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未来のエネルギーシステムを創造する

分子と電子の行く末

今から始まる変革

化石燃料から再生可能資源に大きくシフトする形で、エネルギートランジションが世界中で本格的に進められています。すさまじいスピードで起こるイノベーション、資金の流入、進化する規制に促され、ビジネスモデルが急速に発展し、価値を創出するための新たな方程式を作り出しています。企業や投資家が脱炭素化を戦略の中心に据える中、社会や消費者からの圧力が高まっていることから、新たな形で連携していかざるを得ない状況が生まれています。

2015年のパリ協定、そして、最近行われた米中両国によるネットゼロの実現に向けた表明によって、各国政府は脱炭素化を応援するチアリーダーから、エネルギートランジションを指揮する指導者へと変貌しました。韓国から米国、欧州に至る国々で導入されている、パンデミックからの回復を促すための大規模な景気刺激策は、より回復力が強く、持続可能な経済とエネルギーシステムの構築を目指しています。

政策、投資、技術進歩の影響力によって、産業革命以降、エネルギー部門では見られなかった一連の変革の動きが起こりました。今後10年のうちに、新たなエネルギーシステムが現れ始めるでしょう。石油・ガス、電力・公共事業、化学産業など、かつては明確に線引きされていた産業がまとまり、統合型エネルギーシステムを形成していきます。再生可能な分子と電子により生み出された新たな方向性の出現に促される形で、新たな産業クラスターが誕生するでしょう。投資家は巨額の資金を投入していきます。

電子・分子の創出方法、システムにおける移動方法、貯蔵方法および最終用途など、一連の大きな影響力が新たな経路を作り出すことになるでしょう。これらは、新たなビジネスクラスターを生み出しつつ、さまざまな種類のエネルギーの流れを促す統合ネットワークや、革新的な戦略の策定、官民両部門からの多くの反応につながるものと考えられます。今後、国と市場はこの不確かな将来を迎える中で、いかに協力していくか学ばなければなりません。また、市場参加者は純粋なマーケットベースのアプローチによる相対的効果を根本から見直し、今後数十年にわたる市場のガイダンスと統合を受け入れる必要があります。

13兆米ドル

全世界の送配電網を強化するために2050年まで必要とされる金額。

2兆米ドル

PwCが見積もった、今後30年間で欧州の電力網を転換するための最低コスト。

2,000億米ドル

2030年までに、新興の水素輸出市場向けインフラのみに費やされる金額。1

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より多くのエネルギーを必要とする世界

国際エネルギー機関(IEA)は、私たちの世界に電力を供給する分子および電子に対する世界の総需要は2040年までに23%増加すると予想しています。短期的に見ると、化石燃料が今後も引き続き、輸送用燃料となる分子と、電熱を供給する電子の大部分を占めるでしょう。しかし、より長期的に見ると、エネルギートランジションの方向性は明確です(図表1を参照)。時間の経過に伴い、カーボンフリーのエネルギー源(主に電子ですが、分子の割合が増しています)が生産に占める割合は増えていくでしょう。

図表1 地理的な変化

190カ国を超える国々が、積極的な排出削減が盛り込まれた2015年のパリ協定の目標達成に取り組んでいます。2020年、投資家がサステナブルな投資ファンドに投資した金額は2019年における総額の2倍以上に及ぶ3,500億米ドルに達し、過去最高となりました。資金の大部分は、再生可能エネルギー生産、エネルギー貯蔵、グリーン水素やその他の低炭素/脱炭素イノベーションのコスト削減に貢献するイノベーション、R&D、技術開発および拡大に向けた取り組みに投資されています。

2030年以降の10年間を見てみると、世界の電力市場において石炭の占める割合が低下し、天然ガスがやや増加する中、再生可能エネルギーの割合が大きく増加しています。IEAによると、風力発電および太陽光発電の堅調な成長に後押しされる形で、2040年までに電力市場における再生可能エネルギーの占める割合は約47%(現在は29%)になるものと思われます。そして当然のことながら、今世界が目指しているのは、こうした流れをさらに推し進めていくことにあります(図表2および図表3を参照)。

