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1．連載のまとめ
PwCでは、「保険業界が直面するリスクと対応策」というテーマで、本年8月20日に最初の連載投稿をした後、ほぼ週次で保険会社のチャレンジについて連載を進めてきた。本稿では、これまでの連載の振り返りを進めたい。
今回の連載はPwCとCSFI（Centre for the Study of Financial Innovation）が隔年で実施している、保険実務家のリスク認識に関する調査レポート（インシュアランス・バナナ・スキン2019）で特定された保険業界のチャレンジに沿う形で進めてきた。
われわれの行った調査では、日本の関係者が「変革管理」に高い関心を寄せていることがうかがえるが、グローバルで行っている本調査を過去10年程度追い掛けると、ここ10年くらい規制が変革を促していた面が強かったところ、近年では、人口減少、低金利、テクノロジーの進化といった要素がけん引し、大きなトレンドを形成しているように思われる（図表1、図表2）。
今回の連載のまとめに当たっては、保険業界の変革ドライバーとなるリスクを（1）社会的要因、（2）技術的要因、（3）環境的要因、（4）経済的要因、（5）政治的要因—の五つに分解し、要因ごとの論点整理とこれまでの連載を振り返ることとしたい。
2．要因（1）：社会的要因
社会的要因として最も特筆すべき論点は、人口動態の変化であると考える。
総務省統計局が公表している年齢別人口資料（平成29年10月1日現在）に基づき、日本の総人口を20歳刻みで集計すると、第1層2158万人（0歳から19歳）、第2層2751万人（20歳から39歳）、第3層3464万人（40歳から59歳）となっている。人生100年時代といわれて久しく、60歳以上も働き手になる可能性は十分あるが、単純に20歳から59歳の生産と消費が活発な層が、今後20年で約1300万人程度減るわけである。東京都の総人口（1372万人、平成29年10月1日現在）に相当する人が、20年かけて減っていくわけで、さまざまな場面で日本に大きな影響があるが、保険業界においても保険の提供先、人材確保という面で大きな影響があることは火を見るよりも明らかである。
各社でM&Aを進めていることの大きな理由の1つは国内市場の補完・補強にあり、M&Aを通じた変革を管理する際の要諦は、本連載中の9月17日版（加藤雅也／佐藤学）に掲載している。世界・国内のM&A機会に対して、売りに出た案件スタートで検討をするのではなく、自社にとっての重要性・親和性から事前準備を周到に行い、能動的・戦略的に働き掛けることの重要性がその中では説明されている。
また、人材確保という点で言えば、労働集約型の働き方を大きく変化させるチャンスと考えることもできる。この際、さまざまなプロジェクトで大きな障壁となるのは、現在の業務の見える化である。見える化に当たっては、これまで職人のようにマニュアル業務を行っている人を大いに活用すべきである。見える化は、その後の業務標準化・簡素化につながる重要なステップであり、このような次工程を検討する際には、現在の業務の要諦をよく理解している人とよく知らない人（＝時に大胆に業務を整理する人）のコラボレーションが極めて大事になる。
3．要因（2）：技術的要因
技術的要因として最も特筆すべき論点は、テクノロジーの活用によって、付加価値を生成するインプットが物理的（支社・営業店、従業員など）なものからサービス化（インターネットを通じた販売、個人や組織にある機能自体の直接活用など）していることと考える。
総務省「通信利用動向調査」によれば、2017年における個人の年齢階層別インターネット利用率は、13歳から59歳までは各階層で9割を超え、端末別のインターネット利用率は、「スマートフォン」が最も高く、「パソコン」の利用率を上回った。従業員はもはやセキュリティの確保を前提に、毎日決められ場所に出社する必然性がなく、保険加入者が商品や会社を理解したり、保険に加入したりする入口も多様化している。会社のバランスシートをスリムにすることも考えられるが、あらためて今あるレガシー資産の活用や対面活動の重要性を再定義し、顧客や社会に対して新しい経験や付加価値を提供しようとしている会社も存在する。
今後の保険会社（特に生命保険会社）において必要となるケイパビリティについては、本連載中の12月3日版（ムクンド・ラジャン）に詳述している。その中では1）高度な分析、2）人材から生み出される収益の管理、3）信頼、4）顧客第一主義—を挙げている。テクノロジーとの関係で言えば、より生産性の高い従業員の確保のためにテクノロジーを活用した柔軟な働き方を提供したり、顧客に対して新しい経験となるテクノロジーの活用をしたりする保険会社が出てきているが、ますますこのような動きが重要になってくると考えられる。
また、今後は組織内の資産や従業員の知恵だけをインプットとして価値を生み出すことから、より広く世の中に会社を開き、他社組織・人材の有益な機能を絞り込んで組織に取り込むことも重要だと考える。技術的にはAPIの活用を通じた他社とのコラボレーションが考えられるが、最近の傾向としては、こういった技術的な検討を含めてイノベーションを目的としたラボを活用することがはやっているようである。このようなラボで20代、30代の方々が他の組織の方々と活発に意見交換する姿を見ると「やりっぱなし」は良くないが、取り組み自体が組織を活性化する効果があり、最初はうまく施策に反映されないものの、徐々に施策に取り込む中長期的な経営陣のコミットメントが重要であると感じる。
※本稿は、保険毎日新聞2019年12月10日付掲載のコラムを転載したものです。
※本記事は、保険毎日新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
保険毎日新聞 連載寄稿
- 保険業界が直面するリスクと対応策 ＜最終回＞保険業界の未来に向けた論点整理（下）
- 保険業界が直面するリスクと対応策 ＜第13回＞日本の生命保険の未来
- 保険業界が直面するリスクと対応策 ＜第12回＞気候変動およびSDGsの保険会社への影響
- 保険業界が直面するリスクと対応策 ＜第11回＞運用成績向上のために必要な遂行能力（ケイパビリティ）
- 保険業界が直面するリスクと対応策 ＜第10回＞令和元年税制改正における外国子会社合算税制の見直しについて
- 保険業界が直面するリスクと対応策 ＜第9回＞内部監査機能に対する期待の高まり
- 保険業界が直面するリスクと対応策 ＜第8回＞コンダクトリスクへの対応
- 保険業界が直面するリスクと対応策 ＜第7回＞金利指標改革とLIBOR公表停止への対応
- 保険業界が直面するリスクと対応策 ＜第6回＞FATF対応を端緒としたコンプライアンスリスクへの対応
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- 保険業界が直面するリスクと対応策 ＜第4回＞IFRS第17号適用等に向けたソフトデザインアプローチ
- 保険業界が直面するリスクと対応策 ＜第3回＞会計基準の開発・改定に伴う財務報告への影響（IFRS第17号）
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