
トップランナーと語る未来 第11回 金沢大学 金間大介氏 介護業界の未来に向けた挑戦~人材獲得戦略を考える~
第11回は、金沢大学 融合研究域 融合科学系 教授 金間大介氏を迎え、PwCコンサルティングのディレクター東海林崇とマネージャー池田真由が、労働力減少問題の課題先進業界である「福祉・介護」業界における今後の人材獲得戦略を議論しました。
鼎談者
島根県出雲市長
飯塚 俊之氏
株式会社モンスターラボホールディングス 代表取締役社長
鮄川(いながわ) 宏樹氏
モデレーター
PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー
公共事業部 デジタルガバメント統括
林 泰弘
※本文敬称略
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
(左から)林 泰弘、飯塚 俊之氏、鮄川 宏樹氏
林:
前編では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を自治体活動に浸透させるには「官民の相互の信頼」がカギである、という認識を改めて強めました。では次に、未来を担う子どもたちを預かる教育現場でDX活用をどのように進めているかについてお聞きしたいと思います。
飯塚:
出雲市では「いずもGIGAスクールプラン」に基づき、児童生徒1人につき1台のタブレット型パソコンを導入し、通信環境を整えました。学習活動のさらなる充実と「主体的・対話的で深い学び」の質を高める取り組みを進めています。不登校対策においても、個々の状況に応じた支援を目指してデジタルを活用した施策ができないか模索しています。
林:
PwCコンサルティングは、国立大学法人と共同でデジタル広域連携による新しい学校授業における学びのあり方の研究を進めています。先生方も学んでいる、とも言えます。
鮄川:
デジタルはさまざまな障壁やボーダーを取り除く手段として有効です。特に教育のような領域では顕著です。例えば、モンスターラボが支援した民間の教育支援サービスでは、今でこそ当たり前となったモバイルを使った学習システムの開発にいち早く取り組み、物理的な制約に縛られない学習環境を子どもたちに提供しています。また、出雲市には不登校児童を対象とする、eスポーツを活用した学習塾を運営している企業があります。不登校児童に学校以外の場所で学ぶ機会をつくった結果、復学した児童もいます。これもデジタルの力を生かし、既存の学校授業という枠を取り払っている事例と言えるのではないでしょうか。
国立大学法人との取り組みはデジタルガバメントの実現に向けた共同研究ですよね。教育のような社会の基盤となる公的分野で、官だけではなく産・学とも連携して従来のあり方を変革しようとする良い取り組みだと感じます。
島根県出雲市長 飯塚 俊之氏
株式会社モンスターラボホールディングス 代表取締役社長 鮄川 宏樹氏
林:
行政サービスは「to C」のモデルだと思うのです。住民の多様な価値観にどう寄り添うかがサービスの土台ですよね。一方で部分的には効率化を重視して一律なサービスとせざるを得ないのも1つの現実です。デジタル技術を使えば、「One to One」のパーソナライズされたサービスを効率的に提供することが実現できると思います。こうしたパーソナライズや先進的なデジタル技術を組み合わせることで、今までにない行政サービスを生み出せる予感がします。
飯塚:
パーソナライズされた行政サービスという観点では今後、申請書類の記入を簡素化する「書かない窓口」やデマンド交通、出雲市公式の対話アプリを活用した情報発信などの取り組みを進めていきます。また、たくさんの市民が市の情報を受信したり、電子申請を活用したりできるよう、デジタル機器に弱い高齢者を対象としたスマートフォン教室の開催など、デジタルの恩恵をより多くの市民が受けられる環境整備にも努めています。
鮄川:
まずはオペレーションレベルで電子化によって徹底的に効率化することが大事です。職員の業務の生産性が上がれば、市民サービスの付加価値を大きくする時間の猶予も持てます。
また、デジタル技術によって地域コミュニティがより機能するようになれば、住民の助け合いや交流もより深まる可能性が高まります。自治体として市民の暮らしを間接的に支援できるようになるのです。これを出雲市にも適用できればと考えています。
さらに、まだ構想レベルではありますが、地元の金融機関など、地元についての情報を持っている企業との連携も有効だと考えています。個人のデータをしっかり保護するのは大前提で、データをうまく使えれば市民サービスを高める可能性が広がるのでは、と考えています。人口17万人の出雲市が抱える課題のほとんどは地方都市に共通する課題と言えます。先行事例をつくればほかの自治体にも応用できると考えています。まずは出雲市を舞台に、官民連携によって市民にとってプラスになる機会の場を増やしていきたいですね。
林:
新しい価値観という意味では、自治体が行政サービスを磨き、行政サービスの良さで収益を上げていくという経営のあり方についての研究が進んでいます。当然、現行の法令や制度の枠組みは遵守しなければいけません。一方、人口減少に伴う行政サービスの効率化の必要性、地方と大都市圏の生活の違いなどを踏まえると、今後はもっと必要になってくるのではと思います。
飯塚:
国は日本の人口が2008年から減り続け、2025年には国民の4人に1人が75歳以上の後期高齢者になると推計しています。また2040年には労働人口が減少し、自治体は今より10%以上少ない職員数で運営しなければならない可能性もあるとしています。
出雲市は2020年に策定した人口ビジョンで、2020年の市内人口が17万2,775人で、2030年には17万人を割り込む(16万8,061人)と推計しています。国が示すように、人口が減れば自治体職員の人数にも影響は出ます。しかし、職員数が減っても行政手続きなどが減るとは限りません。そこで、出雲市では行政サービスを維持するためにRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)で業務プロセスを自動化したり、人工知能を使った光学文字認識機能(AI-OCR)を活用したりして働き方の効率化を進めています。
地方と大都市圏の生活の違いを考える際には、都会で暮らさなくても生活に不便を感じない環境を整えること、雇用の機会を拡充することも欠かせません。出雲市ではIT企業の進出や事業拡張の動きが続いています。IT企業のスタートアップ支援施設を整え、ここを拠点に企業誘致や人材育成、企業がさらに人を呼び込む好循環を生むDXの先進エリア「Tech Hub Izumo」の実現を目指しています。「Hub」には縁結び、つまりいろいろなヒト・モノ・サービスを結びつけるという意味も込めています。
鮄川:
行政サービスのうち、可能な部分は民間に任せるなど、民間と連携することが行政サービスの効率化につながると考えています。また、国内だけではなく海外の優秀な人材を呼び込むことで、地方格差の解消につながる可能性も高まります。さらに先述のとおり、教育の分野でもデジタル技術を活用することは、教育機会の不平等の是正につながると思っています。
PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー 公共事業部 デジタルガバメント統括 林 泰弘
林:
出雲市でのデジタル化への取り組みや構想について理解が深まりました。「DXとは世界を変えること」という気概を持つことは、新たな価値観を世に問い続けることと同義だと感じています。一つひとつの取り組みはまだ小さいかもしれませんが、やり続けることで点が線になり、面に広がる。その好循環を通じて世界が変わるのだと強く思いました。
第11回は、金沢大学 融合研究域 融合科学系 教授 金間大介氏を迎え、PwCコンサルティングのディレクター東海林崇とマネージャー池田真由が、労働力減少問題の課題先進業界である「福祉・介護」業界における今後の人材獲得戦略を議論しました。
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