
PwCが見据える生成AI×SAPの将来像とは?
日本企業が業務、IT部門それぞれで抱える課題に応えていくには生成AIの活用が有効になってきます。生成AIをどのように活用すればいいのか、PwCの考える生成AI活用戦略について、生成AI×SAPによるデジタルトランスフォーメーションを推進するET-ESのディレクター伊東 智が語ります。
基幹システム(ERP)の導入にあたっては、商習慣の違いなどから、グローバルでの標準化が課題となっています。
また、製造業の高度化においても、日本と異なり人材の流動が激しい海外拠点では、匠のノウハウをいかに数値化して見える化するかが、技術のグローバル展開を行う上で重要になっています。
基幹システム(ERP)とグローバルという切り口で、 PwCコンサルティングET(Enterprise-Transformation)のパートナー佐々木信寛と、若手コンサルタントのT.S.がグローバルでの標準化のポイント、工場の高度化について語り合いました。
登場者
PwCコンサルティング合同会社
Enterprise Transformation/パートナー
佐々木 信寛
リード
PwCコンサルティング合同会社
Enterprise Transformation/アソシエイト
T.S.
(左から)T.S.、佐々木 信寛
T.S.:
今回はET(Enterprise-Transformation)×グローバルの視点でお話を伺います。最初にSAPのグローバルでの展開状況について教えてください。
佐々木:
グローバルにおけるSAPへの需要は以前にもまして高まっていると感じています。日本企業のグローバル展開は、大規模企業を中心に以前から進んでいました。しかし、日本企業全体で見ると、まだこれからグローバル展開を計画している企業も一定数あります。また、すでにグローバル展開をしている企業が、過去に導入したERPを現在のビジネスに適応できるよう刷新したいというニーズもあります。これまで、私が担当しているクライアントも日本でERPのテンプレートを作成し、それをグローバルで展開する企業が多いと感じます。
ただし、私は20年以上SAPの導入支援を担当していますが、その経験から感じているのは、「日本と海外では『効率化』に対するアプローチが異なる」ということです。
T.S.:
どういうことでしょう。
佐々木:
これまでの日本企業は、日本側でERPテンプレートをきちんと設計し、それをグローバルに展開していました。しかし、日本と海外はビジネスの商習慣や文化が異なりますから、ERPテンプレートを分けたいという要望も一定数ありました。その背景にあるのが「効率化」に対するアプローチの違いです。
日本は1990年代に徹底的に業務を効率化=省力化し、それに沿ってシステムを構築しました。一方、海外では従業員が短期間で入れ替わるのが当たり前ですから、業務を効率化するよりも、標準化することに重点を置いていました。そうなれば当然、ERPテンプレートも異なりますよね。
T.S.:
なるほど、私はこれまで「標準化=効率化」だと捉えていました。最近は「日本企業は生産効率が悪い」と言われますが、日本企業はむしろ率先して効率化に取り組み、自分たちはありとあらゆる業務について他社よりも優れた改善と独自の効率化を行い、他社との差別化してきたと考えていたのですね。ただし、その「効率化」をグローバルに標準として展開しようとすると「非効率」になり、グローバルが求める標準化からかけ離れてしまうと……。
佐々木:
そのとおりです。標準化し、SAPを導入するには、自らがこれまで作り上げてきた、効率的だと思っている既存業務プロセスを変えていくことが必要です。特に自社の業務を徹底的に効率化した日本企業の場合は、SAP導入のために多くの「チェンジマネジメント」をしなければなりません。これをクリアするハードルは、他国のグローバル企業よりも日本企業のほうが高いと感じています。
それは、日本企業の中で、グローバルな視点を持ち、そのプロセス・機能は本当に必要なのかを考え、現場を説得できる体制を取るのが難しいからだと思います。
T.S.:
日本企業がそうした体制をとるハードルが高いと思われるのはなぜでしょうか。
佐々木:
日本企業では、お客様重視の観点から、痛みを伴ってでも効率化を図るという判断ができる方が非常に少ないと思うからです。例えば、既存システムでは「お客様が緊急出荷でモノが欲しいという時に、必要な緊急出荷機能を追加する」というニーズに対応しているので、これは必要な機能だというクライアントも少なくありません。このような時に、実際に緊急出荷はどれくらいあって、その対応をすることでどれだけのメリットがあるかを定量的に考え、メリットが十分でなければそのような機能はなくすという判断が取れる企業が少ないということです。これを変える時には痛みを伴います。いくつかのビジネスを失う恐れがあるからです。しかし、失っても別のところで効率化でき生産性が上がるという発想を持てるかどうかだと思います。そういった人材を体制に含めるのが難しい点が、日本企業にとってハードルが高いと思うところです。
T.S.:
