2030年の予想価格は、調査対象に含まれる全ての排出量取引制度(ETS)について、昨年の調査と比較して上昇しています。これは2020年調査で示された弱気のセンチメントを覆す結果です。
  2. 炭素市場は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響にも強く、パンデミックからの経済回復が市場をさらに後押しするでしょう。調査回答者の75%が炭素市場は世界的に新型コロナウイルスの影響に対して底堅さを維持していると回答し、74%はパンデミックからの回復が世界の炭素市場をパンデミック以前よりも強くすると述べています。これは、2年以内に炭素市場が回復するという昨年のセンチメントと一致しています。
  3. パリ協定第6条は協定の目標を達成する鍵と考えられていますが、回答者は締約国がCOP26で合意に至るとは確信していません。回答者の圧倒的多数(89%)が、第6条は不可欠である、もしくはパリ協定の目標達成に重要な役割を果たすと考えています。しかし、締約国がCOP26で第6条の規定について実際に合意に至るかどうかに関して、調査回答者の意見は分かれており、3分の2近くが合意に至らない(37%)、または分からない(24%)と回答しています(その後、パリ協定第6条については、COP26で合意に至っている)。
  4. 国境炭素調整(BCA)のメカニズムが米国と欧州で導入される可能性が次第に高まっています。回答者の71%が、炭素リーケージのリスクがあるセクターへの無償割当に代わる制度として、EUに炭素国境調整措置(CBAM)を導入するという欧州委員会の提案を支持しています。また、67%の回答者が、ジョー・バイデン米国大統領が同国の温室効果ガス排出量を削減する手立ての1つとして、BCA税を導入するだろうと考えています。
  5. EUが2030年目標を達成するために最優先すべきことは、排出量取引を対象外セクターにも拡大することと、年間の排出上限の削減率を引き上げることであると回答しています。回答者の80%は、排出量を最低でも55%削減するというEUの2030年目標と整合させるために、排出量取引の対象範囲を海運・道路輸送・航空(EU域外)セクターに拡大すべきであると述べています。

調査報告書は、COP26の開催に先駆け、複数の地域のコンプライアンスおよび自主的市場に関する最近の進展と予想を対象にしています。

「今年の調査では、予想炭素価格はこれまでで最も高く、あらゆる排出量取引制度において価格の上昇が予想されています。今年に入って中国と英国はそれぞれ排出量取引制度を新設しており、国が炭素価格を野心的な排出量削減目標を達成するための要として捉えていることが明らかになってきています。民間セクターでは、企業がネットゼロ戦略を実現し、政府の打ち出す政策との整合性を図る手立てとして、インターナルカーボンプライシング(内部炭素価格)が極めて重要な手段になるでしょう」

Ian MilborrowPwC英国法人 パートナー
  • EU域内排出量取引制度(EU-ETS)の予想平均炭素価格の推移
Average carbon price expectations for the EU ETS over successive surveys
  • 次のETSについて、2021~2025年と2026~2030年の期間における平均炭素価格はどうなると予想しますか
What do you expect the average carbon price to be for each of the following ETS in the periods 2021-2025 and 2026-2030?

IETAメンバー150社以上を対象にPwCが実施した調査の結果、全世界の炭素市場参加者は、世界各国いずれのコンプライアンス制度においても炭素価格が短・中期的に上昇すると予想していることが明らかになりました。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは市場センチメントにほとんど悪影響を及ぼしておらず、パンデミックからの経済回復は世界中の炭素市場をさらに後押しするものと見込まれます。

企業による自主的な気候変動対策は強化されつつあります。調査回答者のほぼ半数(49%)は、自主的炭素市場は企業からの需要の増大に十分対応する炭素クレジットを供給できると見込んでいます。供給できると思わないとした回答者は28%、分からないと答えた回答者は23%でした。全回答者の3分の1は、ネットゼロ・市場成長戦略の一環として、自然を活用した気候変動対策(NCS)と、森林再生スキーム、植林スキームの使用を検討しています。

2021年は気候変動交渉にとって正念場の年となります。と言うのも、英国グラスゴーで開催予定のCOP26では、パリ協定の実施指針(パリ・ルールブック)の最後のピースに関する合意が期待されているからです。いまだ合意に至っていない最も重要な点の1つがパリ協定第6条です。第6条は、各国が互いに協力し、国際炭素市場を通じて目標を達成する可能性を定めたものです。調査では回答者の圧倒的多数(89%)が、第6条はパリ協定の目標達成に不可欠である、もしくは重要な役割を果たすと考えていますが、締約国が第6条の規定について、実際に合意に至るとは確信していません(その後、パリ協定第6条については、COP26で合意)。

※本コンテンツは、PwC英国が2021年6月に公開した「Recovery from COVID-19 expected to provide a boost to carbon markets - the latest trends and developments in 2021」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

PwC英国

主要メンバー

磯貝 友紀

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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