
【動画】PwCコンサルティング×日本マイクロソフト対談ダイジェスト―日本企業における今後の生産性改革の在り方とは―
「日本企業における今後の生産性改革の在り方」をテーマに、生成AI活用や日本企業における新たな働き方について、日本マイクロソフト株式会社のエグゼクティブアドバイザー小柳津篤氏とPwCコンサルティングのディレクター鈴木貞一郎が語り合いました。
広告付無料配信サービスTVerが誕生して10年が経とうとしています。ユーザー数や再生数は急激に増加、そこから取得される視聴データも膨大で多様なものとして蓄積していることを受け、その管理・運用を目的とした株式会社TVer DATA MARKETING(以下、TDM)が2024年7月に設立されました。TVerの配信から得られる視聴データを利活用することで、放送業界にどんな発展がもたらされるのでしょうか。
PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)では、株式会社TVer DATA MARKETINGが注力するデータガバナンスや視聴データの利活用に関するアドバイスを行い、会社設立を支援しました。本対談では、放送・配信コンテンツの新たな価値創出に向けた取り組みを推進する株式会社TVer DATA MARKETINGの瓜生健氏と、PwCコンサルティングの宮澤則文が、視聴データの利活用の可能性について語り合いました。
登場者
株式会社TVer DATA MARKETING
代表取締役社長
瓜生 健氏
PwCコンサルティング合同会社
ハイテク・通信・メディア事業部
執行役員 パートナー 宮澤 則文
※本文敬称略
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
(左から)宮澤 則文、瓜生 健氏
株式会社TVer DATA MARKETING 代表取締役社長 瓜生 健氏
宮澤:
従来のテレビ放送に加えて、多くのユーザーがインターネット配信を視聴するようになっている今、テレビコンテンツ(番組)の楽しみ方も変わってきているように感じます。視聴者のニーズが多様化することで、視聴率の低下や広告収入の減少が取り沙汰されることもあり、大きな変革期と呼んでいい時代を迎えている放送業界の現状を、瓜生さんはどのように捉えていらっしゃいますか。
瓜生:
在京民放5社のテレビ番組を広告付きで無料配信するTVer(ティーバー)のサービスが始まったのが2015年10月で、今年で10年目になります。テレビをアップデートし、見る場所や時間から解放することで、コンテンツを身近に、自由に楽しむ機会を提供することをミッションとしていますが、そんなTVerが生まれた背景には、地上波テレビ市場の縮小トレンドが現れ始めたことと、外資系動画サービスの台頭を挙げざるを得ません。おっしゃるとおり、ユーザーのニーズや視聴スタイルが多様化してきたことも大きな理由に挙げられるでしょう。それらの対抗軸としてTVerが生まれ、人気を獲得してきました。2024年8月には月間ユーザー数が4,100万人を超え、月間再生数も4.9億回を数えるまでに成長しています。
宮澤:
おそらく従来のテレビ放送は、この時間帯にどういう番組を放送すればどういう視聴者層が見るのかといった視聴率のトレンドを追いかけていたと思いますが、配信によって多様な視聴データが取得できるようになったことで、テレビ局の方々の視聴率、あるいは視聴データの見方はどのように変わったのでしょうか。
瓜生:
従来は、地上波テレビ放送という1つのプラットフォームからコンテンツを提供し、視聴率など「コンテンツの価値」を測っていました。ところが、インターネット配信という異なったプラットフォームでも同じコンテンツが視聴できるようになると、旧来のやり方だけでは正しいコンテンツの価値が測れなくなりました。配信でのコンテンツの視聴のされ方が地上波放送とは大きく異なっていたからです。それに伴い、テレビ各局社員の視聴データに関する向き合い方も変わりました。データ戦略を担う部署ができ、データ分析にこれまで以上に力を入れ始めたのもその頃です。最初は、各局が単独で戦略を練っていたのですが、膨大な視聴データや、個人情報など様々なユーザーデータが蓄積されるようになったためそれらを統合的に管理しようと、株式会社TVerと株式会社ビデオリサーチの出資による合弁会社TVer DATA MARKETINGが設立されました。
