「観る」:テレビの広告収入が回復しつつある中で、映像配信サービスは現状の成長率を維持できるのか

従来型テレビの広告収入は落ち込みから回復しつつあるが、今後の成長は広告費用に対するリターンの向上にかかっている

ロックダウンによって消費者は屋外での支出機会が制限されたため、広告主もまた、広告出稿を制限したようでした。実際に、2020年の従来型の放送局テレビ広告は、10%減少しました。

しかし2021年には、各種広告主が戻ってきたため、テレビ広告セクターは、当初予想よりも力強く回復しました(先ごろ英国民間放送ネットワークは成長率を約20%と発表)。結果として、同セクターは、COVID-19による落ち込みから急速に回復しており、2022年には一桁台前半の成長率に戻ると考えられます。

既にデジタル配信が進んでいる英国のテレビ放送局が広告収入を増加させるためには、広告のターゲティングおよびコントロールのレベルを高め、広告主が実施するキャンペーンをこれまで以上にサポートする必要があります。広告主はデジタル広告が提供する精密なターゲティングに慣れており、テレビに対しても、同様の機能を期待するようになると考えられます。

英国ではこの機能を提供している放送局が既に存在します(Sky、ITV、Channel4)。Skyは、リニアテレビ上でもターゲット広告を提供しており、さらなる投資によって成長が期待されます。テレビ広告の全てがターゲット型にならないとしても、(テレビは、今後も極めて重要な放送媒体のため)この先広告主は、放送型・ターゲット型の双方でテレビ広告キャンペーンを計画するようになるでしょう。

一方で、YouTubeなどのインターネット大手企業との競争が激化しています。2021年5月には、2,500万人がコネクテッドテレビを介してYouTubeを視聴しました。このようなコネクテッドテレビの躍進は、従来型のテレビチャネルから広告支出を奪っているだけでなく、消費者が考える「テレビ」の定義を押し拡げています。

BBCの受信料が(英国政府によって)2023年まで据え置かれていることから、BBCの財源が将来どうなるかという問題が論争の的となっています。BBCが現在提供している幅広いサービスを継続するために、長期的には政府の方針次第でサブスクリプションモデルと広告収入モデルのどちらを採るのか、BBCは選択を迫られる可能性があります。とはいえ、BBCはそのグローバル部門を通じて、現在でも既にかなりの広告収入を得ています。

OTT以外の有料放送事業者は、サブスクリプション収入の低下に歯止めをかけようとしているが、より柔軟な視聴環境を求める消費者からの要求レベルは高まっている

「私たちは、数年前から有料放送のサブスクリプション収入の世界的な減少を目の当たりにしており、特にその傾向は米国において顕著に表れています。英国では、有料放送のサブスクリプションとOTTのサブスクリプションを組み合わせて利用する消費者が増えています」
Jeremy Dain、ディレクター(Director)

英国の有料放送事業者は、収益減少の加速を抑えることに成功しています。収益減少は2022~2025年の年平均成長率(CAGR)で1%余りのマイナスにとどまると予想されています。

しかし、OTTサービスを自社でも展開し、ブロードバンドやモバイルなど、テレビの枠組みを超えてサービスを提供し続けることでより良い顧客体験を提供できれば、顧客を維持するだけでなく、増やせる可能性もあります。

有料放送事業者にとってのリスクは、有料放送に接した経験が無く、OTTと同様の使い勝手を期待する若い視聴者層です。そうした視聴者層の求めに応えて、「好きなものだけを選んで、組み合わせる」ことができるサービスを提供することができれば、リスクを軽減できると考えられます。

有料放送事業が、OTTを抑えて今も差別化できている分野の1つが、サッカーをはじめとするプレミアムスポーツの放映権です。顧客を維持するためには、この分野の放映権の取得は非常に重要であり、欠かすことはできません。

しかし、プレミアムスポーツの放映権を確保するだけでは、消費者は満足しなくなっています。英国のプロサッカーがCOVID-19による短期間の休止後に再開された際、事業者は、都度課金(ペイ・パー・ビュー)方式による試合放映を導入したものの、その価格が高過ぎると批判を浴びました。都度課金方式の導入が失敗に終わったことは、消費者が支払える金額という点で、市場が既にピークに達してしまっていることを示しているのかもしれません。放映権が既に3社のプロバイダーに分割されてしまっており、消費者が試合を視聴するためのコストは増加していたのです。

