
PwCが見据える生成AI×SAPの将来像とは?
日本企業が業務、IT部門それぞれで抱える課題に応えていくには生成AIの活用が有効になってきます。生成AIをどのように活用すればいいのか、PwCの考える生成AI活用戦略について、生成AI×SAPによるデジタルトランスフォーメーションを推進するET-ESのディレクター伊東 智が語ります。
世界的に生成AIの市場が急速に成長する中、日本ではいまだ生成AI活用について検討中または試行錯誤期の企業が多く、ユースケースも単なる業務効率化にとどまっているケースがほとんどです。日本企業が業務部門、IT部門それぞれの足元の課題だけでなく、本来期待される役割(スピード感のある戦略策定、ガバナンス強化など)に生成AIを活用するにはどうすればいいのでしょうか。PwCの考える生成AI活用戦略について、生成AI×SAPによるデジタルトランスフォーメーションを推進するEnterprise Transformation-Enterprise Solution(ET-ES)のディレクター伊東 智とシニアアソシエイトのY.K.が語り合いました。
登場者
PwCコンサルティング合同会社
Enterprise Transformation-Enterprise Solution/ディレクター
伊東 智
リード
PwCコンサルティング合同会社
Enterprise Transformation-Enterprise Solution/シニアアソシエイト
Y.K.
(左から)Y.K.、伊東 智
Y.K.:
日々、お客様との対話の中で生成AIについての興味・関心を感じることは多いのですが、どんな活用方法があるのか、ユースケースを検証し始めているものの、他にもあるのではないか、また業務やITシステムがどこまで変革出来るか、などという思いで模索している状態だと感じます。
伊東:
そうですね。日本ではまだ生成AIの活用について検討中、情報収集中という企業が多く、ユースケースも社内の限定的な業務にとどまっているように見受けられます。
Y.K.:
そんな中、PwCでは生成AI×SAPによるビジネストランスフォーメーションを推奨しています。どのような将来像を抱いていますか?
伊東:
人的リソースの減少傾向とシステムの複雑化がますます進む中、業務・IT各部門が抱える課題の解決や、各部門に求められる役割に応えていくには生成AIの活用が有効であることは間違いありません。生成AIを活用することで従来のシステム構成に対する考え方が変われば、業務部門とIT部門それぞれの足元の課題だけでなく、期待する役割への対応にも大きく貢献できると考えています。
Y.K.:
具体的に、生成AIの活用により、システム構成に対する考え方はどのように変わると考えればよいのでしょうか?
伊東:
PwCコンサルティングではシステム構成に対する考え方について、①データ入力、②開発、③データ/プログラム解析の3点で整理しています。
これまでは、直接SAPに入力する、表計算ソフトなどからアップロードする、専用のユーザーインターフェース機能を利用するなど、さまざまなユーザーインターフェースから入力をしていました。しかし、生成AIの活用が進めば、これらのインターフェースは基本的に「チャットによる会話」に置き換わると考えています。例えば、請求書についても、これまでは請求書の内容を画面から入力したりアップロードしたりしていましたが、今後はチャットボットに請求書をアップロードすれば、生成AIが内容を読み取って、最適な勘定コードや税コードを提案して、重複チェックも行ってくれるようになります。さらに、承認者への回覧も生成AIが行ってくれるので、ユーザーはチャットボットからの提案を確認・承認するだけで請求書伝票の登録業務を完了させることができます。つまり、ユーザーインターフェースはチャットなどの会話に統一され、ワークフロー機能やマスターデータ管理機能を代替する存在になっていくでしょう。
これまでは、要件を満たすためのソリューションの有無や内容の確認、設計書やプログラムの作成も人に依存していました。例えば、機能改善検討に生成AIを活用すると、すでに保有しているアセットをもとにソリューションの有無をAIが提案してくれるため品質の均一化を狙うことができます。設計書もチャットボットと会話しながら作成する世界になると、生成AIが記載の抜け漏れを確認しながら設計書を作成できるようになるため、品質の向上も期待できます。もちろん、こうして作成した設計書をもとに、プログラムも生成AIが自動生成するため、開発工数を大幅に減らすこともできます。
