ダイバーシティ推進と働き方改革 第2回「ダイバーシティ推進に不可欠な5つの要素」

2018-09-13

社員の過半数を占めるミレニアル世代が「働き方」を変える

すべての企業にとって、ダイバーシティ推進は重要課題です。異なるバックグラウンドを持つ人材の協働が、新たなイノベーションを生み出すと考えられているからです。しかし一口にダイバーシティと言っても、性別・年齢・国籍など切り口となる属性はさまざまです。今回は、組織の中枢人材となる「ミレニアル世代」を切り口に、その価値観にフォーカスします。

国連は、2020年には世界の労働人口の過半数をミレニアル世代(1980年〜2000年生まれ)が占めるという試算を発表しています。PwCでも、2016年には世界20万人の社員のうち過半数をミレニアル世代が占めました。デジタルネイティブ第一世代であるこの世代は、仕事に対する価値観が、その前世代までと大きく異なる点が特徴として挙げられます。具体的には、「ワークライフバランス」を重視し、「キャリア形成」への意識が高く、かつての終身雇用制とは異なり、生涯で数社を転職するのも当たり前と考える傾向があります。彼らがいかなる志向性を持ち、何にモチベーションを感じるのか──ミレニアル世代の特性分析は、人材マネジメント変革に取り組む企業が注視する要素の一つとなっています。

ミレニアル世代の特性と、その働き方についての価値観

PwCが2011年に新卒者に実施したアンケート調査(図1)では、「これから先あなたはどこで働いていると思うか」という質問に対し、「テクノロジーの活用で国境を越えたさまざまな場所(21%)」、「自分が選んだ場所(20%)」、「エネルギーとコスト効率が一元管理された主要都市郊外のビル(14%)」など、オフィスのloT化を期待した回答が並びました。この傾向は、現在さらに進んでいると思われます。いまだセキュリティ等の解決すべき問題があるものの、今後2〜3年でオフィスのloT化は大きく進み、ミレニアル世代の期待に沿った働き方が実現されるでしょう。

同調査では、コミュニケーションに関する面で非常に興味深い結果が見られました。ミレニアル世代の74%が、「タスクに関する同僚とのコミュニケーションはSNSを通じて行っている」一方で、96%が「キャリアの相談については直接話したい」と希望しているのです。デジタルネイティブのミレニアル世代が、重要な場面で対面型コミュニケーションを望んでいる点は、上の世代が見落としがちなポイントではないでしょうか。また、女性の20%、男性の15%が「給与が20%低下して昇進が遅れることになっても、9時〜17時の残業なしで働けるなら、その選択肢を選ぶ」と回答しています。これは、従来型の日本企業の価値観とは大きく異なります。

ミレニアル世代の価値観を分析して浮かび上がるのは、彼らが仕事を「場所」ではなく「コト」と捉えている点です。つまり、仕事で求められるのは「出社することではなく、成果を出すこと」と認識し、成果を出せば、働く場所・時間に縛られる必要はないという考え方です。

企業としても、労働力の過半数を占めるミレニアル世代の価値観は無視できず、現在、働き方改革の推進が急務とされる理由の一つともなっています。

【図1】様々なニーズや嗜好を持つ個々の世代をマネジメントする

企業と社員の関係性はどう変化するのか

ミレニアル世代の仕事の価値観が広がる中、企業と社員の信頼関係の構築には、次に挙げる三つの要件が求められます。一つは「スピード」。自らの「責任」と「機会」を期待するミレニアル世代に直ちに応え、信頼関係を樹立できるような施策が必要です。二つ目は「情報」です。インターネットを介してあらゆる情報にアクセスできる現代、雇用主の情報透明性なくして、信頼は醸成できません。最後は「柔軟性」。前述のように、働き方に対する価値観は多様化しており、ミレニアル世代の大半が柔軟な職場環境を求めています。「信頼されたい」社員の期待を満たしてモチベーションを高め、生産性・創造性を引き出すには、彼らの求める柔軟な働き方を提供することが求められます。

さらに、組織を抜本的に改革するには、下記の5要素を鑑みた施策を推進する必要性があります。ミレニアル世代は、自分自身の働き方やダイバーシティの考えと一致した価値観を持つ企業は「ハピネスが高い企業」と考えています。優秀なミレニアル世代を採用・活用するためには、フレームワークを変えるだけでなく、雇用側の意識改革も必要なのです。

【図2】組織のダイバーシティ推進に不可欠な5要素

第3回は、「働き方改革と組織の将来的ビジョン」です。労働時間短縮や生産性向上、女性活用といった個別の側面だけでなく、企業はもっと本質的な働き方改革を目指すべきです。そのために優先的に取り組むべき事項、またそれらをどう進めればよいのかについて紹介します。

佐々木 亮輔

佐々木 亮輔
PwCコンサルティング合同会社 パートナー

15年以上にわたり日系グローバル企業の本社と海外拠点において日本人および外国人経営幹部を巻き込む変革コンサルティングに従事。本社機能の再編、地域統括会社の機能強化、バックオフィス機能の組織再編と業務改革、海外営業組織の再編と能力強化、M&A(DD/PMI)、海外経営幹部の選抜と育成、チェンジマネジメント、組織文化改革など国内外のさまざまな変革プロジェクトの経験を持つ。シンガポールとニューヨークでの駐在など海外経験が豊富で、日本だけでなく、アジアや欧米のベストプラクティスに精通している。タレントマネジメントやチェンジマネジメントに関する講演や寄稿も多数。

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