生成AI―新たな働き方革命の波に乗る―テクノロジー最前線 生成AI(Generative AI)編 (4)

生成AIと著作権

  • 2023-07-14

はじめに

前回のコラムでは生成AIとリスクについてお伝えしました1。生成AIの開発・利用に当たっては法的リスクもあるため、それを検討する前提として、どのような場合にどのようなリスクが生じ得るのかを整理する必要があります。生成AIに関連する法律問題は多岐にわたりますが、今回はそのうち著作権法における論点を概説します。

AI生成物の生成過程と著作権法における主な論点

生成AIに関する著作権法における論点を検討するに当たっては、AIによる生成物(以下「AI生成物」)の生成過程について、段階を分けて考える必要があります。

AI生成物の生成過程は、大きく「開発・学習段階」と「生成・利用段階」の2つに分けることができます。説明のために簡略化していますが、それぞれの段階における具体的な工程と、著作権法における主な論点は図表1のとおりです。

今回のコラムでは、著作権法における主な論点として、図表1の論点①~③を取り扱います。なお、これまでのコラムで説明したとおり、生成AIにはさまざまなコンテンツを生成するモデルが存在しますが(図表2)、いずれのモデルについても著作権法における考え方は変わりません。

図表1:AI生成物の生成過程と著作権法における主な論点

AI生成物の生成過程 著作権法における主な論点
開発・学習段階 学習用プログラムに学習用データを機械学習させ、学習済みモデルを作成する

論点①

第三者の著作物を学習させることが、当該第三者の著作権を侵害しないか

学習済みモデルをファインチューニング(特定の分野等の学習用データを再学習等により調整)する
生成・利用段階 学習済みモデルにプロンプトを入力し、AI生成物を出力する

論点②

どのような場合にAI生成物に著作物性が認められるか

AI生成物をインターネット上にアップロードする、AI生成物のイラスト集を販売するなど

論点③

どのような場合にAI生成物が第三者の著作権を侵害するか

図表2:生成AI領域すみ分け図(Application Landscape)

生成AIの 5つの区分

論点① 開発・学習段階―「情報解析の用に供する場合」の著作権制限

第三者の著作物を学習用データとしてAIに学習させる行為は「複製」(著作権法2条1項15号)に該当するため、形式的には学習用データの著作権者が有する複製権(同法21条)を侵害するようにも思われます。

もっとも、著作権法30条の4(図表3)は、著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない著作物の利用については、著作権者の許諾を例外的に不要とし、その例示として、「情報解析の用に供する場合」(同条2号)を挙げています。AIの学習用データとして第三者の著作物を利用する場合、通常はこの「情報解析」に当たるため2、AIの学習に必要な範囲内であれば、著作権者の許諾を得ずに利用できる、すなわち著作権を侵害しないということになります。

ただし、一定の例外も定められており、著作物の種類・用途・利用の態様に照らし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合には、著作権者の許諾を得る必要があります(同条ただし書)。例えば、情報解析用データベースが販売されている場合に、これを学習のために無償で利用することは、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当すると考えられています3

図表3:著作権法30条の4(抜粋)

(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)

第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

一 (省略)

二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合

三 (省略)

※下線および太字は筆者によるものです。

論点② 生成・利用段階(1)―AI生成物の著作物性(創作意図と創作的寄与)

例えば、自社がAIを使用して生成した画像をウェブサイトで公開していたところ、第三社が当該画像を無断で使用した場合、自社は当該第三者に対して著作権侵害を理由に損害賠償請求や差止請求を行うことができるのでしょうか。この事例では、AI生成物に著作物性が認められるかどうかが問題となります。

「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます(著作権法2条1項1号)。そして、AI生成物についてこの著作物性が認められるか否かは、①人間による「創作意図」と、②創作過程において具体的な結果を得るための「創作的寄与」が認められるかどうかがポイントとなります4

これらの要件を満たすか否かについて、ここでは、人間の関与の度合いに応じて以下の2つのケースに分けて考えてみます。

1つは、人間がAIに大まかな指示だけを出し、AIが自律的に生成物を創作するケースです。例えば画像生成AIに画像を生成するための一般的なプロンプトを入力するような場合が該当します。この場合には、人間による創作的寄与が想定しにくいため、AI生成物に著作物性が認められないとされるのが一般的な理解です。