図表2 変化するエネルギーミックス
図表3 カーボンフリーの拡大

新たなエネルギーシステム:より低炭素でより複雑に

化石燃料分子に偏っている現在のエネルギーシステム(図表4を参照)から、再生可能エネルギー電子および化石炭素を排出しない分子をベースとするエネルギーシステムへの転換は非常に大きな意味合いを持っており、使われているエネルギー経路を見ると一番分かりやすいでしょう。これまで行われてきた再生可能エネルギーへの全ての投資をよそに、いまだに石油、石炭、天然ガスが今日のエネルギーの80%を占めています。これらのエネルギー源は、建物への熱供給、工場への電力供給、大半の輸送手段への燃料供給という3つの中心的な用途分野にわたり電力を生み出し、精製品を提供しています。カーボンフリーのエネルギー源(再生可能エネルギーおよび原子力)は、建物および輸送部門に電力を供給する電子のごく一部に過ぎません。

図表4 エネルギー源および対象別に見た現在のエネルギーフロー(2018年)(説明図)rt 4

がらりと変わる未来の展望

再生可能エネルギーのマーケットシェアが増加し、化石燃料が減少するにつれ、電子と分子の出所、およびその経路は新たな線を描き始めます(図表5を参照)。2050年までに再生可能エネルギーがエネルギーの90%以上を占めるようになり、化石燃料は10%未満になります。分子の供給源としてバイオマスと廃棄物が化石燃料を上回り、建物の暖房や輸送・産業部門への電力供給に使用されるようになります。さらに、CO2の回収とリサイクルが炭素分子の新たなフローを生み出します。

しかし、再生可能エネルギーにより生成された電子がこのシステムにおいて支配的となります。これらの電子は電力のシェアの大半を占め、それ自体で発電機となる大容量蓄電池を充電したり、工場に電力を供給したり、建物に冷暖房用の電力を供給したり、また、電動化のトレンドが輸送部門に到来すると、自動車、トラック、鉄道、船舶の主な燃料として浮上することになります。また、分子、すなわち、輸送用燃料や電源としての役割を果たせるグリーン水素の生成を促すという電子の新たな経路もあります(図表5を参照)。高度に再生可能なエネルギーシステムへ最終的に転換していくためには、電子および分子両方の貯蔵技術における飛躍的な進歩が不可欠となり、ベースロード発電における脱炭素化技術の役割を見直していく必要があります。

図表5 エネルギー源および対象別に見た将来のエネルギーフロー(2050年)(説明図)

環境への配慮が高まる一方で複雑性が増すシステム

将来的には、生成から活用に至るまで、今以上に多くの経路や相互作用が発生し、転換のステップが増えていくでしょう。風力や太陽光といった間欠性の電力源のプレゼンスが増すと、ピーク需要と発電量の調整や信頼性の確保という課題が生じます。

産業部門では、産業プロセスとサプライチェーンの脱炭素化に向けた圧力が増したことに伴い、さらに状況が複雑化しています。例えば、グリーン電力への需要が急増したり、電子を貯蔵する必要性やグリーン分子を輸送する必要性などが生じています。再生可能エネルギーによる分散電源を需要の中心地や、炭素の回収、リサイクル、貯留と結びつける新たなバリューチェーンが出現するでしょう(図表6を参照)。

また、炭素分子を調達する新たな手段の採用は産業界にとっての別の課題となるでしょう。これらの課題を解決することにより、エネルギー転換・貯蔵の重要性がますます高まり、炭素分子の従来の役割が転換します。

図表6 分子と電子の新たな方向性

新たなエネルギーシステムは世界のエネルギーの新たな展望や道筋を生み出すこととなります。再生可能な電子と分子の開発が新たな貿易ルートを生み出しており、これには巨額の新規投資が必要となります。再生可能電力の生産能力が非常に高い地域と需要の中心地をつなぐ送電網を建設するというプロジェクトが複数提案されています。

