半導体産業の現状

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  • 2025-04-30

約70年前にトランジスタが発明されて以来、半導体は産業の進歩をけん引し、パーソナルコンピューティング、スマートフォン、データセンター、クラウドコンピューティングなど主要な用途を実現してきました。これにより、半導体と現代産業の間には複雑な相互依存関係が存在しています。今日、半導体は欠かせないものとして私たちの生活のあらゆる面に浸透しています。

世界の半導体収益は世界のGDPの倍以上の速さで成長し、2030年までに1兆米ドルを超えると予測されています。本レポートではこの成長を推進する3つの主要因と2つの重要な動向を中心に解説しています。

部品種類別世界半導体市場予測、2023~2030年(単位:10億米ドル)
 

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出所:Omdia

メモリは新たな境地へ

メモリICは過去20年間で最も急速に成長した半導体カテゴリーであり、中でも特に際立っていたのがダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ(DRAM)と広帯域幅メモリ(HBM)です。DRAMは2024年の半導体総収益の14%を占めると予測されており、高性能並列コンピューティングや人工知能(AI)ワークロード用に最適化されたHBMは、2028年までにビット成長の年平均成長率(CAGR)は64%、収益のCAGRは58%で急成長すると見込まれています。

NVIDIAやAMDのGPUで見られるように、HBMは高スループットと低レイテンシーを活用してAIの性能を向上させます。より広範なDRAM市場はコストと規模によってけん引されていますが、HBMは高度な技術要件のため、障壁の高いクローズドループのエコシステムとなっています。HBM4を皮切りに、ロジックとメモリの融合が始まり、半導体企業はさまざまな顧客をうまく取り込む必要があるため、ファウンドリとメモリ企業の協力が不可欠となります。

HBMおよびDRAM市場予測、2023~2028年(単位:10億米ドル)  
 

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出所:Omdia

本格化する車載用半導体

車載用半導体市場は、電気自動車(EV)の普及とソフトウェア定義型自動車(SDV)の台頭にけん引され、大きく変貌しつつあります。車載用半導体の市場規模は2023年に760億米ドルとなり、次の5年間はCAGR8.9%で推移し、2028年には1,170億米ドルに拡大すると見込まれています。

電動化

車両の電動化への移行に伴い、インバーターやバッテリー管理などのEVシステムを中心にパワー半導体の需要が高まっています。炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ(WBG)デバイスは、その優れた効率性から勢いを増しており、2028年までに市場の18%を占める60億米ドルに達すると予測されています。

SDV

車載用システム・オン・チップ(SoC)の収益は、2023年に70億米ドルとなり、高性能SoCがソフトウェア定義型自動車(SDV)のリアルタイムデータ処理、ADAS制御、セキュリティモジュール、およびインフォテインメントシステムにおいて中心的役割を果たすことで、2028年までにCAGR17%で成長すると予測されています。

車載用半導体市場予測、2019~2028年(単位:10億米ドル)  
 

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出所:Omdia

半導体の自給自足でよりレジリエントなサプライチェーンを

半導体産業のサプライチェーンには重大なぜい弱性があることがコロナ禍に露呈しました。これを受けて、米国、欧州連合(EU)、韓国、中国などでは、自国での半導体の生産強化(オンショア化)に向けた取り組みが始まっています。

半導体の製造には、大口注文、強固なインフラ、高い効率性など相当な規模が必要となるため、自給自足の実現には難題が立ちはだかります。施設が競争力を維持するには、高い歩留まりと85%を超える稼働率を維持しなくてはならず、それにはスキルの高い技術者が必要です。

半導体産業の世界では高品質と低コストが求められ、複数の地域で製造能力が拡大すれば、需要を上回る過剰生産能力というリスクが生じ、競争の激化と持続不可能な価格設定へとつながりかねません。自給自足の取り組みを成功させるには、これらの要素のバランスをとることが不可欠となります。

2023年から2027年の間に約4,000億米ドルの支援を予定

米国

これまでに、12州で18件のプロジェクトを進める9社に対し、295億米ドルの補助金を授与、251億米ドルの融資を承認。プロジェクトの投資総額は20年間で3,480億米ドル以上、大半は2030年までに投資される見込み。

EU

460億米ドルのインセンティブを準備。まだ助成は行われていない。

インド

半導体のインセンティブとして100億米ドル、プロジェクト費用の最大半分を補助する計画。

日本

新たに設立されたラピダスとTSMCの間で70億米ドルの投資を計画。

韓国

20%の税額控除を通じて投資に500億米ドルを投じ、900億米ドル相当の支援を提供。

台湾

法律により、対象となる企業は研究開発費の25%、先端工程で使用される新設備の支出の5%を税額から控除。

シンガポール

工場の所有コストを25~30%削減できる可能性があり、政府によるインセンティブが米国に次いで優れた国とされる。

中国

過去10年間、国家集積回路投資基金(2014年に210億米ドル、2019年に350億米ドル、2023年に410億米ドル)や地方ファンドなどの投資ファンドのほか、減税、融資などのインセンティブを通じて半導体産業を推進。政府の総投資額は1,900億米ドルを超えると推定。

専用シリコン

専用のカスタムIC市場は、主に映像処理、ネットワークセキュリティ、AIなどのデータセンター用途にけん引され、今後10年間で大幅に成長すると見込まれています。GoogleのAI用TPUや映像エンコード用VCUなどのカスタムICによって、性能とコスト効率は飛躍的に改善されました。

設計ツールおよびサービスのコストが下がり、アクセスしやすくなったことで、カスタムIC開発はデモクラタイズされ、小規模企業でも参加できるようになりました。データセンター向けカスタムIC市場は、Amazon、Google、Microsoft、Metaなどの大手クラウド・サービス・プロバイダーを中心に、2028年までに年間で240億米ドル規模に達すると予測されています。

