オーストラリアサイバーセキュリティ法 ―製造業者がこれから取るべき対策―

  • 2025-02-14

はじめに

2022年に成立した英国の「製品セキュリティおよび通信インフラストラクチャ法規制」(Product Security and Telecommunication Infrastructure Bill:PSTI法)2023年に発効した欧州のサイバーセキュリティ対策に関する法令「NIS2指令」「サイバーレジリエンス法」(Cyber Resilience Act:CRA)のように、グローバルでサイバーセキュリティを確保するための法規の策定が進んでいます。

オーストラリアでは、2024年11月29日にサイバーセキュリティ法案2024が国王裁可を受けて成立しました。この法律には、製品セキュリティにかかるセキュリティスタンダードへの準拠義務や身代金支払い報告義務などが含まれています。関連のルールが適用開始されると、セキュリティスタンダードに準拠しない製品はオーストラリアで販売できなくなる可能性があります。オーストラリアで事業を行ううえで、本法への対応は必須です。

以下では、本法の概要と目的を紹介し、製造業者や販売者の義務について解説します。また、グローバルでサイバーセキュリティ関連の法規が導入される傾向が引き続き続くことが想定されることから、対応を効率化するためのアプローチについて提言します。

対象製品

原則として、サイバーセキュリティ法の対象製品は、オーストラリア国内で流通するインターネットに接続可能な製品です。これには、直接インターネットに接続できる「インターネット接続可能製品」(Internet-connectable product)とインターネット接続可能製品を経由してインターネットに接続できる「ネットワーク接続可能製品」(Network-connectable product)が含まれます。

対象となる製品は、法律の適用開始日以降に製造または提供される製品とされており、開始日以前の製品や開始日以降の中古品は対象外です。製品セキュリティにかかるセキュリティスタンダード準拠義務の開始日は、2025年11月頃となる見通しです。

セキュリティスタンダード

今回成立したサイバーセキュリティ法の文面に明確なセキュリティ要件などは明記されていません。その具体化については担当国務大臣に委ねられた形となっており、法律を実施するために制定されるルールとして導入されます。既存の国際基準や要件への参照、関連業界などとの協議も含め、さまざまな情報源からセキュリティ要件が策定されます。

製造業者の義務

製造業者には法人に限らず個人やパートナーシップなどの形態の主体が含まれます。サイバーセキュリティ法において、製造業者は、セキュリティスタンダードに準拠した製品を生産する義務と、コンプライアンス声明を提供しそのコピーを保管する義務があります。オーストラリア国内で流通する製品または流通が見込まれる製品の製造業者が対象であるため、オーストラリア国外に所在する製造業者も対象になる場合があります。

販売者の義務

サイバーセキュリティ法おいて、セキュリティスタンダードに準拠していない製品をオーストラリア国内で流通させることが禁止されます。また、販売者も製品に付随してコンプライアンス声明の提供とコピーの保管義務を負います。

効率的な対応のためのアプローチ

CRAやPSTI法など、サイバーセキュリティや製品セキュリティに関連した法規が各国・地域で策定され、導入されています。グローバルで製品を展開する日本企業には、効率的な対応が求められます。

本稿で紹介したサイバーセキュリティ法に関しては、セキュリティスタンダードの詳細要件などが公開されていないため、今後明確化されていくと思われます。一方で、欧州のCRAはすでにセキュリティ要件を明示しており、包括的かつ明確に製造業者に対し技術的な対応を求めています。そのため、CRAへの対応を推進することで、本法の要件を一定程度カバーできるものと思われます。

ただし、本法独自の対応が必要となる点もあります。先述のとおり、サイバーセキュリティ法における義務違反時の処罰は段階的に適用されますが、罰金によるペナルティではなく、企業の対応を求めるという点において、欧州のCRAや英国のPSTI法と異なります。当局から接触があった際の対応について、社内におけるエスカレーションフローや意思決定プロセスを事前に策定し確認しておくことが望ましいと言えます。

執筆者

上杉 謙二

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

エレドン ビリゲ

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

石田 健太郎

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

Email

デジタル化する工場のサイバーセキュリティ

20 results
Loading...

医薬品の安定供給を支える、OTセキュリティ実装の道筋とは

近年、製造設備などの制御系システムを守るOT(運用技術:Operational Technology)セキュリティの重要性が高まっています。第一三共株式会社でOTセキュリティ強化の活動に従事する江口武志氏に、実際の導入から運用立ち上げをどのように進めたか、現場への浸透における難しさやチャレンジについて聞きました。

Loading...

PSIRTが認知すべき海外法規制解説

28 results
Loading...

脆弱性開示ポリシーと報奨金制度 ―脆弱性報告窓口運用におけるリスクと企業がとるべき戦略―

昨今の製品セキュリティを取り巻く規制や制度への対応に伴い、企業では脆弱性開示ポリシーの整備が進んでいます。脆弱性を迅速かつ効果的に修正し運用するための、脆弱性を発見した報告者と企業との協力関係の構築と、報告者に対して企業が支払う報奨金制度の活用について解説します。

中国ネットワークデータセキュリティ条例の概説――中国サイバー三法のアップデート

2025年1月1日から施行されている中国ネットワークデータセキュリティ条例では、中国サイバーセキュリティ法、データセキュリティ法、個人情報保護法の法執行の度合いを調整・明確化しており、中国で事業を展開する企業にとって注目すべき内容となっています。本稿では同条例の規定内容を解説します。

ソフトウェアセキュリティリスクに対応するSBOMを企業全体でどう活用するか

SBOMはソフトウェアに含まれる全てのコンポーネントを明確にし、セキュリティの透明性を確保するための基本的なツールです。法規制に基づく導入要求の背景、ソフトウェアサプライチェーンリスクの特性、 SBOM運用の課題、そしてどのようなアプローチが必要になるのかを解説します。

Loading...

インサイト/ニュース

20 results
Loading...

欧州・日本の個人情報保護法規制の動向から紐解く、日本企業に求められるプライバシーガバナンスとは

西村あさひ法律事務所・外国法共同事業の石川智也氏と個人情報保護委員会の小川久仁子氏をお招きし、グローバルでの規制動向を踏まえ、日本企業が個人情報を適切に取り扱うためのリスク管理のあり方、求められるプライバシーガバナンスについて伺いました。

Loading...

本ページに関するお問い合わせ

We unite expertise and tech so you can outthink, outpace and outperform
See how