どうすれば、日本企業がそうしたハードルを越えグローバルな標準化ができると思いますか。
佐々木:
プロジェクトにグローバル視点を持った駐在員経験者や、グローバル拠点の多国籍のメンバーを受け入れ、権限を与えた体制を敷くことだと思います。今後、日本は労働人口が減少し、必然的に海外のリソースに頼らざるを得なくなります。そうした将来に備え、グローバル人材がプロジェクトに参画しやすい環境の構築も求められます。コロナ禍でリモートワークが進み、どこからでも働ける環境は以前よりも整備されました。日本語という言葉の壁のある体制を作ってしまうのではなく、マインドチェンジをしてグローバル人材を受け入れるようになれば、もっと可能性は広がると考えています。
PwCでは、そうしたクライアントのグローバル体制の構築を支援できるよう世界各国に広がるグローバルネットワークによるマルチカントリー体制を組むことが可能であり、 ET(Enterprise-Transformation)がグローバルメンバーと一体になって支援を提供します。
T.S.:
文化や国境を越えてグローバル人材を受け入れ、プロジェクトを推進するメリットとは何でしょうか。
佐々木:
新しい発想やこれまでとは異なる着眼点が得られることです。例えば、日本企業は細かい部分にこだわり、多機能にアドオンを作り込む傾向があります。視点や業務に対する考え方が異なれば、当然「効率化」に対する考え方も異なります。そうした多様性の中でベストなアプローチを模索できる組織であれば、課題解決のスピードも加速するでしょう。日本企業の経営層には、こうしたカルチャーチェンジをぜひ決断していただきたいです。
PwCコンサルティング合同会社 Enterprise Transformation/パートナー 佐々木 信寛
T.S.:
「グローバルの視点」をもう少し深掘りさせてください。同じ“グローバル”でも、欧州と米国では標準の捉え方も求められる機能も異なります。日本で作られたものはグローバルでは受け入れられないこともあるとのことですが、「グローバルの視点」での標準化とはどこまでやるべきだと思われますか。
佐々木:
過去に私が関わったプロジェクトを例に説明しましょう。そのプロジェクトは日本からアジア諸国にSAPのテンプレートを展開し、次に欧州に展開し、その後に米国で展開して最後は日本に持ち帰りました。その時に痛感したのは「各リージョンでは標準化の基準が全然違う」ということでした。
アジアから欧州へ展開したときには、機能がまったく足りていませんでした。なぜなら欧州はアジアとは比較にならないほど業務が高度化していたからです。そして欧州のニーズを反映させて機能追加したものを米国に展開したら、“欧州版”では機能が足りませんでした。つまり、米国は欧州よりもさらに業務が高度化していたのです。そして最後に日本で展開する際には、ものすごい数の変更要求がありました。これは、日本の業務が全世界の業務よりも高度化していたからなのでしょうか?私は、これは日本が先に述べたような、個別に効率化した要件を断捨離できなかったことに起因しているのではないかと思っています。
「グローバルの視点をどこに置くか」は立場によって異なるでしょう。そもそも「標準化をしてグローバルで統一する必要があるのか」という議論もあると思います。
アジア、欧州、米国、日本では業務レベルや規模感、商習慣が異なるケースが多くあります。それを統一しようとすると、さまざまな部分で“痛み”が発生します。そうであるならば、例えばリージョンごとに標準化をし、最終的にSAP標準とするコア部分と、個別対応するために、疎結合化したクラウドのコンポーネントを利用することが、一つのアプローチだと考えます。つまり無理にグローバルですべてを標準化して統一するのではなく、“痛み”を最小化する形で、コア部分にSAPを使って標準化し、個別に機能を追加するためにクラウドを活用するのです。
T.S.:
グローバルの商習慣の違いをクラウドが“吸収”して個別最適化するのですね。第1回ではそのメリットを伺いました。
佐々木:
商習慣が異なれば、ERPで標準化すべき部分にも差違が出てきます。この差違を無理に標準化しようとするから“痛み”が発生してしまうのです。これまで述べたように、グローバルでの標準化はSAPをコア部分として、グローバル視点を持ってチェンジマネジメントを含めた標準化を実行し、個別のところはクラウドを活用したネイティブコンポーネントを利用してマイクロサービス化するというのが、今後の主流になってくると思います。私はこの流れが、SAPをコアとして疎結合化したクラウドコンポ―ネントを使ったITモダナイゼーションであると考えます。ET(Enterprise Transformation)は、正にSAPをコアとして、クラウドコンポーネントをオファリングとして柔軟に提供できるSAP×クラウドのエキスパートが集まった集団であり、クライアントの課題に対し「どこまでを標準化し、どの部分をクラウドで開発するか」といった判断を含め、クライアントのビジネス戦略に沿った形で支援できると考えています。
PwCコンサルティング合同会社 Enterprise Transformation/アソシエイト T.S.
