「グローバル エンタテイメント&メディア アウトルック2025-2029」の視点

変化の激しい世界でアジリティを発揮する

Outlook 2025–2029
  • 2025-11-06

2029年までにエンタテイメント&メディア(E&M)業界は3兆5,000億米ドルに成長し、新たな価値創造と技術の形態が未来を形作るでしょう。

PwCは26年間、エンタテイメント&メディア業界のダイナミックな成長と拡大を追ってきました。PwCの「グローバル エンタテイメント&メディアアウトルック2025-2029」によれば、2024年の世界全体の収益は2023年の2.8兆米ドルから5.5%pt増加して2.9兆米ドルとなりました。今後5年間、エンタテイメント&メディア業界の年平均成長率(CAGR)は3.7%で拡大し、2029年には総収益が3.5兆米ドルに達すると予想されています。この業界は持ち前の柔軟性を発揮し、ユーザーエンゲージメントの深化のような業界基盤を揺らがす大規模な技術革新の中でも底堅く世界経済の成長率を上回る成長を続けるでしょう。市場全体の成長率は鈍化するものの、2029年までに新たに5,770億米ドルの収益増加が見込まれています。

低成長下でも着実に拡大

エンタテイメント&メディア業界の総収益は、2029年まで年平均成長率3.7%で成長すると予想される。

世界経済を変革する主要なトレンドは、あらゆる業界や活動領域において、「膨大な価値(PwC調査レポート「Value in motion」参照)をもたらしています。長きにわたり、エンタテイメント&メディア業界はこうしたトレンドの最先端を走り、業界の垣根を超えた変容の中心であり続けてきました。今回の予測から、私たちが注目すべき重要なテーマが浮かび上がってきました。

  • 規制改革と関税は、成長に対する大きな逆風となります。
  • 消費者の可処分所得のうち、エンタテイメント&メディアへの支出割合を高めてもらうことが根本的な課題です。
  • 広告は、エンタテイメント&メディア業界における主要な直接収益源であると同時に、成長の強力な原動力になりつつあります。2023年の世界の広告収入と消費者支出はほぼ均衡していましたが、2029年までには、広告収入は消費者支出を3,000億米ドル上回ると予測されています。
  • 世代ごとに大きく異なるエンタテイメント&メディア製品やサービスの消費行動が、新しいバリューチェーンやパワープレーヤーを生み出しており、特にゲームで顕著です。
  • AIは、2029年までの間に、広告を中心とした多くの主要な市場領域において、創造性を高める存在として、より大きな影響力を持つようになると予想されています。

景気の先行き不透明感や成長鈍化など、個人消費が引き続き伸び悩んでいることを背景に、収益の成長率は、予測期間中を通じて毎期低下する見通しです。2024年に世界の広告収入は、消費者支出から生み出された収入を上回りました(とりわけデジタル広告は目覚ましいペースで増加を続けています)。今後も両者の差は拡大を続け、年平均成長率(CAGR)で見ると、消費者支出がわずか2.0%であるのに対し、広告は6.1%と3倍以上の勢いで伸びると予想されています。

消費者支出の鈍化の要因には、マクロ経済要因やインフレへの懸念に加え、デジタル製品やサービスへのアクセス確保が個人消費の中で占める割合が増加していることがあります。個人消費・広告・インターネットコネクティビティというエンタテイメント&メディア業界の3つの主要カテゴリーのうち、インターネットコネクティビティ(固定回線およびモバイル回線サービスによる収入と定義)の収益は、依然として最大の規模を維持しています。主にモバイル回線サービスの収入に牽引され、インターネットコネクティビティ支出は2029年には1.3兆米ドルを超える見通しです。

