
航空サイバーセキュリティの強化 ―EASA Part-ISが求める情報セキュリティ要件―
航空業界は、航空機や関連システムの高度なデジタル化やグローバルなサプライチェーンによる複雑化が進む中、サイバーセキュリティの重要性がかつてないほど高まっています。こうした背景から欧州航空安全機関(EASA)が2023年10月に制定した、情報セキュリティに関する初の規則となるPart-IS(委員会実施規則(EU) 2023/203および委員会委任規則2022/1645)について解説します。
企業のデータは社内の業務効率化に活用できるだけでなく、顧客に販売したり、他社のデータと組み合わせたりすることで新たな付加価値を生み出すことができます。そのために必要となるのが、データを安全に流通させる仕組みです。
PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)が2024年6月7日に開催した「Technology Day 2024-生成AIやテクノロジーをビジネスにどう活かしていくか-」のBreakout Session 7では、「データ流通に関する日本の取り組みについて」と題し、データ流通を支援するデータ社会推進協議会で専務理事を務める眞野浩氏とPwCコンサルティングのディレクター辻岡謙一が登壇。日本のデータ流通における課題と展望について語りました。
(左から)辻岡 謙一、眞野 浩氏
登壇者
眞野 浩氏
一般社団法人データ社会推進協議会 専務理事 事務局長
エブリセンスジャパン株式会社 CEO
辻岡 謙一
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
はじめに、PwCコンサルティングでクライアント企業に対するデータ流通やマネタイゼーションに係る企画の提案および実行をリードしている辻岡謙一が、日本のデータ流通の現状について説明しました。
そもそもデータ流通とは、これまで企業が実施していたデータ利活用と何が異なるのでしょうか。辻岡は「これまでDXにおけるデータ利活用の領域では、社内データの効率化や、自社内でのデータ共有が長らく着目されてきました。昨今ではそれに加え、徐々に自社と社外のデータを組み合わせて、新たな価値を生み出す方向性が出てきました。これが社外にデータを安全に流通させる仕組みが求められる理由です」と述べました。
続けて辻岡は、PwCコンサルティングがデータ流通に注目している理由について「データが企業や業界を越えて活用されることで、経済の発展、社会課題の解決につながります。Society5.0の実現には、自由で開かれたデータ流通であるData Free Flow with Trust(DFFT)が提唱されており、データ流通は重要なキーワードです」と解説しました。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 辻岡 謙一
企業の垣根を越えたデータ流通の枠組み構築は、欧州の自動車業界が特に先行しています。「Catena-X」と呼ばれるデータスペースが、欧州の自動車業界では確立しており、すでに検討段階から実装・運用のフェーズに移行。これをさらに、自動車業界以外の産業に広げる動きも始まっています。
また社会課題の解決という側面では、欧州でサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に向け、原材料のトレーサビリティ整備のためのデジタル製品パスポート(DPP)の検討が盛んです。特にEV事業に不可欠なバッテリーパスポートが先行しており、欧州に進出している日本企業にとっても、検討が避けられない状況が迫っているという現実があります。
そうした中、PwCではデータを使ったマネタイズ、データ流通の進展に関する企業アンケートを毎年実施しています。この最新の調査結果からは、前回の調査と比べてデータのマネタイズを実現できた企業が約15%増えており、企業トップからの指示がドライバーとなって、データ流通は新たな段階に入りつつあることが分かっています。
出典:PwCコンサルティング「データマネタイゼーション実態調査2024」