予想されているフローはすぐに変化する可能性があるため、市場参加者は新たなエネルギーシステムの均衡や、システムがもたらす高いリスクと変動性をコントロールするのに苦戦することでしょう。石油と石炭への依存度が低下すれば、新たな地政学的力学が働く可能性が高いでしょう。世界各国でエネルギー自給と戦略的自律性に対する政治的圧力が高まっていくと考えられます。

戦略的含意

エネルギートランジションの完了時期は明確ではありません。しかし、方向性は明確で、この方向に突き進もうという非常に大きな力が働いています。変化のスピードや高い複雑性から、あらゆる参加者(国営石油会社(NOC)、一貫操業石油会社(IOC)、公益事業会社、化学メーカー、サービス会社、投資家、電力網運営事業者の他、省庁、規制機関などの政府機関)による戦略的な対応が求められます。一部の参加者、特に大手石油会社にとって、このトランジションは存在に関わる問題です。また、これまでエネルギーバリューチェーンにおける主要プレイヤーではなかった新たな企業集団(バッテリー会社、自動車メーカー、グリーン水素輸送業者など)も同様に適応していかなければならないと気づくことでしょう。というのも、これらの企業の投入エネルギーやサプライチェーン、場合によっては、最終製品が今後20年の間に大きく変化していくからです。バリューチェーンの脱炭素化を進めつつ、新たなエネルギー環境を受け入れ、破壊を支えることで新たな価値を創出する企業は戦略上、競争上の優位性を生み出していくでしょう。

融合

分子と電子が描く新たな経路は何よりもまず、さらなる融合、そして、エネルギー部門間に従来存在していた障壁の崩壊をもたらします。こうしたことが企業をより統合的な事業経営へと向かわせるでしょう(図表7を参照)。

図表7 融合の時代

公益事業会社は、データサービスやデータアナリティクス、家庭用太陽光発電/充電設備の融資・設置、B2Bのビハインド・ザ・メーター(蓄電設備)によるエネルギー管理といった新たな事業活動を探る必要がでてきます。化学メーカーは水素を重要な製造原料、エネルギー源、活用のビジネスチャンスとして見出しており、循環的な方法による電子と分子の収集、生成、捕獲、リサイクルに重点を置きながら、自己改革しなければなりません。このような動きの中には、すでに進められているものもあります。一貫操業石油会社や送電系統運用者(トタル、シェル、OMV、テネットなど)は電力部門に巨額の投資を行っています。

バリューチェーンパートナーとしての顧客

効果が現れている一つの戦略的な原動力は、顧客の役割、そして、従来のような物品・サービスの受け取り手としてではなくバリューチェーンパートナーとしての顧客とどのように関わるかということに関係しています。事業会社やその他の大口利用者はすでに公共事業会社と提携して、デマンドレスポンスサービスを導入しています。これらの企業や利用者はピーク需要の時間帯に使用量を減らし、その見返りに払戻しを受ける契約を結ぶことができます。再生可能エネルギーと貯蔵が普及していくのに伴い、このような需要調整サービスがますます一般的になっていくでしょう。顧客自身が電子の提供者に変わることもあり得ます。いずれのプレイヤーも、エネルギーバリューチェーンにおける各プレイヤーが直面する戦略的な選択肢を認識しながら、自らの活動とバリュープロポジションをどのように位置づけるかということについて、広範囲に及ぶ決定を下さなければなりません。

国による指揮がますます必要に

いくつかの側面で克服しなければならない実務上のハードルが数多くあります。まず、コストを下げなくてはなりません。また、適切なインフラ投資を行う必要があり、さらに、規制・運用基準および手順を絶えず更新することで新たなリスクに対応しなければなりません。こうした取り組みを進める上で、分子および電子の経路と役割の見直しが必要になるのと同様に、市場と国の関係性も見直す必要があります。

