延べ8,800名が参加した実証実験「社内メタバースイベント」から見えた可能性

はじめに

PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)では、2022年6月27日~29日の3日間にわたって、メタバースによる社員向けイベントを開催しました。イベントの目的は次の3つです。

1. 会社の3カ年計画およびビジネス戦略を社員に浸透させること

2. メタバースが私たちの働き方や仕事にどのような影響を与えるのかについてのインサイトを得ること

3. メタバースという先進のテクノロジーをお客さまに先んじて体験することにより、論点や課題を整理し、コンサルティング活動に生かしていくこと

本イベントを企画・実行することを、「社員を対象としたメタバースの実証実験」と位置づけ、実施のプロセスや事後の社員アンケート調査から得られた気づきや課題、示唆について紹介します。

イベントと調査の概要

  • イベント日程:2022年6月27~29日
  • イベント形式:PC・モバイル・タブレット・VRゴーグルのマルチデバイス
  • イベント内容:社内の施策等を伝える「講演」系とお笑いや音楽といった「エンターテインメント」系 計23プログラム
  • VRゴーグル:会社より希望者へ無償で配布
  • 延べ参加人数:約8,800名(ユニーク参加人数は約1,500名)
  • 調査回答者数:n=628(不参加者を含む)

実証実験から得られた示唆

1. メタバースイベントの体験価値

VRを活用したイベントへの再参加意識は高い

VRイベントへの次回参加意向を見ると、VRゴーグルを用いて参加した人の約96%が「次回も参加したい」と答えています(「ぜひ参加したい」と「どちらかといえば参加したい」の合計値。図表1)。

今後もVRを活用したイベントがあれば 参加したいですか

体験自体の評価では「リアル>VR>オンライン」の順に

VRゴーグルを使用した講演参加者の体験価値の評価では、「リアル>VR>オンライン」の順となりました(図表2)。

図表 2

また、メタバースに対して、「時間的制約からの解放」や「イベント感想の共有」といった、リアルイベントの課題を補完する点やリアルにない体験価値の点でポジティブなコメントもありました(自由回答)。

このことから、リアル+VRの「ハイブリット開催」というイベント形式によって総合満足度が高くなる可能性があります。

メタバース体験をした参加者のほうが社内戦略の理解度が高い

「社内戦略に対する理解度の変化」についての調査結果を要素分解して評価したところ、「内容理解のしやすさ」というポイントについても、メタバースイベントの有効性が示唆されています(図表3)。

社内戦略について 参加前後でどのようになりましたか

この結果は、通常のオンラインのイベントにありがちな「他の作業をしながらの参加」が、VRゴーグルを装着してイベントに集中せざるを得ない環境に置かれたことで生まれたのではと予測できます。いわゆる、「ながら視聴」の強制的な排除が起きたと考えられます。

近年、オンラインイベントやオンライン会議が増加しており、他の作業をやりながらイベントなどに参加することが多くなっています。従業員の集中力や興味を強制的に向けさせるという意味で、VRゴーグルは効果的な可能性があるといえるでしょう。

2. 社員エンゲージメントへの副次的効果

VRゴーグル体験者のイベント体験後の「会社・経営陣への好感度」は高い

今回の社内イベントに関して、会社や経営陣に対して好感を持った人の割合は、VRゴーグルを使用した参加者が最も高い結果となりました(図表4)。

VRの社内イベントに関して会社・経営陣に対し どのように思いますか

好感の持てる理由としては、「先進的な取り組みをしていること」「他社にない取り組みであること」「イベント自体の話題性」を5割以上の社員が挙げています(図表5)。

好感が持てる理由のうち当てはまるものを いくつでもお選びください

3. メタバース導入に関する課題や障壁

4人に1人がVR酔いを体験

VRゴーグルのセットアップに関しては、現状複数の課題が存在します。その1つが「VR酔い」です(図表6)。

デバイス側の進化に期待しながらも、複数デバイスの併用を前提としたイベント設計が必須と考えられます。

VR酔いを 体験

VRゴーグルのセットアップに約半数のユーザーが不満を持つ

そのほか、約46%が「設定するものが多く時間がかかった」と答えており、また約31%が「操作の仕方や設定の方法が分かりにくかった」と回答しました(図表6)。

図表 6

現状、マニュアルを確認するときはVRゴーグルを外して参照しなければならないという不便さがあります。しかし、マニュアルをゴーグルの中に取り込めれば(VR上で見ることができれば)、使い勝手は大きく変わる可能性があります。