データ分析においても、現在は用意しておいたフォーマットでグラフや表を確認する、もしくはユーザーがデータをダウンロードして表計算ソフトなどでグラフや表を作成しています。しかし、生成AIを活用した将来のシステム構成では、定型フォーマットでの描写以外にも、会話によってグラフや表を描写することができるため、分析の自由度が上がり、分析速度の向上も期待できます。
プログラムの解析においては、追加開発機能が複雑になればなるほど、人では解析ができない、もしくは解析に膨大な時間がかかるため、開発がもたらす影響が読めず、追加開発が困難な状態に陥りがちです。生成AIによる分析を実施すれば、短い場合は数十分でプログラム解析が終わり、その結果は人が解析するよりも高い精度が期待できます。実際、先日、当社であるプログラムを解析した際、汎用モジュールやインクルードに遷移していたため、計30本ほどのプログラム解析が必要でしたが、生成AIに分析させると30分程度で解析が完了しました。
PwCコンサルティング合同会社 Enterprise Transformation-Enterprise Solution/ディレクター 伊東 智
Y.K.:
実際に私がお客様と接する中では、今お話にあったような生成AIによる省力化の効果については理解している方が多いものの、省力化以外の具体的な効果についても、模索している方が多いように感じています。大きく分けて業務部門・IT部門のクライアントに、どのような貢献ができると考えられるのでしょうか?
伊東:
生成AI×SAPによる将来のシステム構成は以下のような貢献ができると考えています。
業務部門はITシステムに対して、オペレーションの高度化や分析高度化を求めています。オペレーションの高度化については、生成AIをベースとしたチャットでの「会話」でデータ入力が完結し、内容チェックの手間がなくなるため、作業時間を大きく減らすことができます。さらに、データ品質の向上も非常に大きなメリットです。たとえば、得意先マスタの名称で「株式会社」をどう表現するかという問題がありますが、移行データを整備する際にも同じ名前の得意先なのに微妙に表現が違うだけというマスタが散見されます。生成AIを活用すれば、こういったデータの泣き別れのリスクも大きく減らすことができます。
分析の高度化についても、分析に必要なグラフや表の描写も会話で完結できるようになります。業務やシステムの現状分析をすると、多くのクライアントから「表計算ソフトやデータベースソフトにダウンロードしてマクロを組み込み、グラフを作成するツールがあります」といった反応があります。しかし、活用できるデータが増えることで表やグラフの作成に時間がかかり、結果的に、分析・課題検知・改善提案に割ける時間的余裕がなくなっているのが実情です。今後は、チャットで会話すると生成AIがSAPやDWHのデータをもとに表やグラフを描写してくれるようになるため、このような状況は改善されます。
生成AIの活用で、これまで難しかったコストと品質の両立が可能になります。ユーザーインターフェースが統一されることにより、単純にシステム数が減るので、ITコストを抑えることができます。開発も現状では保守ベンダーとそのスキルに依存する傾向がありますが、生成AIを活用することで工数を減らしつつ、品質の向上・均質化も目指すことができます。
また、機能やデータを生成AIが分析し、自然言語や図で描写することによって、IT部門に対する理解度向上も期待できます。専門知識がなくてもシステムを理解できるようになると、いつでも最新の状態を把握することが可能になります。何年にもわたって利用しているシステムの場合、設計書と実機の内容が乖離してしまうケースは珍しくありません。そのため、導入プロジェクトの企画準備フェーズでは現状の機能を把握するために、IT部門もしくは保守ベンダーが膨大な時間を消費しています。プログラムが複雑であればあるほど、重要な機能なので解析が必要なのですが、人が調査すると時間がかかる上に品質は期待できません。一方、生成AIを活用すれば現状機能の把握の時間を大きく短縮でき、同時に把握レベルの品質も担保することができます。
Y.K.:
なるほど、このように具体的なメリットについての理解が浸透すれば、生成AIの活用を「変革のためのツール」として検討する企業が増えてくるのではないでしょうか。
伊東:
そうですね。生成AI×SAPによって目指すべき姿を示すことで、クライアントの変革を促進していくことが私たちPwCの果たすべき役割だと考えています。
PwCコンサルティング合同会社 Enterprise Transformation-Enterprise Solution/シニアアソシエイト Y.K.
