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CEOインタビュー:武田薬品工業 代表取締役社長 長谷川 閑史氏

1.世界経済は今後どうなっていくと思われますか。

2012年10月に、日本でIMF(国際通貨基金)と世界銀行の合同による総会が開催されました。その総会で、IMFが世界の経済成長率を従来の3.5%から3.3%に引き下げました。世界の経済成長は、新しい予測を出すたびに、少しずつ下がっていっています。その背景には、先進国の経済状況が良くならない中で、新興国が徐々にスローダウンしているという傾向があります。気をつけなければならないのは、人間は、非常にタフな状況になると、それがずっと続いてしまうと思うし、逆に良いときはこれがまた続くと思ってしまいがちなことです。むしろ、常に物事は循環します。こういうタフな時代がある程度過ぎれば、必ずやまた成長の時代が来ると考えるべきです。

私の考えでは、将来の世界経済の成長のためのキードライバーはアジアとアフリカです。アジアは今後、出生率の増加というよりは寿命の延長により人口増加になります。アフリカは、出生率が高いのと、少しずつヘルスケア・インフラが改善していくということから、現在の10億人の人口が、恐らく2050年には35億人ぐらいになることが想定されています。アフリカは、最も人口増加が激しい地域となります。

人口の増加と経済の成長というのは、並行して起きるものです。人口が増えれば経済は必ず成長してきます。

武田薬品工業 代表取締役社長 長谷川 閑史氏

武田薬品工業株式会社
代表取締役社長
長谷川 閑史

2.不確実性の時代にあって、どのような戦略的目標を立てていらっしゃいますか?

全ての戦略の基本にあるのは、いかに優秀な人材を世界中から集めて、その人たちがモチベーションを高く持って働ける環境を提供することです。将来を見れば、当社の将来が新興国市場にあることは明らかです。製薬産業では、現在、新興国マーケットが成長の7割近くを創出しています。問題はそのように急速に成長している新興国でいかに自社のプレゼンスを高め、自社の製品を市場に届けるインフラを作れるかということです。すべてが急激に変化している今、時間との競争ということになるわけです。

製薬産業のコアケイパビリィティは製品の研究開発力だと言われています。成功するかどうかは、イノベーションとなる新製品を開発する能力にかかっています。残念ながら、製薬産業そのものが今、技術革新の壁にぶつかっていると思います。現在、低分子化合物という技術をベースにした製品が、製薬業界の製品の8割以上を占めていますが、癌、アルツハイマー、あるいは免疫疾患など、治療満足度の低い疾患の治療はこの技術では限界があり、製薬業界の研究開発はだんだん高分子化合物の開発にシフトしてきています。

高分子化合物技術のいくつかは、すでに安定的に製品を出せるようなところまで技術は成熟してきています。例えば多くの高分子化合物技術を使った抗体医薬や治療ワクチンが市場に出されています。しかし、この技術はまだ未開発の分野が多く、高分子化合物製品をコンスタントに市場導入することは容易ではありません。明らかに、高分子化合物技術のような新技術では、先頭集団にいることが企業の戦略としては極めて大事です。

しかしながら、新技術すべてを自社でカバーするということは不可能だと言えます。ですから、最も大きな効果が得られる分野にリソースを集中させることが重要です。そこは優れた感覚と目利きが求められます。自社でできることには限りがある一方で、世界には公立の研究所、大学、政府の研究機関などが多数あって、100万人を超えるリサーチャーが様々な先端分野で研究しているわけです。これらの進展をよく見ておいて、良い研究が公共分野から出てきたらその権利を活用できるような状況を作っておくことが重要だと思います。

3.短期的に見た場合、御社が力を入れている成長分野というのは何ですか?

当社における成長分野は、いわゆる生活習慣病関連の分野です。糖尿病・高血圧、それから肥満とか動脈硬化などです。糖尿病の薬では世界でも1、2を争うぐらいの地位を築いています。もう1つの成長分野は、癌の治療薬です。2008年に米国のマサチューセッツ州ケンブリッジにあるミレニアム社を買収しました。ミレニアムは癌治療だけに特化した会社です。2011年には、ミレニアムの研究所長の管理下に、日本国内の癌の研究グループも、米国サンディエゴにある別の買収した会社の癌の研究グループも置くという体制を作りました。短期的に見ればミレニアムがこれからタケダを引っ張ってくれます。

2011年には、新興国で実績とインフラを持っているスイスの製薬会社ナイコメッドを買収しました。ナイコメッドには今までのビジネスを継続させると同時に、そのインフラの上にタケダのリサーチ・パイプラインから出てきた製品を乗せることによってシナジーを作っていくことを期待しています。

4.こういうM&Aをもっと強化しますか?

武田薬品工業 代表取締役社長 長谷川 閑史氏

私どもは、M&Aについては極めて明確なギャップ・フィリングというストラテジーを持っています。自分たちの競争力を保つという意味でM&Aが一番良いと判断したら、製品ラインアップや研究開発のギャップを埋められる企業をターゲットにして、そこを買収する。また、ジオグラフィカル・カバレッジという、地域的なカバーを目的としたM&Aも行います。我々はナイコメッド買収以前、世界の28カ国しかプレゼンスを持っていなかったのです。限定的な地理的プレゼンスのもとで非常に効率の良いビジネスをしていました。しかし新興国に成長のドライビング・フォースがシフトして、世界経済で重要な役割を果たすようになると、それまでの効率の良さが裏目に出ました。そのために、ナイコメッドを買収したわけです。

買収は、才能のある人を時間をかけずに獲得するという点でも、非常に効率的な方法です。私はカルチュラル・プロキシミティ(Cultural Proximity、文化的近接性)を重視しています。率直に言って、基本的な考え方とか勤労観がある程度同じでないと、外国企業を買ってもうまくいかないと思います。ドイツに3年住んでいたことがありますが、ドイツ人と日本人は非常に合います。ナイコメッドの社員の多くはドイツ人やスカンジナビア人で、当社のような日本企業とはよく合うと感じました。

5.御社に与える脅威で最も大きいものは何だと考えられますか?

