VUCA時代のM&A戦略

2023-07-20

1. はじめに

日本企業においてM&Aが「経営ツール」として活用されはじめてから数十年が経ち、多くの大企業内にM&A専門組織が設置される等、M&A検討・推進機能の「標準装備化」が進んできているように感じる。

特にM&Aのプロセスやスキーム等といったテクニカルな側面については、蓄積したノウハウをもとに検討プロセス・ポイントが標準化され、かなり効率的な議論ができるようになってきている。

一方で、M&Aによりどのようなビジョンを目指すのか、どのような提携候補とどのような事業を行うべきなのかといったM&A戦略に関しては、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性の頭文字)時代と呼ばれるように益々不確実性の高まる事業環境ゆえに、今も尚M&Aにおける最難関ポイントであり続けているように感じる。

近年は、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)といったこれまでとは異なる事業モデルを取り入れる・事業モデルに転換することが必要になってきているのに加え、COVID-19の影響による行動様式の変化やウクライナ情勢も踏まえて事業環境を見立てる必要が出てきている。

このような先行きが読みにくい不確実な事業環境の中で、自社のオーガニックな事業戦略であっても戦略策定の難易度は上がっている一方で、M&A戦略においては、自社に加え、他社のアセットも有機的に組み合わせることを検討する必要があるため、更に難易度は上がる。

このように、単純にM&Aを経験したことのある企業は非常に増えている一方で、M&A戦略に関してはこれまでの考え方では通用しない側面も出てきており、明確な考え方や方法論を自社内に備えることができている企業はまだ多くはないのではないか。

従って本稿では、このように不確実性の高い時代においてでも、武器としてM&Aを有効に活用できるようになる一助になればと思い、不確実性の高い時代におけるM&A戦略との向き合い方に関して、筆者らの見解を示したいと思う。

2. VUCA時代のM&Aの難しさ

現代のような不確実性の高い時代において、企業はM&A戦略をどのように検討していく必要があるのだろうか。

その点を検討していくにあたって、まずは以下のケースについて考えてみて頂きたい。

<ケース概要>

インターネット系企業A社が、ある新興市場において注目されているスタートアップ企業B社を買収した。A社はその新興市場の将来性に期待しており、そこで高シェアを確立できる事業を創出することを目指していた。そのためにB社が重要なピースになるだろうという見立てであった。

ただし、B社は注目スタートアップゆえ、過去の資金調達段階で既にスタンドアロンでは説明が難しい程のバリエーションがついていた。よって、買収にあたってはその価値を見極める必要があった。

本来であれば、B社のアセットを活用して、その新興市場に参入し高シェアを獲得するという事業効果を価値として考えるべきであったが、新興市場はまだ黎明期であったため、定量的な効果を見込むのは難しいと判断した。

一方、何等かの定量的な効果を算出しないと買収是非の定量的な判断ができないため、買収の主目的ではないが、想定しうる既存事業との副次的なシナジーを考慮してバリエーションを検討し、十分な価値創出が見込めると判断したため買収に踏み切った。

しかし、買収から数年後、新興市場が徐々に形作られていく中で、スタートアップB社は順調に事業展開を進めていたものの、「A社が求めるような規模感」にはならなかった。A社の社内において、誰もはっきりと言及はしないものの、本来の目的達成が難しいことが暗黙の了解となりつつあった。しかし、B社自体の財務状況が悪い訳でもないこともあり、特段議論の的となることはなかった。

ただし、減損リスクを回避するには既存事業との副次的なシナジー創出が必要不可欠であり、既存事業の現場においては、他にやるべきことが山積みにもかかわらず、「減損リスクを回避するため」の仕事が増えることとなった。

上記ケースにおいて、B社買収は本当に実行すべきだったのだろうか。また、仮に実行すべきだったとして、改善すべき点はないのだろうか。

このコンテンツはPwCアドバイザリー合同会社のプロフェッショナルによるM&A情報・データサイトMARR Onlineへの寄稿記事です。詳細はこちらからお読みください(有料)。なお、執筆者の肩書などは執筆時のものです。

執筆者

西川 裕一朗

パートナー, PwCアドバイザリー合同会社

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岡崎 実来

シニアマネージャー, PwCアドバイザリー合同会社

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