
データ駆動型DevOpsの具体的アプローチと成功のポイント 市場変化への迅速な対応
市場環境やビジネス要求が絶え間なく変化するなか、企業が迅速な対応と高い柔軟性を獲得するには、DevOpsとデータ駆動型アプローチの融合が有効です。本レポートでは、国内外の成功事例を参照し、データ駆動型DevOpsを実現するための具体的なアプローチを紹介します。
2022-01-12
デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業が直面する課題の1つに、「DXが組織に定着しない」ことが挙げられます。“DXソリューション”と銘打った製品やサービスを導入しても、継続的に活用できなかったり、ビジネス現場や顧客のニーズを満たせなかったりするケースが少なくありません。その背景には「デジタルケイパビリティ」の不足があります。DXを推進し、組織に定着させるためには最新の技術導入のみならず、それらを活用する「能力(Capability)」が不可欠です。では、デジタルケイパビリティとはどのような能力であり、それを組織に定着させるには何が必要なのでしょうか。本稿では、PwCコンサルティング入社2年目でクライアントのDX支援に日々奮闘しているアソシエイト福嶋恵里が、PwCコンサルティングでデジタルケイパビリティの向上支援を統括するパートナー瀬川将義に、デジタルケイパビリティについてさまざまな角度から話を聞きました。
登場者
PwCコンサルティング合同会社
パートナー
瀬川 将義
PwCコンサルティング合同会社
アソシエイト
福嶋 恵里
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
(左から)瀬川 将義、福嶋 恵里
福嶋:最初にデジタルケイパビリティとは何かを教えてください。
瀬川:Capability(ケイパビリティ)と聞くと、個人の能力やスキルをイメージする人も多いと思いますが、ここで言うCapabilityは、「組織全体として持つべき能力」を指しています。つまりデジタルケイパビリティとは、「デジタルを活用するために、組織として持つべき能力」のことです。
DXを継続的に推進して組織に定着させるには、最新技術やソリューションの導入といった「ハード面」だけでなく、それらを活用して効果を最大化させる「ソフト面」の取り組みが不可欠です。
具体的に説明しましょう。ハード面ではAI(人工知能)などの最新テクノロジーを搭載したソリューションをはじめ、クラウドベースのITインフラやアジリティの高いアーキテクチャの整備など、IT面での取り組みが必要であることは言うまでもありません。
しかし、ハード面だけを整備しても、これらを有効に使いこなさなければデジタル化による恩恵は受けられませんし、DXによる効果は限定的かつ一時的になってしまいます。技術の進歩や顧客ニーズ、社会要請といった外部環境の変化に対して柔軟に適応できなければ、すぐに陳腐化してしまいます。DXは「最新技術やソリューションを導入したらそれで終わり」ではないのです。
導入した技術やソリューションをビジネスニーズに合わせて継続的に活用するには、デジタルを活用して変革し、それを定着させ、継続するといったソフト面での能力が欠かせません。PwCではこの能力を「デジタルケイパビリティ」と呼んでいます。
福嶋:デジタルケイパビリティには具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
瀬川:最新技術やソリューションに対して高度なアンテナを張り、情報を取得できる「情報収集力」や、そうした技術やソリューションを理解し、自社にとって何が有効かを見極める「目利き力」が挙げられます。ビジネスとITを一体として捉え、デジタル技術の活用戦略策定や、新規ビジネスの企画を立てる「企画立案力」も重要な要素です。
また、スモールスタートが可能な投資管理プロセスや、アジャイル開発のプロセス標準化と定着など、DXを効果的に推進するための「プロセスやガバナンス」なども組織が保有すべき能力の1つとして挙げられます。
さらに、経営層の「デジタルリーダーシップ」も重要であり、全社を横断的に最適化すると同時にスピード感を持って変化に対応していける「DX推進組織体制」もデジタルケイパビリティの要です。
これらに加えて、DXにおいて最も重要となる「人材」を確保・育成する能力があります。
社員のデジタルリテラシー向上はもちろん、デジタル開発を内製するインソーシングのための人材確保や育成も不可欠です。また外部の組織と協業するオープンコラボレーションという手段もあります。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 瀬川 将義
福嶋:デジタルケイパビリティは多岐にわたる領域で求められる能力なのですね。企業が抱えるデジタルケイパビリティに関する課題にはどのようなものがあるのでしょうか。
瀬川:そうですね。紹介したデジタルケイパビリティを全て備える日本企業は少ないでしょう。
