DXで直面するカベを突破せよ 日々の業務に追われるIT部門から脱却せよ--IT関連業務の徹底的な自動化

2025-04-09

日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、果たして成果を上げているのであろうか。PwCコンサルティングが2024年12月に発表した「2024年DX意識調査‐ITモダナイゼーション編‐」の分析結果からは、「DXの成果が期待通り、もしくはそれ以上」と回答した企業は41%にとどまることが分かった。

つまり、いまだ半数以上の企業は十分な成果を得られていないのが現状だ。今回、最新調査の結果も活用しながら、その原因を探り、DXを実施する上で直面する壁や陥りがちな状況に焦点を当て、読者の皆さまに現状を打破するためのヒントを提供することを目指して、本連載を再開する。

はじめに

筆者らがこれまで支援してきたクライアントの状況を見ると、日本企業のIT部門の方々は、新しい技術や知識を習得したくても、その時間を確保できない状況に陥っているケースが少なくない。前述の調査でも、日本企業はDXを進めようとするものの、「日々の業務に忙殺されて時間がとれない」という実態が浮き彫りになった。

図表1:見えてきた新たな課題:日々の業務に忙殺される日本企業

※回答結果を加重平均して算出
出所:「2024年DX意識調査‐ITモダナイゼーション編‐

なぜそれほどまでに、日本のIT部門は忙しいのか。忙しさからどうすれば抜け出せるのか、考察していく。

いまだに多くの手作業が行われているIT開発・運用

IT部門が日々忙しい理由は多岐にわたるが、システム運用における煩雑な管理業務や反復的なタスクが、その中心的な要因となっている。これらの作業は、手動で行うと人的リソースに大きな負担をかけるだけでなく、ヒューマンエラーのリスクも増大させる。そこで注目されるのが「自動化」である。自動化技術を活用することで、定型業務の効率化やミスの削減が進み、IT部門の担当者はより高度で戦略的な課題に専念できる環境が整う。以下では、具体例を交えながら詳しく解説する。

近年のシステム開発では、パブリッククラウド(以下、クラウド)の利用が主流になっている。クラウドは、従来のオンプレミスと異なり、新しい環境の構築やリソースの変更を、技術的には数分で実行できる。しかし、実態は開発者が環境の新規利用を申請しても、実際に提供されるまでに数週間以上かかることが珍しくない。

その理由を探ると、申請受付からパラメーターの確定、社内のセキュリティ基準との整合性チェック、設定確認と作業準備、構築、そして最後に、設計通りに設定されているかのテストといった手順があり、それぞれの手順に2~3日を要している。本来なら数分で提供可能であるものが、こうした手順を経ることで、途方もない時間を費やしてしまっているのが現状だ。

このような状況を打開するには、インフラの構築や運用業務において手作業から脱却し、可能な限り自動化を推進することが必要である。具体的なステップとして、まずインフラの設定をソフトウェアのようにコード化(Infrastructure as Code化:IaC化)し、必要な設定をテンプレートとして準備する。この際、あらかじめ社内のセキュリティ基準や権限方針に順じた設定をベーステンプレートとして用意し、テストを自動化することで、社内規程に準拠した環境を早期に、かつ人手を介さず提供することが可能になる。事例としてデジタル庁では、「ガバメントクラウド」の取り組みの一環として、環境自動提供テンプレート(IaCテンプレート)を用意し、短納期でのクラウド環境の提供を実現している。ぜひ参考にしていただきたい。

次のステップとしては、継続的インテグレーション/継続的デリバリー(CI/CD)ツールの活用が考えられる。CI/CDは、アプリケーション開発では身近になりつつあるが、インフラ領域においてもIaC化することでCI/CDのスタイルを取り入れ、アプリケーションと同様に環境変更時にテストが自動的に実施され、品質が担保されたタイミングで自動的にプロビジョニングされる仕組みを実現できる。CI/CDにより、従来のシステム更新時に行われていた影響範囲の確認からテストの実行、本番環境へのリリースまでの多くの手作業を減らすことが可能だ。

このようにIaC化とCI/CDの活用により、環境構築や運用業務の自動化だけでなく、リードタイムの大幅な短縮が見込める。また、自動化することで1人当たりの対応可能な作業件数が増え、将来に新規利用や変更の申請が増えても、最小限の人員で対応が可能になる。

図表2:IaCとCI/CDを活用し、運用業務の自動化を図る

クラウドの普及によるシステム構成の複雑化により、難易度が上がったシステム運用

クラウドの普及は、SaaSや社外環境との接続を容易にする一方で、システムの構成を複雑化させ、運用の難易度を大幅に引き上げてしまう。このような環境で障害が発生した場合、従来通りに人手で多くの作業を行っていると、検知から原因究明、対策までの一連のプロセスに時間を要してしまう。その結果、システムの停止時間が長引き、利用者に対し継続的なサービスを提供することが困難となり、売上減少やブランドの棄損など、ビジネスに多大な影響を及ばしかねない。

