変革アジェンダへの積極的取り組み:進化するホールセール・バンキング市場における成長の実現

コロナ禍を切り抜けた後も続く市場の変化への対応が求められるホールセール・バンキング業界において、今後5年間の変革アジェンダに影響を与える4つの重要トレンドを解説します。

序文

ホールセール・バンキング業界は、ようやく困難な時期を乗り越えました。コロナ禍は人々や企業に計り知れないほど大きな試練をもたらし、金融市場を疲弊させました。こうした緊急の問題を優先したため、本来最重要であるはずの変革への取り組みが遅れています。しかし、顧客が世界的な景気後退を乗り切り、レジリエンス(困難な状況からの回復力)を証明できるよう手助けすることで、ホールセール・バンキング業界は、世界金融危機(リーマンショック)以来最も厳しいストレステストを成功裏に切り抜けました。

今後は金利の上昇、インフレ懸念の台頭、地政学的な不安定性の高まりに伴い、金融環境は再びボラティリティが上昇するでしょう。この嵐を乗り切るために、既存の銀行は、新旧の課題に同時に対処できるよう、自行の変革アジェンダを加速し、スケールアップする必要があります。

市場構造は変化し続けています。エクスポージャーは複雑化し、相関性を高めています。新たなアセットクラスが無視できないほど肥大化し、環境・社会・ガバナンス(ESG)問題などの非財務要素も今や事業に不可欠なドライバーとなっています。こうした広がり続ける顧客と社会の要求に、ホールセール・バンキング業界が応えるべき時です。

本レポートは、PwCの「2025 and Beyond(2025年以降の展望)」シリーズの新章として、近い将来、ホールセール・バンキング業界に重要な影響を及ぼすトレンドに焦点を当てます。

現在の立ち位置

地政学的な激変、グローバル・サプライチェーンへの圧力、一世代に一度の物価急騰、エネルギーとコモディティの供給不安、破壊的な技術進歩、新規参入業者と既存業者のシェア獲得を巡る業界内外の競争激化――。世界のホールセール・バンキング業界は未だかつてない危機にさらされています。

それと同時に、唯一の信用仲介機関という銀行の伝統的役割も、飛躍的な技術進歩を享受する新規参入業者によって浸食されています。市場はわずか数年の間に、「1対多」が主流の時代から「多対多」のアプローチが主流となる時代へと移り変わりました。資金へのアクセスはより簡単に、ほぼ瞬時に可能になっているのです。

企業と消費者の双方にとって経済の不確実性が引き続き重要な関心事である中、既存の銀行は、ディスインターミディエーション(銀行離れ)を防ぐことが目標となるでしょう。そのためには、銀行は市場構造の変化と破壊的な技術進歩の狭間で航路を切り開かなければなりません。銀行業界で従来一般的であった小規模で受け身の変革では、もはや十分とは言えません。既存の銀行は、先を見越した積極的で包括的な変革戦略を策定しなければ、大幅な利鞘縮小に見舞われ、成長機会を失いかねない上、提携や決済などの分野で、他行に大きく遅れ、完全統合型デジタルバンキングモデルに向けた技術革新が停滞する恐れもあるのです。

成長市場

これらが示唆することは、広範囲に及びます。ブロックチェーン技術や資産のトークン化など、急速に進化する金融市場のデジタル化の背景と、それに付随する市場構造の変化を段階的に取り入れ、参画するために必要なインフラの変化を考えてみましょう。こうした市場の変化は、ホールセール・バンキング業界において新たな成長エンジンを構築するにあたり、一世代に一度のチャンスでもあるのです。

銀行経営者が、このチャンスを理解していることは明らかです。米国の経営者678名を対象に、どのような政策転換が自行のビジネスに大きな変化をもたらすかを尋ねたところ、金融サービス業の経営者は特にテクノロジーとデータ規制への注目度が高いことが分かりました(63%)。また、69%は、デジタルトランスフォメーション(DX)への投資が2022年に自行が伸ばすべき能力・機能の中核、と回答しました。これは全業種平均の60%を大きく上回っています。