T.S.:
次に製造現場の高度化について教えてください。日本の工場で高度化した製造ラインをグローバルで展開する際には、どのような課題をクリアする必要がありますか。
佐々木:
これまで日本企業では、海外の製造拠点に日本の工場と同じ仕組みを「ミニ工場」として、設備や生産方式含め導入しているケースが多いと思います。一方で、人材に関しては、日本国内の場合、多くの方が長年勤務され、熟練化していますが、グローバルでは人の入れ替わりも激しく、そうした熟練化が難しいというのが実態です。例としては、複数の製造ラインがある企業で、駐在員が張り付いているラインは歩留まり率が非常に良く、他のラインは非常に悪いので、駐在員が別のラインに張り付くようにすると、そのラインの歩留まり率は良くなるものの、今度はもともと良かったラインがまた悪くなってしまう、というケースを見たことがあります。
こうしたケースは、人(駐在員)にノウハウが溜まっていても、それが拠点内で全く活かされていない典型的な事例だと思います。人材の流動が激しい海外拠点ほど、こういったノウハウをいかに数値化して見える化するかが重要です。
例えば、製造ラインにてIoT(Internet of Things)機器やセンサーを取り付けてデータを収集・分析して製造ラインの状況を把握し、機器の不具合を確認したり不良率を低減させたりといった取り組みをしている企業は多いと思います。こうした部分は積極的にグローバル展開をするべきです。しかし、これまでグローバル企業の工場が集中していたアジア諸国では、安価な人件費で人海戦術による生産体制を構築していたため、あまり行ってきていないと思われます。しかし、昨今はそうした国々の人件費が高騰していますから、IoTの活用による高度化に対するニーズが高まってきています。
T.S.:
ニーズが高まっている中、製造ラインの高度化を成功させるには、どうすればいいのでしょうか。
佐々木:
自動化=高度化と考えてしまい、「自動~」という仕組みを入れることをゴールとして実行してしまう企業が多くあります。実際、自動化しても、歩留まりが上がらず、設備を使いこなせていないケースも多々見受けられます。
そのため、自動化する前に、既存のラインで取れるセンシングデータを基に解析を行い、現場の匠のノウハウと照らし合わせることで、効果がある工程やセンシングを見極めてから、追加の自動化や新たなセンサーの設置を行い高度化するというステップを踏むことが重要だと思います。
私たちET(Enterprise Transformation)には、こうした製造ラインのIoT化のエキスパートや、クラウドの環境構築から収集したデータを分析する専門家がいます。また、各業界に精通した人材も揃っていますから、クライアントの戦略に沿った製造ラインの高度化を一貫して支援できます。さらにPwCコンサルティングは最新技術を備えた「Technology Laboratory」を擁しており、実際のラインでの模擬検証を見ながら議論させていただくこともできます。こうした領域こそ、ET(Enterprise Transformation)の組織力を最大限に発揮して支援できると自負しています。
T.S.:
今後、自動化やIoT化に対する需要がグローバルで高まることは理解できました。また、前半ではSAPの導入におけるグローバル視点での標準化についてもお聞きできました。最後に将来的にPwCコンサルティングのET(Enterprise Transformation)は、どういった組織を目指すのでしょうか。
佐々木:
現在は日本のチームが主導しながら海外メンバーを育成し、現地で活躍してもらうだけではなく、日本でも海外メンバーがインプリメンテーションできるような組織の枠組みを考えています。日本企業の要求する品質レベルは高いのですが、クライアントのどの国の関連会社に支援要請があってもその要求に応じられるような、そんなグローバル組織を目指しています。PwCコンサルティングのメンバーも、グローバルネットワークの一員として、どの国にアサインされてもクライアント支援ができるような人材を育成していきたいと考えています。PwCが目指すのは、「国境なきコンサルタント」です。国や地域は異なってもクライアントの課題に真摯に向き合い、最強のチームで最善の支援を行う。そうした組織が私たちの目指す姿です。
日本企業が業務、IT部門それぞれで抱える課題に応えていくには生成AIの活用が有効になってきます。生成AIをどのように活用すればいいのか、PwCの考える生成AI活用戦略について、生成AI×SAPによるデジタルトランスフォーメーションを推進するET-ESのディレクター伊東 智が語ります。
製造業界出身で、現在はPwCコンサルティングで製造業を対象としたERP導入を手掛けるディレクター佐田桂之介と、シニアマネージャー尾中隆喜が、基幹システムを導入する際のシステムの「標準化」の意義や克服すべき課題について語ります。
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