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保険業界が直面するリスクと対応策
PwCとCentre for the Study of Financial Innovation(CSFI)は、世界各国の保険者によるリスク認識について隔年で調査しており、今年の調査レポート(インシュアランス・バナナ・スキン2019)によると、変革管理へのリスク認識は全リスク項目のうち3位という結果となった。
日本の保険会社は低金利環境が続く中でも、世界屈指の規模と普及率を有している。しかし、これまで保険会社は顧客の課題に十分に対応してきたとは必ずしもいえない。保険は「買わなくて良ければそれに越したことはない商品」ともいえ、新しい時代に保険会社はその位置付けを改める必要があるだろう。
顧客の期待の変化、デジタル化の進展、新たなビジネスモデルの出現、分析方法の段階的な変化は、保険会社にとっての固有の機会、すなわち基本的保障の付いた商品の販売のみならず、顧客のニーズにより深く関わり、そのニーズに合わせられる保険会社へと移行する機会を提示している。
人口動態、健康不安の増大、デジタル化の進展がそのけん引要因である。2040年までに(総人口は減少しているにもかかわらず)65歳以上の人口はさらに1000万人増えると予想されるため、保険会社は長寿リスクに取り組み、販売モデルを進化させる必要がある。健康への関心の高まりやデジタル化の進展によって非商品サービスの見直しが迫られる。
顧客は人生100年時代を迎え、公的な医療制度や年金制度のひずみは、計画的または暗黙的に、民間部門へ移行する。生命保険会社のコアビジネスや既存の顧客関係とのシナジーを考えると、保険会社はこの機会を捉える絶好の立ち位置にいる。
分析方法が進歩し利用しやすくなったため、保険会社は従来の平均値に基づくモデルから、はるかにきめ細かなアプローチへと移行することが可能になる。このパーソナライズによって、保険会社は、自社事業に内在する収益性と資本効率性の構造的要因に取り組むことができる。
生命保険業界は世界で最も厳しい人材募集市場の一つであり、先を見越して行動する必要に迫られている。将来成功を収める保険会社は、労働力戦略の確立、従業員のエクスペリエンスの見直し、従業員へのデジタル研修の実施、差別化された代理店の価値提供の推進を積極的に行う。
生命保険の中核目的は変わらない。それは、顧客を保護し、顧客が最も必要とする時に安心を提供することである。日本の保険会社は、雇用の創出に加え、貯蓄や医療に関する顧客の選択に影響を与える企業としての社会的義務も負っている。
将来成功するためには、こうしたニーズに対応し、スキル、プロセス、マインドセット、テクノロジーを結集することで、他とは明確に異なるものを提供するケイパビリティ、つまり説得力のあるやり方で行動する独自のケイパビリティを生み出すことが求められる。そのためには、次のようなことが必要になる。
連携してさらに豊富なデータにアクセスし、そのデータを使って、顧客や従業員によりよい結果を生み出す。
顧客との直接のエンゲージメントだけでなく、従業員や代理店とのエンゲージメント能力を高めることで、提案を実現させる。
取引を行うだけの代理店要員から、ライフサイクル全体を見る目を持った代理店要員へと移行していく。そのためには、代理店要員をつなぎ留め、健康・財産についての対話スキルを高め、デジタルを活用して直接のやりとりをサポートする必要がある。
関心は高いが、成功するビジネスモデルは少ない分野である。将来成功を収める保険会社は、顧客のためのソリューション、販売、エンゲージメント志向のエコシステムのどれに焦点を当てるかを選択することになる。
保険会社はこれまで、商品の卓越性、販売の裾野の広さ、または新技術への投資によって差別化を図ろうとしてきた。だがそれでは不十分である。
各保険会社の差別化するケイパビリティは、自社の事業と顧客への価値提供、すなわち、顧客が特定の保険会社と契約を結ぶ要素は何かによってそれぞれ異なる。業界の傾向を踏まえると、差別化するケイパビリティとは顧客・販売者志向で、テクノロジーに強く結び付けられるものである。今後、差別化のポイントは、商品や保険数理主義から徐々に脱却するとみられる。
私たちは、将来成功する上で極めて重要な、四つの「テーブルステークス」(業界で不可欠)となるケイパビリティも特定した。このケイパビリティに注目している保険会社は多いが、質を向上させ実行重視の姿勢を高める余地はある。
保険業は数理計算上の平均を基に確立されていたが、今ではマイクロ・セグメンテーション、性向モデル、機械論的モデルなどの新しい方法によってもたらされる機会に直面している。日本の多くの保険会社は依然として書類による手作業に依存している。まず必要なのは、最多のプロセスをデジタル化することによって、データをより効率的に利用できるようにすることである。
保険会社は新卒者や技術者から好意的に見られているとはいい難い。日本の保険会社は需要、供給、キャリアパスを含む明確な労働力戦略を整備し、従業員がデジタル技術に精通するようスキルアップを図り、変わりゆく世界の中で他をリードするためリーダーシップのスキルを強化する必要がある。
保険会社が成功を維持するには、顧客との信頼を構築しなければならない。これは、顧客とのあらゆる接点における透明性と明確なコミュニケーション、さらに(プロセスよりも)結果に焦点を当てた従業員のスキルアップによって推進される。
日本の保険会社は、顧客を本当の意味で理解するという点ではまだほど遠い。単純な顧客調査や「顧客の声(VoC)」の分析だけではなく、顧客の洞察を継続的につかみ、共通理解を促進し、ターゲットの顧客に合わせて提案を調整するため、インフラに投資する必要がある。
生命保険会社の将来的な成功は、商品やプロセスよりも、自社のアイデンティティと目的、市場への参加を選択する方法、持続可能な差別化を創出するための投資のケイパビリティによって定義される。将来的な成功に向けて、次の点について検討する必要があるだろう。
大手プレイヤーが規模を拡大し、多くの保険会社が販売への投資を進め、新規プレイヤーが脅威となる市場の中で、なぜ既存の顧客が契約を更新し続けているのか?またこの答えにどの程度自信があるか?
健康・財産などの新たな市場で価値を獲得する方法は、従来のANP/EV中心の見方とは大きく異なる。そのため、一連の価値のけん引要因(契約獲得時の契約転換/抱き合わせ販売、新たな種類の収益基盤、自己資本要件の軽減など)をまずは理解する必要がある。
積極的に関与している従業員は、生命保険会社の中核的存在であり、成功に不可欠である。将来のモデルでは、顧客サービスにおいて人材と従業員の連携に重点が置かれるが、この戦略の変更に向けて強力なリーダーシップスキルが必要になる。人材がすでに課題となっていることを踏まえ、人材計画の策定と、将来のワークフォース戦略との設計をうまく連携させる必要がある。
リーダーがひとたびこれらに対応する態勢を整えると、現在の課題にさらに集中的に対処することができる。
私たちは、日本の生命保険業界が本質的に魅力的であると確信している。だが、既存企業が競争に参加し続け、成功するためには、長期にわたり抱いてきた考え方に疑問を投げ掛ける必要がある。将来成功を収めるためには、自社のアイデンティティ、固有の「勝つ権利」、差別化するケイパビリティの構築といったものを、参入市場と結び付けていくことが必要であろう。
Partner, Strategy& Netherlands
※本稿は、保険毎日新聞2019年12月3日付掲載のコラムを転載したものです。
※本記事は、保険毎日新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
※『Strategy& 日本の生命保険の未来』では、変わりゆく生命保険業界における課題を考察し、日本の保険会社が市場で勝ち残るために役立つ示唆を提示しています。是非ご一読ください。