テクノロジーと同じくらい重要なのは、山積するESGに関わる課題です。すなわち、次々と加えられる新たな規制、コーポレートガバナンスへの期待、さらには炭素取引などの持続可能な資産に対するバイサイドとセルサイド両方の投資家からの要求の高まりなどが挙げられます。この分野でも、顧客のグリーンアジェンダのための資金調達、新たなベンチマークや対策の導入に向け、銀行がサポートできる可能性があります。

ホールセール・バンキング業界では、日常業務がますます複雑化する一方、全行規模の変革の長期的な時間軸も意識しなければなりません。ホールセール・バンキングの経営者にとっての課題は、この2つのバランスを取ることです。そして私たちは、これが既存の銀行が変革に積極的に取り組むことを妨げている要因だと考えています。また、DXに対するホールセール・バンキングの大規模な取り組みが、リスク、財務、コンプライアンスといったサポート機能を担うチームだけでなく、フロントオフィスにも予期せぬ影響を与えてきたことも分かってきています。過去の例として、フロントオフィスとバックオフィスの足並みが揃わないために取り組みの有効性が損なわれるとともに、他で必要なリソース(時間、人材、資金)が圧迫される事態が生じています。

実際、この取り組みのスコープを間違えてはいけません。投資金額の水準だけを見ても、銀行にとっては小さな変更でも、それによって現在配分されている変革のための投資資金が相当程度増加してしまうことがあります。また今後、変革に取り組む最中にマクロ経済の逆風が銀行経営者を襲い、財務状態を圧迫する事態も予想されます。特にインフレの加速は、資本コストの増加やリターンの圧迫によって、既存の銀行の流動性供給を制約する市場環境を生み出してきたのです。

本レポートでは、銀行が未来に向けて踏み出す一助となるべく、今後5年間に世界のホールセール・バンキング業界の変革アジェンダに影響を与える4つの重要トレンド〔市場構造、ESG、分散型金融(DeFi)、デジタル資産〕を解説するとともに、これらを理解し速やかに順応できる銀行が享受できる成長機会を示します。変革を正しく計画・実行できれば、収益の拡大、営業経費の削減、自行の防御力を高めるデータに基づいた洞察力をもたらすでしょう。

変革アジェンダへの統合的アプローチ

銀行はこれまでは事業面での差し迫った必要性に迫られて縦割り組織(サイロ)の中で変革を進め、多大なリソースを費やしてきました。その必要性には、法の執行・適用、監査の所見、もしくは業務過誤に起因する規制上の要求によるもの、または基幹システムの更改に伴うものなどが挙げられます。

2022年、大手銀行は、老朽化したシステムアーキテクチャの維持と、銀行全体のデータ管理能力の欠如を是正するために約200億米ドルを投じました。しかし、商品やサービスを開発・維持・スケールアップするための能力を確保するためにコアテクノロジーを根本的に変更することが目的ならば、従来型ホールセール事業への脅威が高まる中、多額の費用を要する受け身の変革戦略に頼るのは得策ではありません。

株取引や不正リスクのモデル化など、すでにデジタル化されている業務プロセスの多くは、互いに連動していません。しかし、プロセスやタスクのどの部分をどのように自動化・デジタル化するのかについては、縦割りの(サイロ化された)アプローチで取り組まれています。銀行は、顧客に商品を提供する機能をよりシンプルにできるよう、部門や組織の壁を越えて協働するという視点で取り組むべきです。デジタル化がもたらすメリット、すなわち、総所有コストの削減、処理時間の改善、業務リスクの低減、新規参入企業との競争等、の全てを享受するためには、大半の銀行で現在使われている独自システムよりも、アジャイルな技術スタック(注)が必要です。

プロバイダーから購入したり提携したりするのではなく、複数の独自システムを統合的なアプローチで構築する方法は、もはや理にかなったビジネス・プラクティス(事業慣行)ではありません。規模を拡大し競争し続けるためには、クラウドなどの最新のアーキテクチャを積極的に取り入れる必要があります。新たな変革アジェンダに効果的に対応するためには、各行のCIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)はベンチャーキャピタリストや投資家のように行動し、システムを自ら構築するのではなく、テック企業との提携を最大限に活用することを目指すべきです。

