Session 1 金融業界における破壊と変革のグローバルトレンド

セッション1には、PwCコンサルティング合同会社 ストラテジーコンサルティング(Strategy&) パートナーの矢吹 大介とPwC 金融サービス部門グローバルリーダー/PwC US パートナーのジョン・ガーヴェイが登壇し、PwC Japanグループ 銀行証券インダストリー リーダーの伊藤 嘉昭がファシリテーターを務めた。

まずガーヴェイが、最近の金融機関のグローバルトレンドについて解説を行った。大手金融機関において特に重要なテーマとなっているのが、収益力の強化、社会的な信頼の確立、市場構造の変化とディスラプション、リスク・規制・コンプライアンスである。

このうち、収益力の強化についてガーヴェイは「世界的な低金利や規制当局の動向、サイバーセキュリティコストの増大などを受けて、いかに収益力を上げるかが課題となっている」と述べるとともに、市場構造の変化とディスプラプションについては「中国ではテクノロジー企業が金融ビジネスに乗り出してきて、レガシーな金融機関にとって脅威になっている」と具体例を挙げた。

これを受け、矢吹は「日本にもほぼ当てはまる。特に信頼については、日本の金融業界全体で回復に取り組んでいかなければならない」とした上で、リーマンショック後の欧米金融機関と同様に、日本の金融機関でも構造改革を推し進めるべきだと主張した。

国内の金融機関におけるデジタルイノベーションの成熟段階は、第一段階、新しい技術や企業に対する“調査・研究”から小規模の案件で新たなビジネスモデルを検討する第二段階を経て、現在は、これまでの取り組みを振り返り再考する第三段階にあるとみられる。ここで伊藤が「欧米の金融機関は次のビジネスモデルへの変革期を迎えているが、日本の金融機関にももっとチャンスがあるのではないか」と問い掛けると、ガーヴェイは「大いにあると思う。日本でもデジタル化の動きが高まっている」と答え、矢吹もこの見解に同意した。

しかしながら、生産性能向上が金融機関の価値を引き出す鍵となると世界的に考えられている中、そのためのキーテクノロジーでもあるフィンテックに対して日本の金融機関の期待するところは、コスト削減効果が圧倒的に大きい一方、売上向上=イノベーションへの期待はグローバルに比して小さいことがPwCの調査から明らかになっている。

「イノベーションに関するスキルや活動に苦手意識があるのではないか。マインドセットを変えなければ、この先に進めなくなるのではと危惧している」と、矢吹は懸念を示しながら、その打開策としてデジタルトランスフォーメーションを実現するための取り組みを示した。それは、まずどの城を目指すのか経営の意思(ビジョン)を明確にした上で戦略を立て、必要なケイパビリティへの投資にフォーカスしてデジタル活用などを進めて組織やオペレーションを再構築、そして風土面では変革と文化的進化を、人材面で将来のワークフォース(人材)の想定と変革のチェンジマネジメントを推し進めるというものだ。「ビジョンや戦略づくりにおいても、経営トップが現場サイドとより粒度を合わせて判断できるよう、お互いに膝を突き合わせながらデジタルスキルやコミュニケーション能力を強化していく必要がある」と、矢吹は説明した。