第9回 内部監査機能に対する期待の高まり

3．金融庁等による内部監査に関する最近の動向

（1）「金融機関の内部監査の高度化に向けた現状と課題」（19年6月金融庁）

本文書は、平成30事務年度に実施したモニタリング結果および外部有識者から得た知見等も踏まえ、19年6月現在の金融機関の内部監査の高度化に向けた現状と課題について整理・とりまとめたものであり、各金融機関において、それぞれのビジネスモデル・経営戦略を踏まえた内部監査のあり方を検討する際の一助となることを期待して公表された。以下はその概要である。

1．内部監査の現状評価

金融庁では内部監査の水準を下記の図表1の通り整理し、第一段階～第三段階の段階的な評価を行った。なお、金融庁は、第四段階があることを認識しており、これは「信頼されるアドバイザー」とされている。

【第一段階～第三段階の概要】

▽第一段階：内部監査部門に対する経営陣からの信頼度・期待度、経営陣による監査の理解度が低く、規程の準拠性等の表層的な事後チェックといった限定的な役割にとどまっている段階。

▽第二段階：内部監査部門に対する経営陣からの信頼度・期待度、経営陣による監査の理解度が徐々に高まり、第一段階の役割に加えて業務プロセスに対する問題提起が期待される段階。

▽第三段階：内部監査部門に対する経営陣からの信頼度・期待度、経営陣による監査の理解度がさらに高まり、内部監査部門を経営陣への有益な示唆をもたらす有用な部門と捉えている段階

平成30事務年度に金融庁がモニタニングを通じて行った大手金融機関と地域金融機関を含むその他金融機関の総体的評価は、図表2の結果となった。

2．金融庁の問題認識

大手金融機関については、その規模・影響力に照らすと、現状は第二段階～第三段階の間にあるが、第三段階のレベルでの態勢整備を望むことが述べられている。具体的には、大手金融機関は準拠性監査からの脱却や経営環境の変化に対応した監査を志向している状況であるが、内部監査部門による発見事象の背景や原因の掘り下げが十分に行われておらず、経営戦略・業務運営の改善に十分つながっていないといった課題も認められている。経営課題やビジネスモデルに応じて、加速する環境変化や多様化するステークホルダーからの要求に対応するため、先進的な取り組み等も参考に、更なる高度化を図ることが適当であるとされている。

地域金融機関を含むその他金融機関については、現状は第一段階～第二段階の間にあるとし、経営陣による関与の度合いによって内部監査の水準に大きな差が生じており、経営陣が内部監査の重要性・有用性をより強く認識することが重要であるとされている。経営陣による積極的な関与の下、内部監査部門に組織全体のビジネス・経営戦略を理解した人材を戦略的に配置することや、リスクアセスメント結果に基づく重点監査項目の適切性・網羅性について取締役会で議論するなど、規模・特性に応じた高度化・底上げを図ることが適当であるとされている。

（2）「利用者を中心とした新時代の金融サービス～金融行政のこれまでの実践と今後の方針～（令和元事務年度）」（19年8月金融庁）

本文書は、金融庁が事務年度ごとに公表している金融行政方針の直近年度のものである。本文書の「I．金融庁の重点施策」において、多様な金融サービス利用者のニーズへの対応と信頼感・安心感の確保に関する施策を述べている中で、内部監査の高度化を一つの項目として取り上げている。

本事務年度の方針としては、「金融機関の内部監査の高度化に向けた現状と課題」を踏まえ、内部監査の高度化に向けて、先進的な事例や金融機関の規模・特性に応じた好事例を継続的に収集・蓄積するとともに、内部監査に影響を与える各種指針等の動向を適時に捉え、必要に応じて、内部監査部門等との対話の着眼項目として活用していく。また、モニタリングにより認識した課題や問題点を金融機関の内部監査部門と共有するとともに、各金融機関の内部監査の水準や規模・特性に見合った事例を紹介するなどして、改善に向けた対応やさらなる高度化を促す。さらに、課題や問題点の重要度に応じて、経営陣、社外取締役、監査役、監査（等）委員等との対話の中でも、内部監査の高度化に向けた取り組みについて議論していく、とのことである。

（3）19年ACIIAアジア国際大会・第53回内部監査推進全国大会の模様

19年9月17日～18日にかけて、ACIIA（内部監査人協会＜IIA＞アジア地域連合）が毎年開催している国際大会と、一般社団法人日本内部監査協会が毎年開催している内部監査推進全国大会が同時開催された。本大会のテーマは、「Towards Sustainable Management in a New Era（新たな時代の持続的経営に向けて）～Progress Through Sharing in DX～」であり、日本およびアジア地域の内部監査に従事している人を中心に約1400人が参加した。

本大会においては、初日は四つの全体研究会、2日目には個別に24セッションが行われたが、デジタル変革における内部監査の役割変化、内部監査の高度化、AIやRPA等を含むテクノロジー活用、ガバナンスへの貢献、を主眼とした内容が多かった。国内外からの保険会社からも講演がなされ、本邦保険会社では明治安田生命保険から「明治安田生命保険の内部監査高度化への取組み～持続可能な企業価値向上への寄与」、損保ジャパン日本興亜から「損保ジャパン日本興亜損害保険の内部監査におけるDXへの挑戦」をテーマに行われた。本邦金融機関からは、外資系金融機関を除くとこの2社が講演を実施しており、昨年の内部監査推進全国大会（三つの全体研究会と15の個別セッション）も当該2社が講演したことを踏まえると、保険会社において内部監査への関心が持たれていることを示していると考えるところである。