(注)プログラミング言語やフレームワーク等の組み合わせで、開発者がより速く、より効率的にソフトウエアを構築することを可能にするもの。

ホールセール・バンキング業界の変革を牽引しているのは、「市場構造の変化」「ESGマンデートの増加」「分散型金融の台頭」「投資可能な資産クラスとしてのデジタル資産の登場」という4つの重要トレンドです。これらのトレンドのそれぞれが、持続可能な成長に向けた新たな課題と同時に機会も生み出しています。ただし、これらの機会を生かすためには、経営者が自社の商品、サービス、業務の変革に積極的に取り組むことが不可欠です。

市場構造の変化を受け入れる

銀行経営と銀行変革、市場の変化が中核のホールセール業務(投資銀行、融資、資金決済サービス、ウェルスマネジメントなど)における従来のビジネスモデルを揺るがせている時代にあっても、この2つが銀行の最優先事項であるのは、驚くに足りません。

では、いったい何が新しいのでしょうか。それは、銀行経営と銀行変革との間の葛藤がかつてないほど高まっていることです。目先の課題への対処にしばしば翻弄され、戦略的な変革が遅れがちなホールセール・バンキングのような業界では、未来のホールセール・バンキングを創り上げるためには、破壊的なデジタル技術、ESGへの移行、さらには新たな規制面のハードルを乗り越えることができる、強力でアジャイルなリーダーシップが必要です。同時に、地政学上のボラティリティの高まりと何十年に一度の本格的なインフレ環境が経営陣に一層の圧力をかけ、最も必要である長期的変革への取り組みが、ますます後回しになってしまっているのです。

しかし今後は、大胆に行動する銀行にこそ大きなチャンスが訪れるでしょう。デジタル資産に関して傍観者を決め込むにしても、フィンテックの攻勢下で利鞘を確保するにしても、先行者利益を得るためには、ビジネスモデルの変更や新たな収入源の追求に止まらない、新たな分野への投資が必要です。これにより、銀行は持続的な成長を手に入れ、競合他社との差別化を実現し、変化する市場構造の要求に応えることが可能になります。競争に勝ち残る銀行とは、新しいテクノロジーを導入し、異端の企業と連携し、新たなデジタル部門を立ち上げ、前向きな変革アジェンダを取り入れる銀行なのです。

同時に、変革の速度が増していることも明らかです。これは、全世界の規制当局が、特にデジタル資産やESGといった市場の成長分野での規制を加速させていることからも伺えます。仮想通貨やステーブルコインに加え、ペイメント・オーダー・フロー(証券会社が顧客の注文をマーケットメーカーに回送してリベートを受け取る仕組み)、ノンバンクの流動性プロバイダー、債券市場の報告・監督に関しても新たな規則の施行が予想されます。世界の監督当局で開示要件の制定や標準化が進む中、ESGについても同様の展開が予想されます。

銀行がコスト削減を進めるのと時を同じくして、コンプライアンス費用が増大しています。コンプライアンス業務を自動化・デジタル化すればコスト縮小と効率向上が可能となり、このことは、資本市場で事業展開する金融機関は技術的に進歩し続けなければならないという考えを裏付けています。銀行は、新たな運営方法を模索することとコモディティ化しつつある機能を最大限活用することとのバランスを取る必要があります。もちろん、常にESGの期待に応える良き世界市民であり続けることは言うまでもありません。

非伝統的プレーヤーがもたらす競争上の脅威

成熟市場、新興市場を問わず、金融セクターは多様性を増しています。フィンテック企業や大手テック企業は幅広い金融サービスを提供し、その範囲は広がるばかりです。単一の商品やサービスにフォーカスし続ける企業もあれば、最初に成功を収めた事業を足がかりにサービスの幅を広げた企業もあります。Square(スクエア)とPayPal(ペイパル)が決済から融資へとサービスを拡大したのがその好例です。フィンテック企業の中には、銀行向けのサービスプロバイダーや銀行のバリューチェーン・パートナーになるものもあれば、自らが銀行機能を果たそうとするものもあります。