一方で、データ流通の拡大によって、その投資対効果を問う声が高まっており、経営者の要求と、現場との認識ギャップも明らかになりました。データ流通をさらに促進するための方法論として、業界を越えたコンソーシアムの構築と参加を求める企業が多く存在し、「コンソーシアムの中で、異なる業種・業界で成功している事例から学びたいと考える企業も増えています」と辻岡は説明。
また、データ流通を実現するためには、企業を横断したデータプラットフォームが必要ですが、プラットフォームの利用も徐々に増えている結果となっています。
「企業の中で、少しずつ外部とデータをつなぐデータ流通が身近になってきており、実際に活用が進んでいることが調査結果から見えてきました」(辻岡)
続いて、データ社会推進協議会(DSA)専務理事・事務局長の眞野浩氏が登壇し、日本のデータ流通で主導的な役割を果たしているDSAの活動と、日本企業、組織のデータ流通における課題を紹介しました。
DSAは国内約180の企業、自治体、団体などが参加するデータ連携に関するコンソーシアムで、さまざまな業界の企業や団体が自らデータ連携基盤を構築するための共通技術や標準化の支援活動を推進しています。この活動は「DATA-EX」という総称で表されており、DSAのロゴとしても使用されています。
DATA-EXは、1カ所にデータを集める中央集権型でなく、既存の各業界で構築されたデータ基盤同士をつなぐ技術により、必要なときだけ、必要なデータソースとの連携を実現することを目指しているとのことで、眞野氏はこれを「連邦型のデータ連携」と説明しました。
またDATA-EXの考え方について、「データとは、特定の場所で生まれて特定の場所で消費されるものではありません。インフラ、医療、福祉、交通、行政など業界を横断し、それぞれ産官学の分野を超えた、縦と横の連携によりデータ連携に関する課題を解決することがDSAの役目です」と語りました。
眞野氏は、データをデジタル社会の「血液」に例え、以下のように説明しました。
「社会活動を行う際には、データが流れるようにしなければいけません。そしてデータは、誰かが一方的に集めるのではなく、循環するものです。その結果、血の巡りがよくなると頭が冴えるのと同じように、社会にイノベーションが生まれやすくなる。そう捉えています」(眞野氏)
DSAが提供するプラットフォームは、あくまで参加する企業・団体がデータを連携したり、分析したりするための機能を提供する場。業界間のデータフォーマットの違いを許容しつつ連携するためのコネクターをはじめ、データカタログの構築や検索、データの原本性保証などの機能を備えたツールを開発しており、データ管理機能、可視化、統計解析などの機能を会員に提供しているそうです。なおかつ、DATA-EX上にデータは保存せず、データ自体に変更が加えられることもありません。
またDATA-EXは、国内のデータ連携のハブとなるだけでなく、欧州のデータ連携基盤と相互運用することを目指しているそうです。
DSAによるDATA-EXの活動は、デジタル庁、内閣府が進める地域や産業のDXとも連携しているとのことで、眞野氏は「デジタル庁とは、『デジタル田園都市国家構想』実現のための、生活用データ連携基盤向け推奨モジュールの開発を支援しています。具体的には、自治体が持っているデータを流通させるためにAPI接続するコネクターの開発を推進しています。また内閣府では、『戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)』が進めている多数のプロジェクトが、各々でデータを収集活用していたため、DATA-EXを使って互いのデータ連携をし、必要なデータを効率よく活用できるよう支援しています」と説明しました。
一般社団法人データ社会推進協議会 専務理事 事務局長 エブリセンスジャパン株式会社 CEO 眞野 浩氏
眞野氏はさらに、企業や地域が持つデータをさらに活用するためには、データ連携基盤の上で生成AIを利用することが突破口になると指摘。
「データ基盤が整い、検索もできるようになれば、データを取り出すことができます。しかし、解決すべき課題とデータがあっても、今度はそれをどう組み合わせて使えばいいのか分からないケースが出てきます。例えて言うなら、冷蔵庫を開けて、中の食材を見てから作れるものを決めるのでなく、『今日はさっぱりしたものが食べたい』というような漠然としたニーズが先にあり、それを冷蔵庫の食材で調理可能なメニューをAIに考えさせるという形です」(眞野氏)
