Session 2 デジタルトランスフォーメーション–日本の金融業界に対する示唆

顧客エンゲージメント&データアナリティクス

セッション2は、3つのテーマに分けて展開された。最初のテーマ「顧客エンゲージメント&データアナリティクス」については、PwCコンサルティング合同会社 パートナーの安達 哲也がセッションを行った。

AIの基幹技術の一つである深層学習の発展により画像・音声・文章認識などのパターン認識の精度が各段に向上し、ビジネスでも活用が進んでいる。「金融機関ではAIが業務上の意思決定を支援するようになってきているが、現状活発なのがノンコアなビジネス領域での活用だ」と、安達は述べた。金融機関ならではの活用例としては、個人顧客への融資判断における信用力の見極めや最適な金利設定などのように、過去の膨大な案件データをもとに現在の案件についてAIが示唆するというものがある。「融資判断を迅速化・精緻化することで、顧客サービス向上にも寄与することになる」(安達)

現状ではAI活用が難しいとされる高度な意思決定が必要な領域についても、将来的には期待がかかる。一つは、大量のデータから顧客の思考や行動などの特徴を割り出し、当該顧客に対する最適な商品の提案やキャンペーンを打ち出すというマーケティングでの活用であり、もう一つが人材管理やリスク管理での活用だ。「これらの分野でもAIは大きなポテンシャルを持っており、近い将来の成果に期待したい」と展望を述べた上で、欧米の金融機関のフロントオフィスにおけるAIを使ったアナリティクスの実例を紹介した安達は、最後に「スピードと高い顧客体験を提供できる組織へ変えていく力を、AI導入により培っていくのが重要ではないか」と強調した。

生産性の向上が、金融機関の価値を引き出す鍵となる

生産性の向上が、金融機関の価値を引き出す鍵となる解説図

サイバーセキュリティ

次のテーマ「サイバーセキュリティ」のセッションには、PwCあらた有限責任監査法人 パートナーの村永淳、PwCコンサルティング合同会社 パートナー、サイバーセキュリティ・アンド・プライバシーリーダーの山本 直樹、PwCオーストラリア グローバルサイバーセキュリティ・アンド・プライバシーインパクトセンターリーダーのポール・オルークが登壇した。

まず村永が、AIなどの利活用に向けたガバナンス強化の必要性について次のように力説した。「AI活用などに伴い生じる新たなリスクにも適切なガバナンスが必要になるが、ガイドラインの提示を待っていては遅く、自らガバナンスをつくる必要がある。国際機関や政府組織が示す原則などのガイドラインが、ガバナンスの観点を整理する上で有効だろう」

ポイントは、既存のガバナンスの枠組みをAIなどのリスクに応じて強化するための包括的なフレームワークの整備・運営である。「場面を想定し、既存のガバナンスを用いてどの部分に焦点を当てるべきかを、人的側面や体制面を踏まえて考えていくのが要だ」(村永)

次にオルークが、グローバル金融機関のサイバーセキュリティの動向について「多くの金融機関が、サイバーセキュリティを三大エンタープライズリスクの一つに挙げており、特に風評、財務、規制への影響が高まっている。取締役会・金融規制当局からもより関心を集めている点も注目される」と紹介した。攻撃手法の高度化などによりサイバーリスクの把握はさらに困難になっており、よりドラスティックな対策が求められている。「例えば、悪用された脆弱性の99%は、発見されるまで少なくとも一年かかるという調査結果もある。未知の脅威を既知にできない限り、何をすればいいのかも分からない。だからこそ、ビッグデータアナリティクスが重要になる」(オルーク)

最後に山本が、日本の金融機関が進むべきサイバーセキュリティ強化の方向性について考察した。「国内の状況を考えると、解決できなければ次のステージに進めないように思える直近の問題が三つある」とした山本は、(1)サイバーセキュリティに対する経営層の不十分なコミットメント、(2)グローバルグループ全体のセキュリティ管理の一貫性の欠如、(3)進化する脅威に対策が追い付かない現状を挙げた。

中でも(1)に関して、専任の最高情報セキュリティ責任者(CISO)の任命を推奨した。「CISO はもはや片手間でこなせる役割ではなく、長期的な育成プランが必要だ。しかし、米国では95%の企業にCIOがいるのに対し、日本では63%にとどまり兼任が多い。CISOの役職に関しても、企業として直接責任が取れてCEOクラスと直接話ができる立場の取締役・執行役が適任だろう」(山本)

また、(2)については実効性のあるグローバルガバナンスの構築を、(3)についてはテクノロジー面のさらなる強化を示し、経営層がサイバーリスクをリアルなものとして改めて受け止めることの重要性を、山本は訴えた。

デジタル時代の人材活用と育成

最後のテーマ「デジタル時代の人材活用と育成」のセッションには、PwCコンサルティング合同会社 組織人事・チェンジマネジメント リードのパートナー、佐々木 亮輔が登壇した。

「金融機関のデジタル変革においても、生産性向上を含め、あらゆるテーマにおいて最終的には人が担うことから、ワークフォースが重要になってくる。そのワークフォースだが、これからは自社の社員だけではなく、もっと広い範囲で見ていかないといけない。もはや必ずしも人的資産の全てを自社で抱え込む時代ではなくなっており、テクノロジー企業とのアライアンスやフリーランサーとの契約なども視野に入れた雇用体制を考えるべきである。そして経営者には、AI、RPA、ロボットなどとヒューマンワークフォースをどのように協業させいくのかに関するポジティブなメッセージが強く求められてくるだろう」(佐々木)

ワークフォースを構成する上での一つのポイントがデジタル人材の獲得だが、佐々木はハードスキルを持った人材よりもソフトスキルを有する人材をより優先すべきだとした。「ハードスキルはすぐに陳腐化してしまうので、その時代ごとに最適なハードを柔軟かつ迅速に導入できるようなソフトスキルを持った人材をいかに採用するかがカギとなってくる」(佐々木)

企業がワークフォーストランスフォーメーションを進めるには「Workforce Strategy」、「Workforce Experience」、「Workforce Environment」の三つの要件を踏まえる必要があり、既に先進的な企業では取り組みを開始しているという。そしてそのためには、人員計画策定・人件費管理などのワークフォースガバナンスモデルの構築を行わねばならないが、PwCでは世界最大規模のKPIベンチマークデータを活用することでより定量的かつ客観的な判断に基づくモデルの構築を実現している。

PwCコンサルティング合同会社 組織人事・チェンジマネジメント パートナー 佐々木 亮輔

組織生産性ベンチマークやピープルアナリティクスに関するPwCの分析モデルを紹介した佐々木は「少しずつでも常にエクササイズをしている人が強くなる」とした上で、社員のデジタルリテラシーを底上げする自己学習ツールとなるPwCのデジタルフィットネスサービスを紹介してセッションを終えた。

一連のセッションを受け、セッション2のファシリテーターを務めた矢吹は「グローバルで押し寄せるデジタル化の波はもはや不可避だが、それはチャンスでもある。皆さんとともにチャンスを生かしていきたい」と総括した。

最後に、PwC Japanグループ 金融サービスリーダーのサイモン・ギーリーが閉会の挨拶を行い、本セミナーの幕を閉じた。