近年は、デジタルのみまたはデジタル主体のネオバンクも登場しています。ネオバンクは、既存の銀行とほぼ同じ規制領域で競争していますが、ビジネスモデルはより先進的で、インフラはより効率的です。通信、物流、輸送、ネット通販、ネット検索といったコア市場の大手テック企業も、近年新たに金融業界に加わった多様なプレーヤー達の1つです。一方で既存銀行も、新しい環境に適応する方法を模索する中、新たなテクノロジーの導入、フィンテック企業との提携、デジタル部門の新設を行っています。

こうした金融サービスの超多様化は、競争と規制の両方に影響を与えます。金融サービスと競争に関する規制当局の政策措置は、特定のビジネスモデルにより有利に働くでしょう。

より確かで、より信頼されるESGバンキングへ

2022年1~9月の9カ月間で、5,860億米ドルの資金がサステナビリティボンドに流入しました。これは、コロナ禍前の水準に戻ったことを意味しますが、市場がマクロ経済のボラティリティ上昇に備えていた2021年1~9月の過去最高記録からは26%減少しました。とはいえ、サステナブル投資は投資家にとって重要性の高い市場であることに変わりはありません。PwCの調査の結果、8割の投資家が今後2年間でESGプロダクツへの投資を拡大する計画であることが分かりました。

市場機会は明らかですが、銀行は警戒を強め、規制が市場の変化に追いついて変化を強制した過去の事例(例:2010年に成立した米ドッド・フランク金融規制改革法)に学ばなければなりません。競争優位性を確立するためには、経営の透明性と強力なリスク管理能力が必要となるでしょう。

さらに、顧客が気候変動に関する義務を履行できるよう、ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)などのイニシアチブを通じて銀行が果たす役割はますます大きくなると予想しています。GFANZは、総額130兆米ドルの資産を有する銀行・資産運用会社・保険会社が2050年までに温室効果ガス排出量ネットゼロ化を目指す有志連合です。さらに最近では、米証券取引委員会(SEC)が気候変動に関する開示要件を提案し、圧力を強めています。ホールセール・バンキング業界は、規制要件の意図は支持していますが、明確性と運用可能性を高めるためには要件の変更が必要です。

しかし、銀行がESGの機会において真に差別化し利益を得るためには、グリーン・トランジションへの資金提供やマーケティングを強化するだけでは足りません。自行の組織全体への影響を完全に把握し、それに応じて経営資源を集中させる必要があるのです。そのために銀行は、(1)収益機会(サステナブルファイナンス、ESGに焦点を当てたセールス&トレーディング、その他新セクターなど)、(2)リスク管理能力(気候リスクへの配慮、信用リスクモデルの強化、レピュテーション・リスクの考慮など)、(3)レポーティング能力(SECのESG開示規制への対応、気候リスクを考慮したリスク報告、気候指標・ESG指標に関して強まる顧客の要求に応える報告など)という3つの分析を行う必要があるでしょう。

これらは、いずれもデータに決定的に依存しています。ESGデータは標準化されていないため、企業ごと、商品ごとに独自のESG指標が設定され、時にはスプレッドシート上にマニュアルでデータを取り込むだけなのが現状です。ただし、これまでのESG報告では省略や端折りがよく行われていましたが、「グリーンウォッシュ」と呼ばれる見せかけの環境対策の時代は急速に終焉に向かっています。銀行はESGと変革を両立するため、必要なデータの取り込み・照合・開発に際して、戦略的かつ熟考されたアプローチを取ることが求められるでしょう。

新たな収益機会の分析に必要なデータは、銀行の事業分野によって異なります。セールス&トレーディングチームは気候リスクに基づくプライシングモデルやヘッジ戦略の開発に力を入れる一方で、引受・融資チームはサステナビリティ計画への融資やブルーボンド(海洋保全に関わる比較的新しいサステナビリティボンド)などの新商品の開発、さらには既存投資の移行リスク評価に重点を置くでしょう。