広告費が個人消費を上回る

エンタテイメント&メディア業界の3つの主要カテゴリーのうち、個人消費は横ばいにとどまると予測されている。

デジタルメディアの動き

エンタテイメント&メディア業界のビジネスモデルのうち、今後5年間の成長率トップ5とワースト5を見ると、業界内の収益構造の変化は明らかです。下図のとおり、純粋な広告や、Netflix、Disney+、Amazon Primeなどの広告型動画配信サービス(AVOD)のような他セグメントからのデジタル広告収入などを含む、インターネット広告が上位を独占しています。一方で、パッケージ版PCゲームや雑誌広告など、最も急速に衰退しているビジネスモデルのいくつかは、アナログメディアに起因しています。

エンタテイメント&メディア業界の収益構造の変化

デジタル広告が成長率上位を占める一方、アナログメディアは後れを取る。

広告戦略が新たな段階へ

広告が市場シェアを拡大する中、技術革新と消費者行動の変化は、広告がその価値を生み出す場面を広げていくことになります。広告のより一層のデジタル化はターゲティングの精緻化をもたらし、それはより高い価値を生み出す可能性を秘めています。一方で、規制はそのようなターゲティング広告の取り組みを妨げるかもしれません。いずれにせよ直近の予想では、2024年の広告収入全体の72%を占めていたデジタルフォーマットは、2029年には80.4%にまで上昇する見通しです。

成熟市場では有料またはサブスク型製品の成長が鈍化しているため、各社は重要な要素として広告を位置づけています。オーバー・ザ・トップ(OTT)動画を例に取ってみると、セグメントの全体的な収益は、2024年の1,690億米ドルから2029年には2,300億米ドルへと急成長すると予測されています。ただし、その構成には変化があり、2020年に同事業の売上高の20%を占めたAVODは、2029年の総売上高の27.1%まで高まります。2025年6月、インドのAmazon Prime Videoは、エントリープランを「AVOD」サービスに変えました。このサービスでは、加入者は、高額の広告無料プランに切り替えない限り、「限定広告」が配信されスキップできません。Netflixの全世界の広告収入額は依然として相対的に低い水準ですが、広告付きプランが、会員数増加の大きな原動力となっています。Netflixは2025年の広告収入がほぼ倍増すると見込んでいます。

同様の傾向はビデオゲームの分野でも見られます。無料のモバイルゲームに関連したバナー広告や動画広告の拡大によって、ビデオゲームの広告収入が総収入に占める割合は、2020年の4分の1強から2024年には3分の1近く(32.3%)に急増し、2029年には38.5%に達する見込みです。消費者は、広告による不快感よりも価格低下などの恩恵が上回る場合、一定程度の広告を受け入れる傾向にあります。

広告がビデオゲームでは増加、音楽では横ばい

主要セクターでは、広告が世界の売上高に占める割合が高まるだろう。

顧客単価を引き上げることがより困難になるにつれ、小売業者は利幅の縮小を相殺するために他の収入源を求めています。そして、特にオンライン小売業者にとって、その収益源の一つは広告です。マーケターはeコマースプラットフォームに直接広告を掲載することに対して、さらに強い切迫感ともいえる意欲を示しています。リテールメディアをカテゴリーとして開拓したAmazonは2024年に、主にコアとなるAmazon eコマースプラットフォーム上のスポンサー付き商品検索によって、同社の広告収入が初めて500億米ドルを超えたと報告しました。Walmartのリテールメディア広告収入も40億米ドルを超えました。日本では、16,600店舗を展開するコンビニエンスストアのファミリーマートが、大型デジタルサイネージを活用したインストアメディア事業を展開しています。同社は、さらなる広告サービスの提供や、他の小売業者とのマーケティングおよびブランディング業務提携を目指しています。2029年までには、リテールプラットフォームが有料検索収入のほぼ45.5%を占めるようになり、2024年の39%からさらに上昇する見込みです。