もう1つは、人間が生成物の生成過程においてAIを言わば道具として利用するケースです。このような場合には、当該生成物の生成過程に人間による創作意図と創作的寄与があったと言えるケースが多いように思われ、その結果としてAI生成物の著作物性が認められ、AIを道具として利用した人間が「著作者」となります5。どのような場合にAIを道具として利用したといえるかについては、一概には論じられず、具体的事実関係の下、ケースバイケースで判断せざるを得ません。例えば、自身の創作意図を実現するために画像や文章を生成するためのプロンプトを相当程度の労力をかけて工夫した場合や、自社で作成した画像を画像生成AIに入力し、当該画像のバリエーションを生成したような場合には、このケースに該当し得ると考えられます。このような場合においては、人間における著作物性が認められるための創作意図と創作的寄与を後日証明できるように、例えばAI生成物の創作過程を記録しておくことなどが重要であると考えられます。

論点③ 生成・利用段階(2)―AI生成物による著作権侵害―依拠性の判断基準

AI生成物が第三者の著作物に類似していた場合、当該第三者から著作権侵害を理由として、損害賠償や使用の差止を請求される可能性があります。それでは、どのような場合にAI生成物が第三者の著作権を侵害するのでしょうか。

著作権侵害は、ある創作物が、①他人の著作物に依拠し(依拠性)、②他人の著作物と類似する(類似性)という要件を満たす場合に成立します。このように、単に類似するだけでは著作権侵害にはならないため、AI生成物による著作権侵害の場合には、特に①依拠性が認められるかどうかが問題となります。なお、②類似性については、基本的には人間による創作物と同じように判断されるため、AI生成物に特有の論点はありません。

それでは、著作権侵害が成立するための要件である①「依拠性」はどのように判断されるのでしょうか。依拠性は、他人の著作物にアクセスし、これを元にしたかどうかという人間の内心に関わる問題であるため、その認定は容易ではありません。そのため、人間による創作物を前提とした従前の裁判例では、類似性の程度や無意味な部分の共通性などを総合的に考慮して判断されています。

AI生成物に関する依拠性の判断基準についてはさまざまな見解があり、例えば(i)学習用データに被侵害者の著作物が含まれているだけで依拠性を認める見解、(ii)著作物がパラメータとして抽象化・断片化されている場合にはアイディアを利用しているにすぎないため、依拠性が認められないといった見解などがあります6。その中で、「パラメータ生成寄与説」と呼ばれる見解が、AIの特性を踏まえていると評価されています。パラメータ生成寄与説とは、元の著作物がAI生成物を出力したパラメータの形成に寄与していたかどうかによって依拠性を判断するという見解です。これは、元の著作物がAIの学習に利用されていたとしても、当該著作物が、問題となるAI生成物を出力したパラメータの形成に寄与していない場合には、元の著作物がAI生成物の制作に現に利用されたとは言えないことから、依拠性を否定すべきとするものです7。当該見解は、法的な観点からは一定の結論の妥当性が確保できる見解であると評価されていますが、一方で技術的な観点から、パラメータの生成に寄与しているのかどうかについて検証できるのかという問題があることに留意が必要です。

生成AIの利用者としては、従前の議論も前提にして、AI生成物が既存の著作物と類似する場合には、当該AI生成物を利用することを避けるか、既存の著作物の著作権者から許諾を得た上で利用することが考えられます。全く異なる著作物となるように大幅に手を加えるのも1つの方法です。また、行おうとしている利用行為が権利制限規定に該当する場合には著作権者の許諾なく利用が可能であるため、権利制限規定に該当するかどうかを検討することも有益です。

補足―著作権侵害が認められた場合の責任の所在

仮にAI生成物による第三者の著作権の侵害が認められた場合に、AIの利用者とシステム提供者のどちらが損害賠償責任を負うのかという問題もあります。利用者において学習用データにどのような著作物が利用されているのか調査が困難な場合には、損害賠償請求の要件である故意、または過失が認められず、利用者の損害賠償責任は認められない可能性があります。一方、AIが利用者の簡易な指示のみで生成物を自律的に制作する場合は、AI生成物に対するシステム提供者の物理的寄与が大きく、システム提供者の責任が問われる可能性があります8。このような責任が認められる可能性の程度については一概には言えませんが、システム提供者として備えておくべき事項としては、例えばAIの利用規約等において、利用者への補償関係を規定しておくといった対応が考えられます。