次に、リスク管理能力についても、物理リスク、移行リスク、カウンターパーティー・リスク、金利リスク、風評リスクのいずれかを問わず、リスクの種類や組織内での位置付けによって評価に必要なデータは異なります。

最後に、企業のレポーティング能力のために特に重要なのは、包括的なデータです。市場と投資家への情報開示はこれまでほとんど任意で行われてきましたが、今や投資家はより詳細で信頼性の高い情報を求める傾向にあります。米国をはじめとする海外規制当局は開示要件の標準化作業を行っており、新要件は銀行に包括的な炭素分析の開発を義務付けるものになると見込まれます。

こうした取り組みの成果は投資プロセスにも波及していくでしょう。企業価値評価や資産選択においても、顧客の多様なニーズに応えなければならなくなります。ESGについて説明を行う流れの高まりとともに、気候や社会に好ましくない影響を及ぼす企業に対して融資する銀行は今後減るかもしれません。こうした企業の資本コストは増大します。規制当局、世界の会計・報告基準設定主体、世界経済フォーラムはいずれも、ESGを体系的に測定する方法として、いわゆる「インパクト・トランスペアレンシー(インパクトの透明性)」に注目し始めています。このように企業がESG測定に向けて動き出す中、ESGへの取り組みは最終的には、会計、収益性、融資、企業価値評価に加え、投資家から見た企業やその取引銀行への印象にまで影響を与えることになるでしょう。

銀行業務からESGが消え去ることはありません。弥縫策を取る企業は、ESGがもたらす新たな市場機会と拡大する開示要件の両方を考慮に入れた綿密かつ包括的なデータ要件を作成する企業に追いつけなくなるでしょう。世界人口の45%は、気候変動に対して極めて脆弱で、全世界で最大14兆2,000億米ドル相当のインフラ資産が今後80年以内に大規模洪水に見舞われる危険性があることを考えると、変革はもはや任意ではなく必須です。企業に与えられた選択肢は、ESGの変革がもたらす事業機会を収益化するか、手遅れになった後に変革に追い込まれて莫大なコストを費やすか、このいずれかしかありません。

分散型金融で形勢が逆転

分散型金融(DeFi)については、金融仲介という伝統的な役割から銀行を排除し、ピアツーピア(P2P)取引とブロックチェーン技術を通じて金融システム全てを刷新するものだという大胆な主張もあります。しかし、DeFiの預かり資産総額は、最大となった2021年の2,570億米ドルから現在は約580億米ドルまで減少するなど、大幅な変動が見られます。また、DeFiは従来の金融システムとは対照的に、マネーロンダリング、サイバー犯罪、データプライバシーの欠如のような不正な取引と関連付けられることが多く、既存のシステムを置き換えるには未成熟と言えます。

銀行の直面する課題は明確です。ホールセール・バンキング業界は今こそ、その明らかな弱点を強みに転換しなければなりません。規制業種という立場をある意味では最大限活用して信頼を高め、リスクを管理し、あらゆる競合からの攻撃に対し自らを鍛えなければなりません。

伝統的なフィンテック企業とデジタル資産への新規参入企業は、銀行が全く追いつけない速度でDeFi分野のイノベーションを進めています。新規参入企業は、よりアジャイルな技術スタックを享受でき、それ故にレガシーシステムに邪魔されることはありません。銀行は、速やかに行動を起こさなければ、中核事業分野でさらなるディスインターミディエーション(銀行離れ)に直面する恐れがあります。例えば、新しいP2Pモデルは預金を減少させ、それによって銀行の投資能力と融資能力に影響を与えることになります。

イノベーションの加速により、勝てるパートナー選びは終わりのない作業になるでしょう。ホールセール銀行は、革新的な提携関係を確立し、金融エコシステムの中で役割を果たす必要があります。また、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)戦略の構築も全ての銀行にとってこの先非常に重要になってきます。その理由は、銀行がAPIを商品化し、自らをサポートする適切な業務モデルを開発するためです。