有料検索はリテールプラットフォームに移行中

世界の有料検索収入のより大きなシェアは、eコマースの顧客を対象とすることになるだろう。

世界中の広告、特にデジタル広告は、絶え間なく進化するプラットフォームの中で、新しい分野に流れ込んでいます。中国では、デジタル広告市場は、ByteDanceが提供するDouyin(中国版 TikTok)や、推定1,000万人の主要オピニオンリーダー、あるいはソーシャルメディアインフルエンサーのようなショートフォームのビデオプラットフォームに支配されており、彼らはリテールブランドの広告やeコマースの取り組みにおいて中核的な役割を果たしています。ソーシャルプラットフォームを通じて販売する中国のブランドの多くは、独自の広告制作スタジオを持っています。そしてインドでは、YouTubeの約4億5,000万人という巨大なユーザー基盤が、オンラインクリエイターやインフルエンサーの巨大でダイナミックな経済の発展を後押ししてきました。2024年には、YouTubeだけでもインドのコンテンツクリエイターに28億米ドル近くを支払い、2025年には30%の上昇を見込んでいます。

ストリーミングにおける価値獲得

有料コンテンツの幅広いカテゴリーを眺めてみると、デジタルシフトが見て取れます。OTT動画と有料テレビを合わせた消費者支出の総額は、2024年の2,913億米ドルから2029年には3,185億米ドルに増加し、年平均成長率は1.8%となる見込みです。2027年には、OTT動画(サブスクリプションビデオ・オン・デマンド〈SVOD〉とトランザクションビデオ・オン・デマンド〈TVOD〉の両方を含む)からの消費者収入が、従来の有料テレビからの収入を初めて上回るという転換点を迎える見込みです。

収入の増加

OTT動画は、成長の緩やかな有料テレビ市場でシェアを伸ばす。

Amazon、YouTube、Paramount+、HBO Maxなどのグローバルなストリーミングプレーヤーは、コンテンツや機能を拡充しながら、SVODとバーチャルペイTVを組み合わせたハイブリッド型に変化しました。また、自身の成長軌道を失速させることなくケーブルテレビのような従来の有料テレビとの価格優位性を狭めながらも、継続的にサブスクリプション料金を引き上げてきました。OTTプラットフォームは、成長のための主要な商材として、広告付きプランを柱に据えています。しかし、OTT動画における収益成長も鈍化してきています。これは、競争激化や値上げへの顧客抵抗、業界の未成熟によるユーザーエクスペリエンスや価格設定の最適化途上といった要因に加え、広告費が新興プラットフォームへ移るには時間がかかるという、従来からの構図も影響しています。

インドにおける有料OTTサービスのトップは、JioHotstar(2025年に誕生したディズニーのインド事業とReliance Industries傘下のJioの合弁サービス)、続いてAmazon PrimeとNetflixです。インドでは50以上のOTTサブスクリプションプラットフォームが存在し、その多くは地域言語のコンテンツを特定の地域の消費者に合わせて配信しています。多数の小規模なプラットフォームが存在するこの状況は、水平統合やプライベートエクイティによる資本注入の好機といえます。

一方、OTT事業では、新たなコンテンツの普及が進む市場も見られます。中国では、ストリーミング大手のBaidu、Alibaba、Tencentのサブスクリプションによる家計への圧迫感もあり、Douyin、Bilibili、Kuaishouなどのプラットフォーム上で配信されているショート動画形式の「マイクロドラマ」に対する需要が急拡大しています。これらのショート動画形式のドラマは、一般的に、頻繁な場面展開、数分程度の長さ、スマートフォン向け縦型動画を特徴とし、その人気によって、プラットフォームはブランドのeコマースキャンペーンと商流の主要な焦点となっています。

さまざまな国でOTT動画の価値を獲得するために用いられる代表的な戦略には、国際化とフリーの広告資金提供サービスがあります。例えばいずれの戦略も適用されているブラジルでは、テレビメディア大手のGrupo GloboのOTTストリーミング部門であるGloboplayが、一連のグローバルパートナーシップを通じて、中南米、米国、そしてその他の国々へとサービス範囲を拡大しています。これらには、NBCUniversalのTelemundo Studiosとの協力が含まれ、その下で共同制作された映像やシリーズは、ブラジルおよび米国のTelemundoのプラットフォームの両方でGloboplay Originalsとしてストリーミングされる予定です。またブラジルでは、2024年8月にブラジルのテレビ放送局SBTが+SBTと呼ばれる無料視聴型の広告付きストリーミングプラットフォームを立ち上げ、広告やeコマースから収入を得て、SBTの豊富なコンテンツをマネタイズすることを目指しています。

