混迷の時代を生き抜く、有事前提のビジネスマネジメント

事業の全体像を掌握し、問題からの早期回復を目指す「デジタル・オペレーショナル・レジリエンス」

  • 2024-04-26

はじめに

企業におけるオペレーショナルリスクの管理は、これまでもBCP(事業継続計画)の策定などの形で進められてきました。しかし、昨今のビジネスは多くの要素が複雑に絡み合い、社内外数多くの関係者の協働によって成り立っています。また、全てのビジネスはデジタルテクノロジーの活用を前提として進められており、デジタル環境を前提にした再起力を高める視点が不可欠です。

そこで、新たな時代の事業リスク管理の方法論として、「デジタル・オペレーショナル・レジリエンス」が求められています。本稿では、企業がデジタル・オペレーショナル・レジリエンスを強化するうえで、実践的なポイントを解説いたします。

未知のリスクを前提にレジリエンスを強化する

ステップの3つ目は、既存のリスク管理の枠組みを超えたレジリエンス機能の実装です。従来、多くの企業が取り組んできたサイバーセキュリティ、BCPなどの個別の取り組みを活用し、AIなどエマージングテクノロジーの将来想定に基づいたリスク計測、各国のプライバシー、データ規制などの法規制状況に対応した委託先の選定と管理などを加え、包括的な事業継続のための取り組みを行います。

コスト的に導入可能であれば、ITの構成管理ツールなども活用し、ビジネスとシステムの関係を明らかにしながら、全社的なデジタル・オペレーショナル・レジリエンスを高める対策を検討します。

一例として、近年はクラウドサービスを利用するビジネスが一般的になっていますが、万一クラウドサービスに障害が発生し、ユーザー企業の事業や顧客サービスに影響が出た場合も、ただ復旧を待つだけというわけにはいきません。クラウド利用を判断した当事者として、ステークホルダーへの説明責任を果たすために、バックアッププロセスを検討しておく必要があります。

図表3 Resilienceを構成する機能の強化

最後のステップは、訓練です。これもBCPの中で実施するケースがありましたが、単なる読み合わせを行うような形式ではなく、緊張感を伴ったシナリオを設定し、現場の対応力を養う訓練を実施する必要があります。

また、訓練時のシナリオには変化を持たせつつ、かつバランスの取れた内容にすることが重要です。

多段的、同時多発的なケースを想定しても、結局のところ全てのシナリオを網羅的に洗い出し、訓練できるわけではありません。そのため、過度に複雑なシナリオを作ることを目的とする必要はありません。また、最悪の事態を想定したハイリスクのシナリオでのみ訓練を行えば良いという意見を聞きますが、その場合は、逆にミドルリスク、ローリスク時の対応が、組織として共有できなくなることにも注意します。

訓練によって確認したい最も重要な情報は、インシデント発生時の組織内の各社員の役割の変化です。そこを意識して、有事の際に自分の権限がどう変化し、どこまでが自分の裁量で、どこから上司への確認が必要になるのか。それを確認しておくことが、有事対応力の強化につながります。

ここで紹介した4つのステップを実行することで、デジタル・オペレーショナル・レジリエンスの強化を図ることが可能になります。

今、求められるデジタル・オペレーショナル・レジリエンス

  1. 自社を取り巻くデジタル環境の可視化
    自社環境だけでなく、クラウドや外部サービスとの連携を含め全体像を可視化し、ガバナンスを強化する
  2. 社内横断的な体制構築
    Digital Operational Resilienceの機能/役割を見直し、体制を再構築する
  3. Resilienceを構成する機能の強化
    これまでの取組みを見直し、冗長な部分を最適化する、不十分な部分を強化する等、管理機能を強化する
  4. Digital Operational Resilience強化の確認
    アップデートされた[1~3]の実効性を確保するために、統合的なシナリオに基づく訓練/演習を実施する

まとめ

日々刻々変化する事業環境に対応し、デジタル・オペレーショナル・レジリエンスを強化することはますます重要度を増しています。ただし、全ての企業に対して「これをすればOK」という画一的なアプローチがあるわけではありません。事業内容や企業規模、予算などの条件により、対処方法はそれぞれ異なります。

しかし、いずれの場合でも、今回ご説明したとおり、まずは自社のオペレーションを可視化し、想定されるリスクに対する分析をしっかり行う必要があります。現状把握がなければ、有効な対策はとれません。

そして繰り返しになりますが、レジリエンス強化のための対策は、全てを一度に行う必要はありません。現状の可視化から導かれたレジリエンスの弱点を、緊急度の高い部分から補っていくことが重要です。優先順位を決め、一つずつ対策のピースを埋めていくことで、最終的に有事に強いレジリンスを備えた企業に生まれ変わることができます。

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執筆者

橋本 哲哉

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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