英国での次回の放映権取得は、Sky Sports、BT/Eurosport、Amazon、DAZNによる3~4社の争いになりそうです。Amazonは莫大な資金力を有していますが、Sky Sportsは、既に放映試合数が減少していることに加えて、欧州での競争でBTに負けているため、放映範囲がさらに減れば、解約率が増加する可能性があります。こうしたことから、Skyには放映権維持に向けてのプレッシャーがかかっています。

サブスクリプションOTTサービスはロックダウン下で成長を遂げたが、全てが生き残れるわけではないだろう

2020年は、サブスクリプション型のビデオ・オン・デマンドの成長率が急上昇しました。コンテンツ競争が激化するにつれ、「スタッキング(stacking)」(複数の月額サブスクリプションに加入すること)も厭わない消費者が増えました。外出制限が緩和されるにつれて成長率は鈍化すると見込まれていますが、それでもなお、2021〜2025年は8%程度の年平均成長率(CAGR)を見せると予想されています(図表1参照)。

英国における OTTビデオ

消費者にはかつてないほど多くの選択肢があります。しかし、サービス提供者が急増したということは、その全てが生き残れるわけではないことを意味し、統合が進むことが予想されます。大手のサービス提供者は、保有コンテンツおよび加入者を獲得するために、競合他社の買収やアライアンスを検討する可能性があります。

「OTT事業者は、加入や解約のプロセスを可能な限りスムーズにしています。これが、使い勝手の良さを強く求める若者に好まれ、長い契約期間を設けている競合他社から若者を引き離すことにつながっています」
Ashkan Fouladbakhsh、PwC、ストラテジーコンサルタント(Strategy Consultant)

規模を拡大できれば、収益向上の機会が生まれます。消費者にとってはコストの上昇を意味します。コンテンツ制作のコストは高く、OTT事業者は、アップセルの機会やサブスクリプションのコスト、複数の画面で同時に見るプレミアムオプションについて検討する必要があるでしょう。

加入者を惹きつけ、解約数を減らすことが、成長のカギです。そうした戦略の1つとして、Netflixは、ビデオゲームへと多角化を行っています。加入者は、人気番組『ストレンジャー・シングス 未知の世界(Stranger Things)』とタイアップしたゲームなど、今では幅広いモバイルゲームにアクセスすることができ、自社プラットフォームの利用を長期的に増やすことにつながっています。

また、OTT事業者は、特定の地域のコンテンツに特化することによっても、成長機会を見出すことができます。『イカゲーム(Squid Game)』(韓国語)、『ルパン(Lupin)』(フランス語)など、英語以外の言語の番組の世界的な成功によって、世界中に展開できるコンテンツへの探求が過熱しています。

現在の主要OTTプレーヤーのほとんどは米国企業であるため、英国コンテンツの海外配信(Britboxなど)や、文化・芸術などのニッチな市場(Marquee TVなど)にも、まだ成長機会があるかもしれません。全てのOTT事業者にとってカギとなるのは、それぞれの配信地域や顧客セグメントに適したコンテンツに効率的な投資を続ける必要があるということです。

そのため、大手のOTT事業者は、コンテンツ制作の内製化を一層推進することにより、プロセスの初期段階から独占的なコンテンツを確保して、市場での差別化を図っています。

コンテンツこそが成功を決定:英国コンテンツ市場のように、継続的にコンテンツ投資を行える市場は有利な立場にある

人々が「視聴する」もの、その全ての分野に共通する成功への糸口は「コンテンツ」です。加入者数や広告収入を増やす上での真の差別化要因はコンテンツなのです。

その点、英国発のテレビ番組・映画は莫大な輸出価値を生み出しています。事実、英国のコンテンツクリエイターに対しては継続的な投資が行われており、映画スタジオであるPinewood Studiosの拡張には、現在5億ポンドの投資が決定しています。また、ハートフォードシャー州にテレビ・映画スタジオを新設するために7億ポンドの投資が検討されています。

消費者は、複数の有料サービスに加入し、クオリティの高いコンテンツに対しては積極的に支出しています。つまり、この分野においては、視聴者を最もワクワクさせ、楽しませることができる者が勝者となるのです。もちろん、使い勝手や顧客体験、操作性など、コンテンツの他にもサービスの差別化要素はありますが、次なる『タイガーキング(Tiger King)』(Netflixで配信された米国のドキュメンタリー番組)のような大人気番組の放映権に勝るものはありません。