オフラインエンタテイメントの継続的成長

デジタル製品やサービスへの継続的な消費者支出を促すことの難しさは、音楽ライブや映画といった非デジタル収益の回復によって浮き彫りになっています。消費者は、ゲームやウェブ検索、ストリーミングなどさまざまな体験をオンラインで行う一方、エンタテイメントにかける予算の多くをオフラインに費やしています。2024年には非デジタル収益が消費者支出の60.8%を占めており、2029年も依然としてエンタテイメント&メディアに対する消費者支出の過半数を占めると想定されています。

予測期間を通じてデジタル収益のシェアが徐々に拡大

デジタル製品やサービスに対する世界の消費者支出は、2029年にかけてゆっくりとシェアを拡大。

非デジタル収益の成長を牽引するサブセグメントに、音楽ライブ収益や映画の興行収益などがあります。米国では、2023年にラスベガスに開設されたスフィア(Sphere)が、2024年に全米のアリーナにおける最高総収益を達成し、70公演から3億6,700万米ドルを生み出しました。他にも、R&Bスターのクリス・ブラウンは、2024年12月、南アフリカ・ヨハネスブルグのFNBスタジアムで、延べ9万4,000人のファンを動員しました。また、2025年に中国では、5月に上海の虹口フットボールスタジアムでマライア・キャリーが2日間のコンサートを開催したほか、香港のシンガーであるイーソン・チャンはワールドツアーの一環として、海口で6回のコンサートを実施するなど、多くの音楽イベントが行われました。さらに、2025年3月に香港で開設した5万席、総工費が約38億6,000万米ドルの啓徳スポーツパークでは、香港ラグビーセブンズなどのイベントやコールドプレイなどのコンサートが開催されています。

世界中の消費者がライブ体験に持つ高い熱量は、世界経済に大きな利益をもたらしています。ブラジルでは、2025年5月にリオデジャネイロのコパカバナ・ビーチで開催されたレディー・ガガのフリーコンサートに推定250万人のファンが集まり、歴代女性アーティストによる世界最大のコンサートとなりました。リオデジャネイロ市が資金援助した本コンサートに参加するため、50万人以上が飛行機を利用し、地元経済に約1億米ドルを生み出したと推定されています。

世界の映画興行支出は、2024年の330億米ドルから2029年には415億米ドルに増加すると予想されています。中国のファンタジーアニメ「ナタ 魔童の大暴れ 2」は、2025年5月までの興行収入が22億米ドルに達し、世界的大ヒットを記録しました。米国では今年史上最高の興行成績を収めました。また、ハリウッドの大ヒット作(およびインドのボリウッド映画)は依然として人気があるものの、消費者の関心は地元で制作された映画に移行しています。世界全体における米国の上位5スタジオの市場シェアは、新型コロナウイルス感染症のパンデミック前の60%以上と比較して2024年時点で51.3%まで低下しました。ブラジルでは、2025年のアカデミー賞国際長編映画賞を受賞したGloboplay初のオリジナル長編映画「I’m Still Here」の成功に後押しされ、ローカル映画の需要が急増しています。そして日本では、ローカルのアニメ映画が、興行収入でハリウッド作品を凌駕しています。2024年に日本の興行収入で上位2本となった映画は、『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』と『ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の2本で、いずれもアニメ映画であり、興行収入3位も人気アニメ映画の実写リメイクでした。