おわりに―法的リスクを踏まえたルール作りを

生成AIは生産性を向上させることなどから、今後ますます発展していくことが望まれます。しかし一方で、今回ご説明したとおり、著作権法によるものを含めてさまざまな法的なリスクもあります。せっかく生産性向上のために生成AIを自社の業務過程に導入しても、リスクを気にするあまり、従業員がその利用を極端に躊躇してしまっては元も子もありません。したがって、生成AIの導入に際しては、どのような場面でどのような法的リスクが生じ得るのかを体系立てて整理することで利用者が適切にリスク判断できるようにするなど、リスクを適切に管理できる社内ルール作りをしていくことが重要であると考えます9

1 生成AIが包含するリスクについては、AI戦略会議「AIに関する暫定的な論点整理」(2023年5月26日)も参考になります。
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ronten_honbun.pdf

2 著作物を学習用データとして機械学習に利用する場合のほか、学習用データセットの作成自体も「情報解析の用に供する場合」に当たると解されます(中山信弘『著作権法 第3版』(有斐閣、2020年)386頁参照)。

3 文化庁著作権課「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」(令和元年10月24日)・問9(9頁)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/pdf/r1406693_17.pdf

4 文化庁著作権審議会第9小委員会報告書(1993年11月)において、コンピュータを利用した創作に関して、人間による「創作意図」と、創作過程において具体的な結果を得るための「創作的寄与」があればコンピュータを道具として創作したものとして著作性を肯定する見解が示されており、当該見解はAI生成物についても参考になります。なお、当該報告書の記載を前提とすると、「創作意図」とは、思想または感情をある結果物として表現しようとする意図をいい、生成AIの使用という事実行為から通常推認し得るものです。また、具体的な結果物の態様についてあらかじめ確定的な意図を有することまでは要求されず、当初の段階では「生成AIを使用して自らの個性の表れとみられる何らかの表現を有する結果物を作る」という程度の意図があれば足りると考えられます。また、どのような場合に「創作的寄与」が認められるかについては、個々の事例に応じて判断せざるを得ませんが、一連の過程を総合的に評価する必要があると考えられます。

5 以上の整理については、知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会、次世代知財システム検討委員会「次世代知財システム検討委員会報告書」(2016年4月)・22頁も同旨。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2016/jisedai_tizai/hokokusho.pdf
また、米国の著作権庁も、AI生成物に関する著作権登録ガイドライン(’Copyright Registration Guidance: Works Containing Material Generated by Artificial Intelligence’(2023年3月16日))において、結論として同様の見解を示しています。
https://www.copyright.gov/ai/ai_policy_guidance.pdf

6 知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会、新たな情報財検討委員会「新たな情報財検討委員会報告書」(2017年3月)37-38頁
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2017/johozai/houkokusho.pdf

7 横山久芳「AIに関する著作権法・特許法上の問題」(法律時報91巻8号)・53頁参照

8 横山・前掲注7・54頁参照

9 本稿の執筆中の2023年6月9日に、知的財産戦略本部「知的財産推進計画2023~多様なプレイヤーが世の中の知的財産の利用価値を最大限に引き出す社会に向けて~」が公表されました。当該計画においては生成AIと著作権について言及がなされており、本稿で取り上げた論点①~③についても触れた上で、施策の方向性については「生成AIと著作権との関係について、AI技術の進歩の促進とクリエイターの権利保護等の観点に留意しながら、具体的な事例の把握・分析、法的考え方の整理を進め、必要な方策等を検討する」としています。予見可能性の確保の観点からも、政府主導による方策の策定が待たれます。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku_kouteihyo2023.pdf
また、2023年5月に開催された第49回先進国首脳会議(いわゆる「G7広島サミット2023」)では、今後、G7が「広島AIプロセス」として生成AIの規制のあり方などを担当閣僚の下で議論し、2023年中にも見解をまとめることとなりました。このように、生成AIに関しては国際的なルール構築に向けた動きがあり、今後の動向を注視していく必要があります。

執筆者

茂木 諭

パートナー, PwC弁護士法人

矢野 貴之

PwC弁護士法人

詳細をご希望の方は下記よりご連絡ください