経済安全保障を前進させるために

~官民対話の必要性を考える~

1. エグゼクティブサマリー

日本を取り巻く環境は近年経験したことのないスピードで変化し続けている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以前、世界はサステナビリティをベースにした価値観を推進力としていた。国ごとにスタンスは異なるものの持続可能な社会を目指す価値観は多くの国で共通なものとなり、取り組みが本格化し始めていた。そのなかで起きたパンデミックは、世界各国の経済・社会活動に対し甚大な影響を与えた。一時的なサプライチェーンの混乱などは、その後解消に向かったものの、これまで人や物の移動に制限がかかることが想像しにくかった国々で重要物資の輸入が途絶されることへのリスク評価・回避のための議論の必要性が強く認識された。

さらには、2022年2月にはロシアがウクライナに侵攻した。エネルギーや食料に与える影響は大きく、需要と供給のバランスは崩れ、物品の価格高騰に拍車がかかった。これらを発端に、世界各国で自国の安全保障の討議が加速している。

本稿では、まず日本を取り巻く外部環境がどのように変化しているのかを解説し、安全保障上重要と見なされるエネルギー・食料、重要物資としての半導体・蓄電池に注目して、外部環境がそれぞれの需給メカニズムにどう影響するか、およびそれぞれの物資を確保するための重要論点を解説する。外部環境や各国の産業政策の変化を押さえた上で、日本政府や民間企業の動向を確認し、ともに取り組むための結節点を見出し、対話の必要性を考えていくことを本稿の目的とする。現在、日本の安全保障について、官民連携でどのような取り組みがなされているかを理解したい方々の一助になれば幸いである。

また、経済安全保障に資する取り組みにおいては、現在自国のレジリエンスと産業競争力の強化に重きがおかれているが、サプライチェーンが多元化している状況下においては、自国で重要物資の調達から製造までをまかなうことは不可能であり、価値観をともにする国家間でのサプライチェーンの再編を目論むといった様相を帯びてきている。当状況下で日本のおかれている立場や、今後の連携のあり方についても示唆を導出する。

2. 外部環境の変化

日本社会を取り巻く外部環境は大きく変化している。グローバル協調から、自国第一主義へ転じる国が現れ始め、グローバリゼーションと自由経済との矛盾が浮き彫りになっている。さらには、人口構造の変化やニューノーマルの常態化による生活の変化、ハイテク技術の高度化と先端技術産業の競争過熱が目立っている。

【図表1】中長期での環境変化 (PEST分析)

これまでもサステナビリティ・持続可能な社会への取り組みは行われてきたが、これに加えて安全保障に関する視点が求められるようになった。オバマ政権後期より、米国と中国の政治的対立が顕著になっているが、これは次世代の先端技術を制すための対立でもある。米国は先端技術を含む経済分野において関税障壁を設け、国内において中国製品の販売に高いハードルを課す、また販売を禁じるといった措置をとっており、こうした地政学動向も、日本社会や民間企業はリスクとして考慮すべき要素となった。

近年の地政学リスクの高まりへの対策として、主要国政府では官による経済分野へのコミットメントが拡大している。米国では、半導体、電気自動車(EV)、再生可能エネルギーといった分野に対して、CHIPSプラス法1(CHIPS and Science Act/2022年8月成立)やインフレ抑制法2(Inflation Reduction Act of 2022/2022年8月成立)など、より強力な産業育成政策が講じられている。

重要技術を育成し、重要物資の需給バランスを崩さず途絶させずに、社会・経済活動を営むためには、上述の外部環境が与える影響を、実生活に至るまで幅広く勘案し、官民それぞれが役割を果たしていく必要がある。

3. なぜいま安全保障が注目されているのか

3-1. 日本の経済安全保障の捉え方

「経済安全保障」の概念について、2022年12月に閣議決定された国家安全保障戦略では「我が国の平和と安全や経済的な繁栄等の国益を経済上の措置を講じ確保すること」としている。具体的な対応としては、以下の3点に大きく類型化できる。

  • エコノミックステイトクラフト
    • 政治目的を達成するため、軍事的手段ではなく経済的手段で他国に影響力を行使すること
  • 自国の経済レジリエンスと産業競争力の強化
    • インフラやエネルギー供給といった国家の基幹機能を強化する試み
  • 国際経済システムの強化・再構築
    • 関係国間でサプライチェーンの強靱化や技術開発などを行う試み

