市場コンダクトリスク管理の高度化・効率化支援

EU Market Abuse Regulation(MAR)や、FCA Market Watch 56、MiFID II Article 13などの海外規制当局は、各金融機関に対し、業界の変化に対応するための施策を講じることを要請しています。PwCが2016年と2019年に世界の21の金融機関に対して実施したグローバルサーベイによると、GSIBsのTier1およびTier2銀行の市場コンダクト対応関連の投資は増加傾向が続いており、今後数年で投資額は平均4億米ドルに増加すると見込まれています。市場コンダクトに関連する法規制に違反が生じると、罰金や取引停止、業務改善命令などの行政処分が科されるだけでなく、レピュテーション毀損による売上減少や株価下落など、幅広い形で損失を被る可能性があるため、金融機関にとって市場コンダクトリスク管理は極めて重要な経営課題となっています。

Ⅰ.市場コンダクトに関するグローバル規制当局と環境変化

1.グローバルの規制動向とその対応

EU MAR規制では、金融機関に対して取引やシステム、規定、手続きについて年1回の内部監査を実施し、必要に応じて更新することを求めています。MiFID Ⅱ Article 13では、投資会社は自動化されたサーベイランスシステムを少なくとも年1回レビューする必要があるとしています。また、システムやパラメーター、フィルターが規制上の義務やトレーディング業務に照らして適切かどうかを評価しなければなりません。FCA Market Watch 56では、アラートを発するパラメーターを標準化しているシステムを外部ベンダーより導入している金融機関について監視を強化しています。金融機関はそれぞれ独自の判断に基づいて、アラートの基準調整を行わなければなりません。

規制当局の金融機関に対する推奨・要請事例

規制当局の金融機関に対する推奨・ 要請事例

2.日本の金融機関の反応とアプローチ

日本国内でも近年、市場コンダクトに係る法令違反行為がいくつか検知され、罰金、取引停止、業務改善命令などが科されています。規制当局は、より詳細な取り組みや課題を特定することにより、金融機関の行動、文化、研修などの状況について注目しています。現在、日本の金融機関は国内や海外での営業活動を推進する一方で、市場関連オペレーションについて厳格に理解・管理することを課題として認識しており、それぞれのローカルでのオペレーションにおける適切なガバナンスの構築や、統制を強化するための検証などに取り組み始めています。

Ⅱ.PwCが考えるフレームワーク

1.市場コンダクト管理フレームワーク

効率的かつ効果的な市場コンダクトの管理環境を醸成することは、市場コンダクトリスクを軽減するための重要な取り組みの1つであり、効率的なツールと手法を採用した全社的な監視アプローチが求められます。また、市場コンダクトに関するガバナンス・報告体制の構築、トレーダーの監督・監視だけでなく、取引慣行の是正、利害の衝突など潜在的なコンフリクトをどのように特定・監視していくかを詳細に検討する必要があります。そして、それは業務だけでなく、社員の個人的な取引においても規定や手続きを整備し、疑わしい取引がきちんと報告される体制を整えつつ、内部報告体制におけるそれぞれの役割や責任を検討の上、明確化しなければなりません。加えて、市場コンダクトに関する研修の品質を保ち、実施完了およびレビューを行い、常に環境の変化とともに改善を図るフレームワークを構築する必要があります。

PwCはグローバルで市場コンダクト管理フレームワークの考え方を標準化し、市場コンダクト管理フレームワーク構築の支援実績を数多く有しています。

2.ホリスティックサーベイランス

市場コンダクトのトレードサーベイランスを巡る潮流として、「トレーダー自体の行為の監視」「コミュニケーション内容の監視」「トレードの特性ごとの取引監視」がありますが、それらを個別ではなく総合的に確認するホリスティックサーベイランスの実施が求められます。

PwCが考える市場コンダクト管理フレームワークとホリスティックサーベイランスは、下図の通りです。

ホリスティック サーベイランス

Ⅲ.市場コンダクトにおけるDXの活用

1.DXの活用

金融機関では、規制に対応したテクノロジーサービスを構築するにあたり、手作業での業務領域や既存のツールに対してテキスト解析や機械学習などの新しいテクノロジーを組み込み、統合することで、市場コンダクトリスク管理の高度化・効率化が検討可能となります。市場コンダクト監視領域において、統合的に管理していく主なテクノロジーコンポーネントは以下の通りです。