これまでのネット検索では、インターネット上の無限のデータを背景にした一般的、理想的な提案しか得られませんでした。これが、データ流通の仕組みを整え、使用可能なデータを前提に生成AIがアイデアを考えることで、実現可能な企画が生まれることが期待されます。実際に、自治体のオープンデータを基にして、オーバーツーリズム解消のアイデアや、健康増進の施策を提案させる取り組みが始まっているといいます。
最後は、辻岡と眞野氏によるディスカッションが行われました。まず辻岡は、自動車業界がデータ流通の領域で先行していることに触れたうえで、その他の業界においてデータ流通への関心がどの程度高まっているかを眞野氏に尋ねました。
これに対して眞野氏は、実際に何が起きているかは表面的なニュースだけでなく、事実を確認すべきだと応じました。
「もし本当に社会実装までデータ連携基盤が動いているなら、メニューや利用規約、価格表などがなければおかしい。私たちが調べてみると、30ぐらいのプロジェクトのうち、そこまで揃っていたのはわずか2件でした。事実を確認することで、実態を知ることができます」(眞野氏)。
次に、欧州でデータ流通に制限を加える背景にある「データ主権」をどう捉えれば良いのかという辻岡の質問に対し、眞野氏は次のように答えました。
「米国では、『特定のプラットフォーマーがデータを独占しているという偏った状況はおかしい』という声が上がっています。しかし、実際に各プラットフォーマーが便利なサービスを現在提供しており、それらがなくなれば困ることから、『データの所有量に偏りがあっても悪いことではない』との声もあります。もし行き過ぎれば、米国の場合は当局が制裁金を課します。対して欧州は、プラットフォーマーにデータを全て取られるのはまずいと考え、データ主権の法律を整備。また中国は、民間を含む全てのデータを政府が管理しています。では、日本はどうすべきか。今から欧米のようなプラットフォーマーに対抗できるプラットフォームは現れないでしょう。であれば、インターネット初期の時代に戻って、エッジに主権を戻していく『自律分散協調モード』という考え方が良いのではないかと思っています」(眞野氏)
また、辻岡からの「データの価値」はどう決まるのかという問いについては、眞野氏は「データは基本的に無体物であり、仮に他の人にコピーを渡しても、私の手元からオリジナルデータが消えることはありません。ですから、データが無尽蔵にコピーされて価値を失わないよう、価値を守る仕組みが必要です。私は、それを利用権と呼んでいます。第三者がデータに対して証明することで、権利が生まれ、市場で比較することで、価値が定まります。つまりデータの価値は、アプリケーションによって決まるのです」と回答しました。
続いて辻岡は、急速な進化を遂げる生成AIがデータ流通に与える影響について質問しました。眞野氏は「インターネット全体から得られる一般論には、それほどの価値はありません。それに自分たちの持っているデータを加えて学習させることで、大きな付加価値が生まれます。逆に言えば、一般論だけでビジネスを進めていたら、データ流通が進んだ先に、AIに仕事を奪われる可能性があるということです」と指摘しました。
眞野氏は最後に、データ流通の展望について「これからは国際的なデータ流通の取り組みがますます必要となります。DSAと欧州データ流通組織との関係性は良好で、相互の交流が進んでいます。問題は、日本のサプライチェーンに重要な地域であるアジアです。カーボンフットプリントの記録など、企業の垣根を越えてデータ流通を行う上で乗り越えなければならない課題が増えています。まだ日本企業、業界には縦割りの構造が残っていますので、これを取り除いていく必要があるでしょう」と語り、本セッションを締めくくりました。
航空業界は、航空機や関連システムの高度なデジタル化やグローバルなサプライチェーンによる複雑化が進む中、サイバーセキュリティの重要性がかつてないほど高まっています。こうした背景から欧州航空安全機関(EASA)が2023年10月に制定した、情報セキュリティに関する初の規則となるPart-IS(委員会実施規則(EU) 2023/203および委員会委任規則2022/1645)について解説します。
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