現在、日本政府が推進に意欲的であり民間企業でも関心が高いのが、2つ目の「自国の経済レジリエンスと産業競争力の強化」に該当するエネルギーや食料など重要物資の安定供給確保、先端技術の育成、インフラの安全性確保といった、国の基幹的機能全般の強靱性を高める施策である。これに加え、投資規制、輸出管理、サイバー防衛などの対応強化もレジリエンス向上のために欠かせない。

本稿では、これらの領域のうち、主に重要物資に関して論じるが、その要諦は、戦略的自律性と戦略的不可欠性の確保の2点である。

次項では、重点的な対応が必要とされるエネルギー安全保障、食料安全保障、また、経済安全保障推進法で特定重要物資に指定された半導体、蓄電池を事例として取り上げ、現状を概観する。

3-2. 個別産業における取り組み

3-2-1. エネルギー

エネルギー安全保障とは、社会経済活動に必要な石油や天然ガス、電気などのエネルギーを妥当な価格で安定的に確保・供給することを意味する。エネルギー源の大部分を海外からの輸入に頼っている日本にとって、社会経済活動に必要なエネルギーを妥当な価格で安定的に供給・確保することは恒常的な課題である。

エネルギー需給のバランスを崩す外的要因としては、脱炭素の進展による化石燃料からの脱却が大きい。サステナビリティ・脱炭素化へのトランジション期においては、石油や石炭といった化石燃料への投資が構造的に減少し、温室効果ガス(GHG)排出量が少ない液化天然ガス(LNG)、再生可能エネルギーへの比重が高まりつつあった。そこへ、コロナ禍からの経済回復に伴う需要急拡大、世界的な天候不順、ウクライナ侵攻を契機とするロシアからEUへの天然ガスの供給一部停止などさまざまな事象が発生し、2021年から世界的なエネルギー価格の高騰が生じている。

【図表2】 エネルギー需給のメカニズム

近年需要が増加しているLNGだが、今後は需給ギャップが拡大していく可能性が高い。実際に中国や韓国は、エネルギー安定供給のための国家戦略に基づき、国営企業を中心にLNGの長期契約の締結を進めている。欧州でもロシアからの天然ガス供給途絶リスクを受けて新たなLNG契約に向けて政府が積極的に関与しており、来年以降は今以上にLNGの輸入を拡大する見通しである。日本政府もLNG調達に対する国の関与を高める方針3だ。

一方で、これまでの脱炭素化の潮流により、化石燃料への投資はLNG含め減少している。世界のLNG需要と供給能力の差は2025年に向けて大きく拡大することが想定され、グローバルな「LNG争奪戦」がより過熱する可能性が高い。

今後に向けた論点としては、再生可能エネルギーの導入促進、次世代型原子炉の開発、水素・アンモニアの利用拡大、安定供給維持に向けた取り組みが挙げられる。

【図表3】世界のLNG供給余力 (ピーク月〔 1月〕 ベース)

3-2-2. 食料

食料安全保障とは、全ての国民が、将来にわたって良質な食料を合理的な価格で入手できるようにすることを意味する。小麦、大豆、とうもろこしをはじめ多くの食料、飼料、肥料原料を輸入に依存している日本においては、食料の安定供給にあたり、外的要因の影響を受けやすい。国際的な価格の上昇や円安の影響などを受けるなか、食料安全保障をどう守るかが課題である。

【図表4】日本の品目別輸入状況 (2021年度時点)
【図表5】1965(昭和40) 年度以降の日本の食料自給率の推移

食料の需給バランスを崩す外的要因としては、まず近年の異常気象による収量減少がある。主に新興国では持続可能な農耕技術が浸透していないため、農地の老朽化による収量減少もある。ロシアによる、多大な穀物輸出国であるウクライナの農地破壊による輸出量の減少も大きい。

食料安全保障の課題は、食糧・食料そのものだけではない。農作物を育てる過程で使用する化学肥料の原料供給途絶リスクも大きな課題となっている。化学肥料を作るための原材料となる鉱物・原料はほぼ全てを輸入に頼っており、また化学肥料の製造過程で多くのエネルギーが使用されるためである。肥料は収量に大きなインパクトを与える要素があることに加え、特定重要物資指定候補の一つにもなっている。

