3.資本政策およびファイナンス

1.資本政策に関する一般的な留意事項

株式上場により株主構成は大きく変化することになりますが、上場準備の段階から将来想定される株主構成を意識した資本政策を検討することが求められます。また、資本政策の選択肢やスキームは多岐にわたるため、株主間での調整のみならず、主幹事証券会社、メインバンクなどとの協調も重要です。一般的に資本政策立案時には特に以下の事項に留意する必要があります。

1.所要資金の調達

事業計画上、成長戦略達成のため、株式上場までに必要な資金および株式上場後に必要となる資金を資金計画として立案し、利益計画、設備投資計画、人員計画などとの整合性に留意することが重要です。

2.上場形式要件・上場前規制の充足

上場する取引所が定める形式要件への充足に加えて、基準事業年度の末日の2年前の日から上場日の前日までの株式の移動、第三者割当増資などに係る開示義務、基準事業年度の末日の1年前の日以後の第三者割当増資などの継続保有義務について留意しなければなりません。

3.安定株主対策

上場後も安定的な経営活動に賛同する株主による一定の議決権を確保するため、役員、従業員、取引先、金融機関、ベンチャーキャピタルなどへ付与する株式のバランスを配慮することが必要です。

4.役員および従業員のインセンティブ

特に公平性に留意することが重要です。また、あまりに多くの株式を役員および従業員に割り当てた場合、早期の退任・退職を誘発する可能性があるため、注意が必要です。

5.株式の流動性確保

各取引所からは、投資単位を100株1単位として、1単位の水準を5万円以上50万円未満とするよう要請があることに留意しなければなりません。

2.募集・売出し

新規上場に伴い、募集・売出しが行われることが一般的です。募集のみ、または売出しのみを行うこともできますが(市場によっては一定規模の募集が必須)、多くの場合、募集と売出しを同時に実施します。

募集も売出しも、不特定多数の投資家に対し企業の株式を取得する機会を与える点は同じですが、以下の点が異なります。

1.募集

募集とは、不特定かつ50人以上の投資家に対し、新たに発行される有価証券の取得の申し込みを勧誘することをいいます(金融商品取引法第2条第3項)。募集により、不特定多数の投資家に新株を発行し、それに対応する金銭の払い込みを受けます。このため、主に企業の資金調達のために行われます。

2.売出し

売出しとは、既に発行された有価証券の売付けの申し込み、またはその買付けの申し込みの勧誘のうち、50人以上の投資家に対して行うことをいいます(金融商品取引法第2条第4項)。売出しは、通常、大株主や役員などの既存株主の株式を不特定多数の投資家に向けて販売するため、対価となる資金は既存株主のものとなります。

3.公開価格の決定

公開価格とは、証券会社が引き受けた新規上場株式を投資家に販売する時の株価を指しますが、(1)想定発行価格の決定、(2)仮条件の決定、(3)公開価格の決定という3つの段階を経て決まります。従前は、仮条件から公開価格の決定の際には競争入札方式が採用されていましたが、現在では、ブックビルディング方式が主流となっています。

4.グローバルオファリングの概要

近年の株式上場においては、国内市場のみならず海外市場からも資金を調達する企業が増えています。株式、債券などの有価証券の募集および売出しを国内市場だけでなく、海外市場においても行うことを、一般的にグローバルオファリングといいます。発行会社が日本企業の場合、日本国内と同時に、主として米国あるいはユーロ市場において行われる募集および売出しを意味します。

一般的に国内市場だけでは株式が販売しきれない大型の株式上場であり、海外投資家による評価が高く、その高い評価を反映させることを目的とした場合に、グローバルオファリングが行われます。影響力の大きい欧米の機関投資家をターゲットとすることができるとともに、国内の市場だけではなく、海外の市場においても同時期にオファリングを行うことにより自社株式に対する需要の極大化を図ることができるというメリットもあります。

一方で、英文目論見書の作成が必要となるだけでなく、限られた日程の中で海外ロードショーを行わなければならず、コストや負担を追加で要することになります。

グローバルオファリングを実施するためには、以下のような追加コストが必要になります。

  • 英文財務諸表などに関する会計士費用
  • 発行体側の弁護士費用(日本国法、相手国法)
  • 引受側の弁護士費用(日本国法、相手国法)
  • 英文目論見書など作成費用
  • 国内、海外ロードショー関係費用

為替相場の影響もありますが、グローバルオファリングを行うにあたっては多額の追加コストを要することが想定されます。また、海外投資家は募集および売出しに一定額以上のサイズがなければ投資対象としない傾向があるため、これらの点を考慮してグローバルオファリングを選択する必要があります。

一般的に、次のようなスケジュールで実施されることが多いと考えられます。

上場承認2~3カ月以上前

キックオフミーティング

デューデリジェンス

英文目論見書ドラフト

上場承認2カ月前

英文コンフォートレターの打ち合わせ

ロードショー資料、想定Q&Aの作成

上場承認1カ月前

マネジメントインタビュー

各種契約書の作成

上場承認2~3週間前

引受審査資料の作成

国内コンフォートレターの打ち合わせ

上場承認2週間前

財務局事前相談

ロードショーのリハーサル

上場承認1週間前

シンジケート団への参加要請

上場承認日またはその翌日

主幹事証券会社のセールススタッフとのミーティング

5.旧臨時報告書方式による海外投資家からの資金調達の概要

株式上場に際して、海外投資家から資金を調達する手法として、グローバルオファリングとは別の方法を選択する企業も増えています。一般的に、日本国内における金融商品取引法などの規制に基づいて海外投資家に自社株式を販売する方式は旧臨時報告書方式(以下、旧臨報方式)と言われます。旧臨報方式では、英文目論見書を使わずにオファリングを行うことになりますが、グローバルオファリングと比較すると、一般的には上場審査と並行して英文目論見書の作成にかける追加コストや社内リソースに負担をかけられない場合でも、海外投資家へ向けてオファリングができるというメリットがあります。一方で、和文目論見書による投資判断が可能な海外投資家を対象としているので、グローバルオファリングと比較すると、自社株式に対する需要が限定的になる可能性があります。

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