IEC 62443シリーズの概要と近年の動向

  • 2025-05-08

2009年から発行が始まったIEC 62443シリーズは、OT環境のセキュリティを確保するための推奨事項を規定した国際標準規格です。他の法規制・ガイドラインからも参照されるなど、OTセキュリティにおける代表的な規格となっています。一方で、10以上の文書によって幅広い領域がカバーされている上に、直近1、2年で複数の文書が発行・改定されるなど活発な活動が行われているため、全容を把握するのは容易ではありません。本稿では、IEC 62443シリーズ全体の概要と近年の動向について解説します。

IEC 62443シリーズを活用するメリット

IEC62443シリーズを活用することにはどのようなメリットがあるでしょうか。
まず、効率的にセキュリティを強化できる点が挙げられます。他の国際標準規格と同様に、産業分野におけるベストプラクティスを基に作成されており、活用によって対策の強度や網羅性を担保することが可能です。また、汎用的な規格でありさまざまな組織で活用できる点、OTシステムに関するサプライチェーン全体をカバーしており取引先など他組織との共通言語として用いることができる点も、セキュリティ強化の観点でのメリットとなります。

これに加えて、外部に対する説明性の高さも大きな利点です。単に国際標準規格であるというだけでなく、OTセキュリティにおける代表的な規格であることから、他の標準・ガイドラインや法規制(NIST(米国国立標準技術研究所) Cybersecurity Framework(CSF)、EUサイバーレジリエンス法(CRA)・改正ネットワーク及び情報システム指令(NIS2指令)など)への対応に活用することが可能です。また、認証制度があり、製品、システム、開発プロセスがIEC 62443シリーズの要件に準拠していることを対外的に示すことができます。認証制度の詳細は後段で解説します。

IEC 62443シリーズに基づく認証制度とその動向

先述の通り、IEC 62443シリーズについては、各文書の要求事項を満たしているかを評価・認証する制度が存在しています。自社の製品・サービス等がセキュアであることの対外的なアピールに加えて、特に欧州でビジネスを展開している企業にとってはCRA、RED(無線機器指令)、NIS2指令などへの対応のために、重要度が高まると考えられます。
制度には、ISAの下部組織が運用しているISASecureと、IECEE(IEC電気機器・部品適合性試験認証制度)によって認定された各国の認証機関による認証の2つがあります。
ISASecureには、図表4のとおり5種類の認証制度があります。これまで、製品及び製品の開発プロセスを対象とした4種の認証(CSA、SSA、SDLA、ICSA)が取得可能でしたが、新たに運用・保守段階のシステムを対象とした認証であるACSSAが2025年に開始される予定となっています。

図表4:ISASecure認証の種類

IECEEは、IEC規格に基づき登録試験機関で実施された試験結果を国際的に相互承認する制度であり、日本を含め50カ国以上が参加しています。認証は各国の認証機関が行っており、現時点では、2-4、3-3、4-1、4-2に基づく認証が行われていることがIECEEのウェブサイトで確認できます。

まとめ

IEC 62443シリーズ全体の概要と近年の発行・改定の動向、関連する認証などについて解説しました。IEC 62443シリーズはOTセキュリティにおいて国際的に参照される規格であり、利用することで多大なメリットを得ることができます。今後も動向を適宜把握し、自組織のOTセキュリティの向上や社外・法規制によるセキュリティ要求への対応に役立てていくことをお勧めします。
次回は、62443-2-1の第2版改定について解説します。

PwCコンサルティング合同会社では、現状のセキュリティ対策とIEC 62443シリーズの要求事項とのギャップをセキュリティアセスメントで分析し、結果を踏まえたToBe像・ロードマップを策定するなど、OTセキュリティに関する幅広い支援を提供しています。ご興味がある方はお気軽にお問い合わせください。

執筆者

上村 益永

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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木佐森 幸太

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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