農林水産省の「2050年における世界の食料需給見通し4」では、人口増加と経済発展により2050年の世界の食料需要量は2010年比1.7倍になると試算している。需要が高まる一方で、新型コロナのパンデミックにより将来的な欠乏に備えて主要穀物の備蓄を積み上げた国もあり、グローバル市場への食料の供給が絞られているのが現状である。このような需給ギャップの拡大が、食料価格や肥料価格の高騰を引き起こしている。

【図表6】 食料需給のメカニズム

今後に向けた論点としては、食料や化学肥料の原料などの安定供給、生産性向上のための研究開発と持続可能性の追求、および輸入支援と国内の食料生産基盤強化を両立することが挙げられる。

農林水産省の令和4年度第二次補正予算案(2022年11月閣議決定)では、食料安全保障の強化に向けた構造転換対策として1,642億円が計上された。また、政府は食料品の物価高騰の影響緩和に向けた緊急パッケージ5をまとめ、海外依存度が高い穀物や肥料の国産化を進める方針を示した。国内肥料資源利用拡大対策に100億円、産地生産基盤パワーアップ事業に306億円をあてるなど、資金面から農家や企業の取り組みを後押しする。

今後、サステナブルな食料供給システムの構築や生産基盤の強化に向け、協調領域における官民連携の取り組みが望まれる。

3-2-3. 半導体

エネルギーや食料に加え、経済安全保障において重要視されているのが、半導体・蓄電池・レアアース・抗菌薬といった重要物資である。なかでも半導体は、5G、AI、IoT、自動運転などデジタル基盤を支える最重要技術であり、各国の産業政策が最も力を入れている分野6である。

日本ではかつて、1970~80年代に通商産業省(現・経済産業省)によるコンピュータ産業振興を目的とした超LSIプロジェクトに代表される振興策が成功し、半導体の川上産業である材料分野産業や製造装置産業の強化につながった。川下でも民生用電子機器分野が先行しており、1990年付近では日本の半導体は売上高で世界の50%程度のシェアを占めるまでに成長した。しかし、それ以後は徐々にシェアを下げ、回復の兆しはないまま現在に至る。後退の原因は、1980年代の日米貿易摩擦により産業政策が後退したこと、1990年代以降、当時の政府が国際的な水平分業の潮流を読み切れなかったことなどが挙げられているが、国際連携の視点が不足していたことや官民挙げて十分な研究開発費を確保し製造能力を上げることができなかったことも理由とされている。

主要技術ごとに現状の各国市場シェアを見ると、米国が優勢な領域が多く、製造については前工程、後工程ともに台湾のシェアが大きい。現状、日本の優位性のある領域は、ウエハーを含む半導体材料、製造装置などに限られている。また日本では川下の電子機器産業も同時に弱体化している課題がある。

【図表7】 半導体関連産業の概要

今後に向けた論点としては、半導体の国内生産基盤の強化、国際連携の強化、川下の半導体ユーザー産業の育成が挙げられる。

経済産業省は「半導体・デジタル産業政策7」を取りまとめ、当該領域について民間事業支援の枠を超え、国家事業として取り組むことを表明している。つまり政府が、半導体工場の新設や改修を主体的に進めることの必要性を認識し、リーダーシップの発揮を明らかにしたことになる。政府方針8では、まずIoT用半導体の国内生産基盤の強化、日米連携強化による次世代半導体技術の習得、グローバル連携による将来技術の実現を目標としている。現在は、国内生産基盤の強化や日米連携の取り組みが表面化してきた段階である。

ただ、日本企業は、主要な半導体のユーザー産業であるスマートフォンやパソコン分野でのプレゼンスが低い状態だ。今後は、川下において将来的に半導体ニーズが高まると予想されるロボティクス分野の育成も同時に強化する必要があるだろう。

(図表8)経済産業省 「次世代半導体の設計・製造基盤確立に向けて」(2022年11月)

3-2-4. 蓄電池

蓄電池は、カーボンニュートラル達成に向け、再生可能エネルギーの主力電源化や自動車の電動化などに使われる重要物資の一つであり、今後急激に市場は拡大していく見込み9である。現在、車載用蓄電池市場と定置用蓄電池市場ともに拡大が見込まれている。

従来の日本の蓄電池戦略は、将来のゲームチェンジへの備えとして、現状の液系より安全性や寿命が向上する全固体型の開発に集中投資をしていく方針であった。しかし、量産化の時期が想定より遅れる見込みとなり、その間に一定の技術優位性を確保していた液系技術に中国・韓国が追いつき、市場シェア争いが激化する結果となっている。

