
データ駆動型DevOpsの具体的アプローチと成功のポイント 市場変化への迅速な対応
市場環境やビジネス要求が絶え間なく変化するなか、企業が迅速な対応と高い柔軟性を獲得するには、DevOpsとデータ駆動型アプローチの融合が有効です。本レポートでは、国内外の成功事例を参照し、データ駆動型DevOpsを実現するための具体的なアプローチを紹介します。
2022-04-04
多様化する顧客ニーズに柔軟かつ迅速に対応し、ビジネスを成長させて社会の発展に貢献するためには効率的なITの仕組み、すなわち「ITアーキテクチャ」が不可欠です。では、最適なITアーキテクチャを構築するには、どのようなアプローチが必要でしょうか。PwCコンサルティング合同会社入社1年目の玉置侑子が、20年以上にわたりクライアントのITアーキテクチャ構築支援を続けている木村栄司に、ITアーキテクチャ設計の“心得”とその“勘所”を聞きました。
登場者
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
木村 栄司
PwCコンサルティング合同会社
アソシエイト
玉置 侑子
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
(左から)木村 栄司、玉置 侑子
玉置:最初に基本的な質問です。「ITアーキテクチャ」とは何を指すのでしょうか。
木村:「ITアーキテクチャ」という言葉の定義は、業界や企業の立場によって異なることがあります。例えば、IaaS(Infrastructure as a Service)と呼ばれるITインフラのレイヤーを指す人もいますし、PaaS(Platform as a Service)のような開発プラットフォームを指す人もいます。ただし今回フォーカスしたいのは、業務アプリケーションのレイヤーとそれらのつながりです。一般的にビジネスで「ITアーキテクチャ」という場合には、この領域を意味します。
玉置:その大前提を理解していないと、クライアントとのディスカッションの中ですれ違いが生じてしまう可能性がありますね。
木村:現在のビジネスはITシステム抜きには考えられませんが、企業の目的はビジネスを成長させて社会の発展に貢献することであり、ITシステムを構築することではありません。「効率的にビジネスを成長させるITシステムとは何か」を考え、それを具現化したものがITアーキテクチャです。いわば、企業におけるビジネスの在りようを映した鏡のようなものです。ITアーキテクチャには、その企業がどのようなビジネスをしたいのか、今後どのような企業に成長したいのかが反映されていると考えてください。
玉置:「ITアーキテクチャは企業のビジネスの在りようを映す鏡」という表現は腑に落ちます。
木村:例えば、M&A(合併・買収)や事業設立などの経緯から、グループ企業内で重複するビジネスファンクションを保持することがあります。その場合、企業全体の効率化を図るために、組織の統合を考えなければなりません。なぜなら、1つの企業内で同じファンクションのシステムが複数稼働していれば、組織統合しても十分なシナジーが得られないからです。ビジネスの変革を行う際には、必ずと言っていいほどITアーキテクチャの改革が必要になります。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 木村 栄司
玉置:次にITアーキテクチャを検討する際のポイントについて教えてください。
木村:まずはクライアントの現在と将来のビジネス像を理解することです。これはクライアントの将来像を把握し、そこから逆算してITアーキテクチャを検討するために必要です。
例えば、製造業を営む企業が自社のビジネスモデルを変革し、「モノ売りからコト売り」へのシフトを検討しているとしましょう。これまでのモノ売りでは「設計」「調達」「生産」を管理するITシステムさえあれば、製造に関する部分は網羅でき、消費者に販売する部分は小売業者に任せてしまえばビジネスとして成立していました。しかし、「コト(体験)」を提供するということは、消費者とダイレクトにつながるチャネルを持っていることが前提であり、それを支える仕組みの構築が不可欠です。これまで持っていなかったチャネルがないとビジネスが立ち行かなくなるときに、それを支える仕組みとしてITが登場するのです。
玉置:つまり、クライアントのビジネス変革に応じて、それを支えるITの仕組み、すなわちITアーキテクチャが必要であり、その仕組みも継続的に変革しなければならないのですね。
木村:そのとおりです。そして次のステップは「ITの品揃え」を割り出し、ITシステムの開発コンセプトを考えることです。