拡大するゲーム市場

映画と音楽はしばしば大きな見出しで注目を集めますが、世界のビデオゲーム市場はこれら2つのセグメントを合わせた市場規模と比べてもはるかに上回っており、将来も確固たる収益源を提供し続けるでしょう。テクノロジーによりゲームの開発と実績は変革し、次々に新しい手法で価値を生み出しています。ゲームセグメントの2024年の総収益は2,238億米ドルで、2029年までには「グランド・セフト・オートVI」(2026年5月予定)などの新作が予定されており、3,000億米ドル近くに拡大する見込みです。

2024年8月、中国のゲーム開発会社であるGame Scienceは、中国初のAAA(超大作)ゲーム「黒神話:悟空」を発売しました。中国神話に根ざし、16世紀の古典小説である「西遊記」をベースとした作品で、ローンチから数週間で同時オンラインプレーヤーが140万人を突破するなど、中国で制作されたゲーム史上で、最も売れているゲームとなりました。「黒神話:悟空」の制作において、AI技術は重要な役割を果たしています。また、この作品はLenovo GroupやBYD Groupなど、多種多様な中国の有力ブランドとパートナーシップやプロダクト・タイインが実施されました。

日本では、ビデオゲーム文化の普及により、産業の規模が拡大し続けています。ニンテンドーミュージアムのチケットはほぼ毎日完売しています。バーチャルYouTuber(VTuber)は、モーションキャプチャー技術を利用したアニメ風の2D/3Dアバターでゲーム実況や配信、vlog、ファンとの交流を行いTwitchやYouTubeを中心に拡大しています。そして、「推し活」の普及によりVTuberは、他の媒体や商品にもブランドを広げています。直近ではVTuber事務所であるCOVERがニューヨークに拠点を置くバッグブランドのManhattan Portageとのコラボを発表しました。

インドでは、ゲーム産業も活況を呈しており、ゲーム利用者は5億人と見積もられています。そのうち2億人は、より良いゲーム体験のために多くの支出をすることをいとわないと見られています。2025年初め、韓国のゲーム大手Kraftonは、インドのPuneに本拠を置くゲーム会社JetSynthesysに戦略的投資を行っており、JetSynthesysは現在IPOを計画しています。また、Kraftonは2026年までにインドに研究開発施設を設置する計画を発表しています。

急成長している地域

エンタテイメント&メディアのカテゴリーやセグメントにおける価値の動きには、追い風と向かい風の両方が影響を与えています。これは各国においても同様です。国レベルの追い風には、新興国でもインドのように既に比較的大きな市場では、高い基調的成長率が含まれています。一方、主な向かい風は、多くの成熟市場における低調な成長です。米国は引き続き全エンタテイメント&メディアセクターで世界トップの市場であるものの、予測期間の年平均成長率は3.8%と、世界平均の4.2%を下回ります。2位の中国では、エンタテイメント&メディア収益がCAGR6.1%で成長し、その主な原動力であるインターネット広告部門のCAGRは8.9%です。

予測期間中、世界で最も急成長する市場は、インド、インドネシア、サウジアラビアであり、いずれも年平均成長率は7.5%を超えています。特にインドでは、中国と同様に、成長の多くがインターネット広告に起因し、年平均成長率15.9%で急拡大しています。インターネットのさらなる普及や5G接続性の向上、ソーシャルメディアやショート動画コンテンツの人気が背景にあります。一方、オーストリア、フィンランド、スイスといった成熟市場では、収益成長が世界平均をはるかに下回り、年平均成長率は1.0%から2.0%の範囲にとどまります。