現在の状況では、技術やシェアの観点から日本にグローバルプレゼンスがあるとは言い切れず、来るべき全固体型電池の競争からも脱落する恐れが出てきている。

(図表9)経済産業省 「蓄電池産業戦略」(2022年8月31日)

今後に向けた論点としては、液系リチウムイオン電池の製造能力の確保、次世代電池市場の獲得、蓄電池のリユース・リサイクルがある。

今後の蓄電地の需要急拡大が見込まれるなか、その利用を持続可能で適切なものとしていくためには、蓄電池そのものの性能向上と製造・廃棄プロセスをより高度なものにしていくことが必要である。また、これらの課題の克服には、技術革新が必要であるとともに、制度的枠組みの構築が重要であり、技術開発の推進と制度的枠組みの整備の両面からアプローチをしていく必要がある。

こうした課題に対する資金面での援助として、経済産業省令和4年度第二次補正予算案(2022年11月閣議決定)では、「グリーン社会に不可欠な蓄電池の製造サプライチェーン強靱化支援事業」で3,316億円が計上されている。日本は、次世代の全固体電池の技術蓄積が厚い半面、液系リチウムイオン電池はシェアを失いつつあり、現状、蓄電池産業の基盤を確保することが喫緊の課題である。

企業側から見ると、設備投資が巨大で開発から量産までのリードタイムが長い蓄電池事業は、投資判断の難易度が高い。各国が積極的な産業政策を展開するなか、日本として、電池メーカーや蓄電池ユーザー企業などとも連携し、産業基盤を確保していくことが求められる。

3-3. 国際的な連携

経済安全保障に資する取り組みにおいては「自国の経済レジリエンスと産業競争力の強化」に重きがおかれるが、サプライチェーンがますます多元化していく状況下においては、重要物資の調達から製造までを自国でまかなうことは困難きわまりない。よって、自国の産業競争力の強化とともに進められているのは、国際経済システムの強化・再構築である。従来の多国間での協定は、関税撤廃などのように自由貿易の推進を目的としたものであったが、現在は、インド太平洋経済枠組み(IPEF)などのように、価値観をともにする国同士でのサプライチェーンの再編を目論むという様相を帯びてきている。

対中国を念頭においた経済圏構築という意味では、米国のオバマ政権が主導した多国間での関税引き下げによる自由貿易促進のための大型経済連携協定である環太平洋パートナーシップ(TPP)がある。しかし、トランプ政権時に米国はTPPから離脱し、自国内雇用優先の立場からバイデン政権でも復帰は見込めない。2017年に米国がTPPから離脱し、インド太平洋における米国の影響力が低下しかけたタイミングの2020年に、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が署名成立した。RCEPは、中国を含む同地域で成立した自由貿易協定である。この動きに対して米国がイニシアチブ発揮を目的として提唱したのがIPEFである。

【図表10】 インド太平洋地域の主な経済連携

その他、特定の産業に特化する形での国際的経済連携もできあがってきている。半導体に関する「日米商務・産業パートナーシップ(JUCIP)」や「日米経済政策協議委員会(経済版2プラス2)」のように、日米・日EU間で具体的な協力関係構築の動きが始まった。今後は他産業においても進展していくと考えられる。自国産業の技術力の流出等につながるリスクがある分野については難しいものの、経済のグローバル化が進展し、国を超えた企業の相互依存が深まっているなか、二国間協力だけではカバー範囲が限定されるため、協力関係を面的に広げていく観点からも、価値観を共有する国々での経済安全保障を念頭においた取り組みを進めていくことが重要である。

4. 官民連携に向けて

(1)官民それぞれが果たすべき役割

経済安全保障推進法の基本方針(2022年9月)10では、重要物資や技術の確保について市場や競争に過度に委ねず、政府が支援と規制の両面で一層の関与を行っていくことが必要」とある。自由貿易を大前提としつつも、日本の安全保障において重要な物資・技術については、他国と同様に政府が積極的に関与していくことが改めて示されている。民間企業の自由を尊重することは政策の機動性が多少なりとも犠牲になることを認識した上で、官民の対話を重ねながら日本経済のレジリエンスを強化していく必要がある。