宮澤:
2024年7月にTDMが設立され、当社PwCコンサルティングはデータガバナンスの強化など立ち上げ期の伴走支援を行ったほか、将来的なデータ戦略の構想策定やビジネスモデル検討についても支援しています。視聴データの一元管理と効果的な利活用を実現することは放送業界全体の将来にも貢献するものと考えますが、瓜生さんはTDMの役割をどのようにお考えでしょうか。
瓜生:
TDMの役割の1つは配信計測業務で、視聴データを収集し、正確に計測すること。これに関しては、視聴データの計測において豊富な実績を持つビデオリサーチ社と協業体制を組み、リソースを活用させていただいています。もう1つは、データガバナンスを強化する体制を構築すること。サイバーセキュリティ対策をはじめ、安心、安全な運用管理を行うためのデータガバナンスの基盤作りです。最後に、視聴データを活用した新たな価値の創出。得られた視聴データをどう活用するかは、放送業界全体の発展に欠かせない課題です。データガバナンスとデータ利活用は、車にたとえるとブレーキとアクセルです。どちらが欠けても正しく車を運転することはできません。このブレーキとアクセルの踏み分け方という点で、PwCコンサルティングには貴重なアドバイスや支援をいただきました。TDMを作っていく上でPwCコンサルティングに果たしていただいた役割は非常に大きかったと思っています。
宮澤:
ありがとうございます。今後もTDMの皆様と一緒に考えていきたいのが視聴データの利活用について。その視聴データ利活用に関する研究や、利活用を行うための技術、AIの研究も進めていますので、放送業界に貢献できるアイデアを出させていただきたいと考えています。
宮澤:
従来のマスでの広告収入に対して、配信による広告の影響力をマネタイズモデルとして計測することは複雑ではないかと思うのですが、広告という観点からTVerではどのようなデータを取得することができるのでしょうか。
瓜生:
ユーザーの皆様にTVerでコンテンツを視聴していただくことでさまざまなデータを取得することができます。どんなコンテンツを、放送後何日目に、どんなデバイスで、何時ごろ、どの程度の時間、視聴してくださったのか、どんな広告をご覧になったのか、などの行動ログや、TVerのアプリケーションをダウンロードする際にご協力いただいているアンケートからは性別、年代、郵便番号などのユーザーデータも得ることができます。
それに加えて、インターネットに接続されたテレビとTVerIDの会員情報を連携させる「TVerリンク」というサービスもあり、地上波テレビ放送の視聴データと配信の視聴データを統合して分析することができるようになっています。そういった多種多様なデータをユーザーが許諾する範囲内で安心、安全に利活用させていただき、サービスの向上に役立てています。このように放送と配信を掛け合わせた「放送×配信」という考え方も、視聴データによる新たな価値創出には欠かせないものです。
宮澤:
「放送×配信」から派生して、ECサイトなどともリンクできるようになれば、まさに新たな価値を創出することができ、ユーザーの便益も大きくなりそうです。プライベートデータに基づいて見たい番組が見られる、欲しい広告が表示される、ファンコミュニティにつながる、リアルイベントに参加できるなど、ユーザーの暮らしにより近づけるためのデータが加わることで、TVerのデータを中心としたエコシステムができていくかもしれませんね。
瓜生:
そうですね。私は、データはコンテンツの価値を映し出す鏡だと思っています。データ自体が莫大な利益を生むものではなく、集まったデータを活用してコンテンツの価値を高めることで利益が生まれると考えています。データを収集しているだけでは価値は生まれません。それを有効活用して初めて価値が生まれると思っています。
宮澤:
データはインプットのパーツでしかありませんから、どう活かしていくかで本当の価値が生まれるのですね。
瓜生:
複雑化、多様化しているコンテンツに合わせたトータルオーディエンス指標の構築も必要です。トータルオーディエンスを計測することで、コンテンツの正しい価値を測ることができるようになります。コンテンツの価値が広告主に対して納得感があるものになれば、当然収益も上がってくるでしょうし、正しい指標ができることで制作者側も「この部分を改善すれば、もっと強いコンテンツになるんじゃないか」というふうに努力することができ、その結果コンテンツのクオリティも上がってくるはずです。だからこそ、そうしたものさし作りが非常に大事になってくると考えています。
