CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)はEUのサステナビリティ開示規制であり、2023年1月5日に発効し2024年1月1日に開始する会計年度から適用が開始されています。CSRDの目的はEUにおけるサステナビリティ報告の一貫性を高め、金融機関、投資家、そして広く一般の人々が比較可能で信頼できるサステナビリティ情報を利用できるようにすることにあります。
欧州委員会(EC)は欧州グリーンディールの実現に向けて2021年4月にCSRD提案を公表し、発効に至りました。その後、EU域内の産業競争力強化を背景に、2025年2月にはCSRDおよび関連法令の見直しに向けた「オムニバス」提案を発表し、これにより適用範囲や開示内容を中心に見直しが行われ、企業側の負担は一定程度軽減されました。さらに、2025年12月には欧州議会とEU理事会がCSRDと企業サステナビリティデューデリジェンス指令(CSDDD)の適用範囲変更を含むオムニバス提案について暫定合意しています。
また、EFRAGはECの要請に基づき、ESRS(European Sustainability Reporting Standards:欧州サステナビリティ報告基準)の簡素化に関する技術的助言(以下、ESRS草案)を2025年12月にECに提出しました。今後、暫定合意されたオムニバス提案の内容は官報掲載(2026年3月頃見込み)を経て発効し、EU加盟国は12カ月以内に国内法化する必要があります。ESRS草案は2026年半ばまでに最終化される見込みですが、検討過程で追加のアップデートが行われる可能性もあるため、今後の動向に注視が必要です。
CSRDの適用対象企業、および適用開始時期は、図1のとおりです。適用開始時期は、企業形態により3段階に分かれます。
日本企業が留意すべきケースとしては、まず、EU域内にNFRD(Non-Financial Reporting Directive:非財務情報開示指令)の適用対象でないCSRD適用対象企業に該当する子会社がある場合が考えられます。オムニバス提案により適用開始時期は2027年1月1日以後となり、報告は2028年になりました。
さらに、EUでの売上高を含む一定の要件を満たすEU域外企業は2028年1月1日以後に適用開始、2029年にグローバルの連結ベースの報告が求められることになります。
ただし、最終的な判断はCSRDの内容を反映したEU加盟国の国内法に基づく必要があります。(図1)
図1:CSRDの適用対象企業、および適用開始時期
なお、CSRDではサステナビリティに関する情報について独立した第三者による保証が義務化されますが、導入時期には一定の柔軟性を持たせる方針が示されています。
ESRSは、ECがEFRAGに委任して策定したサステナビリティ報告基準です。ESRSに沿ったCSRDに基づく報告は2024年1月から行われていますが、前述の通り、EFRAGは2025年12月にESRS草案をECに提出しています。
現行のESRSは第1セットと呼ばれる業種共通の内容であり、2つの横断的基準と環境・社会・ガバナンスの主要10トピックを網羅する構成になっています(図2参照)。ESRS1は全般的な原則を示し、ESRS2では気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)と国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の構造に類似する4本の柱(「ガバナンス」「戦略」「インパクト・リスク・機会マネジメント」「指標と目標」)を含む一般的な開示事項が定められています。
また、トピック別基準では、図2に示す通り、環境・社会など幅広いテーマと多様な領域をカバーしている点が特徴です。
図2:ESRS案の概要
現在、EFRAGはESRS第2セットの開発を進めていますが、業種別基準はオムニバス提案で取り下げられました。また、日本企業に大きな影響のあるEU域外向け基準(Non-EU ESRS)は、ECが採択時期を2026年6月から少なくとも2027年10月1日まで延期すると発表しており、最終化は2027年10月以降となる見込みです。なお、2029年1月1日からの開示義務化スケジュールは現時点で変更されていません。
EFRAGはオムニバス提案の一環として、ESRS草案をECに提出しました。これは企業の負担軽減を目的とした見直しであり、CSRDの適用範囲縮小の動きとも連動しています。
適正表示(Fair Presentation)の枠組みがより重視され、開示要求事項の遵守だけでなく、サステナビリティに関連するインパクト、リスク、機会を重要性の考えに基づき適正に表示することが求められます。これは、国際財務報告基準(IFRS)の報告概念とも整合しています。