デジタルケイパビリティに関して企業が抱えている課題としては、「全体最適とスピード」「IT子会社活用」「デジタル人材」の3つがよく聞かれます。
「全体最適とスピード」とは、DX推進を実現する組織体制に関する課題です。DXの推進には、全社横断での全体最適とスピードの両立が重要です。全体最適を意識しすぎると関係者が増え、スピードが落ちます。一方、スピードを優先して現場単位で進めると全体最適の観点がなくなり、二重投資や全社横断でのシームレスなデータ活用ができなくなってしまいます。DX推進の組織体制にはさまざまなスタイルがあり、デジタル専門組織を設置したり、既存のIT部門が中心となってその中にデジタル担当を設けたり、各事業部門で実施したり、ワーキンググループ(WG)を立ち上げたり、プロジェクト形式にしたりといった形が考えられるでしょう。どの方法にもメリット・デメリットがありますが、各社の風土や、全体最適とスピードのどちらを重視するかなどに応じて選択し、それによって発生し得るデメリットへの対策も検討する必要があります。
「IT子会社活用」とは、IT子会社が担う役割の変化に関する課題です。DXではクラウドやパッケージといったサービスや製品の利用が促進されます。つまり、これまでIT子会社が担ってきたシステムの維持・運用などの業務を、クラウドベンダーやパッケージベンダーといった外部ベンダーに移管することになります。
一方で、変化の激しい顧客向けサービスなどのアプリケーションの開発やデータアナリティクスといったデジタル関連の業務に対するニーズは増加します。しかし、IT子会社ではこれまでそのような役割を担っていないため、適したスキルを持つ人材が不足しており、これらのニーズに対応できないという問題がよく聞かれます。したがって今後の変化を踏まえ、IT子会社の役割を再定義し、態勢を整える必要があります。
そして何よりも課題なのが、3つ目の「デジタル人材」です。DXにおいてはサービス企画からサービスインをスピーディに行う必要があります。その過程で、ビジネスとITサービスを一体として捉えて開発する人材を社内で抱える「インソーシング」への動きが加速すると想定されますが、そうした人材の採用や育成に問題を抱えている企業は少なくありません。
福嶋:先ほど「DX推進にはビジネスとITを一体として捉えることが重要」との話がありましたが、これまでIT部門とビジネス部門は分けて考えられていました。インソーシングを担うデジタル人材は、ITとビジネスの両方を理解している必要がありますよね。こうした人材の採用や育成が進まない理由は何でしょうか。
瀬川:デジタル人材は流動性が高く、「自分が活躍できる組織で、やりがいのある仕事ができるか」といった点を重視します。しかし、多くの企業では会社としてのデジタル戦略やDXの方向性を打ち出せておらず、デジタル人材像の定義、すなわち活躍のイメージが曖昧です。このような状態では、魅力的な企業として認識されないでしょう。
また、デジタル人材の市場価値は高いため、高いスキルを持っていれば若くしても高い給与やポジションが望めます。しかし、旧態依然とした年功序列の報酬体系や組織体制では、デジタル人材にとって魅力あるキャリア形成の場とはならないと思われます。
福嶋:なるほど。デジタル人材の採用・育成に関する課題は、人事制度だけではなく、企業全体の組織体制やDX戦略に起因しているのですね。まずはデジタル人材が「この企業で働きたい」というモチベーションを持てる環境を整えることが重要ですね。では、デジタル人材の採用や育成に、企業はどのように取り組むべきでしょうか。
瀬川:そうですね。「世の中へ大きなインパクトがあるデジタルプロジェクトに参画できる」「この会社で働くことでキャリアアップができる」「将来はCEOやCIOになれるキャリアパスがある」となれば、デジタル人材には魅力的な会社に映るはずです。つまりDXが経営戦略上重要な位置付けであり社内外に認められていることが大きなモチベーションとなります。ですから、デジタル人材の採用・育成に取り組むにあたり、自社のDX戦略やビジョンを明確化し、しっかりとアピールしていくことが大切です。そして、戦略に基づいてIT部門やデジタル部門の役割を明確にし、デジタル人材の人材像やキャリアパスをはっきりと示すことも、彼らが目指す姿をイメージするために重要です。また、デジタル人材の特性を考慮した評価・報酬体系の構築も、人材獲得や維持の上で重要です。
福嶋:デジタル人材の採用や育成で、PwCコンサルティングはクライアントに対してどのような支援をしているのでしょうか。
瀬川:先に福嶋さんが指摘したとおり、デジタル人材の採用や育成は人事の課題ではなく、DX戦略や組織体制の課題であることがほとんどです。
ですから、PwCコンサルティングではDXのビジョン設定や戦略立案、それを実現するためのIT部門やデジタル部門の役割の定義から支援します。それを踏まえて、DXを推進するためには、「どのようなスキルや経験を持った人材が何人必要か」といった人員計画に落とし込みます。そして、人材の評価基準の作成や育成施策の策定、実践的な人材育成プログラムの提供などを行っています。