宮澤:
トータルオーディエンスは、北米でも重要視されていて、テレビ放送やインターネット配信はもちろん、テレビドラマを映画化したり、グッズを販売したり、イベントを開催したり、SNSを介したファンコミュニティの醸成を促進したりというように、テレビのコンテンツがリーチできる最大のオーディエンスを獲得していくという手法ですが、そういった計測もTDMとして注力されていくということですね。
PwCコンサルティング合同会社 ハイテク・通信・メディア事業部 執行役員 パートナー 宮澤 則文
宮澤:
「データ=価値」ではなく、データを活用してテレビ放送やインターネット配信のコンテンツ、企業、さらには放送業界全体の価値を高めていくことに力を入れていらっしゃいますが、今後の展望としてはいかがでしょうか。
瓜生:
TDMは、まだ生まれて1年も経たない会社です。まずは先ほどもお話に出た配信計測業務をビデオリサーチ社のケイパビリティをお借りしながら確立させ、新たな「ものさし」を持てるようになることが先決です。そして、視聴データを活用してどういう価値を創造していけるのかという検討を進めることも重要です。
宮澤:
中長期的に目指そうとされているのはどんなことでしょう。
瓜生:
私は配信と地上波放送のデータだけでは本当に正しいコンテンツの価値は測れないと思っています。たとえば、番組から派生した映画や舞台、イベント、グッズ化展開、番組のファンが集うSNS、そして、ネットニュースなどへの記事化。そういうものがすべてコンテンツの価値につながっているからです。
放送局の強みは常に新しい良質な動画コンテンツを作り続けられることで、これは正直、日本のどこの会社も真似できないことだと自負しています。その強みを守っていくには、「コンテンツのエコサイクル」を最大化していく必要があると考えています。
ユーザーとコンテンツのタッチポイントを増やすことでリーチを広げ、リーチが広がることでコンテンツの価値が増大する。価値が増大することで収益が上がり、収益が上がればコンテンツへの投資が増え、コンテンツの質が上がる。そうして質の上がったコンテンツを新たなタッチポイントに送り出していく。こうしたコンテンツのエコサイクルを持続的に回すとともにどれだけ拡大していけるかが重要なのです。
ただ、このサイクルでボトルネックになるのが、価値と収益。価値を収益に変換するところが、まだまだうまく機能していません。コンテンツの価値向上が収益の向上につながるよう、データを使ってサイクルを回す推進力を高めていくこと。そして、放送と配信の視聴データだけでなく、将来的にはさまざまなコンテンツに関わるデータを収集し、正しく価値を測り、ユーザー、広告主、広告会社など皆さんの役に立つ、放送業界の「データ流通プラットフォーム」を確立すること。それがTDMが中長期的に目指すべき目的地だと考えています。
宮澤:
多様なコンテンツから複合的な価値を生み出すためにも、放送だけでなく配信からも得られたデータを安全に管理しながら、さまざまな業界と連携しデータ利活用を展開させることが重要ですね。今後もこうした議論を重ねながら、放送業界の発展を考えていければと思います。貴重なお話をありがとうございました。
「日本企業における今後の生産性改革の在り方」をテーマに、生成AI活用や日本企業における新たな働き方について、日本マイクロソフト株式会社のエグゼクティブアドバイザー小柳津篤氏とPwCコンサルティングのディレクター鈴木貞一郎が語り合いました。
PwCコンサルティングが提唱する給与維持型の週4日勤務制度「Four Day Workweek Approach」ソリューションの概要と成功のカギ、ベネフィットを解説します。
PwCコンサルティングは、テレコム業界内のクライアントを業界横断で支援する専門チームを組織し、事業内容や事業モデルの変革を支援しています。「ヘルスケア・ライフスタイル」領域のプロフェッショナルと共に、テレコムとの掛け合わせが生み出す未来について語りました。
日本企業が業務、IT部門それぞれで抱える課題に応えていくには生成AIの活用が有効になってきます。生成AIをどのように活用すればいいのか、PwCの考える生成AI活用戦略について、生成AI×SAPによるデジタルトランスフォーメーションを推進するET-ESのディレクター伊東 智が語ります。