Y.K.:
生成AI×SAPによる新しい業務形態を示すにあたって、PwCの強みはどこにあるのでしょうか?
伊東:
最大の強みは、グローバルで生成AI×SAPのユースケースを豊富に持ち、互いに連携していることです。つまり、将来構想をベースとした場合に、業務がどのように変わるのか、将来構想に向けたシステム構想はどうあるべきかについて、現実的な仮説を持っていることです。その仮説をもとに、クライアントと議論し、各クライアントにおける「目指すべき新しい業務の形」を描くことができます。また、新しい業務の形を実現するために必要なこと、例えば必要なデータの収集ができているのか、データが正規化されているかどうか、なども調査したうえでロードマップを作成し、実現に向けたサポートを行います。また、PwCネットワーク内での連携体制が構築されていることも、PwCの強みの一つです。コンサルティングだけではなく税務や会計監査目線での検討もできるため、クライアントの全ての業務に対して新しい業務の形を描き、提案することができます。いずれにせよ、生成AIが業務にもたらす変化は、これまで私たちが経験したことのない規模のものであることは間違いなく、しかもその変化の波は私たちが考えている以上に速いスピードでやってくるでしょう。今後は、より早く新たな技術を組み込んだ企業が有利になっていきます。クライアントの皆様が変化の波に乗り遅れないように働きかけることが、私たちPwCのミッションであると考えています。
Y.K.:
今日のお話を聞いて、私たちPwC自身も生成AIとの向き合い方を改めて考えるべきタイミングに来ていると強く感じました。例えば、すでに私は考えをまとめたり仮説を立てたりする場合に、生成AIにチャットで壁打ちをする方法を取り入れていますが、クライアントが生成AIとのチャットによる課題解決を自主的に行うようになる時代が来ると、私たちコンサルタントの存在意義が問われるようになるのではないでしょうか。
伊東:
そうですね。おそらく、生成AIの普及とともに、私たちコンサルタントに求められるスキルセットは、大きく変わっていくでしょう。生成AIが社会に与えるインパクトはあまりに大きく、この先、ビジネスがどう変革していくのか、はっきりと予測することは難しいです。ただ、1つ分かっているのは、生成AIによって企業の中でもいろいろな機能や役割、部署の見直しが起こるだろうということ。これまでの企業に「あって当たり前」だった機能や部署が生成AIに取って代わられる可能性も大いにあり、「生成AIに関する議論は突き詰めれば組織論である」という見方もあります。つまり、生成AIのインパクトは、クライアント組織全体に影響を及ぼすことになるため、監査やデューデリジェンス、税務など、グループ内に幅広い支援体制を持ち、クライアントをご支援する文化を持つPwCには大きなアドバンテージがあります。このアドバンテージを活かせるように、私たちも生成AIを積極的に取り入れて、これまで以上にクライアントの新しい業務の形を作る気概を持って臨んでいきたいものです。
Y.K.:
そうですね。私もこれまで以上に日々の業務にAIを活用して、自らが変革の当事者となれるように努めたいと思います。今日は貴重なお話をありがとうございました。
日本企業が業務、IT部門それぞれで抱える課題に応えていくには生成AIの活用が有効になってきます。生成AIをどのように活用すればいいのか、PwCの考える生成AI活用戦略について、生成AI×SAPによるデジタルトランスフォーメーションを推進するET-ESのディレクター伊東 智が語ります。
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伊東 智
ディレクター, PwCコンサルティング合同会社