世界の成長ホットスポットの発掘

発展途上国市場が最も高い成長率を示している。

案件を通じた利益の統合

近年、大手ハイテク企業の台頭をはじめとする環境変化は、エンタテイメント&メディア業界の案件組成に大きな影響を与えています。広告業界では、OmnicomがInterpublic Group(IPG)を135億米ドルで買収することを計画していますが、これはIPGの豊富なデータによってOmnicomのクリエイティブ能力を向上させることを目的としています。この取引は、AIの台頭により広告会社の利益が圧迫される局面において、コスト構造を整理し、削減する必要性を示す例でもあります。2024年に合意されたもう一つの主要な取引である、SkydanceとRedBirdがParamount Globalを80億米ドルで買収する取引は、執筆時点ではまだ規制当局の認可を待っていました(なお、本取引は2025年8月7日に完了しています)。これらの大型案件はさておき、世界のほとんどのエンタテイメント&メディア市場におけるM&Aの基本方針は、M&Aを比較的小規模に抑え、ターゲットを絞ることにありました。例えば、中国のゲーム大手TencentのUbisoftへの13億米ドルの投資や、イタリアのテレビグループMFE-MediasetのドイツのProSiebenSat.1に対する完全買収の提案、2022年にEUの規制当局によって阻まれたフランスの放送局M6とTF1の間の41億米ドルの合併に対するBertelsmannの再挑戦、東宝による北米のアニメ制作・配給会社GKIDSの買収などです。

今後のさらなる統合を予感させる最近の出来事として、Comcastは、NBCUの線形資産の一部について戦略オプションを取りやすくするため、Versantブランドでスピンオフすると発表しました。Warner Bros. Discoveryも6月、主にストリーミング資産を保有する会社と、主にケーブル事業を保有する会社の2つに再編すると発表しました。

AI:効率性から価値創造へ

AIはすでに、エンタテイメント&メディア領域の主要な業界へかなりの影響を及ぼしています。消費者や企業は、ChatGPTやDeepSeekなどの生成AI(GenAI)エンジンによる検索をますます使うようになっており、GoogleはAI生成された検索結果のサマリーを全ページの上部に掲載しています。その結果、目覚ましい勢いを見せていた検索エンジンにまつわる広告ビジネスの収益成長は、陰りを見せるどころか、衰退傾向に陥る可能性さえあります。同時に、AI検索プラットフォームは、最終的には広告を通じてユーザー利用をマネタイズする可能性があります。そうした潮流を受けて、Googleは基本検索にAIサマリーを導入し、OpenAIは広告を有望な収益源として検討しています。しかし現実には、AIは検索エンジン関連の広告ビジネスの枠組み自体を変化させています。注目すべきことに、広告代理店は検索エンジン最適化(SEO)の再定義を迫られています。つまり、通常の検索エンジンのクローラーではなく、チャットボットやAIエージェントへの最適化が要求されているのです。

それ以上にAIの影響が急速に広がっている分野は、映画、ビデオゲーム、音楽の制作プロセスです。AIの統合は当初、効率性向上の手段として扱われていましたが、波及効果はさらに広がっています。例えばビデオゲームの制作現場では、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)の能力・挙動のコーディングや3Dオブジェクトの作成に要する時間が、AIの活用によって大幅に短縮されています。昨今の新規AAAタイトルのローンチがはらむ財務リスクの高さ(一般的には2億米ドルから3億米ドルの費用がかかります)を鑑みると、AIが持つ抜本的なコスト・開発期間・リスクの削減能力はゲームチェンジャーとなり得ます。また、AIはゲームの販売戦略にも影響を及ぼしています。現在ビデオゲーム会社は、異なるデモグラフィック属性を持つ各ユーザーの離脱するタイミングを予測し、次のタイトルの広告を最適なタイミングで配信するのにAIを活用しています。

同様に、生成AIは動画広告の制作数増加にかなり大きな影響を与えています。その結果、データドリブンなアドレサブルTVやプログラマティックTVの継続的な成熟と相まって、コンテンツ制作のコストやリードタイムの削減がTV広告エコシステムの民主化をもたらし、ひいてはコネクテッドTVセグメントの成長に拍車をかけるでしょう。テクノロジーの発達により、効果測定の不正確さに対する根強い懸念が解消されつつあるいま、コネクテッドTVにおける広告ビジネスはますます強力なセクターとなっています。生成AIの進歩により、中小企業でも、以前は予算を超えていた種類のコネクテッドTVのスポットCMにも出稿可能となりつつあります。2020年には、コネクテッドTVの広告収入は、従来のTV放送における広告収入総額のわずか5.9%にすぎませんでした。2024年までにこの数値は21.5%に跳ね上がり、2029年までにはさらに急増し、44.7%に達するでしょう。

