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Science Based Targets Network(SBTN)は2023年5月24日、SBTs for Nature(科学に基づく自然関連目標)ガイダンスのv1.0をリリースしました。自然への影響と依存、自然関連リスク・機会の評価や情報開示のフレームワークとしてはTNFDが注目されていますが、科学的なエビデンスに基づく目標設定のためのフレームワークであるSBTs for Natureも企業が自然関連の対応を実施する上で重要なガイダンスの1つです。
SBTs for Nature解説コラムシリーズの第1回では、2023年5月にリリースされたSBTs for Nature(v1.0)ガイダンスの概要を紹介しながら、TNFDとの関係性や企業としての対応方法などについて概観します。ガイダンスの各ステップにおける要求事項などの詳細に関しては、第2回以降のコラムで解説します。
SBTs for Natureは、企業や都市が科学に基づいて自然関連目標を設定することを促すフレームワークであり、技術的ガイダンスです。SBTs for natureのガイダンスは、科学的根拠に基づく行動を拡大するための最も強力なネットワークを構築することを目的とするGlobal commons allianceの構成イニシアティブの1つであるScience Based Target Network(SBTN)により作成されています。気候関連目標については、 Science based targets initiative(SBTi)がガイダンスを作成しています。SBTs for Natureでは、気候もスコープに入っていますが、こちらについてはSBTiのガイダンスに準拠するという建付けとなっています。
生物多様性の劣化は深刻な課題であり、多くの自然資本・生態系サービスに依存している企業にとって大きなリスクとなっています。科学に基づく目標を設定し、自然への影響を回避、低減、そして回復させることは、レジリエントなビジネスや持続可能な経済の未来を創造することにつながります。また、2030年までに排出量を半減させるという世界的な気候変動目標を達成するためにも、自然への対応は不可欠です。
SBTs for Natureのガイダンスやリソースは、企業の自然保護と回復における役割を明確化するとともに、その競争力とレジリエンスへの明確な道筋を与えてくれます。
SBTs for Natureは、大きく「分析・評価(Assess)」「理解・優先順位づけ(Interpret & Prioritize)」「計測・設定・開示(Measure, Set & Disclose)」「行動(Act)」「追跡(Track)」の5つのステップから構成されており、各ステップの中で「淡水」「土地」「生物多様性」「海洋」「気候」の5つのトピックに分かれています(気候はSBTi)。今回の第1回目のリリースではステップ3までが公開され、ステップ1と2は5つのトピック共通のガイダンスという形で公開されました。ステップ3については「淡水」「土地」「生物多様性」(生物多様性についてはショートペーパーのみ)までが公開されています。
図1:SBTs for Nature(v1.0)の公開範囲
出典:SBTNウェブサイトよりhttps://sciencebasedtargetsnetwork.org/how-it-works/the-first-science-based-targets-for-nature/(2023年6月20日閲覧)
本稿では各論に入る前に、SBTs for Natureを理解する上で必要な基本概念について解説します。まずバリューチェーンの捉え方ですが、SBTs for Natureではバリューチェーンを「上流フェーズ」「直接オペレーション」「下流フェーズ」の3つに大きく分けています。これはTNFDと同じ区分です。その中で、原料の生産調達などを行う「上流フェーズ」、自社工場などにおける製造や加工を行う「直接オペレーションは」今回のガイダンスにおいて必須対応領域とされています。今後は、「下流フェーズ」についてもガイダンスを充実させ、必須対応としていく予定です。
次に、SBTs for Natureにおける自然と人間の関係を捉えるための基本的な枠組みについてみていきましょう。SBTs for Natureでは、IPBESが提唱する5つの主要影響要因(土地改変・資源採取・汚染・気候変動・侵略的外来種)を採用しています。これらはさらに12項目に細分化されており、こちらもTNFDと同じ区分です。この中で現状、必須対応となっている項目は、土地改変(陸域)、資源利用(水)、気候変動(GHG排出)、水質汚染、土壌汚染の5つです。
