ダイバーシティ推進と働き方改革 第1回「5つのメガトレンドがもたらすビジネス大変革期」

2018-08-23

ビジネス環境が大きく変わりつつある現在、企業にとって「不確実性」をいかに捉え、「変革」のビジョンを策定していくかが大きな課題となっています。この連載では、注目を集める「ダイバーシティ」と「働き方改革」にフォーカスし、抜本的なイノベーション推進を実現するために理解しておくべき本質的な背景と未来予測をお伝えします。(全5回)

今、世界のビジネスの現場では何が起きているのか。

テクノロジーの急速な進化に伴い、あらゆる産業でビジネスモデルが変革を迫られています。今後5年、10年で企業の在り方は変わり、ビジネスパーソンに求められる資質も大きく変化することが予測されています。PwCでは、中長期的な社会の巨大な潮流を、「技術革新」「人口動態の変化」「経済大国のシフト」「都市化の加速」「気候変動と資源枯渇」の5つの「メガトレンド」として整理しています。【図1】。

これらのうち、特に私たちの働き方に関連するメガトレンドが、「技術革新」です。AI(人工知能)やロボティクスの急速な進歩により、最近では「シンギュラリティ」という言葉を耳にするようになりました。シンギュラリティ(技術的特異点)とは、AIが人間の知性を超え、人間の生活に大きな変化をもたらすという概念です。「技術革新」によって、働き方は言うに及ばず、仕事の中身も大きく変わろうとしています。

「技術革新」以外の4つのメガトレンドは、グローバル全体の動きに関連するものです。日本においては少子高齢化が進む中、南アジアやアフリカでは人口が爆発的に増加しています。「人口動態の変化」により、今後、労働力を世界中から調達する必要性が生じる可能性があります。また、かつては輸出中心だったアジア太平洋地域諸国が、消費を中心とした経済へと転換しはじめ、ビジネスの舞台は成熟市場から新興市場へと移行しつつあります。グローバル企業のプレーヤーが新興国を含む世界各地に広がることで、競争環境の形が変化していくことも予想されるでしょう。

【図1】5つのメガトレンドがもたらす影響と課題

世界の企業トップは何を重要な課題と捉えているのか。

PwCが毎年行っている「世界CEO意識調査」でも、ここ数年の経営者の課題の変化が顕著に数字に表れています。2015年の調査では、人材戦略上、最大の効果をもたらすポイントとして「将来のリーダー候補者の選定・育成」や「職場の風土と行動原理」、「効果的な業績管理」が上位を占めていましたが、2017年の同様の質問への回答では、下記のグラフのように「タレントのダイバーシティ&インクルージョンの促進」、「将来必要なスキルと雇用ポートフォリオを反映したタレント戦略の見直し」が挙げられています。まさに、技術革新の影響によって急速に経営者の重要な課題となったのが、「人材」なのです。

調査結果によれば、「人材の働きがいを改善するためのテクノロジーの導入」や「人材やマシンの協働によるベネフィットの検証」などの項目に対する注目も急速に高まっている様子がうかがえます。ダイバーシティ&インクルージョンがトップを占める一方で、これらの項目に対する注目度の高さは、人材の持つスキルの重要度が改めて増していることにほかなりません。経営者の意識では、AIやロボティクスはサポート機能であり、中核となるのはあくまで人材であることがうかがえます。ではそのために、どんなスキルを持った人材を確保すればよいのかという問いが、働き方が大きく変化しつつある中で正解は存在しないにせよ、企業の重要な経営課題になってきていると言えます。

【図2】CEOは企業が将来必要とするスキルと人材ポートフォリオを獲得するために、ダイバーシティや国際間異動等タレント戦略を抜本的に見直している

世界で始まる「ビッグデータ」を使った人材探し

世界に目を向ければ、将来的な人材確保に向けた新たな動きがすでに始まっています。インド人の理系スキルの優秀さはよく知られるところで、近年のイノベーション理論の多くはインド人によって生み出されたものです。また欧米大手企業のCFOにインド人が占める割合の高さも注目に値します。しかし、Stanford Online High Schoolというオンラインの高校を通じて世界各地から優秀な学生を集めているスタンフォード大学で、プログラミング学部にトップ入学したのは、パキスタンの女性でした。このように、想像と異なる場所にトップタレントが存在していることが瞬時に分かるのも、ビッグデータの時代ならではです。

最近では、世界最大級のビジネス特化型SNSの「LinkedIn」で公開されているレジュメを分析し、世界のどの地域にどのような専門性を持った人が多く存在するのかも明らかになってきました。STEM人材(=STEMスキルと呼ばれる理化学系のスキルを持った人材)の分布を調べると、1位はアメリカ西海岸、2位はパキスタンでした。その結果、STEM人材を獲得したい企業は、パキスタンの大学にまず出向き、優秀な人材を囲い込むという流れが生まれています。このように、ビッグデータを活用して人材を探すというアプローチも、技術革新によって可能になったことです。

第2回は、「ダイバーシティ推進に不可欠な5つの要素」と題し、人材の過半数を占めつつあるミレニアル世代の特性・価値観を分析。その動向から変革のための人材活用を探ります。

佐々木 亮輔

佐々木 亮輔
PwCコンサルティング合同会社 パートナー

15年以上にわたり日系グローバル企業の本社と海外拠点において日本人および外国人経営幹部を巻き込む変革コンサルティングに従事。本社機能の再編、地域統括会社の機能強化、バックオフィス機能の組織再編と業務改革、海外営業組織の再編と能力強化、M&A(DD/PMI)、海外経営幹部の選抜と育成、チェンジマネジメント、組織文化改革など国内外のさまざまな変革プロジェクトの経験を持つ。シンガポールとニューヨークでの駐在など海外経験が豊富で、日本だけでなく、アジアや欧米のベストプラクティスに精通している。タレントマネジメントやチェンジマネジメントに関する講演や寄稿も多数。

プロフィール

※法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

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