テレビ広告はますますスマートになる

AIや消費者の行動変容により、コネクテッドTVへのマーケティング支出は増加するだろう。

各地域の市場は、地域固有の強みを活かしながら、それぞれ異なる速度で成長しています。アニメコンテンツが支配的な日本では、特にアニメスタジオで活発にAIが採用されており、背景の描画やストーリーの執筆などの活動に利用しています。ここ数年、日本のアニメーションプロデューサーは、中国や韓国のような海外市場の低コストなアニメーターやリソースを多用してきました。現在、日本のアニメスタジオは、AIの活用が進んだことで制作現場の国内回帰や手作業工程の自動化が可能となり、コストの削減や制作期間の短縮を加速させています。2025年初頭、東映アニメーション(ドラゴンボールシリーズで知られる)をはじめとするアニメスタジオ数社が、日本を代表するAI研究企業であるPreferred Networks(PFN)に総額50億円(約3,500万米ドル)を超える出資を行いました。

インドでは、さまざまなブランドがAIの活用を進めており、高度な分析と自動化によってターゲティング精度と適応性を向上させ、より柔軟で魅力的なキャンペーンを展開しています。AIによってパーソナライズされたキャンペーンの有名事例として、Tata Indian Premier Leagueの2024~2025シーズンに放映された、Zomatoが自社開発した「New Gym Buddy」が挙げられます。中国では、あらゆる分野の企業がAI技術を活用し、バックオフィスと生産プロセスの効率性を同時に改善し、顧客ターゲティングの正確性を向上させています。Tencentは2025年2月、同社の人気ウェブチャットアプリ「WeChat」に「DeepSeek」を統合することを発表し、AlibabaやDouyinの両社もAIを活用したサービスの拡大を続けています。2025年3月、ByteDanceはAIチャットボット「Doubao」をDouyinアプリに統合し、AlibabaはQwen推論モデルを搭載したQuark AIアシスタントの新しいバージョンをリリースしました。

AIは世界中のエンタテイメント&メディア業界において大きな可能性を秘めていますが、2つの分野に潜在的な逆風をもたらす可能性もあります。すなわち人間の雇用への影響と、AIの学習データに著作権で保護された素材を使用することを含む多くの領域で、AIの使用を管理するために必要な規制の枠組みについて懸念と疑義が残っています。2025年半ば、エルトン・ジョンが英国におけるAI規制政策の変更を目的としたキャンペーンを主導した際、アーティストやクリエイターの間での懸念が注目を集めました。同氏は、著作権で保護されたアート作品の事前許諾なしでの取り込み・使用をテクノロジー企業に認可する提案によって、アーティストたちは「裏切られている」と述べました。AIの利点を最大限に活用するには、このような問題に関する規制の明確化が必要ですが、管轄区域によって異なるポリシーが採用された状態が続く可能性は十分にあります。

創意工夫の増幅

エンタテイメント&メディア業界におけるAI導入は、過去の技術革新の波が業界に与えた影響と似た局面となる場合が多いです。企業が最初にAIを採用するとき、コストと人件費を削減する手段として活用され、バックオフィス業務のスピードと効率性を高め、それによって利益を改善し、ひいては利益率と企業価値を向上させます。さらに、この新興技術の長期的な影響は、新しい方法での事業展開や、新たなビジネスモデルの創出、これまで未開拓だった需要の開拓などができるようになった際に表出すると考えられます。AIは、創意工夫と創造性を増幅させ、これまでのどの技術よりも潜在的に大きい可能性を秘めています。AIツールの流行とともに、AIは強力なイノベーションやコラボレーションパートナーとして浮上するでしょう。そして、業界全体が、こうしたAIの可能性を実現し始めると、それまでの想像を上回る高付加価値な体験を顧客に提供することができるでしょう。

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