ヘルスケア業界における生成AI

生成AIへの期待

OpenAI社が2022年11月に公開した「ChatGPT」がわずか2カ月で1億ユーザを突破したことは記憶に新しく、この出来事に生成AIの躍進とパラダイムシフトの兆しを感じた個人・企業・組織は、先を競うようにその活用法について検討を進めています。

生成AIとは、ディープラーニング技術を用いて膨大なデータを学習し、テキスト、プログラムコード、画像、動画や音声などさまざまなデータを出力できるAIの総称です。現在最も注目を集めている「ChatGPT」は主に対話形式でテキストを生成するサービスですが、プログラムコードを生成するものとして「GitHub Copilot」、画像を生成するものとして「DALL-E2」「Midjourney」「Stable Diffusion」など、実にさまざまなサービスが存在し、新たなサービスも次々と登場しています。このように生成AIの活用の幅は非常に広く、ありとあらゆる業種・業務において活用の可能性があるといっても過言ではありません。

ヘルスケア業界における潮流

ヘルスケア業界でも多くの企業が自社のビジネスを変革するため、生成AIを活用する可能性を探っています。PwCが5月に公開した「生成AIに関する実態調査2023」では、生成AIによる業務代替がどの程度起こると考えているか質問したところ、ヘルスケア業界では自動車業界に次ぐ2番目に多い割合の回答者が、「業務の半分または全てが置き換わる」と回答しました。このことから、ヘルスケア業界は生成AIに対する期待が特に大きい業界の1つであると考えられます。

こうした背景もあり、いわゆるビッグテック各社も、医療従事者向けの臨床文書作成サービスや、医療・生物学分野に特化した大規模言語モデルなどの開発を進めています。そして、これらのサービスは既に一部の医療機関で試験的な利用が進められているとの情報*1もあります。

また、このような医療現場向けのサービスだけでなく、製薬会社においてもセールス、マーケティング、フ ァーマコビジランス(PV)、メディカルアフェアーズ(MA)、研究開発(R&D)、メディカルインフォメ ーションなどの各機能・部門において、社内外のさまざまな情報を参照させつつ、用途に応じた情報の整理および抽出、メールや各種文書の下書き作成、活動の提案および推奨、ブレインストーミングといったさまざまなユースケースが考えられています。

更には、「ChatGPT」のようなテキスト生成AIの他に、よりヘルスケアに特化した生成AIの活用に向けた動きも加速しています。具体的には、医薬品の研究開発領域において、分子構造の予測・生成や医薬品設計等に生成AIを活用すること等が検討されています。このようにヘルスケア業界においては、一般に「 ChatGPT」等から連想されるような用途をはるかに超えた活用可能性が既に見えつつあるため、枠にとらわれない柔軟な発想でのユースケース検討が益々重要となってきます。

*1:The Verge「Google's medical AI chatbot is already being tested in hospitals」
https://www.theverge.com/2023/7/8/23788265/google-med-palm-2-mayo-clinic-chatbot-bard-chatgpt

生成AI導入に係るポイント

幅広い有用性が期待される一方、著作権の帰属や倫理的な問題、セキュリティとプライバシーのリスクやハルシネーション(流暢だが事実と全く異なるコンテンツを生成してしまうこと)といったさまざまな課題への対応も必要です。

また、ヘルスケア業界固有で考慮すべき課題も考えられます。例えば、疾患や医薬品に関する専門的な情報・資料を参照させてアウトプットを生成するようなユースケースの場合、一般的なデータで学習した大規模言語モデルでは、学術用語や専門用語等を正しく扱えない可能性があるため、ベクトル化のような元データの整理・加工に加え、場合によってはモデル自体を再学習(ファインチューニング)させるといった工夫が必要になると考えられます。また、ユースケースに応じて、インプットデータの取扱い(例︓治験データの二次利用)やアウトプットデータのチェック(例︓情報提供活動に係るガイドラインへの準拠)等、業界固有の規制等への対応方法等も併せて検討する必要があります。

ヘルスケア業界はそのビジネスが人々の健康や生命に直結することから、さまざまな義務や法規制が課されたり、科学的な正確性が強く求められたりするため、生成AIを活用するにあたっては上記の課題といかに向き合うかを一層強く意識せざるを得ません。

PwCサービスの紹介

このようにヘルスケア業界では、業界固有のリスクや社会的責任を十分に考慮しつつも、生成AIがもたらしうる大きなインパクトを捉え損ねないよう、その活用方法を見出していくことが急務といえます。いまだ黎明期にある生成AIのような技術については、過去の実績や知見を積み上げてその未来を見極めることが難しいため、リスクに配慮しつつ、実際のデータや業務を対象に仮説の立案と検証を繰り返すことが重要です。 PwC Japanグループはこうしたヘルスケア企業や医療従事者のニーズに応えるべく、生成AIの専門タスクフ ォースとヘルスケア分野の知見を有する専門チームが密に連携し、一部のユースケースについては内部的に技術検証を進めつつ、ヘルスケア企業向けの生成AIのPoC(Proof of Concept︓概念実証)を支援するサービスを提供しています。

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