日本の映像配信業界も本格的な「デジタルファースト」時代へ突入

日本でもCOVID-19の影響で、テレビへの接触時間が増えました。国際的なスポーツ競技大会など、大型コンテンツの放映による好影響もあり、テレビ広告費は回復傾向にあります。また、国内OTTもテレビ放送番組の同時配信などの新たなサービスがスタート。コンテンツ視聴環境の多様化が進んでおり、既存OTT事業者も交えたユーザー獲得・維持競争が激化しています。それによりデジタルテクノロジーを駆使した「視聴体験価値の向上」が重要な課題となってきています。

放送事業者のデジタルシフト:同時配信やラインアップ拡充により視聴回数は急増、広告主へはリーチ補完やターゲティング力をアピール

OTTサービスの急成長に対抗すべく、放送事業者もデジタルテクノロジーの活用に積極的に取り組んでいます。各テレビ放送局はいずれも無料・有料のOTTサービスを提供しています。

また、放送事業者のOTTサービスもターゲティング広告の認知度強化を図っています。コネクテッドTV(CTV)の普及は加速しており、2025年には全テレビ端末に占める割合は43%になる見込みです。スマートデバイスは視聴者の属性ターゲティングが可能であり、かつテレビ局の放送コンテンツはネットコンテンツよりもブランド品質が担保されているため、広告ブランドを棄損しにくくなっています。また広告スキップを機能的に制限することで広告視聴完了率を他のOTTサービスより高めることができます。

今後は広告主が「放送型・ターゲット型の双方でテレビ広告キャンペーンを計画する」ことに備え、日本の放送事業者もまたテレビ×ネットCMの統合プランニングやターゲティング広告への積極的シフトが予測されます。

日本におけるOTT市場のトレンド:これまでの急成長とは相反し、外出機会の増加や節約志向の高まりにより、「スタッキング」や市場規模推移は緩やかに

日本も、2013年から2021年の間でOTT市場は年平均30%のペースで急速な成長を遂げてきました(図表2参照)。

日本のOTTビデオ 市場規模推移

出典:一般社団法人日本映像ソフト協会 株式会社文化科学研究所 『映像ソフト市場規模及びユーザー動向調査2021 』(https://www.jva-net.or.jp/report/annual_2022_5-9.pdf)を基にPwCが作成

また日本の映像ソフト市場におけるOTTの市場シェアは6割を超えており、OTTは既に映像コンテンツのメイン視聴チャネルにまで成長しています(図表3参照)。

日本の映像ソフト 市場種類別市場規模

出典:一般社団法人日本映像ソフト協会 株式会社文化科学研究所 『映像ソフト市場規模及びユーザー動向調査2021 』(https://www.jva-net.or.jp/report/annual_2022_5-9.pdf)を基にPwCが作成

一方でこの成長がいつまで継続するかは、慎重に見極める必要があります。前述の英国のレポートでは「スタッキング(複数の月額サブスクリプションに加入すること)も厭わない消費者が増えました」とありましたが、日本のOTTサブスクリプション利用者の同時加入サービス件数は2020年から2021年にかけて横ばいに推移しており、増加傾向にあるとは言えません(図表4参照)。

SVOD利用者の サービス利用数

出典:GEM Partners「動画配信/放送/ビデオソフト市場 ユーザー分析レポート(2021年11月調査版)」(https://gem-standard.com/statics/download/Press_Release_user_analysis_report_202111.pdf)を基にPwCが作成

同時加入サービス件数がこのまま増加しない(動画配信サービスを利用する人は、平均1.7個の動画配信サービスに加入すると満足してしまう)と仮定すると、日本のOTT市場規模の上限は6,874億円となり、数年後には市場が飽和するという見方ができます(図表5参照)。

なおNetflixは、先行して展開した米国市場において既に会員数減少と顧客獲得コストの高騰(2021年に960米ドルとコロナ前の2倍)という問題に直面しており、競争が激化していることがうかがえます。

日本のOTTビデオ市場規模の 上限推計

出典:一般社団法人日本映像ソフト協会 株式会社文化科学研究所 『映像ソフト市場規模及びユーザー動向調査2021』(https://www.jva-net.or.jp/report/annual_2022_5-9.pdf)、
e-Stat 政府統計の総合窓口(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200521&bunya_l=02&tstat=000001136464&cycle=0&tclass1=000001136466&tclass2val=0)を基にPwCが作成

