
医彩―Leader's insight 第9回 900のアイデアを原動力に――中外製薬が実践する生成AI活用とは【前編】
中外製薬では、全社を挙げて生成AIの業務活用に取り組んでおり、現場からの900件を超えるユースケース提案を取りまとめています。前編ではDX戦略の全体像から生成AI推進体制の構築、さらに「アウトカムドリブン」による戦略目標と現場ニーズの両立について伺いました。
PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のPublic Service(PS:官公庁・公共サービス部門)は、多様な領域に対応する専門性を有する15のイニシアチブチームから構成されています。この連載(全10回)では、テーマごとにさまざまなイニシアチブからメンバーが集まり、よりよい社会をつくるために、社会課題解決へのアプローチ、新たな価値創出のアイデアなどについて語り合います。
第5回のテーマは「スポーツエンタテインメントとデジタル革命」。スポーツ産業の新たな価値創造が期待される昨今、デジタルテクノロジーや観光とのクロスオーバーによってどのようなビジネスモデルを築いていけるのか。それぞれの領域で活躍するコンサルタント4名が議論しました。
(左から)辻川和希、石井麻子、安西浩隆、清水俊雅
安西浩隆
PwCコンサルティング合同会社マネージャー
2017年新卒入社。University of California, Berkeley卒。在学中は大学アスレティックデパートメントにてセールスやマーケティングの施策立案・実行に携わったほか、スポーツ庁にて大学スポーツに関するインターンシップに従事。
PwCコンサルティング入社後は官公庁、スポーツ団体、民間企業を中心に、国内外のスポーツ産業に関する調査・分析、事業計画の策定などに従事。近年は、海外PwCメンバーファームとのスポーツビジネスに関する連携や、外部寄稿などのマーケティング活動に係る業務に携わる。
清水俊雅
PwCコンサルティング合同会社シニアマネージャー
外資系総合コンサルファームで、中央省庁・地方自治体向けにシステム構築プロジェクトなどに従事。他ファームに移り、さまざまな業界でのAIやXRなどの先端テクノロジーを活用したDX支援に携わる。
PwCコンサルティングでは官公庁におけるDX支援、主にデータ活用や先端テクノロジー活用の領域拡大を担当。
辻川和希
PwCコンサルティング合同会社マネージャー
総務省にて勤務後、2021年にPwCコンサルティングに入社。前職では自治体出向経験も有する。
現在は主に無線領域の通信制度の設計や自治体向けの計画策定支援、放送分野の制度設計支援のプロジェクトを担当。
石井麻子
PwCコンサルティング合同会社シニアマネージャー
事業会社、他ファームを経て、PwCコンサルティングに入社。観光イニシアチブチーム。観光に関連の深い民間企業(宿泊業・サービス業など)の案件や、観光および周辺領域をテーマとした官公庁・自治体案件を数多く担当している。福岡事務所所属。
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 安西浩隆
安西:
政策的な面からお話すると、2015年にスポーツ庁が誕生したことが1つの転換点です。同庁はスポーツ基本計画において「2025年までにスポーツの市場規模を15兆円まで拡大する」との目標を提示しました。
これを機に、「教育」や「社会貢献」の側面が強かった日本のスポーツ産業は、欧米のスポーツ産業のように「ビジネス」の意識を強めたと思います。例えば、当時私が在学していた米国の大学では、プロではない大学のスポーツ局が年間1億米ドル以上の収益をあげ、コンサルティング企業も参画するなど、ビジネスに重きが置かれた運営がされていました。こうした海外の状況も踏まえて、日本のスポーツ政策でも産業全体で「経営力の強化」「コストセンターからプロフィットセンター」などが重視されるようになりました。
また、日本では実業団スポーツと呼ばれる、CSRの一環として企業がスポーツチームを運営する仕組みがあります。日本独自のスポーツ文化で競技への貢献は非常に大きいですが、企業にとっては財政的な負担が大きく、近年では活動縮小などの事例が見受けられます。こうした中で、持続的な運営をするためには「試合に勝つこと」だけではなく、経営層・株主・社員などに対する新たな価値創出が求められていると思います。例えばESGなど、企業の経営課題を意識した運営をすることや、今日のテーマにあるようなテクノロジーの活用やエンタメ性の充実など、さまざまな切り口が挙げられると思います。