このような状況を打開するには、システム監視やエラー復旧などにおいて、最新ツールを活用して可能な限り自動化を進めることが重要である。例えば、システム障害が発生した際、従来では専門家が関係する全ての環境下のシステムのログを地道に収集・分析するなど、問題解決に多大な時間を費やさなければならなかった。しかし近年の監視ツールの進化により、ユーザーのリクエスト応答から内部処理(データベースへのアクセスやAPI接続など)までの監視データを自動で収集し、複数の環境を関連付けて分析することが可能になり、問題の根本原因を容易に特定できるようになっている。

さらに、事前に予測可能な障害であれば、作業内容や手順などをパターン化することで、自動で復旧まで実行することが可能になる。もちろん、全てをパターン化することは難しいが、可能な限り人手による運用を減らすことにより、障害からの復旧時間を短縮することにつながる。また、進化する生成AIを活用することで、パターン化されていない予期しない障害に対して、事前に予兆を検知し、障害を未然に防ぐことも可能となってきている。

このように複雑化するシステムの運用監視の技術も日々進化を続けているため、これらをうまく活用していくことが重要である。

図表3:クラウドの普及に伴い難易度の上がったシステム運用

日々の業務に追われて想定通りに進まない自動化の推進

いざ自動化を進めようとしても、「会議の準備で忙しい」「現行業務でのトラブル対応に追われて時間がとれない」といった状況に陥ることは少なくない。そんな日々の業務がひっ迫している中、どのようにして徹底的な自動化を進めるべきか悩まれている方は多いはずだ。

そこで、まず自動化専任組織の設置をお勧めしたい。多くの企業では、限られたリソースの中で現行業務と自動化の推進を兼務するケースが見られるが、これは効率的ではない。現行業務のトラブルによる割り込みによって自動化の進ちょくが阻まれ、自動化への取り組みの優先度が低下するといった状況に陥る可能性が高い。したがって、自動化を専任とした組織の設置が重要になる。

ただし、専任組織を設けても、既存のメンバーをアサインするだけでは、スキルや経験の不足から効果が思うように出ないこともある。そのため、エキスパートの中途採用や一時的に外部リソースを活用することが現実的な解決策となる。

自動化専任組織には、自動化の推進にとどまらず、組織全体の自動化のケイパビリティーを向上させる役割も期待される。具体的には、ナレッジの共有や自動化プロジェクトに伴走するような伝道師としても機能することが重要である。最初は外部リソースに頼りつつも、徐々に内製化を進め、自動化の範囲を広げることで、将来の変化に対応できる体制を整えていくことが望ましい。

さらに、生成AIによって内製化のスピードを上げることも可能だ。例えば、生成AIをコーチ役としてコードサンプルの作成や、コードレビューに利用することで、IaCやCI/CDなどのスキル習得のスピードを格段に上げることができる。実際にわれわれが支援したある企業では、生成AIの活用で1カ月も経たないうちに未経験の新人エンジニアがIaCやCI/CDの技術を習得し、戦力となった事例もある。

なお、ここで注意すべきは、全ての業務を一律に自動化しようとしないことである。大切なのは、優先順位を明確にし、ビジネス効果の大きな領域から取り組むことだ。また、自動化は一度ツールを構築すれば終わるものではなく、業務の変化やシステムの変更に応じて継続的な進化を要するものであり、現行業務のプロセスの見直しも含まれる。複雑すぎる業務は例外処理や特殊ケース対応などで自動化処理自体も複雑になり、初期導入時や変更時に工数がかかり、かえって業務効率が低下するリスクもある。

そのため、「慣習的に行われている申請・承認プロセスを廃止できないか」「システムごとに作られる運用手順書をテンプレート化できないか」といった、自動化をせずとも業務自体が削減可能であるかを併せて検討することも重要である。

最後に

本稿で伝えたかったことは以下の3点である。

IaC化とCI/CDの活用による手作業からの脱却

  • インフラの設定や構築をソフトウェアのようにコード化(IaC化)し、テンプレートとして用意することで、環境構築の手作業から脱却する
  • また、IaCとともにCI/CDを活用することで、環境変更後におけるプロセスの多くを自動化し、システム更新時の大幅なリードタイム短縮と工数削減を図る

監視ツールを活用した自動化の徹底により、障害復旧のスピードを上げる

  • クラウドの普及によって複雑性の高いシステム構成とならざるを得ず、従来の運用では限界が来ている
  • 昨今の監視ツールを最大限活用することで、システム監視やエラー復旧、システム更新などの自動化を実施し、障害復旧のスピードを上げていく

徹底的な自動化のための専任組織と社内人材の継続的な育成

  • 既存の組織とは別に自動化を「専任」とした組織を立ち上げることで、自動化のスピードを上げることができる
  • 自動化の推進にとどまらず、自動化のケイパビリティーを組織全体に横展開する取り組みが求められる。その際、ケイパビリティー向上の速度を高めるために生成AIを効果的に活用することが不可欠である
  • 全ての業務を一律に自動化するのではなく、効果の高い部分を優先的に自動化する。また、現行業務プロセスの見直しなど、自動化を実施せずとも業務の削減が可能かを検討する

※本記事は2025年3月17日にZDNET Japanに掲載されたものです。
※発行元の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。

執筆者

岡田 裕

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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谷村 祐樹

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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青木 玲

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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