また、コロナ禍の終焉による映像視聴時間の減少やリアルなライブ、イベントなどへの回帰、インフレによる節約志向の高まりにより、OTT市場の成長には2022年以降、逆風が吹く可能性が高いと言えるでしょう。

Disney+、NetflixなどのグローバルのOTTサービスが席巻し、競争がさらに激化する中で、日本のOTTサービス提供者にも次の一手が求められています。

業界プレイヤーパターン:視聴環境の多様化・競争激化にともない、SVODサービスは「バンドリング型」や「ハイブリッド型」へ移行

一般的にOTTサービスはサブスクリプション型(SVOD)・広告型(AVOD)・都度課金型(PPV)に大別できますが、日本におけるOTT事業者が展開するサービスは下記の3パターンに分類できます。

  • 単独型:定額見放題プランのみを提供
  • バンドリング型:通信や通販などの他サービスの契約プランに抱き合わせて配信サービスを提供
  • ハイブリッド型:広告付き低価格プラン、またはPPVのプランも提供

OTTサービスの選択肢が増え、価格競争が激しくなっているため、価格を下げにくい単独型は今となってはあまり多くありません。サービス開始当初のNetflixが該当しますが、現在は通信や電力契約とのセットでプランを提供するといった、「バンドリング化」による顧客維持・拡大も図っています。DAZNも、特定の通信キャリアと契約しているユーザーは通信料金が割引となるプランを提供しています。バンドリング型のプランを提供しているサービスは日本にも多く、各サービスともに通信キャリアなど、コングロマリット系のサービスと提携し、ビジネスモデル・キャッシュポイントの複雑化が進んでいます。

市場が成熟傾向にある中で、SVODサービス提供者は上記のバンドリングに加えて広告付きなどの他プランも提供するといった、「ハイブリッド化」もポイントとなります。Netflixも広告付き低価格プランの導入を検討しているとアナウンスしています(Netflix2022年4月決算発表より)。

日本のOTTサービス提供者が取り得る打ち手:スムーズに良質なコンテンツを作り、拡げる

OTTの進展により、柔軟な視聴環境や充実したコンテンツの提供が可能となったことで、視聴者の映像コンテンツへのニーズも多様化しています。日本のOTT事業者にもコンテンツラインナップの拡充がますます求められるようになっており、視聴者のニーズにマッチしたオリジナルコンテンツの制作にも取り組む必要があります。

日本でもNetflixが既に行っていますが、ユーザーの視聴、行動データを活用することで、企画段階でデータオリエンティッドなヒット予測を実施する例も見られます。しかし日本の映像制作業界は中小企業が大多数を占めることもあり、撮影現場の効率化やスマート化への投資が遅れており、コンテンツ制作上のボトルネックとなっています。OTT事業者が率先して映像制作現場の労働生産性の向上に取り組み、DXを推進することで、良質な企画のスムーズな映像化やコンテンツの量産化が可能となり、競争力強化につながるでしょう。

また、映像コンテンツの販売数量曲線を考えた時に、ヘッド部分はDisney+やNetflix、ロングテール部分はYouTubeが優勢なものの、ミドルテール部分(ローカルニュースなど)にホワイトスペースがあると考えられ、オリジナルコンテンツによる収益化を検討する余地があります(図表6参照)。

実際に米国ではOTTサービスによる地元密着型広告収入が見込める地方ニュースへの取り組みが始まっています。

国外に目を向けると、NetflixやDisney+などのグローバルOTTによりワールドワイドでのコンテンツディストリビューション網が構築されつつあり、日本のコンテンツホルダーにとって新たな商機が生まれています。国内OTT事業者にとって、グローバルOTTをライバルと考えるのではなく、彼らの配給網を活用することで、これまで以上の収益を獲得できる可能性があります。これまで国内市場に最適化されていた製作委員会方式も、世界へ打って出ることを見据えて、新しい座組み・収益モデルへの変革にチャレンジすることも重要なテーマの1つとなります。

これからのOTT市場は競争が激化し、不透明さが増す一方で、新市場開拓の機運も高まっており、国内OTT事業者にとっては新たな収益機会を探るうえで絶好の好機と言えるでしょう。

本コンテンツは、「"Watch": TV advertising revenue is bouncing back, but can subscription services continue this rate of growth?」を翻訳し、一部加筆したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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主要メンバー

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