清水:
私は主に官公庁でDX支援に携わっていますが、先端テクノロジーをスポーツに活用できる機会は多く、実際にDXが進みつつあります。クラブチームを例にすると、データ分析による試合戦略の策定やスカウティング、チケットのダイナミックプライシングなども実用化されています。また、ドローンやマルチカメラを利用した360度の映像表現や、VRやARを用いたインタラクティブな観戦体験も登場しています。
反面、新しい技術に対してステークホルダーの理解が及んでいない場面が多々あるうえに、スポーツ界は全体的に資金不足な傾向があるので技術投資に消極的という悪循環が起こりやすい。勝利に直結するスポーツアナリティクス分野は伸びていても、観戦体験へのテクノロジーの応用には積極的ではないというケースもあります。ファン層やスポーツ関係者にテクノロジーの有効性を伝えて、小さな事例でもいいのでそのような取り組みを始めて、成功体験を重ねていくことが状況を変える契機になるはずです。
辻川:
通信技術やメディア領域からお話しすると、各スポーツはテレビ放映されることにより競技人気やファン拡大につなげることがビジネスモデルとなっていましたが、いまは多様なチャネルで視聴可能になりました。控室や試合前後の様子をSNSなどで公開し、試合以外の面でファンとの接点をつくる動きもどんどん出てきています。一方で、人気のスポーツや注目の試合の放映権をめぐる争いは熾烈になり、「独占放映/配信」となることで地上波での放送がないケースは少なくありません。リーグやチーム側も、放映権料を重視する時期なのか、ファンの裾野を広げる時期なのかを見極め、ビジネス戦略を立てる必要があると感じます。
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 辻川和希
石井:
コンテンツとしての集客力の強さは非常に魅力です。例えば、スポーツのファンの中には「選手をより近くで応援したい」という思いで現地に足を運ぶ人もいれば、そのスポーツの迫力や会場の熱気を目の前で観戦・体験することそのものに価値を持つ人もいますし、そこで出会えるファン同士の交流を楽しみにしている人もいます。さまざまな目的を持つ多彩な人を幅広く呼ぶことができる、それがスポーツのコンテンツとしての強さであると考えます。
安西:
スポーツ庁が主導している「スポーツツーリズム」という取り組みで言えば、試合観戦だけでなく周辺をめぐり、観光資源に触れてもらうといった、スポーツと観光の関わり方もありますよね。
石井:
おっしゃるとおりです。加えて、スポーツの試合がない日でも楽しめる施設など、観光のみならずビジネスを最大化できる「場」の提供事例も見られ始めています。例えば近年では、ホテルや一棟貸し切りのプライベートヴィラを併設し、サウナや乗馬などの体験も可能なスポーツ施設がオープンしています。施設自体が観光スポットになるよう設計されている例です。また、コワーキングスペースやプログラミング教室、保育園などを併設し、大人にとってのビジネススポットでもあり、子どもの体験の場にもなりうるような魅力をもつスポーツ施設も多く存在しています。
安西:
スタジアムやアリーナは、「試合会場」以上の活用可能性を秘めていると思います。スポーツの試合を数千・数万人規模の人が集まるコンテンツとみれば、それに付随したビッグデータも取得できる。こうした強みを活かせば、スポーツは企業があらゆるビジネス・テクノロジーを試す場になれる。すでに国内外で同様の事例がありますが、このような取り組みが今後増えると、企業にとってスポーツを活用し、スポンサーすることのメリットが増えるのではないでしょうか。
清水:
あらゆる領域で言われていることですが、今後デジタル技術がより深く入り込んでくると、フィジカルとバーチャルの境界は薄くなっていく。例えば仮想空間上にホームタウンを築くようなチームが出てくると、世界中からファンやスポンサーが集まれるし、オンライン集客が可能になればそれ自体がユニークなコンテンツとなり、ビジネス上の可能性が広がります。また、ファン視点でいえば、子どもや体力に自信のない高齢者、障がいを抱える人など現地観戦にハードルを感じていた人も気軽に接点をもてるようになります。地理的・時間的な制約はどんどんなくなっていきます。
石井:
リアルな体験とバーチャルの体験は相反するものではなく、掛け算によって最大化されるものだと考えます。現地での観戦の後、自宅でもまるで現場にいるかのようなリアルな観戦体験の振り返りができたり、現地に行く前にバーチャル空間でファン同士が集って関係性を構築したりするなど、時間と空間を超えたスポーツエンターテイメントの可能性が広がります。
