
【2024年】PwCの眼(8)EV化における競争優位のポイントの変化
EV化が進む中、自動車業界の利益獲得の源泉は機械系/ハード系から半導体やソフトウェアといったデジタル系/ソフト系に移行しつつあるため、自動車メーカーやサプライヤーには事業戦略の再構築が求められています(日刊自動車新聞 2024年8月26日 寄稿)。
2021-10-18
近年の自動車産業は「100年に1度の大変革時代」とも言われており、CASEをはじめとして業界を取り巻く環境が大きく変わろうとしている。そのような状況の中、各社は技術進化の取り組みや、競争力確保のための事業再編・アライアンスの拡大などを図っているが、本稿ではこれらの動向に関連して主に移転価格税制の観点から考察していく。
移転価格税制とは、企業が国外の関連企業との間で行う様々な取引を通じて国外へ所得を移転させることを防ぐために、国外関連企業との取引が独立企業間価格で行われることを求める税制であり、各国において整備・施行されている。各国の税務当局から取引価格が適正でないと判断された場合、追徴税額が比較的多額になることが、本税制の特徴の一つである。
移転価格税制では、特定のバリューチェーンにおいて各関連企業が果たす機能および負担するリスクがどのような経済効果を生み出し、その中で利益の源泉となる事業上重要な無形資産は何で、その(法的・経済的)保有者はどの企業なのかが、取引価格や利益配分を算定する上で重要な論点となる。自動車産業の従来の事業では、各関連企業が有する生産技術・ノウハウや、販売市場の構築における貢献などを重視する考え方が一般的であった。しかしながら、コネクテッドをはじめとした自動車にひも付くサービス開発などの新事業の創設、インハウスまたはアライアンスなどによる新しい領域での技術進化、市場国における訴求・マーケティング活動の変化など、自動車をベースとした新しい価値を提供する事業モデルの展開に伴って、企業はこれまでグループ内で適用していた移転価格設定のポリシーなどについて改めて見直しを求められる状況となりつつある。
例えば、コネクテッド事業において取得したユーザーデータを外販するケースでは、当該データの取得元の国が本社と関連会社以外の第三国であった場合に、当該収益をどの関連企業にどの程度帰属させるべきか、国外の関連企業が投資またはアライアンスなどにより既に確立した重要な技術や資産(例えば、基幹プラットフォームやアプリケーション)をどのように整理するべきかなど、移転価格税制上、検討すべき内容が出てくる。
また、近年、自動車産業の従来の事業において、カーボンニュートラルへの対応を始めとするサステナビリティを重視した経営へのシフトが進みつつある。サステナビリティ経営に伴う事業整理や、気候変動、人権問題、生物多様性などに配慮したバリューチェーンの見直し、ESGを意識した税務も含む非財務情報開示への対応など、企業はサプライヤーも含めた包括的な取り組みが求められている。CASEのような新規領域のみならず、社会全体のパラダイムシフトという側面からも大きな変革の波が押し寄せており、事業整理・事業再編に伴う最適な税務ストラクチャーの再構築や、バリューチェーンの変更に合わせた国外関連企業との移転価格設定ポリシーの見直し・関税対応なども併せて実施していく必要がある。
このように、目まぐるしく変化する事業環境や産業の変革と合わせて、各企業はグループ全体で移転価格税制などの税務への対応を再検討する事が強く求められている。
PwC税理士法人 パートナー
※本稿は、日刊自動車新聞2021年10月18日付掲載のコラムを転載したものです。
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