「ITの品揃え」とは、例えば、消費者とのチャネルとなる顧客用モバイルアプリケーションや、それを運用するITシステムを指します。一方、ITシステムの開発コンセプトは、「ITの仕組みをどのようなアプローチで構築するか」を考えることです。具体的なアプローチとしては、クイックにスタートし、開発を続けながら進化させるアジャイル型や、最初に明確な完成図を描き、そこまでの工程を綿密に立案するウォーターフォール型があります。
技術トレンドや顧客ニーズが目まぐるしく変化する現在では、ウォーターフォール型の開発には限界があると言われています。しかし、今後の開発手法が全てアジャイル型になることもないでしょう。時間をかけて品質を作り込む必要のある金融の基幹システムを、全てアジャイル型で開発することは現実的ではありません。「最も適切な開発手法は何か」を考えて開発コンセプトを決定し、その方向性を明確に定めることが大切です。
玉置:開発コンセプトを決定する際に留意すべきポイントはありますか。
木村:既存システムの扱いです。新規開発するシステムと既存のシステムは、必ずセットで考えなくてはなりません。既存システムの価値を見極め、今後のビジネスでどのような役割を担わせるのかを明確にすることが大切です。
玉置:それはなぜでしょうか。
木村:例えば、会計システムを考えてください。税制などの改正があれば多少の変更はありますが、会計システムが提供する機能の根幹部分は、どのようなビジネスモデルを採用しても変わりませんよね。
では、小売業の販売システムはどうでしょうか。例えば、量産するコンシューマ向け製品の場合、需要予測を立てて商品を調達し、製造・販売するのが一般的です。この場合、調達・製造・販売の各システムは個別に機能しています。しかし、カスタマイズ製品を中心に販売するビジネスモデルにシフトするのであれば、製造と販売のシステムを一体化する必要があります。つまり、製造と販売のシステムを、根幹部分から変更しなければなりません。
ITアーキテクチャの構築とは、既存システムを全て捨てて作り替えることではなく、将来的にも価値が変わらないものは使い続けるようにすることです。
玉置:なるほど。既存システムも包含して開発コンセプトを決めること、その見極めが大切なのですね。
木村:はい。開発コンセプトが決まったら、その次は既存システムとの連携やソリューションの構成など、システムの全体像を描き、開発計画を立案していきます。また、開発コンセプトを決める中で「消費者に関するデータを一元的に管理して可視化する」というようなシステム構造の変更を決定した場合には、データの配置なども考慮しなければなりません。
PwCコンサルティング合同会社 アソシエイト 玉置 侑子
玉置:次にITアーキテクチャ構築の進め方について教えてください。クライアントの将来的なビジネス像を理解し、それに向かってITアーキテクチャを設計するとのことですが、一筋縄ではいかない作業であると感じています。どのように進めていけばよいのでしょうか。
木村:まずはクライアントが公開している中期経営計画やIR情報など、クライアントの社内資料などを読み込むことです。クライアントが目指している方向性を把握し、そのうえでクライアントにインタビューします。「クライアントと同じ土俵に立つ」という意味においても、こうした作業は必須です。
当たり前ですが、クライアントのビジネスを最も理解しているのはクライアント自身です。外部のコンサルタントがどんなに中期経営計画やIRを読み込んでも、クライアントと同レベルの知識が身に付くわけではありません。こうした作業はクライアントと話し合えるだけの知識を身に付けるためです。業界の知識はもちろん、クライアントのビジネスモデルや事業別利益、組織構造なども理解する必要があります。
玉置:話は少し脱線してしまいますが、「クライアントの将来的なビジネス像」は揺るぎないものなのでしょうか。例えば、M&Aや企業内組織の大改変があった企業では、現場で意見の相違があってもおかしくないと思います。
木村:確かにM&Aや事業統合などによって、これまでの業務とは違う業務に就く部門がITアーキテクチャの構築に協力的でないケースはあると思います。
私たちにできることはクライアントのトップを巻き込むことです。企業が示した中期経営計画は、会社が目指したい方向性を明確に示した「錦の御旗」です。ITアーキテクチャの構築はそれを実現するためのIT改革ですから、反対する大義はありません。そのことをクライアントのトップに理解してもらい、従業員が同じ目標に向かって進めるよう社内の機運を醸成してもらうことが大切です。