辻川:
スポーツはライブ感や熱量を喚起し、その余韻をいかに持続させるかがファンのエンゲージメント向上に直結します。これからは、新たなデジタル技術やチャネルを掛け合わせることで、ファンの体験価値の向上や新たなファンエンゲージメントの創出が求められるはずです。
安西:
2023年に海外サッカーの人気チームが来日したのですが、日本語版のSNSアカウントを通じ、ファンと持続的な接点をつくっていたことが印象的でした。
石井:
1度きりの集客で終わるのではなく、裏側や前後のストーリーこそがファンニーズであると理解したうえで一連のコンテンツを展開している。素晴らしい例ですね。
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 石井麻子
清水:
今日のこの限られた時間のなかでもさまざまな論点が出てきました。これを踏まえて課題解決に取り組むには、所属するイニシアチブだけでは難しい。地方と都市、リアルとバーチャル、日本とグローバルといったさまざまな要素が絡み合ったテーマなだけに、コラボレーションやイニシアチブを横断する動きが必須になります。そうしたつながりのなかから課題を解決することに興味がある人には、楽しめる環境が整っていると思います。
安西:
私は、PwCのグローバル拠点とのスポーツビジネスに関する連携を担当していますが、グローバルには膨大な知見があります。スポーツ産業のトレンドが発信される欧米から得られる視点や、スポーツビジネスが急成長している中東やインドなど、日本では情報が限られる国々の実態も共有してもらうことができます。加えて、国内でもテクノロジーやデジタルなどの幅広い領域のノウハウが蓄積されています。そうした協力体制のもとでさまざまな挑戦ができるのはPwCならではだと思います。
辻川:
私の場合は特にスポーツには詳しくありませんでしたが、こうしたコラボレーションの機会を得たことでメディア側から見たスポーツのコンテンツとしての魅力に触れ、自身の専門知識を深め、アウトプットまで出てきています。自身の成長の場にもなりますし、複合的な課題にチャレンジできることにやりがいを感じています。
石井:
他のイニシアチブとの掛け合わせでいえば、クライアントの課題に対してスポーツイニシアチブと一緒に企画を提案するといった直接的なコラボレーションもあれば、間接的にも、スポーツ業界での好事例やその背景にある考え方を他業界での課題解決や取り組みに転用することや、スポーツを起点に他領域を再整理することでプラスアルファの価値を導出するといったことが多々あります。
安西:
おっしゃるとおりで、スポーツ産業のクライアントがPwCに求めているのはスポーツ自体の知識よりも、「スポーツを切り口とした新しいビジネスアイディア」だと感じます。そこではテクノロジーや観光といった他分野の専門性の高い知識が必要となり、他のイニシアチブに協力してもらうケースがあります。観光を使ってスポーツビジネスについて考え、逆にスポーツを使ってツーリズムやホスピタリティのあり方を考える。そうした相互のやりとりが活発に行われている印象です。スポーツ産業のコンサルティングは確立したビジネスモデルがあるわけではなく、こうした中で国内外のPwCメンバーと連携しながら、さまざまなチャレンジをできる環境があるのは嬉しいことだと思います。
清水:
PwCには市場規模だけではなく社会的価値を見据え、長期的な目線でスポーツビジネスを考えられる環境が用意されている。だからこそ、挑戦しがいがあります。
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 清水俊雅
中外製薬では、全社を挙げて生成AIの業務活用に取り組んでおり、現場からの900件を超えるユースケース提案を取りまとめています。前編ではDX戦略の全体像から生成AI推進体制の構築、さらに「アウトカムドリブン」による戦略目標と現場ニーズの両立について伺いました。
中外製薬では、全社を挙げて生成AIの業務活用に取り組んでいます。後編では現場にフォーカスを移し、900件を超えるユースケース提案の選定プロセスや生成AI導入時の課題、それらを乗り越えるために採用した「大規模アジャイル」の運営手法について伺いました。
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