データ利活用における外部連携スキームの検討ポイント【後編】

2021-07-08

前編に引き続き後編でも、データ利活用における外部連携の事例分析・考察として、資本業務提携事例およびジョイントベンチャー(JV)事例を取り上げます。

データの外部連携事例

資本業務提携

資本業務提携の例として、業種の異なるC社・D社による技術開発での連携を取り上げます。

C社は情報通信分野におけるコア技術を有し、それを幅広い社会課題の解決に活用することを目指しています。そのためには、さらなる情報通信技術の開発に加え、多様かつ大量のデータを含む高度なデータベースが必要となります。

一方、D社は自社の既存事業で培ってきたデータの収集・管理能力、データベース構築のノウハウの活用方法を模索していました。これらの背景から、お互いのノウハウを生かし共同でデータベースを開発することについて合意するに至りました。両社は連携の推進にあたり、D社が実施する第三者割当増資をC社が引き受ける「資本業務提携」というスキームを採用しました。

C社はD社の他にも業種の垣根を超えた複数の企業と資本業務提携を進めており、いずれの会社とも中長期的にわたる関係を構築していくことを計画しています。

出資を伴う「資本業務提携」のデメリットとして、協業に際して投資(出資)が必要な点、協業が進まない際の関係解消が比較的困難な点などが挙げられます。しかし、C社が目指す社会課題解決の実現は、従来の一企業だけでは実現が難しいものであり、基盤となる技術開発や実証実験に長い時間を要します。また、国内のみならず海外のIT事業者も競合となるため、競争は激しさを増しています。そのためC社は、他社に先駆けて競争力のある技術開発を行うために、自社が持ち得ないデータに加え、独自の技術・ノウハウを持つ企業と中長期にわたり強固な関係を保ち、協業し続けることを重視し、「資本業務提携」を採用しました。


JV

JVの例として、エンターテインメント業界で異なる分野の事業を手がけるE社とF社による連携を取り上げます。

E社とF社は、データなどのリソース連携および相互のケイパビリティ補完を目的としてJVを採用し、G社を設立しました。海外事業者の国内参入が進む中でのE社が当初保有していた事業のシェア拡大、F社の本業事業に代わる新たな収益源の獲得という両社の狙いが一致した形となります。

データ活用という観点では、E社からは顧客属性・サービス利用履歴などのデータ、F社からは本業で蓄積してきたコンテンツ関連データをG社に提供することで、顧客に対してどのコンテンツをどのように打ち出し改善していくかを分析しています。また、E社はデータ分析などの技術力、F社はコンテンツ制作力も補完しています。

ただし、今回採用されたJVにはデメリットも存在します。例えば、関係解消が困難であることや、個人情報漏えいのような問題発生時の責任の所在が曖昧であることなどが挙げられます。しかし、今回はデータや人員など秘匿性の高いリソースの連携が必要であったため、両社が出資により強固な関係を構築しつつ、独立した事業体として事業推進を速められるJVを採用しました。

エンターテインメント業界では、コンテンツの質は大きな差別化要因になります。今後はコンテンツ制作会社だけでなく個人のクリエイターとの提携も検討する必要があるほか、規制緩和などによりビジネスモデルが変革する可能性も踏まえ、業種の枠組みを超えたエコシステムを形成することがカギとなるでしょう。その際にはJV以外のより適切な連携スキームが求められることになります。

終わりに

本稿では2回にわたり、データ利活用における外部連携スキームのパターン、スキーム選定時の評価観点とメリット・デメリットを整理し、事例考察を行いました。その整理・考察対象として、論点の単純化のために主に2社間の連携事例を取り上げました。

ただし現実では、複数企業かつ異業種間のデータ連携など、より複雑な連携スキームが構築されています。しかし、より複雑化した連携スキームにおいても、外部連携スキーム選定時の観点やメリット・デメリットの本質は大きく変わらないと言えます。

一方で、多様なステークホルダーの増加は、例えば各社の意図・狙いが把握しにくくなる、各社間の調整と意思統一が難しくなる、結果として自社の取るべきポジションを見定めて打ち手を導出することが困難となる、といった問題をもたらすことにもなります。

今後、多様なステークホルダーにとって「八方よし」となるデータ利活用×外部連携のスキームをいかに構築できるかが、事業推進上のカギとなるでしょう。

執筆者

石本 雄一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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