政府、民間部門いずれも単独ではネットゼロや新たなエネルギー環境への転換に対応できません。これらの課題に取り組むためには、市場と戦略的インフラが発展する過程の少なくとも初期段階で国による強力な指揮が必要となります。転換は全くもって非常に複雑で不確かです。求められるのは共同での対応、すなわち、国と市場が一体となり、これまでにない形で連携することです。

全世界で採用される可能性があると私たちが想定しているモデルが3つあります。国の関与する度合いが大きい順に挙げると、政策牽引、戦略的インフラ投資、共同投資です。

政策牽引

政府がエネルギーシステムのビジョンを定め、政策手段を用いて、補助金、税額控除、規制、気候変動税により市場参加者が協力するよう導き、インセンティブを与えます。これには、政策立案能力と独立した規制を備えている強力な機関、長期にわたる政治的コミットメント、望ましい最終状態に関する政府レベルでの豊富なノウハウが求められます。このモデルはOECD諸国におけるエネルギー市場の基盤となっており、多くのエネルギー市場政策顧問が決まって取り入れる手段となっています。

戦略的インフラ投資

政府がビジョンや政策の策定にとどまらず、エネルギーネットワークなどの重要インフラに対して主導権を発揮します。このモデルは国により大きな影響力と支配権を与えて、民間の市場参加者による投資や行動を促し、これらの参加者の戦略的意図を方向づけます。国有のインフラとなれば、リターンへのプレッシャーが軽くなることから、民間の市場参加者は水素などの新たなインフラに初期段階で投資し、より大きなリスクを取ることができます。すでに多くの国々が重要なエネルギーインフラに政府が関与する形式をとっています。

共同投資

政府が重要なステークホルダーおよびその事業活動に直接出資する、もしくは、(よりリスクと不確実性が高いかもしれない)必要な投資の共同投資者としての役割を果たします。国は資金拠出や価格設定の引き受けを行います。さらに重要なこととして、このモデルによって信用性と信頼が生み出され、さらなる投資を呼び込めるという点があります。リスクを低減することによって、国がその他の参加者による投資の波を促します。これにより、政府は望ましい最終状態をさらに導き、決定づけ、指揮することができます。この世界では国と市場の役割が曖昧になり、国が「企業家」、「価値の共同創造者」になります。

この先の道のり

次世代エネルギーシステムは非常に複雑です。テクノロジー、戦略、環境、経済といったさまざまな側面において、エネルギートランジションを成功させることは極めて重要です。必要な投資の範囲が明確かつ具体的になり始めており、同時にメリットも明らかになりつつあります。目指す先の輪郭が現れ始めたとはいえ、電子および分子が新たな経路と新たな役割を見出しているさなか、依然としてさまざまな課題や疑問が残されています。誰ひとりとして単独でこの旅をすることができないのは明らかです。全ての地域、さまざまな産業において、バリューチェーンおよびエコシステム全体にわたり新たな提携を構築し、これまでにない形で協力する方法を開発していくことが非常に重要となります。かつては明確に線引きされていた業界が統合し、形を変え、新たな形態で再び現れるでしょう。

国と市場は、両者が場面に応じて主導する側と従う側となり、新たな形で連携していかなければなりません。また、それぞれの従来の役割を見直す必要もでてきます。市場参加者が下す各々の選択そのものは歴史的、政治的背景に大きく依存しています。一部の参加者にとっては馴染みのある連携であっても、その他の参加者にとっては違和感があるかもしれません。しかし、そこから解き放たれる創造的緊張はイノベーションと発展の原動力となるでしょう。私たちのシステムが、世界が定めた気候変動に関する野心的な目標を達成しようとするのであれば、すぐに取り組み始めなければなりません。

本コンテンツは、「Inventing tomorrow’s energy system」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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主要メンバー

坂野 俊哉

シニア・エグゼクティブ・アドバイザー, PwC Japan合同会社

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服部 真

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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片山 紀生

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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磯貝 友紀

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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