製品に予期しなかった副作用が出るのが製薬会社にとって最大のリスクです。例えば、フランス政府が、私どものキープロダクトであるアクトスという糖尿病の薬に、ある副作用があると言い出しました。欧州全体の当局は当社の製品は市場に置く価値があるということを認めてくれたのですが、フランス政府は方針を変えず、アクトスに対する規制が周辺国にも影響し、大きな売り上げを失いました。

しかし、この種のことは1つの規制当局だけに限ったことではありません。米国のFDA(Food and Drug Administration)も時々厳しい態度を取ることがあります。非常にリベラルに新製品を認めていた時代と、今のように簡単に新製品を認めない時代があります。欧州と米国の当局同士の態度を比べてみると、以前はどちらかというと米国がリベラルで欧州が厳しかった。今は逆になっています。

製品ポートフォリオのダイバーシティをやっておくということが極めて大事だと思います。もしどこかで1つの製品が規制にあったり、つまずいたりしたら、それを他の製品でカバーできるようにする必要があります。経済や政治的なリスクに関しても同じです。従って、できるだけ多くのマーケットをカバーしておくことによって、1つが大きく転んでも、ほかでカバーできるようにします。

6.御社にとって最も重要なステークホルダーは何ですか?

一番影響力が大きいのは規制当局でしょうね。日本であれば厚生労働省であり、米国だとFDAでしょうね。

7.御社の企業責任に対するアプローチはどんなものですか。

私どものCSR活動は、世界それぞれの地域に任せています。それぞれの地域に、同じようなピア・グループ(仲間集団)の他社と比べて必要と考えるものは実施してくださいという指示を出しています。米国の会社では糖尿病や癌撲滅のための資金集めのマラソンやウォークラリーをやったりしています。日本の場合は、長期に入院している子供さんの親御さんのための宿泊施設に寄付をしています。グローバルファンドという国連のファンドがあるのですが、そこに10年間で毎年1億円ずつ10億円寄付をしてマラリア、エイズ、肺炎、結核などを克服するための健康システムを援助しています。それと同時に、私どもは、いろいろな研究者たちへの研究プロジェクトにファンドを作ったり、あるいは周辺国の医学生が日本で勉強することを希望した場合に奨学金を出す武田科学振興財団という財団を作っております。その財団は毎年30億円の予算を計上しています。社会に貢献するにはいろいろな方法があります。現在、各国のチームにはそれぞれの分野で最も適した方法で貢献するようにさせています。

8.CSR活動が御社の評判を高めるために役に立つと実感されたことはありますか?

そんなことは求めていません。いつも我々が教えてこられたのは、「陰徳陽報」といって武田家の教えにあるわけです。元々は関西の商人の教えですけど、陰で徳を積めばどこかで何か返ってくるかもしれないけど、それは期待してはいけないというものです。したがって、慈善事業の見返りを期待してはいけないと感じています。

例えば韓国・中国・インドネシア・台湾にも、武田の奨学金を使ってお医者さんの資格を取った人がたくさんいらっしゃいます。だけどその賞が基金をひも付きにしたり、武田の製品をたくさん使ってくださいと言ったりとか、そういうことは一切していません。

9.「タケダイズム」の哲学や実践についてご説明いただけませんか?

タケダイズムは日本で培われてきた経営哲学ですが、当社が世界中で使うものです。タケダイズムの核心は常に誠実(integrity)であれということです。ただ誠実と言っても分かりにくいので、3つの要素に分けています。それは、公正、正直、不屈です。英語では「fairness honesty and perseverance」と言いますが、それを我々は最上位の経営理念として持っていて、日常の行動、活動、ビジネスで何か困ったときにはこの理念に照らして考えるようにしています。それと矛盾していないかどうかをチェックポイントにしています。

たとえば、我々のグローバル・リーダーシップ・コミッティは難しい決断を迫られた時は、決定を下す前に「タケダイズム」と照らし合わせることをしています。これはタケダのグローバルのオペレーションにもすべて浸透しています。ナイコメッドがタケダの仲間に入ったときにも、ナイコメッドの人たちはタケダイズムをすんなり受け入れてくれました。

さらにタケダイズムを浸透させるために、年に1回、「Takeda Global Awards」というプログラムを実施していて、「タケダイズム」を日ごろの任務の中で実現した人たちを表彰しています。2012年は、全世界で102人を日本に呼んで、「タケダイズム」を実践する上で手本となるパフォーマンスを表彰しました。「タケダイズム」の原則を、将来に渡り、譲らずに活動していこうと考えています。

会議室に飾られている タケダイズムの基本精神

会議室に飾られている
タケダイズムの基本精神

会社概要

武田薬品工業株式会社( タケダ )は、研究開発型の日本発の世界的製薬企業として、経営哲学であるタケダイズム(誠実=公正・正直・不屈)を事業運営の根幹に据え、「優れた医薬品の創出を通じて人々の健康と医療の未来に貢献する」ことを目指した事業活動を行っています。タケダが創製した医薬品は、現在、世界約100カ国で販売されています。

インタビューに同席した
プライスウォーターハウスクーパース(株)
代表取締役会長 内田 士郎