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これまでさまざまなスマートシティサービスの実証が日本の多くの都市において取り組まれました。そのような動きの中で、資金、体制、合意形成、ユーザー利用といったハードルによって、実証から実装への進展が難しいのが現状です。実証段階の想定よりもユーザーからの支持獲得が難しかったため、実装化を断念せざる得なかったケースも見受けられます。
なぜユーザーのためのスマートシティサービスが、ユーザーに支持されなかったのでしょうか。その一因として、実証に着手するにあたり先に導入したい新しい技術があり、そこにユーザーの課題を当てはめていたためではないかと考えられます。新しい技術の導入は否定するものではなく、新しい技術により新たなニーズが顕在化することももちろんあります。しかし、技術起点でサービスを考えた場合は、技術だけで解決可能な課題に焦点を絞ってしまいがちになり、技術だけで解決できない課題が見落とされる可能性もあると考えられます。実装化を進めるにあたっては、まずは技術ありきではなく、ユーザーの課題・ニーズありきのアプローチを志向することが先決です。
では、都市にさまざまなスマートシティサービスを導入する際に、ユーザーの課題・ニーズを起点としたサービスを組成するためには、どのような考え方が必要となるのでしょうか。
都市にはさまざまな課題・ニーズが存在し、その解決策は1対1とは限りません。課題・ニーズを起点に、なおかつ都市の課題解決を最適化するためには、課題・ニーズを体系化し、それを解決するための取り組みや活動を定義し、そのうえで必要となる技術を考えていく必要があります。
ユーザーの課題・ニーズを抽出し、それらのつながりや背景を可視化し、それらが解消された場合にもたらされる変化を整理することで、どのような取り組みをどのような優先順位で取り組むべきか、そのために必要な技術や資源は何であるかを明らかにすることができます。
本コラムではユーザーの課題・ニーズを可視化し、つながりを構造的に捉え、そこから必要な取り組みを考えるツールとして、「インパクトツリー」を紹介します。
「インパクトツリー」はImpact、Outcome、Output、Activity、Inputで構成され、それぞれ以下のように定義しています。
これらをツリー上に整理することにより、もたらしたい変化に必要な取り組みや活動がなされているか、実施している取り組みや活動はもたらしたい効果につながっているか、取り組みを実施するために必要な資源が確保できているかなど、Impactをもたらす取り組みの推進におけるさまざまな取り組みの全体像を把握し、検討・評価することができるツールであるとも言えます。
インパクトツリーの利用は、スマートシティなどのまちづくりを考える上でも有効です。例として、下図はスマートシティサービスの組成にインパクトツリーを活用したモデルケースとなります。そのまち独自の目標を設定し、住民や来街者などのユーザーのニーズや課題をくみ取り、達成したいまちの姿の設定をします。目標とするImpactを「2050年も住みたい、行きたいまちへ」とした場合、OutcomeをImpactに紐づいて「にぎわい」「安心」「安全」の観点に分解していきます。Outputでは、Outcomeの実現のために必要な場やサービスを洗い出し、Activityでさらに打ち手レベルの取り組みにまで詳細化していきます。「安心」の観点でユーザーの課題を深堀りした結果、移動型スーパーが取り組みレベルで出てくるという結果となりました。InputやActivityといった今あるリソースや打ち手から考え始めるのではなく、まちにもたらしたい変化から考えることが特徴です。
実際のプロジェクトにおいてインパクトツリーは、Impactを起点にそれを実現するためのActivityレベルまで洗い出して考えますが、インパクトツリーができあがって終わりではありません。取り組みの進捗に応じて内容をアップデートしつつ、どのような施策・取り組みがユーザーのニーズに対して手薄になっているかといったホワイトスペースの可視化や、取り組みが進んだ段階で、施策の達成度の確認・見直しをする際に立ち戻る見取り図のように使うことができます。
このように、スマートシティの推進においては、技術ありきのサービス単位での検討に終始することなく、ユーザーの課題を踏まえ、そのためにどのようなまちを目指すべきかを愚直に考えることから着手することが求められます。これは、サービスの必要性や効果などがユーザーに正しく理解され、支持されるサービスの組成につながり、実装化を確かなものにする方策の1つになりうると考えられます。
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