2050年カーボンニュートラル実現に向けたスマートシティの活用

2021-09-21

「2050年カーボンニュートラル」への挑戦

2019年度の日本の温室効果ガス排出量(GHG: Greenhouse Gas)は12億1,200万トン(CO2換算)であり、政府はこれを2030年までに2013年度比46%減、2050年までに実質ゼロにするという新たな目標を掲げました。これは、パリ協定で掲げられた「2030年までに2013年度比26%減」という目標を大幅に上回るチャレンジングなものであり、その実現に向けてさまざまな取り組みが動き出そうとしています。

約12億トンのGHGの内訳は9割がCO2であり、その85%がエネルギー起源のものです。日本のCO2排出量は、削減目標の基準年である2013年度をピークに減少が進んでおり、GDPが上昇している近年においても減少傾向を維持しています。その要因としては、東日本大震災をきっかけとするエネルギー利用に対する意識の変化や、各種省エネ対策の進展、建設に時間を要する大型の再生可能エネルギー発電所の運用開始などが考えられます。

しかしながら、経済活動にはエネルギーが不可欠であり、依然としてGHG排出量ゼロへの道のりは長いと言えます。そのため、経済成長を維持しながらCO2排出量を削減するためには、エネルギーの使用量削減とエネルギー転換を両輪とする施策を大胆に進めなければなりません。

図表1 日本のCO2排出量とGDP

そのためには企業・国民の意識の変革とともに、エネルギー転換、産業構造転換やイノベーションの実現も不可欠であり、国も「グリーン成長戦略」として産業政策の柱と位置付けています。これにより、官民が連携した施策や地域のネット・ゼロ実現に向けた協力体制が加速していくことが予想されます。

カーボンニュートラル実現を加速させるスマートシティ

2050年 日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」でも触れている通り、スマートシティはもともと再生可能エネルギー利用の促進やエネルギーの効率利用により、低炭素社会を実現するための概念でした。テクノロジーの進歩とともに、その概念はデータ利活用を中心としたまちの高機能化を担うものとして進化してきましたが、地域のカーボンニュートラルは、まさにエネルギーという根源的なテーマに立ち返っていると言え、スマートシティ分野に積み上げられてきたさまざまなノウハウや仕組みを結集することで実現に近づいていくと考えられます。

カーボンニュートラル実現策の大きな方向性としては、継続的かつ大胆な省エネ推進、エネルギー利用における電化率の向上および非化石燃料への転換、利用電力の非化石化、CO2の回収・有効利用・貯留(CCUS: Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage)の促進などが挙げられます。地域においては、まず地域全体の省エネ化および電化の促進、導入ポテンシャルシミュレーションに基づく再生可能エネルギーの最大化が求められます。またマイクログリッド、バーチャルパワープラント(VPP)、デマンドレスポンス(DR)などの分散型電源の最大活用を前提とした地域電力供給の仕組みづくりや、エネルギー消費量および温室効果ガス排出量の見える化(収集・モニタリング)も重要と言えます。さらに、企業、住民、電気事業者と自治体がデータを連携・共有しながら、まち全体のエネルギー消費・温室効果ガス排出量をマネジメントできるようなスマートシティの基盤づくりも必要となってきます。

図表2 地域におけるカーボンニュートラル実現策

地方創生とカーボンニュートラル

カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを計画にするにあたっては、エネルギーを含めたまちの経済循環を念頭に置くことが重要です。特に地方都市においては、早期のカーボンニュートラル実現による企業拠点の誘致や、積極的な再生可能エネルギー開発と域外への供給による収入獲得を地方創生の観点から目指すなど、単なる温室効果ガス削減の取り組みにとどまらないような計画、施策を検討することをお勧めします。

PwCでは、スマートシティ官民連携プラットフォームにて、「ネット・ゼロ スマートシティ検討分科会」を運営しています。当コラムでは、分科会で得られた示唆などを引き続き紹介していきます。

執筆者

安田 景

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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