必須データポイントは現行ESRSより61%削減されました。ただし企業固有の開示の量によっては、開示量自体の削減にはつながらない可能性があります。
全ての開示に重要性フィルターが適用されます。マテリアリティ評価の結果に関係なく、特定の開示が求められていた現行ESRSから大きく見直されました。
重要性の適用ガイダンスが追加され、トップダウン/ボトムアップの柔軟な評価が可能になりました。負のインパクトの扱いも整理され、インパクト情報は規制の有効性にかかわらず意思決定に有用と位置付けられています。
報告負担軽減のため、子会社の評価延期、取得・処分事業の一定期間の除外、入手可能な情報のみでの報告、重要でない活動や信頼性の低いデータの省略など、恒久的な救済措置が設けられています。
予想される財務的影響の開示がIFRS S1「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」と整合したものとなりました。さらに、予想される財務的影響に関連する開示要求事項は、環境に関するトピック別基準の草案からは、ESRS E1号「気候変動」案を除いて削除されました。ただし、ESRS E1号草案は開示要求事項を維持しつつも、現行よりデータポイント数が削減されています。
第1波(Wave1)企業(旧NFDR適用対象企業)向けに新たな免除が追加されました。なお、Wave1企業以外の段階的導入はECの判断とされています。
CSRDはEU子会社による対応が必要になるだけでなく、EUで一定規模以上の事業を行う日本企業に対して連結ベースでのサステナビリティ情報の開示義務が生じる可能性があるため、グループ全体での対応が必要となります。
オムニバス提案やESRS草案により一定の負担軽減は図られているものの、CSRD/ESRSは依然として広範かつ非常に複雑で、保証対応も求められることから、各開示項目の理解に加え、情報収集・集計プロセスや内部統制、システム面の整備が重要になります。
想定される主な課題として、具体的には以下の事例が考えられます。
企業はこれらの課題を一つひとつ検討し、適用開始のタイミングまでに適切に対応することが求められます。
CSRDは開示規制に対するコンプライアンス対応であり、まずは規制に沿って開示することが必要最小限の対応として求められます。
図3は、CSRD/ESRS適用に向けたロードマップの一例となります。
図3:CSRD/ESRS適用に向けたロードマップ例
このロードマップは大きく3つのフェーズに分かれます。
対応の方向性を検討するために、初期的評価や課題の整理を実施します。サステナビリティに関する広範なテーマに関する評価が必要となるため、専門家を交えた丁寧な議論が必要となります。同時に、親会社の役割の決定やグループ全体の内部統制の構築、リスクマネジメントの実施を含む重要な取り組みとなるため、経営層も巻き込み、将来を見据えて本質的な議論を行うことが求められます。
フェーズ1で定めた方向性に基づいた施策に実際に取り組みます。この施策は部門横断的かつ、システム対応も含めた領域横断的なものとなるため、タイムスケジュールも踏まえた詳細な実行計画の策定が重要です。
実際のレポーティング実務を想定したトライアルの実施をベースに、最終的な課題整理や報告体制のチェックを実施します。また、CSRDは第三者保証が必要となるため、重要であると想定される課題は、この段階で解決しておく必要があります。このトライアルを経て、実際に情報開示することとなります。
このように、必要最低限のコンプライアンス対応に限ったとしても、十分な準備期間と多大な投資、またさまざまな領域における専門的な知見が必要となります。従って、社内リソースだけでなく、外部のコンサルティングなどを適切に活用することが効率的かつ効果的な進め方であると考えられます。
また、ESRSは最も先進的なサステナビリティ開示基準の1つであることから、CSRDに対応することは、グローバル水準でのサステナビリティ経営を深化させることや、投資家をはじめとするステークホルダーへの情報開示を通じて企業価値を向上させることにつながるものと私たちは考えています。
私たちは、EUを含め世界中に展開をしているPwCのグローバルネットワークを通じてEUの規制動向や、その背景、現地での他社動向を迅速に把握することが可能です。また、PwCのネットワークを活用することで日本企業とEU子会社とのスムーズなコミュニケーションを実施し、クライアントの企業文化やスタイルに合わせたCSRD対応を支援します。
さらに、監査、保証の側面から「企業価値とは何か」という点を追求してきた100年以上の歴史と、60カ国、1,900名のサステナビリティプロフェッショナルによるサービス提供の実績を踏まえ、サステナビリティ経営の高度化と企業価値の向上に資するコンサルティングサービスを提供します。