また、2022年12月に改定された国家安全保障戦略11では、デュアルユース技術開発を手掛ける企業と政府の連携や、公共インフラ事業者も自衛隊の防護対象に加えるといった方針が示された。ここにおいても、安全保障のカバー領域の拡大が明示されており、官民連携の重要性は今後さらに高まっていくと考えられる。

(2)官民連携のポイント

国際情勢の急速な変化に対応するには、安全保障的な観点から対応が必要になる多くの分野において、官民協調のもと整合的に取り組みを進める必要がある。官民の総合的な取り組みにするためには、まず、営利追求という原理に基づき競争を行う企業に対し、国が基本指針を示し、向かうべき方向性を提示することで、両者の認識をすり合わせることが重要である。経済安全保障推進法の基本方針(「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針」2022年9月30日閣議決定)は定められたが、具体的なレベルでは不明点も多く、今後の課題と言える。

政府の関与が規制という形をとる場合は、合理的に必要と認められる限度で実施するとともに、事業者などが過度の規制により国際競争上不利な環境におかれることのないよう配慮が求められる。安全保障の確保と自由かつ公正な経済活動との両立が十分に図られるようにしなければならない。政府レベルの基本方針では、中長期的な時間軸や政府としての取り組みのステップを開示することで、民間サイドの準備計画を促すことができるだろう。

産業ごとに課題は異なり、また産官学連携を開始したばかりの分野もあることから、民間サイドとしては規制対応という枠組みにとどまらず、パブリックセクターの動向に注視し、技術開発から実装といった一連のフェーズで連携の可能性を探ることも求められるだろう。

現在、領域ごとに政府計画の立案と官民連携の動きが進んでいるが、具体的な成果はこれからである。各ステークホルダーの合意形成、目標に向けた意識統一といった課題をクリアし、協力体制を築けるかが今後の課題と言える。

5. おわりに

世界的にみて、現在の政治的対立の緊張レベルは非常に高い。本稿で概観した一部の重要物資の安定供給化以外に、重要技術開発や開発人材の国外流出防止、産業の競争優位性の確保、インフラの安定性維持、サイバー人材確保など、取り組むべき課題は多い。

その際の対応として、官主導でルールを整備しつつ、民との対話を繰り返し、国をあげて取り組んでいくことが求められる。

現在、世界的なサステナビリティ志向の拡大、新型コロナウイルスの流行、ロシアのウクライナ侵攻、自国第一主義の台頭などが外部環境の変化を引き起こす大きな要因となっているが、国際秩序の乱れによりどのような要因がさらに加わっていくのか今後注視が必要である。

個々の事象に対処する能力を向上させつつも、安全保障を脅かす状況を引き起こすメカニズムを理解し、官民の総合力を結集して、不慮のシナリオへの対応力を高めていくことが重要だろう。

1 H.R.4346 - Chips and Science Act
https://www.congress.gov/bill/117th-congress/house-bill/4346

2 H.R.5376 - Inflation Reduction Act of 2022
https://www.congress.gov/bill/117th-congress/house-bill/5376/text

3 内閣府 「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策について」(2022年10月28日)
https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2022-2/20221028_taisaku.pdf

4 農林水産省「2050年における世界の食料需給見通し」(2019年9月)https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_zyukyu_mitosi/attach/pdf/index-12.pdf

5 首相官邸 食料安定供給・農林水産業基盤強化本部(第2回)議事次第「食料品等の物価高騰対応のための緊急パッケージ(案)」(2022年11月8日)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/nousui/shokunou_dai2/siryou1.pdf

6 第208回国会参議院内閣委員会経済産業委員会連合審査会会議録第1号10頁(2022年4月26日)
https://www.sangiin.go.jp/japanese/kaigijoho/shitsugi/208/s063_0426_01.html

7 経済産業省「半導体・デジタル産業政策」(2021年6月)
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210604008/20210603008-1.pdf

8 経済産業省「次世代半導体の設計・製造基盤確立に向けて」(2022年11月)
https://www.meti.go.jp/press/2022/11/20221111004/20221111004-1.pdf

9 経済産業省「蓄電池産業戦略」(2022年8月31日)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/battery_strategy/battery_saisyu_torimatome.pdf

10 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針(2022年9月30日)
https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/kihonhoushin.pdf

11 国家安全保障戦略(2022年12月16日)
https://www.cas.go.jp/jp/siryou/221216anzenhoshou/nss-j.pdf

主要メンバー

宮城 隆之

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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下條 美智子

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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小澤 まみ

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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鈴木 亜希子

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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