SNSアカウントとの紐づけがセキュリティやプライバシー面での不安につながる

今回のゴーグルは希望者への無償貸与という形で行われましたが、入手を希望しなかった社員の理由として、「個人情報の共有や連携が不安」という声もありました(図表7)。

VRゴーグルを入手しなかった理由について当てはまるものを いくつでもお選びください

セキュリティやプライバシー問題については、今後プラットフォーム側で機能アップデートがあり、個人のSNSアカウントではない専用のアカウントで使えるようになることで解決される見込みです。

双方向のコミュニケーションができる設計がより良い体験価値のカギに

今回のイベントは、各種制約から一方通行のイベントで、ライブイベントや事前収録のものを参加者が視聴するというスタイルで開催されました。

メタバースを活用することにより、感想やリアクションの共有などを視聴者同士で行うことはできましたが、それを登壇者や講演者に伝えるようなコミュニケーションはできませんでした。その点を、体験上の課題として挙げる意見が一定数ありました(自由回答)。

4. メタバースの今後の可能性について

最後に、メタバースの今後の可能性について尋ねた質問の結果を2つ紹介して、本稿のまとめとします。

VRゴーグルを使用した参加者のほうが、今後の仕事に好影響を与えると感じている

VRが自身の働き方や仕事に与える影響については、VRゴーグルを用いてイベントに参加した人のほうがポジティブな評価をしていることが分かりました(図表8)。

VRが自身の働き方や仕事にどのような影響を 与えると思いますか

具体的な影響としては「海外を含めてバーチャルな共同作業・共創が可能になることへの期待」や、「VRを用いることでの社会課題解決の可能性」などが挙げられています(自由回答)。

しかしながら、ポジティブな感触を得ながらも、具体的な活用イメージについてはより深い検証が必要といった意見も散見されます。

メタバース体験により、活用イメージが創発

メタバースの活用事業領域についての質問については、多数の事業領域での活用イメージが湧いたという結果が確認できました(図表9)。

今後メタバースをどのように 活用できると思いますか

今後メタバース的な体験が普及していくのに応じて、よりその活用分野が広がってくる可能性を示唆するものといえます。「実際にメタバース体験をすることで、多数の領域で活用イメージが湧くのでは」という私たちの初期仮説が検証できた結果となりました。

おわりに

PwCコンサルティングでは、社員を対象としたメタバース実証実験の一環として、VRゴーグルを用いた社内イベントを実施しました。発展途上のテクノロジーのため、今後の発展への課題は大きいものの、総じてビジネス活用の可能性を感じるものとなりました。

また、本調査(自由回答)では、今回のイベントがきっかけでメタバースを使い始める人が複数いたことからも、本件のように何かしらのきっかけがあれば、メタバースの利用は拡大・定着する可能性があると思われます。

さらに副次的な効果として、「先進的な取り組みをしている」などの理由から会社・経営陣への好感度が高まるとともに、具体的な活用領域のイメージが想起できた点からも体験として有益だったと考えられます。

PwCコンサルティングでは、今後もこうしたメタバースに関しての取り組みで経験を積み重ね、クライアントへの提供価値を高めていきます。

企業のためのメタバースビジネスインサイト

メタバースのビジネス動向や活用事例、活用する上での課題・アプローチなど、さまざまなトピックを連載で発信します。

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主要メンバー

奥野 和弘

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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林 和洋

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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荒井 叙哉

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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三治 信一朗

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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小林 公樹

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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長嶋 孝之

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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