デジタル時代・希少疾患時代の新製品上市(Launch Excellenceの向上)

コロナ禍によって、デジタルの活用が加速的に進んできました。ヘルスケア領域においては、医師や患者への情報提供における活用のみならず、欧米では遠隔治験、遠隔診療などが加速しました。企業の社内コミュニケーションやワークショップもリモートで実施するのが日常になりつつあります。

このような状況下では、従来の部門ごとの活動を中心とした上市プログラムも引き続き有効ではありますが、活動の視点を見直す必要があると考えます。PwCでは下記のような6つの視点が極めて重要であると定義しています。

図 デジタル時代・希少疾患時代の新製品上市(Launch Excellenceの向上)

社外に対して有効な活動

①製品の意味を形作る

従来の製品は治験の結果を基にした、有効性、安全性、経済性、利便性の軸で薬剤の価値を示していました。それによって、他剤とどのように異なるのかも説明してきました。もちろんそれは今でも重要なことです。しかし、多くのプライマリー領域におけるアンメット・メディカルニーズが解決されてきている中で、免疫関係や、中枢神経、癌、希少疾患など中長期に複雑な疾患管理が必要なものが多く占めるようになってきたことを踏まえると、薬剤の効果がどのようなものなのかを疾患管理の全体を通して語らなければいけない時代になりつつあります。

そこで今求められているのは、疾患全体、患者の人生全体における意味合いを提示し、それをエビデンスを持って語ることです。また、各国で高齢化、高度医療の増加、コロナ対応などで医療財政がひっ迫する中で、薬剤の使用に対する費用対効果も求められます。加えて、患者の価値観も多様化しています。こうした状況を背景に、薬剤が患者、医療従事者にとって、何を意味するのかを訴求することが必要です。

②経験・体験を形作る

薬剤を供給するのが製薬メーカーの役割であることは今後も変わりません。その薬剤の価値の概念・表現方法を変えていかなければいけない、というのが①の「製品の意味を形作る」でした。次に受け手側の議論に移ります。

患者や家族、医療従事者の方々に、治療においても、人生・生活全般においても、どのような新たな経験・体験を提供できるでしょうか?薬剤で提供できることもあれば、その他のデジタル、非デジタルな方法でも患者などの体験を良くすることはできます。例えば、デジタルを活用した関係者への効率的な情報提供、薬剤や診察のデジタルツールによるサポート、患者などのペイシェントジャーニーを活用した課題抽出やさまざまな支援提供などが考えられます。それらが薬剤と伴って、体験が向上することによって、薬剤のコンプライアンスなどが向上し、結果として患者の健康や医療の体験価値が向上するでしょう。

③市場を形作る

②では、薬剤の意味合いや、患者や医療従事者の立場からの体験向上などを説明してきました。それを市場・世の中に素早く浸透させなければ、十分には活用されません。そこで、従来の学会での発表、セミナーなどに加えて、製薬メーカーのメディカル活動がより重要になります。デジタルの活用による浸透も大きな役割を果たします。

デジタル活用にしても、従来の医療従事者向けのポータルサイトだけが手段ではありません。ターゲティング広告、動画サイトでの動画やインフルエンサーによる発信を含めたニュースサイトでの啓蒙活動も、対消費者向けでは盛んになってきています。従来の活動に加えて、新たなメディアプランニングを早期に実施する必要があり、そのための組織能力(ケイパビリティー)を構築することが求められます。

社内に対して有効な活動

④グローバルでの統一性を持たせる

現代では、もはやグローバルでの情報の流通は瞬時に行われます。そのために、薬剤に関するメッセージなどをローカライズすることが混乱を生んでしまう場合があります。

とは言え、医療ネットワークや細かい情報提供の仕方には国によって差があるため、グローバルの製品戦略の一部は各国でローカライズする必要があります。また、似たような課題を各国で共有し、組織としての解決策を素早く策定することも重要です。

以上を考えると、今まで以上にグローバルでの上市のプロセスをしっかりと構築しなければならないと言えるでしょう。各国が迅速に戦略を策定し、情報を共有できる体制を改めて構築する必要があります。上市のプロセスはある程度構築できているものの、情報のフローが一方通行であったり、各国の課題は各国で解決という運用方法になっていたりする企業が多く見られます。情報を縦横に巡らせることによって、ベストプラクティスを共有することが必要です。それによって、発売1日目から製品を市場に理解してもらい、患者の健康に貢献できるようになるでしょう。

⑤費用効率を高める

市場のグローバル化が進む中で、今までは市販薬や一部の処方薬では各国で上市プログラムのカスタマイズが必須のように思われており、実際に必要でした。グローバルで製品の代理店契約をしていても、多くの資材やプログラムは各国で独自に作成してきました。

しかし、薬価への圧力が高まり、プロモーションの効率性が落ちてきている中、可能な限り共通のテンプレートや資材などを活用する方が費用対効果が高いケースも増えてきています。

⑥組織としての知見を蓄積する

新製品の上市は毎回異なる担当者が担当するケースが多いでしょう。製薬会社は社員の異動が比較的頻繁で、上市をチームとしてではなく個人で担当したり、一次的なプロジェクトチームで実施したりすることも多々あります。一製品の上市しか経験したことがない人も多く、疾患ごとに組織が異なる場合もあり、知見を貯めにくいのが現状です。

上市プロジェクトの途中でチームでレビューを行い、結果をまとめて関係者に共有し、そこからプロセス、体制・組織能力、テクノロジー活用を毎回修正していく必要があります。そうすることで、プロセスは過去に適切に策定されており、テクノロジーの活用もさまざまなパイロットで検証済みであるのに、担当者が交代すると同じ検討やパイロットを繰り返してしまうといった事態を回避できます。これにより、費用削減と効果向上の両面を短期的に実現できるでしょう。

製薬業界は規制が厳しく、他業界と比べて環境変化のスピードが速いかどうかは議論があるかもしれませんが、コロナ禍もあり、変化は確実に加速しています。製薬では製品自体の力が大きい分、従来のやり方でも一見製品の上市はできてしまい、周辺の準備を怠っても気が付きにくい部分も多いかもしれません。しかしながら、小さな改善の積み上げが医療の質を向上し、患者に元気をもたらすことにつながるはずです。PwCもそのための支援を継続していきたいと考えています。

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