玉置:具体的にITの仕組みを検討するには、何から実施するのでしょうか。
木村:現状においては、SaaSの利用を検討することが第1の候補です。SaaSのメリットは迅速に導入できることです。また、昨今では業界特化型のSaaSが多数あり、一部のSaaSは業界のデファクトスタンダードになりつつあります。業界特化型のSaaSはアドオンやカスタマイズを大幅に削減できますし、コストの抑制も期待できます。
また、こうしたSaaSを活用するもう1つのメリットは、業界標準として必要な機能が迅速にアップデートされることにあります。逆に、カスタムで作り込んだシステムであれば、自分でアップデートしなければなりません。ただし、そうしたプロジェクトには失敗がつきものですから、ある程度のリスクを伴います。そのリスクを極小化できるのがSaaSなのです。
玉置:まずはSaaSの導入を念頭にITの仕組みを検討するのですね。その他に留意すべきことはありますか。
木村:気をつけなければならないのは、システム間の境界線を決めるところです。それぞれのSaaSやソフトウェアを比較すると、機能的な重複が必ずあり、どちらを利用するのかが議論になります。この課題を解決するには、外部の調査や同じSaaSやソフトウェアを導入しているユースケースなどを参考に検討する必要があります。また、必要であれば、SaaSやソフトウェアを提供しているベンダーにヒアリングをして決めていきます。
(左から)玉置 侑子、木村 栄司
玉置:最後にPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)が提供するサービスについて教えてください。ITアーキテクチャの構築を支援するサービスは、コンサルティングファーム各社をはじめ、ITベンダーも提供しています。その中でPwCの強みとは何でしょうか。
木村:大きく分けて3つあります。1つ目はあらゆる業界のスペシャリストと技術のスペシャリストを擁していることです。クライアントが抱える課題は、ビジネスと技術の両方の視点から検討しなければなりません。PwCコンサルティングには両方のスペシャリストがいますから、クライアントの課題や目標に合わせ、適切なチームを組成して支援できる体制が整っています。
2つ目はベンダーニュートラルな立場であることです。ITベンダーは自社製品を売らなければなりませんから、「自社製品の中から最適なものを提案する」という姿勢になりがちです。一時期、多くの日本企業は「パッケージ製品をカスタマイズした結果、ベンダーロックインによってバージョンアップやメンテナンスに莫大なコストが必要になった」という課題を抱えていました。しかし、PwCコンサルティングにはそうした“制約”はありません。ですから、クライアントにとって最適なソリューションを提案できるのです。
3つ目はグローバルなネットワークを有していることです。海外の事例や業界動向の調査はPwCが最も得意としているサービスです。例えば、日本で導入事例が少ないSaaSの評価や、将来的に業界のスタンダードになりそうなツールを調査し、海外の導入事例なども含めてレポートすることが可能です。
玉置:お話を伺って、ITアーキテクチャを構築することは、クライアントのビジネスを縁の下から支えることだと理解しました。ビジネスのダイナミズムとIT技術のトレンドを熟知し、支援する、とても重要な仕事ですね。本日はありがとうございました。
(左から)木村 栄司、玉置 侑子
木村 栄司
ディレクター, PwCコンサルティング合同会社
市場環境やビジネス要求が絶え間なく変化するなか、企業が迅速な対応と高い柔軟性を獲得するには、DevOpsとデータ駆動型アプローチの融合が有効です。本レポートでは、国内外の成功事例を参照し、データ駆動型DevOpsを実現するための具体的なアプローチを紹介します。
今回の調査では、「先進」の96%が期待通りのDX成果をあげており、これらの企業では複数部門での連携やシステム開発・運用の内製化および自動化が進んでいることが明らかになりました。DX成功のポイントを探り、今後取り組むべき4つの具体的な施策について提言します。
テクノロジーが急速に発展し、複雑な環境変化を引き起こしている昨今、リスクに迅速に対応し得るデジタルガバナンス態勢構築の重要性は高まっています。この領域での支援に豊富な経験を有するディレクター本田弦にデジタルガバナンスの本質やPwCコンサルティングの取り組みについて聞きました。
システムやアプリケーションのロールイン/ロールアウトを行うグローバルITプロジェクトを世界各国でリードしてきたディレクター大野元嗣に、その特徴や進め方、各国の現場でコンサルタントが果たすべき役割について聞きました。