福嶋:人材育成を含むデジタルケイパビリティ向上プログラムの具体的な内容について聞かせてください。
瀬川:人材育成の課題はクライアントごとに異なりますし、実践的なスキル醸成においてはOJTが効果的です。ですからPwCスタッフが「アドバイザー」という形で参画し、プロジェクト全体を包括的に支援しています。そのうえで、アジャイル開発手法を組織に定着させるための講座開設、スキル向上のためのデータアナリストへの伴走や、データ活用の考え方、DXプロジェクトに対するアプローチの方法のコーチングなどを行っています。
また、環境作りの観点では、スモールスタートでスピーディにDXを進めるための投資管理プロセスや、アジャイル開発マニュアルの整備などのガバナンス構築、全社員がデジタルを活用するためのデータ分析基盤の構築、ローコード・ノーコードツールの導入といったツールの整備も支援しています。
PwCコンサルティング合同会社 アソシエイト 福嶋 恵里
福嶋:今後デジタルケイパビリティは、企業のどの部門が持つべきなのでしょうか。
瀬川:デジタルケイパビリティはIT部門やデジタル部門のみならず、全社・全組織が身に付けなければならない能力です。経営層も含め、全社員が「デジタルマインド」を持つべきでしょう。DXに向けたデジタル環境の整備はIT部門やデジタル部門が率先して行う必要がありますが、それらを活用していくのは、ビジネスの現場にいる社員です。そして、環境変化に合わせてスピーディにサービスを改善したり拡充したりと進化させていくのも、ビジネス部門の社員であるべきだと考えます。
福嶋:私がこれまで参画させて頂いた案件では、、組織全体に「システムの構築はIT部門の役割」という概念が根付いてしまっており、ビジネス部門を巻き込むのが難しいという課題に直面しておりました。私もこうした課題に対してどのように支援すべきか、試行錯誤しています。
瀬川:まずはDXとは特定の専門家や部門の話ではなく組織全体の全員のチャレンジであるという本質を理解してもらわなければなりません。それには、経営層から強いメッセージを繰り返し発信していくことと、少しずつでも全員にデジタルスキルを身に着けるトレーニングやDXのメリットを体験してもらうことが必要です。また、DXに限らずですが、組織体制の変更や部門横断的なプロジェクトでいちばん苦労するのが、これまでのセクショナリズムから脱却するという社員のマインドチェンジです。時間のかかる取り組みですが、根気強く支援を続けてください。
福嶋:ありがとうございます。最後に今後の展望を聞かせてください。DXが定着した“アフターDX”の時代は、IT部門やデジタル部門にどのような役割が求められるのでしょうか。
瀬川:10年後の将来を見据えると、IT部門やデジタル部門の役割は大きく変わっていくと考えられます。
現在のDX推進において、IT部門やデジタル部門の役割は“立ち上げ屋”です。クラウドを活用したITモダナイゼーションや、簡易に開発できるアプリケーションの開発環境の構築といった役目を担っています。しかし、先述したとおり、DXの要はスピードですから、デジタルを活用する人やデジタルサービスを進化させるのはビジネスの第一線で活躍している現場担当者です。
将来的にITインフラやアーキテクチャは、クラウド活用が基本になります。また、ソリューションもSaaSやパッケージの活用が当たり前になります。そうすると、IT部門はこれまでのようなITシステムを「作って運用する」部門ではなくなり、全社横断の観点からDXにかかわるナレッジを集約して共通化や再利用によりビジネス部門を支援したり、必要なガバナンスで全体最適を図ったり、セキュリティを確保したりといった機能を果たすCoE(センター・オブ・エクセレンス:組織横断専門組織)になるでしょう。
しかし、このような状態にしていくには、IT環境の整備、プロセスやルールの整備、人材の育成などを通じてデジタルケイパビリティを十分に高めておく必要があります。当面は、このような土台作り、すなわち「トランスフォーメーション」を担うのが、IT部門やデジタル部門の役割だと思います。こうしたトランスフォーメーションを支援し、デジタル社会実現の一翼を担うことが、PwCのミッションであると考えます。
(左から)瀬川 将義、福嶋 恵里
市場環境やビジネス要求が絶え間なく変化するなか、企業が迅速な対応と高い柔軟性を獲得するには、DevOpsとデータ駆動型アプローチの融合が有効です。本レポートでは、国内外の成功事例を参照し、データ駆動型DevOpsを実現するための具体的なアプローチを紹介します。
今回の調査では、「先進」の96%が期待通りのDX成果をあげており、これらの企業では複数部門での連携やシステム開発・運用の内製化および自動化が進んでいることが明らかになりました。DX成功のポイントを探り、今後取り組むべき4つの具体的な施策について提言します。
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