データ利活用における外部連携スキームの検討ポイント【前編】

2021-07-01

今回は、データ利活用において外部との連携が必要な場合にどのようなスキームで連携すべきかを検討するためのポイントを、前後編の2回に分けて解説します。

データの特性と外部連携

データは21世紀の石油とも言われ、近年、企業にとって競争優位の源泉となり得る重要な資源となりつつあります。

データという資源の特性は、利用する企業が異なれば1つのデータから創出される価値は千差万別である点と、企業をまたがった多重利用が可能な点にあります。この「価値の非対称性」と「多重利用性」という特性により、データの「外部連携」という企業間連携が正当化され得ることになります。データを基軸とした競争優位の構築がカギとなる近年の事業環境において、データの外部連携は極めて重要なアジェンダです。

データ利活用時の外部連携の検討に際しては、「どのようなデータを連携し合い、どのような価値を創出するか」という内容面の議論と、「どのようなスキームでデータを連携するか」という形式面の議論があります。本稿は後者を対象とし、前半・後半の2回に分けて、データの外部連携のパターン、スキーム選定時の評価観点やメリット・デメリットを整理すると共に、事例を考察します。

データの外部連携のパターンの比較

データの外部連携のパターンは、事業主体(単独/共同)と関係性(取引関係/協業関係/親子関係)とで整理されます。具体的には、データを取引する「売買取引」、データのみ共有あるいは共同事業を行う「業務提携」、出資を伴う「資本業務提携」と「ジョイントベンチャー」(以下、JV)、親子関係となる「M&A」といったパターンが挙げられます(図表1)。

各パターンの中から最適なスキームを選択する観点として、関係構築/解消の容易さ、相手先のコミットメント、事業の主導権の所在、事業リスクの負担、収益分配の調整、自社データの他社への提供の必要性、外部データの競合性(競合のデータ利用可能性)、データ以外のケイパビリティ補完の強度、事業活動を通じたケイパビリティの蓄積、投下資本額などが挙げられます。こうした観点に照らして、各パターンを比較考量・評価する必要があります(図表2)。

ただし、これらの観点は均等に評価すべきではなく、優先度に応じた重み付けが必要です。その優先度は、ビジネスモデル構築や戦略遂行に際してデータを外部連携する目的と、抑制・回避すべきリスクに照らして検討することが重要です。

以降では、それぞれのパターンに該当する架空の事例を通じ、検討のポイントを紹介します。まず前編では業務提携事例を、後編で資本業務提携事例とJV事例を取り上げます。

図表1 外部連携のパターン
図表2 各パターンのメリット・デメリット

データの外部連携事例

業務提携

業務提携の例として、マーケティング支援事業者A社と、B2C向けサービス事業者B社によるデータを活用した取り組みについて取り上げます。

A社は、企業のマーケティング高度化支援への貢献を目指しており、支援領域の開拓を模索する中で、B社の事業に着目しました。B社がサービスを提供する領域においては、多様化する生活者の行動や趣味・趣向のデータに基づく施策立案が行われるなど、データドリブンマーケティングの重要性が高まっていました。

A社は、一般消費者の購買行動・意識などを管理する自社独自のデータ基盤に対し、B社が保有する顧客データを連携させることで、当該領域のデータドリブンマーケティングに活用可能なデータ・マネジメント・プラットフォーム(DMP)の開発を行いました。

A社は今後、B社との提携を起点に、B社の同業他社へと提携を拡大させていくことで、DMPのデータ精度を向上させるとともに、各事業者保有データを幅広く活用していく狙いから、資本関係を伴わず比較的柔軟な関係構築が可能な「業務提携」というスキームを採用しました。

「業務提携」のデメリットとしては、「資本業務提携」と比較すると、協業先とのより強固な関係構築、コミットメントの引き出し、双方のケイパビリティ補完などが見込みづらい点が挙げられます。しかしながら、A社としては、DMPに蓄積するデータを拡張・増大させ、データドリブンマーケティングで活用できるデータの精度・価値を高めるという目的に照らして、より幅広い企業と連携できる余地の大きさや柔軟性を重視し、「業務提携」を採用したのです。

一方、B社における本提携のメリットとしては、A社と共同開発したDMPのデータ活用により、ターゲット顧客の行動変容を促すプロモーションコンテンツの制作などの高度化が可能となった点が挙げられます。

顧客の消費・購買行動が多様化する中で企業が最適な意思決定を行うには自社保有データだけでは限界があるため、外部データ活用へのニーズは、今後さらに高まると考えられます。そうした中、本事例のようなデータ提供側の企業においても、他社と幅広く連携しながら顧客を多面的に分析できるデータを収集・蓄積可能なスキームをいかに構築できるかが重要だと言えます。

執筆者

石本 雄一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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