企業にとっては、世界中広範囲に広がる上流工程について、トレーサビリティが十分に確保されていないためにどこから手を付ければいいのか分からないという課題があります。また、プレッシャー項目についてもバリューチェーン内のどの事業にかかわるのか、どのプレッシャー項目を見ていく必要があるのかを判断ができないといった課題に直面するケースが考えられます。
SBTs for Natureは上記のような課題に対応し、企業の目標設定をサポートするためのツールを同時に公開しています。
<High Impact Commodity List>
1つは、High Impact Commodity List(HICL)です。これは、自然への影響が大きいとされるコモディティ(原材料)をリスト化したもので、表計算ソフトのファイル形式で配布されています。
多種多様な原材料を扱う大企業にとっては、アセスメントに取り掛かる対象原料の優先順位付けを行う際などに参考となるリストとなっています。ガイダンスにおいてもステップの一番初めであるステップ1aにおいて使用するツールとして位置付けられています。
<Materiality Screening Tool>
もう1つは、Materiality Screening Toolという自社の企業活動による自然への影響の概観を把握することができるツールです。このツールは現在広く使用されているバリューチェーンの自然関連評価ツールであるENCOREというツールをベースとしており、SBTNにおいて改良が加えられたものです。ISIC(国際標準産業分類:International Standard Industrial Classification)の経済活動区分から自社の活動をピックアップして選択することで、自社活動による潜在的な自然への影響を把握することができます。
SBTN Resourcesのウェブページは以下からアクセス可能です。
https://sciencebasedtargetsnetwork.org/resources/
TNFDは影響と依存、リスク機会を評価・開示を支援するためのフレームワークおよびガイダンスを提供しているのに対し、SBTs for Natureは企業の目標設定のためのフレームワークやツール、ガイダンスを提供しているという点で、ガイダンスの観点が異なります。しかし、TNFDのLEAPアプローチの中の“P”(Prepare)に、パフォーマンス測定という目標設定に関する項目は含まれていますし、SBTs for Natureの方でも、目標設定するための現状把握・評価のステップが含まれているように、TNFDとSBTNはスコープとして重複するところが多くあります。
TNFDのv0.4では、SBTNと共同でSBTs for Natureとの関係性に関するドキュメントが公開されており、TNFDとしてはLEAPアプローチに沿って評価を進める中で、特に目標設定についてはSBTs for Natureのガイダンスを参照することを推奨しています。また、両イニシアティブのアライメントとして、以下のような形でTNFDとSBT for Natureの関係性を示しています。
両イニシアティブは完全に整合するものではありませんが、あくまで大方の方向性としては以下のような形で整合することが示されています。
図4:TNFDのLEAPとSBTNの5ステップアプローチの関係
出典:TNFD v0.4 Annex4.8(Figure 1)より
目標のスコープとしてはTNFDのほうが広く、TNFDではバリューチェーンの下流やプレッシャー項目としての大気汚染、また企業から自然への影響だけでなく依存関係なども含まれます。
スコープの違いはありますが、重なる部分に関しては、TNFD対応を行う上でのより実務的・技術的なガイダンスとして、SBTs for Natureを活用するという使い方が可能であると考えられます。
SBTs for Nature解説コラム第1回は、概要とツール、TNFDとの関係性について解説しました。第2回は、Step1の「分析・評価(Assess)」とStep2の「理解・優先順位づけ(Interpret and Prioritize)」について、ガイダンスの概要を解説します。
PwCのグローバルネットワークでは、SBTs for Natureのパイロット評価チームとして一部メンバーが参画しております。(https://www.pwc.com/gx/en/about/corporate-sustainability/environmental-stewardship/nature.html)
PwCサステナビリティの生物多様性・自然資本およびネイチャーポジティブ関連のサービスについてはサービス紹介ページをご覧ください。