AI

AIは、GPU、アクセラレーター、高速HBMチップなどの半導体に大きく依存しています。AI専用シリコンの市場規模は、2028年までに1,500億米ドルに達するとみられ、その重要性は明らかです。

しかし、カスタムシリコンの包括的エコシステムの開発、先端ソフトウェアツール、AIの進歩に対処するための戦略など重要な課題は残されたままです。目まぐるしく変化するAIの世界で持続的に成長し、競争力を維持するには、こうした課題に対処していくことが不可欠となります。

半導体が切り開く日本の産業の未来

本レポートが明らかにしているのは、半導体産業が既存の延長線上では捉えきれない構造変化の中にあるということです。長年にわたり「量産効率」と「スケール」が最大の競争軸であったこの産業は、今や急速に「用途特化型」「高難度少量対応型」「スピード重視の開発協業型」へと重心を移しています。これは、AIアクセラレータ―やSDV、電動化によるパワー半導体の革新、データセンターの高密度化など、さまざまな最終市場の構造変化が同時多発的に進んでいることに起因しています。

これまで「例外」や「特殊対応」とされてきた専用多品種生産は、今や、先端ロジックや車載用途、通信、電力制御などのコア領域において標準的な要求となりつつあります。多く企業が、単一製品・大ロットの効率性ではなく、仕様変更を前提とした短サイクルの開発対応力、複雑性の高い設計への柔軟な製造プロセス、変種を吸収できる検証環境、そして何より、こうした構造変化を経済的に成立させる事業構造のしなやかさを求めています。そこではもはや、自社だけで完結できる領域は限られています。今後、企業が競争力を維持・強化するためには、組織の枠を超えて外部と連携し、構造的に変化に対応できるシステムを築くことが 欠かせません。

このことは、実際の半導体業界の成功事例からも読み取れます。たとえば、AI処理向けに需要が急拡大している HBMは、その技術的複雑性故に、メモリメーカー単独では製品化が困難でした。HBMの市場は2028年に380億米ドルに達し、サーバーDRAM市場の半分以上、DRAM全体の約28%を占めるまでに成長すると見込まれています。この背景には、TSMCが複数のメモリメーカーと2年以上にわたりHBMの共同開発を進めている ように、ファウンドリー・パッケージ・設計の連携なしでは成立しない構造があります。こうした外部連携こそが、最新世代のHBM3E、HBM4などの市場投入を可能にしています。

また、データセンター向けのカスタムIC市場は2028年に240億米ドル規模に達すると予測されています。このカスタムICの多くは、GoogleのTPUやMetaのMTIAのように、BroadcomやMarvellなど外部のASIC設計パートナーとの連携によって開発されています。それらは、演算効率とコストを両立する“特定用途向け高性能チップ”として、標準GPUとの差別化を図り、少量生産を前提とした開発・設計・製造の共創モデルが標準となりつつあります。

さらに車載半導体領域でも、1台あたりの半導体搭載額は2019年の420米ドルから、2023年には800米ドル、2030年には1,350米ドルに達すると予測されています。この数値は、電動化や自動運転、ソフトウェアアップデートへの対応といった複雑化要因の累積を示しており、セグメントや車種によって異なるアーキテクチャへの柔軟な設計対応が前提になることを意味しています。SoCやMCU、メモリといった構成要素すべてにおいて、用途ごとの微細な差異に応じたバリエーション対応力が、車載半導体メーカーや半導体の装置・材料サプライヤーにも等しく求められています。

これらの変化に対して、個社単独のリソースで対応し続けることは、技術・事業・意思決定のいずれの面においても限界があります。特に、SDVやカスタムICのように設計と製造の境界が曖昧化するプロジェクトでは、装置や材料の仕様を含めた仕様共創体制が必要不可欠となっています。このような文脈においては、企業の間では“パートナー”としての役割が重要になっています。

PwCは、こうした外部連携と構造的再設計の両方において、日本企業と並走する立場をとっています。業界・国境・企業機能をまたいだ構造理解と、意思決定支援・実行設計・伴走型マネジメントの知見を融合することで、変革の構造的な立ち上げを支援することが可能です。変化が激しく、技術が高度化し、市場が不確実性を増すこの時代において、必要なのは正確な情報や優れた技術よりも、それらをつなぎ、活用し、柔軟に進化できる仕組みと考えます。

半導体産業は、かつてない広がりと深さで社会の中に浸透し始めています。そしてそれに応えるための企業構造は、もはや1社完結では成立しません。日本の製造現場には、世界に誇れる技術の蓄積と品質への徹底した姿勢があります。しかし、半導体産業の競争環境が激しく、複雑に変化する今、そうした個々の優れた取り組みを、拠点や部門、さらには企業の垣根を越えて統合し、スピード感をもって活用できる体制がなければ、グローバルの競争で生き残ることは難しいでしょう 。分散していた強みを連携させ、再構築することが、これからの競争力の源になります。そのためには、社内の見える課題に向き合うだけでなく、見えにくい摩擦や連携の不整合にも目を向け、構造的に解決を試みる姿勢が必要です。

変革は、構想するだけでは進みません。仕組みと、それを動かす関係性をどう構築するかが肝要です。私たちはその伴走者として、日本の半導体産業の新しい挑戦に寄り添いたいと考えています。

半導体産業の現状

※本コンテンツは、State of the semiconductor industryを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

内村 公彦

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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坂野 孔一

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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酒井 健一

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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加藤 貴史

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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登島 隆

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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