DXの 活用

2.DX活用のシステム開発および導入アプローチ

監視ツールにおけるDX活用の例として一般にAI活用システムの構築がありますが、そのようなシステムにはアジャイルな開発が有用であると考えられます。また、本番システムを開発、導入する前に、分析PoCによる検証(リスクシナリオとシステムの検知能力)とモックアップによって仕様の妥当性を担保し、開発工数の削減を図ることで、より確実な本番システムを開発、実現できると考えます。たとえば、ツールの自然言語処理機能の評価を踏まえ、必要に応じて素早く事前検証(パイロット)を実施することで、有効かつ効率的に全体分析PoC、モックアップ実施へと進めます。

分析PoCによる検証例(リスクシナリオと検知能力)

分析PoCによる検証例 (リスクシナリオと検知能力)

AI活用システムの開発および導入アプローチ

AI活用システムの開発および 導入アプローチ

Ⅳ.ユースケースとPwCのアプローチ

1.コミュニケーションと取引監視

コミュニケーションや取引の監視において、市場濫用/相場操縦、インサイダー取引、不正取引などに関わる課題は以下の通りと考えます。

  • 限られたクロスマーケット監視機能では、特定の資産クラスに焦点を合わせたサイロ化された監視ソリューションとなってしまい、クロスマーケット監視機能が制限される。
  • 非効率的なレキシコンベースのコミュニケーション監視では、過度の誤検知が多く発生する。
  • 手作業での対応には限界があり、コミュニケーションや取引のごく一部(サンプル)の監視・レビューによる対応しか実施できない。
  • コミュニケーションと取引全体を相関させて問題を検出することは極めて煩雑であり、監視・レビューが限定的となる。

これらの課題を解決するためのコンプライアンストランスフォーメーションに関して、PwCは以下のようなノウハウと実績を有しています。

  • データの軽量化と柔軟性を確保したデータソーシングと、統合的なソリューションを活用すると同時にデータアナリティクスを駆使し、さまざまな監視システムによって生成されたアラートにアクセスすることでそれらを一元化し、コンプライアンスデータレイクに統合する
  • 非構造化データ分析を実装し、音声を含むコミュニケーションを解析・分析することで、既存の自社ベースの監視ソリューションで見逃されていた問題を発見し、フラグを立てる。
  • アラート最適化ソリューション・プロセスを実装し、誤検知を排除する。機械学習自然言語処理を活用し、カスタムルールエンジンと組み合わせて適用する。
  • 柔軟なデータ視覚化と分析テクノロジーを活用することで、監視対象の全体像を把握し、より高度な調査と分析を支援。

2.オーディオサーベイランス(AI音声監視システム)

音声監視領域については、テクノロジーの進歩によって複数のチャネルから取得した音声やデジタル対話データを解析することで、違法行為を検出・防止することが可能です。音声監視において考慮すべき事項と主な課題は下図の通りであり、PwCはこれらの考慮事項について検討・解決を支援するノウハウや実績を有しています。

Audio Surveillance (AI音声監視システム)

デジタルテクノロジーの進化に伴い、ビジネスにおけるさまざまな局面においてデータ利活用およびデータアナリティクスの価値が高まっています。さまざまなデータを利活用することによりビジネスを可視化し、総合的に分析することによって、従来の手作業ベースの作業では不可能だった迅速なデータの収集・解析、および意思決定や管理が可能となります。

金融機関の経営課題の1つである市場コンダクトリスク管理においても、進化するデジタルテクノロジーをいち早く取り入れ、リスク管理の高度化を実施することが欧米当局の規制上要請されており、その対応状況が金融ビジネス上の価値評価に直結していると言えます。PwCはDXを通じた高度かつ効率的なコンプライアンス態勢構築による企業価値の向上、データドリブン経営の文化を醸成する「攻めの経営管理」を支援します。

主要メンバー

三村 知昭

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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大塚 卓美

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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