子会社株式簿価減額特例

 

読み方:こがいしゃかぶしきぼかげんがくとくれい

定義

子会社株式簿価減額特例(有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法<移動平均法および総平均法>の特例)は、2020年度税制改正で創設された租税回避防止制度(政令による規定)で、内国法人(注1)が、50%超の特定支配関係がある他の法人(通算法人の場合は、他の通算法人(注2)を除きます)から、当該他の法人の株式簿価の10%超の対象配当等の額および同一事業年度内配当等の額(完全支配関係内みなし配当等の額を除きます)を受ける場合に、当該他の法人の株式等の基準時の直前の帳簿価額から、当該対象配当等に係る益金不算入相当額(外国子会社合算税制の適用を受けた外国子会社配当益金不算入制度に係る外国子会社から受ける配当等については95%相当額)を減額したうえで、基準時の有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出する特例です(法人税法第61条の2、法人税法施行令第119の3条・119の4条)。

(注1)本制度は、外国法人にも適用されます(恒久的施設を有する外国法人が、国内配当に係る益金不算入規定の適用を受ける場合が考えられます)。なお、本規定は、外国子会社合算税制等における適用対象金額の計算(国内法令規定)の際には考慮されません(国内法令規定には、益金不算入規定は含まれないため)。

(注2)初年度離脱通算子法人および通算親法人を除きます。

本特例により子会社株式の帳簿価額が減額された場合、利益積立金額が直接減算されます(法人税法第2条、法人税法施行令第9条)。

本特例は、内国法人が子会社株式等を取得した後、配当益金不算入制度を適用して配当等の額を非課税で受け取るとともに、配当等によって時価が下落した子会社株式等を譲渡することにより、税務上の譲渡損失が生じることに対応するものです。米国にも、本特例と同様の租税回避防止措置(内国歳入法Section 1059、1984年に制度創設)があります。

なお、本特例の適用により、税務上の株式の帳簿価額がマイナスの金額になることもあり得ます。また、2以上の種類の株式を有する場合は、10%判定は全ての種類の株式の帳簿価額の合計額により行い、帳簿価額から益金不算入相当額を減算する場合には、全ての種類の株式の帳簿価額を減額(各銘柄の帳簿価額の比で按分)することになります。

以下の一定の要件を満たす場合には、本特例は不適用となります。

  1. 内国株主割合要件:他の法人(外国法人を除きます)の設立の時から特定支配日(特定支配関係を有することとなった日)までの期間を通じて、当該他の法人の発行済株式等(自己株式を除きます)の90%以上を内国株主(内国法人等)が有することを証する書類を保存している場合(配当法人および新旧株主の全てが内国法人等である場合に、国内での法人段階の二重課税を排除することに一定の合理性があるとしています)
  2. 特定支配日利益剰余金額要件:配当後の他の法人の利益剰余金の額が特定支配日の利益剰余金の額を下回らない場合(その配当は、当該他の法人の取得後に生じた利益を原資としたものと考え、本特例の対象外とするものです)
  3. 10年超支配要件:特定支配日から当該対象配当などを受ける日までの期間が10年を超える場合(上述1、2の要件を満たすことが実務上困難な場合を想定しています)
  4. 金額要件:同一事業年度内の配当等の合計額が2,000万円以下である場合(他の規定の少額閾値を参考にしています)

なお、上述のいずれの要件にも該当せず、本特例の対象となる場合であっても、その益金不算入相当額の全額について株式等の帳簿価額を引き下げるのではなく、配当のうち特定支配日後に生じた利益剰余金の額から支払われたと認められる部分を本特例の対象から除くとする特例計算があります(納税者の事務負担に考慮する観点から、会計上の利益剰余金の額を用いることとしており、子会社が外国法人に該当するときは、その外国法人の所在地国の会計基準に基づいた利益剰余金の額を用います)。また、内国法人が適格合併等により被合併法人等から他の法人の株式等の移転を受けた場合、一定の要件のもと、当該被合併法人等が当該他の法人との間に最後に特定支配関係を有することとなった日を特定支配日とみなすこととされています。

一方、合併・分割型分割や、子法人を経由した配当を用いたスキームに対応するための適用回避防止規定があります(被合併法人等の関係法人が上述1または3のいずれかを満たす場合や、孫法人および曾孫法人の全てが上述1または3のいずれかを満たす場合には、この適用回避防止規定は適用されません)。

①  親法人が特定支配関係を有する法人間における合併(合併法人との特定支配日と対象配当等の額を受ける日の10年前の日とのうち、いずれか遅い日以後に行われたものに限ります)に係る合併法人に該当する場合には、以下のとおりとなります(分割型分割も合併と同様の扱いです)。

イ.  合併が金銭等不交付合併である(株主に譲渡損益が生じない)場合には、合併法人は上述1および3を満たさない(上述1または3の要件を満たす他の法人を合併法人とする合併による本特例の適用回避を防止)