銀行は預金を受け入れ、先進技術を取り入れた新たな方法でリスク管理を提供し続ける道を選択するでしょう。リスク管理は高度に自動化され、風評の懸念や社会的な懸念に関わる二次リスクや三次リスクをも対象として含めるようになります。このアプローチでは、主にシャドーバンクとテック企業から成るエコシステムが、商品イノベーション、ユーザーエクスペリエンスとその提供の全てを担い、銀行を通じて販売されるのです。ホールセール銀行における資本形成、テクノロジー、ガバナンスが進化を続ける中、分散型自立組織(DAO)のような分散型エコシステムが繰り返し発展し、業界に破壊的影響をもたらすと考えます。

デジタル資産を伴った未来にも耐え得る事業

近年の動向が示すように、ボラティリティが高く、規制が明確性を欠き、顔触れ・特性・ルールも絶えず変化する市場の場合、アグレッシブな程のリスク許容度を持つ企業でもなければ、通常は市場への参入はできません。これまでは、多くの企業にとって傍観することが賢明な選択でしたが、今後それはますます難しくなるでしょう。

多くの市場参加者は、近年のイベント(市場の混乱)を受け、ビジネスモデルに問題のある企業は業界から一掃される一方、より良いビジネスモデルを有する企業には商品の増強とリスク管理の強化に注力する機会がもたらされると考えています。私たちも、この考えに賛同します。投資家保護、情報開示、流動性管理の分野で能力を強化する企業は、規制当局、政策立案者、顧客からの高まる期待にも的確に応えることができるでしょう。

レガシー銀行がデジタル資産への動きで遅れをとった上、米国政府をはじめとする全世界の規制当局が規制の明確化を進めていることを考えれば、次の市場参入者はより伝統的な金融機関(ビジネス)へ向かうと予想されます。これらの新規参入事業者は、リスク管理や規制の専門知識を最大限に生かし、より多様な商品やサービスを提供するようになるでしょう。例えば、安全なカストディ、暗号通貨の現物上場投資信託(ETF)、流動性が高くボラティリティが小さい安定したなデリバティブ市場、さらには、現実世界の資産(不動産、ファンドなど)の円滑な価格形成・トークン化・証券化を可能にする分散型ながらも互いにつながりを持つ流動性プールが挙げられます。

マクロ経済とインフレの圧力が高まり、さらに、資本コストが爆発的に増大し続けるにつれ、各行は、こうした逆境を逆手に取って、従来型バンキングサービスを暗号資産ネイティブの企業に変身させるような明確な事業計画と戦略を策定するとともに、自社事業を未来の変化にも耐えられるようにするデジタル資産専用の商品・サービスを幅広く立ち上げるべきです。長期的には、経済の変動が落ち着けば、デジタル資産の運用効率によって資本コストの低減も可能になると考えます。

銀行が適応していくための7つの方法

どの銀行においても大きな課題となっているのは、持続的な成功に必要な変革を実現するために、リソースと資本をどう配分すべきかを判断することです。規制、金利、経済変動といった外的要因が大きく変化する環境においては、より判断が困難となります。

既存の銀行は、変革に向けた優先事項、特に業務能力と人材がこれまで以上に喫緊の課題となっているため、迅速な意思決定を迫られることになるでしょう。それと同時に銀行は、日々の業務の遂行と持続可能な変革プログラムの実現も両立しなければなりません。そこで以下では、銀行の今後数年間の力強い成長の実現に向けて、経営陣による自社の変革アジェンダ見直しと適応能力の構築を助ける7つの戦略的考察を示します。

1. 加速する市場の変化に照らして、自行の変革アジェンダを継続的に評価する。

業界の変化や事業への脅威の展望を理解し、変化にいつでも対応できる態勢を整えます。さらに、変わることをコアコンピテンシーの1つと捉え、アジリティ向上に適したスキルを組織全体に備えます。

2. 「銀行経営」と「銀行変革」のための活動を比較評価できる体制と能力を構築する。

大規模な変革を念頭に置いて戦略策定と予算配分を行います。自社および顧客の持続可能性やネットゼロの目標に取り組み、デジタル資産やウェブ3に向けた体制整備を決定するなど、ボラティリティが上昇しても設定した針路から焦点を逸らさず取り組みます。

3. データとその分析能力を強化する。

フロントオフィスとリスク管理部門の両方のニーズに対応する分野横断的アプローチを用いて、包括的なリアルタイム分析手法を開発します。

データと分析の注目点

2020年初のコロナ禍の拡大期に起きたような、市場のボラティリティや流動性危機は、単一資産クラスのデータ、エクスポージャー管理、意思決定が抱える制約を露呈させました。こうした動向から、私たちの顧客は、異なるリスク資産間の包括的なリアルタイム分析を実現すべく、その開発に力を入れるようになっています。

さらに視野を広げると、近年、ビッグデータ戦略は、トレーディングのための市場センチメント分析、(前述の)リスク分析、市場監視といった資本市場の他分野にも影響を与え始めています。データ管理は今や、ほとんどの金融機関にとって戦略的機能となっているのです。さらに、規制や顧客、組織内部の要因を背景に、取引、リスク管理、業務に関するデータの再評価も行われるようになっています。

一般的にデータ戦略は、フロントオフィスでのトレーディングからバックオフィスでの事務処理、監視、リファレンスデータ作成とサポートに至るまで、あらゆる機能に適用可能です。当然のことながら、今日、データ重視の取り組みに注力する企業は、データを用いて自社バリューチェーン全体に広がる問題に対処できるよう、さらにはより重要な点として、激しく変化する環境の中で競争優位性を創出できるよう、自社ならではの方法を見いだそうとしています。

4. 中堅・シニアレベルのリーダーに権限を与えることで、変革を促進させる。

組織全体を横断するアジリティや必要とあれば深く切り込む姿勢を持ち、アジャイルな業務モデルを目指して簡素化を図れるリーダーには、より多くの権限を与えて育成するべきです。「銀行経営」と「銀行変革」を同一視する経営のマインドセットを醸成します。

5. 新機能の導入促進・加速化のために、継続的にチームのスキルを高める。

全行員が上述のトレンドを先取りできるよう、必要な投資を行います。全行員を巻き込んで権限を与え、破壊的革新について学ぶことを促すとともに、経営の透明性を高め、今後の自社戦略やアプローチについては成熟度に関わらず情報を開示します。トレンドと変革が各行員の役割と機能にどのような影響を与えるのかが伝わりやすい方法を工夫します。

6. 自行が成長市場のどこに身を置きたいのかについて、総力を挙げて決断を下す。

自行の業務能力を評価した上で、どの部分を内部で開発し、どの部分を購入、採用、コントロールするのかを特定します。自行の変革に関して、市場における自行の位置付けや、市場シェアと顧客内シェア(ウォレットシェア)を高める能力を評価します。目指す変革によって自行の位置付けがどのように改善するのかにつき、成功基準や指標を作成してモニタリングし、成功したらそれを高く評価します。

7. 組織全体で効果的なコミュニケーションを徹底し、さまざまな意見を持つステークホルダーに影響を与える。

部門間レベルと企業レベルの両方におけるステークホルダーの動機付けには、変革を推進する理由を明確に示すことが極めて重要です。技術・競争・地政学上の混乱が複雑に入り組んだ事業環境の中で成長し成功を収める上では、適応力と意思決定のアジリティを養う必要があり、そのためには相応しい指導者をリーダーのポジションに置くことが不可欠です。

絶え間ない変化の中で経営陣に与えられた課題は、霧の中でも前を見据え、起こりつつある進化のスコープを理解し、持続可能な成功を実現するために大胆に行動することなのです。

※本コンテンツは、Wholesale Banking 2025 and Beyondを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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主要メンバー

加藤 雅也

パートナー, PwCアドバイザリー合同会社

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