ロ.  被合併法人の特定支配日の利益剰余金を、合併法人の特定支配前に獲得した利益剰余金の額に加算(特定支配後に稼得した利益剰余金の額として扱わない)

ハ.  上述①イおよび以下の②イを適用しないとしたならば合併法人が上述1または3の適用免除基準のいずれかを満たす場合には、上述ロにおける「合併法人の特定支配前に獲得した利益剰余金の額」はゼロとし、その合併の日を特定支配日とみなす(当該合併がなければ当該他の法人から受ける配当について本特例は適用されないため)

② 一定の子法人(注3)が、孫法人から1事業年度中に受ける配当等の額(注4)が、孫法人株式の帳簿価額の10%超で、かつ2,000万円超の場合(企業側の事務負担を考慮して対象を限定しています)には、以下のとおりとなります。

(注3)総資産の帳簿価額(会計上)のうち、孫法人株式の帳簿価額(税務上。日本の法人税法が適用されていない外国子会社のような子会社である場合には会計上)の帳簿価額の占める割合が50%超の法人。

(注4)特定支配日、関係法人特定支配日または対象配当等の額を受ける日の10年前の日のうち最も遅い日以後に受けたものに限ります。

イ.  子法人は上述1、3を満たさない

ロ.  子法人が孫法人から特定支配日等(注5)以後に受けた配当等(みなし配当は含まない)の額を、子法人の特定支配前に稼得した利益剰余金の額に加算する(特定支配後に獲得した利益剰余金の額として扱わない)

(注5)特定支配日と親法人が孫法人または曾孫法人(それぞれ上述1または3の要件を満たすものを除きます)との間に特定支配関係を有することとなった日のうち最も早い日とのうちいずれか遅い日をいいます。

ハ.  子法人が上述の①イおよび②イを適用しないとしたならば、上述1または3のいずれかの要件を満たす場合には、上述2における子法人の「特定支配前に稼得した利益剰余金の額」はゼロとし、子法人が孫法人から特定支配日以後最初に配当等の額を受けた日を特定支配日とみなす

また、2022年度税制改正では、直前事業年度終了後に増加した利益剰余金の額を原資として支払われた配当(いわゆる期中配当)がある場合に、その利益剰余金の額を対象配当等支払後の利益剰余金の額に含めて上述2の要件の判定を行う(選択制)ことや、全ての関係法人(孫法人・曾孫法人)がその設立時から親法人および他の法人と特定支配関係があるような場合にも適用回避防止規定を適用しないとする一部緩和措置が遡及適用されています。

(参考)

米国にも同様の租税回避防止措置(内国歳入法Section 1059 – 特別配当<extraordinary dividend>の非課税部分に係る株式簿価減額)があります。法人が、配当基準日において、保有期間2年未満の子会社から特別配当を受け取る場合、当該法人は、受取配当のうち配当控除の適用部分の額を当該子会社株式の税務簿価から減額します(配当の非課税部分が、税務上の株式の帳簿価額を超える場合、当該超過額は、当該特別配当を受領した課税年度の当該株式の売却益等として取り扱われます)。なお、設立時からの株主は原則として特別配当の適用から除外されます。100%配当控除の対象となる適格配当(持分割合80%以上)も原則として適用除外となります(関係法人グループ組成前の法人の連邦税上の留保利益または含み益を原資とする配当は除かれます)。ただし、部分清算、株式償還および組織再編から生じる特別配当についてはこれらの適用除外の対象外となります。特別配当とは、以下のとおり、一定期間中に支払われた配当の累計額が当該子会社株式の税務簿価の一定の割合以上となる配当です。

  • 85日間の配当額の累計が当該子会社株式の税務簿価の10%以上(優先株式の場合は税務簿価の5%以上)となる場合には、特別配当として扱われます。
  • 上述に加え、365日間の通常株式および優先株式からの配当額の累計が税務簿価の20%を超過する場合も特別配当として扱われます。

なお、上述の判定にあたっては、内国歳入庁(IRS)からの事前承認を得ることにより、税務簿価に代えて時価を用いることも可能です。

 なお、米国連邦税上、外国子会社合算税制やGILTI(Global Intangible Low-Taxed Income)での合算課税に係る未分配額に対応して、子会社株式の税務簿価が引き上げられる(配当時に減額)という制度になっています(日本にはない制度です)。

本用語解説は2023年9月1日現在の法令等に基づいて作成されており、これ以降の税制改正等が反映されていない場合がありますのでご留意ください。 また、本用語解説は概略的な内容を紹介する目的で作成されたもので、プロフェッショナルとしてのアドバイスは含まれていません。個別にプロフェッショナルからのアドバイスを受けることなく、本解説の情報を基に判断し行動されないようお願いします。